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 助けられてから半月程度しか経っていないにもかかわらず、アリスが山賊たちの行動に馴染むのはシンが予想していた以上に早かった。

 シンにしてみれば、アリスはこの国の王女という立場なのだから、てっきり山賊ごときと仲良くするのは絶対に嫌だと、そう言われてもおかしくはないと思っていたのだが……


「姐さん、こっちの水の調整をお願い出来やすか!」

「姉さんという呼び方は優雅ではないですわね」


 そう言いながらも、アリスは山賊が持っていた壺に向かって指輪の填まった指を向けて短く呪文を唱える。

 十秒と経たないうちに、アリスは壺に向けていた指を外すと、山賊は嬉しそうな笑みを浮かべ、頭を下げてからさっていく。

 これが、アリスが山賊たちに受け入れられた理由だった。

 今の山賊が持ってきた水は、特に何の変哲もない普通の……それこそ川から汲んできた水だ。

 だが、その水にアリスが魔法を使うと、その水は極上の水となる。

 結局のところは同じ水ではあるのだが、それでも山賊のような者が飲んでも、明らかに川の水とは一段……場合によっては二段も違うだろう味の水に。

 封印具の影響でアリスが水の魔法を使うには何らかの水が必要となるのだが、その水を山賊たちが持ってきてくれるのだから、普通に魔法を使うことが出来る。

 水とはいえ、非常に美味い飲料水にしてくれ、それでいてシンの戦利品という扱いになっている以上、山賊たちも迂闊にアリスに手を出すことは出来ない。

 ……それがたとえ、絶世のという枕詞がつくような美人であったとしてもだ。


「随分と山賊山脈での生活にも慣れてきたな」

「そうですわね。……正直、貴方たちが(わたくし)の思っていたような山賊であれば、私もこのように馴染むことは出来なかったと思いますわ」


 声をかけられたアリスは、シンを見ながらそう告げる。

 実際、シンの率いる山賊団は、アリスが思っていたものとは全く違っていた。

 もちろん、商人や商隊を襲ってその積み荷を奪うといった真似は続けており、山賊であるのは間違いない。

 だが、それと同時に、内乱が起こっているこの国から逃げようと着の身着のままで逃げ出したような相手には、食料を渡すといったこともしていたし、場合によっては娼婦たちと同様に下働きをさせて、その代わり食べ物や寝る場所の世話をするといった真似もしている。

 ……当然の話だが、シンも別に善意でそのようなことをしている訳ではない。

 自分たちの評判がよくなれば、もっと多くの商人や商隊といった者たちがこの山賊山脈を通るかもしれないという、一種の餌のようなものだ。


「そうか。それより、魔法についてだけど……」


 シンがアリスを助けて良かったと思った大きな理由の一つが、アリスが優れた魔法使いだったということだ。

 山賊の中には魔法使いは……いない訳ではなかったが、ほとんどが聞き囓りの知識を下地に我流で覚えたような者で、人に教えるようなことが出来ないような者たちだった。

 そんなシンにとって、きちんと授業を受けて魔法を習得したアリスという存在は、魔法というがどのようなものなのかを知る上で絶好の存在だった。

 もっとも、アリスも天才肌で感覚を重視しているし、何より水魔法を得意とする魔法使いなので、土魔法の才能を持つシンにはしっかりと教えるようなことは出来なかったが。

 それでも何も知らない状況よりは確実にマシで、シンも多少なりとも土魔法を使えるようにはなっていた。

 とはいえ、本当に基礎中の基礎の魔法がいくつかだけだが……それでも、この山賊山脈という山の中にあっては、その基礎程度の土魔法であっても十分に効果的な攻撃をすることが出来た。

 戦闘の途中で、数センチ程度ではあってもいきなり自分の立っている地面が低くなるというのは、致命的と言ってもいい。


「まずは、何をするにも魔力のコントロールが重要になってくるわ。……そういう点では、シンはまだまだですわね」


 実際には、シンの魔力のコントロールはそれなりに高い技術を持っている。

 だが、魔法にかんしては天才と呼ぶに相応しい才能を持つアリスにとって、シンの能力は物足りないものだった。

 それでも、シンは自分を助けたのだからと……そして、何とかシンたちには自分を匿って貰い、恐らくそう遠くない未来にやってくるだろう追っ手にも勝って貰う必要があったので、アリスはシンの授業に手を抜いたりはしていない。


「そうか。……これでも、依然と比べると結構出来るようになったと思ったんだけどな」

「その辺りは、練習あるのみですわ。私だって、封印具を使われる前であっても、相応に高い技術を持っていましたが、それで満足した訳ではありませんし」


 そのような言葉を交わしながら、シンとアリスはアジトの洞窟の中を進む。

 なお、アリスの部屋はシンの部屋からそう離れていない場所に用意された。

 いくらシンが自分を保護――正確には所有物や戦利品といった扱いなのだが――してくれているとはいえ、王女として育ってきたアリスには、どうしても男と一緒の部屋で寝泊まりするということは出来なかった。

 ……アリスが女としての魅力を使うのであれば、それもよかったかもしれない。

 だが、幸いにもシンはアリスの美貌や肢体に見惚れることはあっても、直接的に手を出してこようとはしなかったので、幸か不幸か今はそのようなことにはなっていなかった。


「では、試してみてください」


 シンの部屋までやって来ると、シンはアリスに言われるがまま、地面に敷いた布の上に座って魔力を高める。

 普通の者には見えないが、魔法を使う者であれば魔力の流れを感じることが出来る。

 それは封印具によって魔法を使う能力の大半を封じられているアリスであっても、それくらいのことは出来た。

 だが……魔力を動かしているシンの様子を見ていたアリスは、やがて手を叩いてシンの魔力のコントロールを止める。


「そこまでですわ。やはりまだ未熟ですわね。……この辺りのコツは、それこそ人それぞれですから何とも言えませんが……私の場合は、魔力を血に見立ててます。そして血が全身を巡るように、魔力を循環させていますわ」


 そう言いながら、アリスは魔力を動かす。

 そのコントロールは、アリスが口にしているようにシンよりも数段……もしくはそれよりも上だ。

 アリスの手本を見ていたシンは、自分との差を感じてしまう。

 もっとも、小さな頃から魔法の才能を発揮し、高度な魔法の教育を受けてきたアリスと、土魔法の才能を開花はさせたものの、それからまだ一年……どころか、数ヶ月も経っていないシンとでは、差があって当然だった。

 シンもそれが分かっているから、アリスから魔法のコツを教えて貰いつつ、何とか魔力のコントロールを上達させようとする。


「しゃー!」


 ふと、シンの側でとぐろを巻いて眠っていたハクが目を覚まし、鳴き声を上げる。

 その鳴き声にシンは洞窟の出入り口の方に視線を向け……それから十秒ほど経つと、見覚えのある人物が姿を現す。


「シンのお頭、貴族っぽい人が軍勢を引き連れてこっちに向かってきています!」


 普段は気弱なサンディだったが、情報の緊急性からか、いつになく強くシンにそう告げ……それを聞いたシンは、アリスの方を見て、来るべきときが来たのかと決意を固めるのだった。

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