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「シンのお頭、この先に何人か見張りがいます」


 反乱軍の本陣に向かって進んでいたシンたちだったが、前方を偵察にいっていたサンディが戻ってきて、そう告げる。

 本人の臆病さに比例するかのような隠密行動能力は、草原に近いこの場所でも能力を発揮し、シンたちに多くの情報をもたらしていた。

 木々がまばらに生えているからこそ、サンディの能力が最大限に発揮されているのだが、それでも普通に考えるととてもではないが兵士や騎士といった者たちを相手にここまで徹底して情報を集めるといった真似は出来ない。

 今回の一件も、もしサンディが見張りがいると知らせてくれなければ、見張りとまともに遭遇していただろう。

 少なくとも、心構えもなしに見張りに遭遇すれば、対処が遅れていたのは間違いない。

 そういう意味では、サンディを連れてくるというシンの考えが正しかったのは間違いない。


「分かった。前もって知っていれば、対処は容易だ。行くぞ」


 そう言い、シンはジャルンカやサンディ、マルクス、アリス、それ以外にも一緒に連れてきた腕に覚えのある山賊たちを率いて草原の中を見つからないように進む。

 遠くからは、未だに戦いの音が聞こえてくる。

 それなりに指揮を執るのが上手い山賊に任せてある以上、すぐに負けるとは思わなかった。……が、シンが見た限りでは、そう遠くないうちに山賊たちが負けるのは確実だった。

 そうである以上、山賊たちが負けて山賊山脈に逃げ帰るような真似をするよりも先に、反乱軍を率いている貴族を倒す必要がある。


(大丈夫だ、落ち着け。草原には幾つか罠が仕掛けられているし、山の中には草原よりも多くの罠が仕掛けられている。そうである以上、いざとなれば退却を偽装して罠に引き込むという案も……難しい、か)


 山賊たちは、シンが思っていた以上に個人の感情で動く者が多い。

 それでは、草原に仕掛けた罠はともかく、山の中に仕掛けた罠を使って騎士たちと戦うというのは、少し……いや、かなり難しそうだった。

 実際に大規模な戦いを経験したことのないシンだからこその誤算だと言ってもいい。

 本来なら、反乱軍を山に引きずり込んで罠を使って有利に戦うというのが、最初に予定していた戦い方だったのだが。

 もっとも、視線を向けた相手を石化させるバジリスクの力は、木々に遮られたりすれば効果はない。

 そうである以上、数百人を有する反乱軍との戦いでバジリスクの能力を最大限有効活用するのは、やはり見通しの良い草原で戦うのが最善だったのだが。


「いたっす」


 本陣に向かって進んでいると、不意にジャルンカがそう呟く。

 その声に深い茂みの中からジャルンカの見ている方に視線を向けると、そこには先程サンディから報告のあった数人の見張りの姿。

 このまま進めば、間違いなく自分たちは見つかってしまい、本陣に対する奇襲は不可能になるだろう。

 また、迂闊に攻撃を仕掛けるような真似をすれば、その戦闘音で反乱軍に気が付かれてしまう。

 そうならないためには、音を立てずに相手を倒す必要があるのだが……幸い、シンにとってそれは難しいことではない。


「いいか、見張りがここにいるということは……」


 そう告げ。シンの視線を見張りからかなり離れた場所にあるが……それでもしっかりと判別出来る天幕に向けられる。


「恐らく、あの天幕の中に反乱軍を率いている貴族がいるはずだ。この周辺にいるのはあの見張りだけではないと思うから、あの見張りを倒したら出来るだけ音を立てないようにして一気に天幕に向かう。途中で誰かに見つかったら、後は音を立てないとか考えなくてもいい」


 シンの言葉に、精鋭として選ばれた者たちは無言で頷く。

 これから敵の本陣に突入するというのに、全く怯えた様子がないのはシンにとっても頼もしい。

 ……唯一の例外は、やはりサンディだったが。


「よし、行くぞ!」


 叫び、シンは見張りに向かってバジリスクの能力を使う。

 見張りの兵士たちは、自分たちがどのように死んだのかも全く分からないまま石像と化す。


(今更だけど、一瞬にして石化するのもいれば、少しずつ石化していくようなのもいるんだよな。その辺は、もう少し時間をかけて調べていくしかないか。……運次第ってことはないよな?)


 若干疑問を覚えたシンだったが、見張りが石化した以上、ここではもう何かを考えているような余裕はない。

 もう事態は進んだのだから、今はとにかく行動あるのみだった。

 シンが率いる山賊たちは、出来るだけ声を出さずに走り出す。

 こうして敵の本陣に向けて走っているのだから、見つかるのは時間の問題だろう。

 だが、それでも見つかるのが遅ければ遅いほど、シンたちに有利になるのは間違いない。

 そのためにこうして無言で走っていたのだが……それでも、シンが石化させた見張りの近くまで到達した瞬間、周囲に叫び声が響く。


「敵襲、敵襲だ! 敵が侵入してきているぞ!」

「ちぃっ! 見つかった! もう、後は全員で一気に敵に突っ込むぞ! アリス、魔法を使えるなら頼む! それと、敵の指揮官を確認出来たら教えてくれ!」


 叫びつつ、シンは自分たちを見つけて敵襲だと声を上げた見張りの兵士に石化の魔眼を使って一撃で仕留める。


(ここが山の中なら、もう少しやりようが……いや、草原なんだし、山よりも少ないかもしれないけどいるはずだ!)


 即座に判断し、この草原にいる蛇を集める。

 一匹や二匹の蛇では大した効果はなくても、それが十匹、二十匹となれば、大の男であってもまともに戦うといったことは出来ない。

 ましてや、蛇の中には毒を持つものも多く、そういう意味でも警戒する必要があった。

 ……ただし、シンが考えたように草原にいる蛇はどうしても山よりも数が少ないため、数を集めて有効に使うには今すぐどうこうという訳にはいかなくなるが。

 なので、取りあえず蛇を集めるようにしてはみたが、それが今すぐ役に立つ訳ではない。


「うわっ!」


 連れてきた腕利きの山賊の一人が、自分に向かって飛んできた矢を見て、反射的に回避する。

 それを見たシンは、舌打ちをしてから叫ぶ。


「走れ、走れ、走れ! ゆっくりしていれば、それだけ矢が飛んでくるぞ!」


 天幕に向かって走りながら、矢を射ってきた兵士を石化の魔眼で始末する。

 そうしながらも、予想外に多い兵士たちの数にシンは表に出さないようにしながら不満を抱く。

 アリスから聞いていた情報では、反乱軍を率いている貴族たちは自分たちこそが選ばれた存在であると考えている者が多く、それこそ正式な敵ならともかく、アリスが逃げ込んだ山賊山脈にいる山賊を倒すために、こうして本陣の近くに見張りや護衛を兼ねた兵士を残すとは考えられなかったからだ。


(用心深い誰かがいるってことか? 厄介な真似をしてくれる!)


 苛立ちを露わに、石化の魔眼を使って兵士を石像にしていく。

 敵に見つかりながら、それでもこうして進むことが出来ているのは、シンの持つバジリスクの能力のおかげだ。

 武器を使って敵を攻撃する場合は、少なからず足を止める必要があるのに対して、シンの場合は視線を向けるだけですむ。

 それでも、これだけ長期間そして大規模にバジリスクの能力を使い続けたことはなく、シンも自分の眼がかなり疲労してきたことに気が付かざるを得ない。

 最初に大量の兵士を纏めて石化させ、続けてこれだ。


(この戦いが終わったら眼を休める必要があるだろうな。けど……)


 それでも進み続け、やがて目的の天幕に到着する。


「いくぞ、野郎共! ヒャッハー!」


 魔眼を休めるためにも、とにかく反乱軍を率いている貴族をどうにかするべく、シンは他の面々を率いていつもの声を上げ、天幕の中に突入するのだった。

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