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「本気か?」


 目の前にいる人物に、シンは半ば呆れ、半ば驚きながらそう告げる。

 普段のシンからは少し考えられない様子に、シンの右肩に乗っているハクは『しゃー?』と不思議そうに鳴く。

 そんなハクの様子を気にしつつ、シンは改めて目の前にいる人物……反乱軍でフレデリクの副官をしていたサンドラに尋ねる。

 尋ねられたサンドラは、そんなシンの言葉に笑みすら浮かべて頷く。


「ええ。貴方と一緒にいると面白い光景が見えそうだもの。……そもそも、あの戦闘。本来なら私たちが勝っていたはずよ。それを覆したのが、少数で本陣に突入するなんて無茶を実行し、あまつさえ成功させた貴方」


 その言葉を聞き、シンは自分が褒められているのか呆れられているのか、どちらなのかが分からない。

 それでも話の流れから、恐らくは褒められているのだろうと判断し、口を開く。


「だからって、何でそれで貴族のお前が山賊になろうとするんだ? ちょっと考えられないぞ。……一応言っておくが、捕らえられたからって奴隷として売ったり、虐待したりとかはしない。アリスに聞いたけど、貴族は捕まれば身代金と引き換えに返されることもあるんだろ? なら……」

「無駄、でしょうね。私は父親と上手くいってなかったもの。それこそ、半ば厄介払いのような形でフレデリク殿の副官になったの」


 そう言い、笑うサンドラ。

 とはいえ、その笑みは自嘲するかのような笑みではなく、純粋に父親がそうしてくれて良かったという笑みだ。

 サンドラにしてみれば、父親がフレデリクの副官にしてくれたから、シンのような興味深い人物に会うことが出来たのだから、そのように笑みを浮かべてもおかしくはないのだろう。


「正直なところ、今まで貴方のような人は見たことがありません。興味深い人ですね」


 そう、きっぱりと告げる。

 結局のところ色々と説明はしたが、サンドラがこの山賊団に……正確にはシンの仲間になるのは、その言葉だけが理由だった。

 元々好奇心は強いサンドラだけに、魔法の類も使わずに兵士たちの多くをいきなり石化させるような能力や、今まで無法者の集まりだった山賊山脈を一つに纏めたというのは、興味を抱くのは十分だった。

 そんなサンドラを見て、シンはどうするべきかを考える。


(この様子を見る限り、実は埋伏の毒を気取ってる訳でもないようだし……アリスも有能な人物だというのは太鼓判を押してたんだよな。そうなると、是非欲しい人材なのは間違いない)


 シンが直接率いている山賊や、傘下にある山賊。それらのことを考えると、サンドラのような実務的に有能な人物は是非欲しいというのが、シンの正直な思いだった。


「……アリスはどう思う? 正直なところ、俺としてはサンドラが仲間になってくれるのなら、非常に助かるんだけど」


 シンの視線が向けられたのは、部屋の中で布に座りながらも、何も言わずに様子を見ていたアリスだ。

 そのアリスは、サンドラを一瞥したあと……呆気なく頷く。


(わたくし)もそれで構わないわ。ただ、反乱軍を撃退した以上、この山賊団もこのままではすまないわよ」


 サンドラの件にあっさりと同意したアリスにシンは少しだけ驚く。

 だが、アリスにとってはフレデリクとは違い、サンドラ本人には深い恨みはない。

 ……これで反乱軍として活動していた時期が長ければ話は別だったのだが、サンドラが反乱軍に加わったのは、今回の山賊山脈への遠征が初めてなのだから、恨みにくいという思いの方が強い。

 それでも家族の仇たる反乱軍に所属していたのだから、多少思うところはあるのだが。


「それも考えないといけないんだよな」


 山賊山脈に攻めてきたので、反乱軍を撃退した。

 反乱軍の目的はアリスだったが、派遣された反乱軍が壊滅した以上、もうアリス云々といった問題ではないのは、シンにも理解出来た。


「そうですわね。……恐らく、次にはもっと多くの兵士や騎士が、そして有能な指揮官が率いた反乱軍が来ますわよ。シンの能力を考えれば、どうにかなるかもしれないけど……」


 フレデリク、ブラス、サンドラの三人は、マジックアイテムによってシンの石化の魔眼を防いだ。

 幸いフレデリクとブラスの二人は双方死んだし、サンドラはこうして味方にいる。

 つまり、シンがバジリスクの能力を持ち、石化の魔眼を持っているという情報はサンドラ以外には知られていないのだ。

 もちろん、石化という現象に目を付け、疑問を抱く者もいるだろうが……この世界において、シンの持つ石化の魔眼の力は破格のものだ。

 それこそサンドラたちのように、何らかの対応をしていない限りは防ぐのはかなり難しいというくらいには。


「攻めてくるのなら、山の中に引きずり込んで……」

「無駄ですわ」


 アリスはシンに最後まで言わせずに、そう断言する。

 それは、反乱軍と何度となく戦ってきたアリスだからこそ理解出来たこと。


「もし反乱軍が本気になれば、それこそ山賊山脈は丸ごと燃やされるといったことをされるのは間違いないですわ。そうなれば……最後まで言わなくても、分かるでしょう?」

「焼け死ぬか……生き残っても、戦力的には大きく減るのはまちがいないだろうな。けど、ならどうしろと? まさか、俺たちの方から反乱軍を攻めろとでも?」

「あら、私が言うよりも前にその結論に辿り着くとは……少し、驚きましたわね」

「……正気か?」

「いえ、そこはせめて本気か? と言って欲しいのですが」


 少し戸惑った様子のアリスだったが。シンにしてみればいたって本気の言葉だった。


「俺たちは結局山賊だぞ? それが、拠点の山から下りて自分たちから攻撃する? 今回は上手くいったけど、それがいつまでも続くとは限らないだろ」

「そうですわね。ですが……シンがいればそれもどうにかなるでしょう? それに、貴族を倒せば得られる物も大きい」

「それは……」


 アリスの言葉は、間違いのない事実だった。

 実際、今回の戦いで得られた物は、それこそ普通に山賊山脈を通る商人たちを襲うよりも何倍、何十倍も稼ぎが大きかったのだ。

 また、大量の食料が手に入ったので、しばらく食べ物に困らないというのも大きい。


「それと、別に私は闇雲に反乱軍と戦えばいいと言ってるのではありませんわ。……シン、山賊たちを組織して、傭兵団になるつもりはありません?」


 その言葉に、シンは半ば反射的にアリスの方を見る。

 シンの視線を受けたアリスは、それ以上何も言わずにシンに視線を返す。


(傭兵団……傭兵団、か。アリスにしてみれば、国を取り返すために自分の戦力が欲しいってのが大きな理由なんだろうけど……実際、稼ぎが良かったのも事実だし、最近では山賊山脈を通る商人が少しずつ減ってきてるのも事実だしな)


 シンが山賊山脈の山賊を纏めたことにより、稚拙ではあっても組織的な行動をとることが出来るようになった。

 その結果として、山賊山脈を通る商人の数が少なくなっているのも事実だ。

 隣国に向かうときに山賊山脈を通らないと、かなり負担が増えるのだが……それでも、山賊山脈を通って荷物を全て奪われたり、殺されたりするよりはいいと判断したのだろう。

 結果として、得られる収益が少なくなっているのは、間違いのない事実だった。

 そうして数分の間考え……やがて、シンは口を開く。


「分かった。なら、希望者を集めて傭兵団として活動する。アリスとしても、その方がいいんだろ?」

「ええ。そうしてくれると、私も助かるわ。……サンドラ、貴方にも期待しますわよ」

「はい。私も出来る限り頑張らせて貰います」


 こうして、シンはこの世界にやって来てから数ヶ月で山賊山脈を統一し……その山賊の中から希望者を募って傭兵団を結成し、アリスに雇われて反乱軍に打って出ることになるのだった。



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