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 貴族と思われる者が兵士を率いて山賊山脈にやってきた。

 そうサンディに言われたシンは、すぐに主要な山賊山脈にいる主要な山賊団のお頭たちを呼び出す。

 広大な山賊山脈だけに、当然のように呼んだからといってすぐに集まるといったことは出来ない。

 携帯の類もないのだから、直接伝言を伝える必要があった。

 ……もっとも、シンがアリスから聞いた話によると、マジックアイテムや魔法の仲には、即座に連絡を取り合うようなことが出来るという方法もあるらしいのだが。

 だが、当然のようにアリスはそのようなマジックアイテムを持ってはいなかったし、アリスが得意とする水の魔法にもそのような魔法はない。……もっとも、もしあっても封印具で魔法の力の大半を封じられているアリスが、そのような魔法を使えるかどうかは不明だが。

 ともあれ、そうして山賊団のお頭たちを集めるように指示したあとでも、シンはやるべきことは色々とあった。

 その中でも真っ先にやったのは、アリスから事情を聞くこと。……もっと具体的にいえば、貴族の兵士というのが具体的にどれくらいの力を持っているのかというのを聞くことだった。

 貴族の兵士が弱ければ、それを迎撃することも出来る。

 もっとも、貴族が山賊風情に負けたということにでもなれば、当然のようにプライドを傷つけられた貴族がそのままとう訳にもいかないだろう。

 一度は退けても、後日にまたより強大な戦力で攻めてくるのは確実だった。

 普通であれば、百人単位の兵士がやって来るのなら、アジトを捨てて逃げ出すだろう。

 それが、賢い山賊としてのあり方だと言ってもよかった。

 だが……この山賊団を率いているのは、シンなのだ。

 バジリスクの能力を使えば、それこそ数だけは多い兵士を石化させるのは難しい話ではない。

 いや、むしろそれだけが貴族たちに勝つ唯一の手段のはずだった。


「それで、貴族の率いる兵士ってのは、具体的にどれくらい強いんだ?」


 シンの率いる山賊団がアジトとして使っている洞窟の中、そこでシンはアリスに尋ねる。

 山賊団の中にも、貴族の兵士と戦った経験のある者はいるかもしれない。

 だが、やはり内乱の中で直接貴族の兵士たちと戦ってきた……言わば、現状では最も新鮮な情報を持っているアリスからの情報というのは、非常に大きいものだった。

 洞窟の中ではすでに戦闘の用意が始まっており、皆が賑やかに動き回っているのだが、そのような喧噪の声すらも聞こえてこないかのような真剣な様子で、シンはアリスに尋ねる。

 尋ねられたアリスも、別に貴族たちの情報を隠す必要はない。

 反乱を起こした貴族たちは、アリスにとっても敵であり……何より、自分の家族の仇でもあるのだ。

 むしろ、アリスとしてはシンが反乱軍と戦うつもりになっていることの方が、驚きだった。


「シン、貴方……もしかして、貴族軍と戦うつもりですの?」

「戦うかどうか、その辺はまだしっかりと分かってはいない。だが……勝てるのなら、戦っても別にいいだろ? だからこそ、こうしてアリスに貴族の率いる兵士がどれくらい強いのか聞いてるんだから」

「……もしここで貴族に勝っても、プライドを傷つけられた貴族はまた戦力を出してくるわよ? それこそ、今回よりも多く。そうなれば、結局負けるんじゃなくて?」


 アリスのその言葉は、半ば挑発の意味が強い。

 アリスとしては、シンに……目の前の自分よりも年下にもかかわらず、山賊山脈にいる山賊の多くを纏め上げているシンに、自分の味方となって貴族と戦いたいと思っている。

 今回やって来ている貴族が誰なのかはまだ分からないが、それでも貴族の本当の目的が山賊山脈にいる山賊を倒すことではなく、自分を……ミストラ王国の王女を狙ってのものという可能性は非常に高い。

 いや、ほぼ確定であると言ってもいいだろう。

 それだけに、今回の一件はアリスにとっては全く他人事ではない。


「それでもだ。俺は好きに生きると決めている。それこそ、自分では勝てないかもしれない相手が来たからといって、逃げるのはちょっと面白くないな」


 日本にいるときは、父親の操り人形とでも呼ぶべき生き方をするしかなかった。

 だからこそ、新たな生を得たこの世界では、自分の思うがままに……自分が納得出来ないような行動は、絶対にしたくはなかった。


「……そう」


 シンの様子に、アリスが口に出来たのはその一言だけ。

 アリスにとって、シンという存在は規格外な存在だと知ってはいたが、それでもこうして直接シンの様子を見ていると、圧倒されてしまったのだ。

 今のシンは、アリスの中に強烈なまでの印象を刻み込んだ。

 だが、シンはそんなアリスの様子に全く気づくことなく、柄にもなく熱くしゃべったことに少し照れながら、それを誤魔化すかのようにハクの頭を撫でる。

 そうして奇妙な沈黙が二人の間に流れ……だが、誰かが走る音が聞こえてきたことにより、その沈黙は破れる。


「シンのお頭、近くにいる参加の山賊団のうち、何人か来た……っす……け……ど……」


 そう言いながら姿を現したのは、シンの部下にして弓の名手でもあるジャルンカ。

 だが、ジャルンカはシンの部屋の中に入った瞬間、シンとアリスの間に流れている微妙な空気に気がつき、言葉に詰まる。

 シンとアリスの間に流れている空気は、間違いなくいつもと違っていた。

 それなりに苦労してきたジャルンカは、その空気を瞬時に感じたのだ。


「えっと、その……俺っち、もう少し外に出てた方がいいっすか? ただ、その……洞窟の中では結構声が響くので、気をつけた方がいいっすよ?」


 ジャルンカの言葉で、何を言いたいのか分かったアリスは急激に顔を赤く染めていく。

 王女ではあるが、元々戦場に出ることも多かったアリスだけに、そちら方面の知識も相応にある。

 だが、自分がそのような行為をするのだと思われてしまっては、王女として……いや、一人の乙女として許容出来るものではない。


「な、な、な……何を言ってるんですの!」


 羞恥で顔を赤くしながら、アリスは半ば反射的に近くにあった木のコップをジャルンカに向かって投げつける。

 ジャルンカは咄嗟にそれを回避しつつ、シンとアリスに慌てたように言う。


「と、取りあえず、もう何人かお頭が集まってるので、出来れば早くお願いするっす!」


 そう叫び、このままここにいれば間違いなく酷い目に遭うと判断してるのか、シンの部屋の前を走り去る。

 この辺りの判断の素早さは、ジャルンカならではのものだろう。


「ふー、ふー、ふー……」


 ジャルンカがいなくなったのはいいのだが、アリスの中にある羞恥と怒りはまだ晴れる様子はない。


「ほら、落ち着け。お前がいるのは騎士とか貴族とかそういう連中のいる場所じゃなくて、山賊団だぞ? 俺の山賊団は他の山賊団に比べて色々と特殊だとはいえ、山賊団であることに変わらないんだから」


 そう慰める、もしくは言い聞かせるように言うシンに、アリスは若干恨みがましそうな視線を向けるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「近くにいる参加の山賊団」←「傘下」でしょう。
[気になる点] 「自分の味方となって貴族と戦『』いたいと思っている」←『』の部分に「って貰い」を入れるべきでしょう。 そうでないと文脈的におかしいですね。
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