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017

 行動をすると決めれば、シンの行動は早かった。

 ……即断即決と表現すれば、それは褒められるべきことなのだろう。

 だが、見方を変えれば、それは後々のことを考えずに動いたという風にとられてもおかしくはない。

 とはいえ、今の自分たちは他の山賊たちに侮られている状況である以上、積極的に動いて力を見せつけ、自分たちの勢力を拡大していくことが必須だと、そうシンは判断していた。

 実際、そんなシンの考えは他の山賊たちの多くにも喜んで受け入れられた。

 シンと同様、他の者たちも一方的に襲撃を受け続けるといったことを不満に思っていたのだ。

 だからこそ、シンの決定に進んで従った。

 今回の原因を作った……それこそ、自分が強いからといって他の山賊たちを蔑ろにしていたヘルマンは、その筆頭だろう。

 自分の山賊団を乗っ取ったシンにはとてもではないが良い感情を抱いてた訳ではない。

 だが、それでも……今回の連続した襲撃の原因は自分にあると、それこそ自分がこの山賊団を率いていたときの他の山賊団への態度が原因であると知っており、他の山賊たちからはどこか責められるような視線を向けられていた。

 だからといって、ここでそのような視線を向けてくる山賊たちに攻撃を加えるような真似をすれば、間違いなくシンに粛正されてしまう。

 特にヘルマンはシンに対して思うところがあり、それをシンに見抜かれていたので、妙な行動をしないようにと注意深く見られていたというのもある。

 それならいっそ山賊団を抜ければいいのだが、ヘルマンはこの山賊団は自分のもの……いや、物だという認識があり、いつか何とかしてシンから奪い返そうと考えており、山賊団から抜けるような真似はしなかった。

 実際、この山賊団の規模がここまで大きくなったのは、ヘルマンの戦力によるところが大きいのも事実だ。

 その自負があるからこそ、ヘルマンはこの山賊団に対して執着のようなものがあり、この山賊団から去るような真似をしなかったのだろう。

 いずれ、シンの手から再びこの山賊団を奪い返すという野望を捨てきれずに。

 シンもそんなヘルマンの考えを全て理解していた訳ではないが、それでも普段の態度から納得して自分に服従しているのではなく、反骨心……いや、この場合は反逆心を抱いているということは知っていた。

 力だけで成り上がってきたヘルマンだけに、感情を隠すといったことが苦手だというのも、この場合は大きかったのだろう。

 ともあれ、そんな苛立ちをぶつける相手として今回の他の山賊に対する襲撃は望むところだった。


「うおりゃああああああああああああああっ!」


 シンたちが近づいてきたということで、当然向こうの山賊も迎撃に出る。

 向こうの山賊団にしてみれば、他の山賊団に一方的に攻撃されていたシンたちが出撃してくるというのは、完全に予想外だっただろう。

 ましてや、シンの山賊団の縄張りにはちょっかいを出さず、自分たちの縄張りで安全性を重視して山賊家業に励んでいたのだ。

 そのような状況でまさか自分たちが攻撃されるとは、と。


「くそっ! ヘルマンだ! ヘルマンが来たぞ! 防げ、防げ! こっちから攻撃はするな! 直接攻撃するんじゃなくて、弓で攻撃するんだ!」


 山賊の中で指揮を執っている男が、斧を構えて突撃してくるヘルマンに攻撃をするように指示を出す。

 だが、山賊たちが弓を構えた瞬間、シンの部下たちの射った矢が降り注ぐ。

 こと弓という武器にかんしては、シンも部下の山賊たちにはしっかりと訓練させている。

 また、降伏した冒険者の中でも弓を得意とする者にきちんと指導させた結果、シンの部下は弓の扱いという点ではその辺の山賊よりも上の存在となっていた。

 そうして矢が降り注いで混乱している場所に、ヘルマンが突っ込む。

 もちろん突っ込んだのはヘルマンだけではなく、他の山賊の姿もあり……そして、当然のようにシンの姿もそこにはあった。

 特にシンは、武器として持つ流星錘の扱いにも大分慣れており、長剣や斧、槍といった武器を持っている山賊たちと比べてもかなり身軽だ。

 その身軽さを利用し、素早く投擲した流星錘の先端は、山賊の頭部にぶつかって脳しんとうを引き起こし、相手を気絶させる。

 山賊が気絶したのを見たシンは、素早く流星錘を手元に戻す。

 基本は紐の先端に錘という重りがついている武器だけに、その武器を手元に戻すのも難しい話ではない。

 あっという間に手元に戻ってきた流星錘を、シンは頭の上で回して遠心力をつけ、それを再び投擲した。

 だが、山賊たちも一度見てしまえばそのよう単純な攻撃は防いでやると考え……だが、シンの放った流星錘の一撃は、近くに生えていた木の幹にロープをぶつけたことにより軌道が変化し、別の山賊の胴体を直撃する。

 また、突然茂みや木の上、場合によっては土の中からも何十匹もの蛇が姿を現し、シンたちを迎撃しようとしていた山賊たちに襲いかかる。

 山賊たちにしてみれば、いきなり鋭い痛みを感じたかと思えば蛇に噛まれていたり、足に巻き付かれて動きが鈍くなったりしてしまう。

 ましてや、山賊山脈にいる蛇の中には毒蛇も多い。

 幸いにも今回シンによって呼び出された蛇の中に致死性の毒を持つ蛇はいなかったが、それでも麻痺毒や幻覚を見せられる毒、身体中が寒くなる毒といった風に様々な毒は存在していた。

 それでいて、蛇たちはシンたちの率いる山賊たちを襲うといった真似はしない。

 足下の蛇を警戒し、シンたちも警戒する。

 そんな状況でまともに戦いになるはずもなく……結果として、シンたちに襲われた山賊団は瞬く間に混乱し、その場を逃げ出す者も多かった。

 山賊の頭……他の山賊たちに指示していた男は、自分たちが不利になったと思うとすぐに降伏し、結果として襲撃された山賊たちの被害は当初シンが予想していたよりも少なかった。

 これは、シンたちにとって使い物になる戦力が増えたということで、予想外の幸運だったと言えるだろう。


「……で? これは何だ?」


 降伏した山賊の頭が、少しでも自分の待遇を良くしようとして差し出してきたのは、白い卵。

 ただし、シンがよく見知っている鶏の卵とは違って、握り拳二つ分くらいの大きさがある。

 つまり、かなり大きめの卵。


「いや、その……恐らくモンスターな何かの卵かと」


 その言葉にシンは少しだけ驚くが、すぐに納得する。

 モンスターの中には、は虫類や鳥、もしくは魚といったようなものが変化したと思われるモンスターも多い。

 であれば、シンが知っている哺乳類のように直接産むのではなく、卵から普通に生まれてくるモンスターがいてもおかしくはないと。

 そもそもの話、この世界はシンがいた世界ではなく、異世界だ。それも魔法やモンスターといったものが普通に存在する以上、シンの知っている日本の……地球の常識が通じないことが多々あるのは当然だった。


「で? このモンスターの卵を一体どうしろと?」

「えっと、その……何でもこれを持っていた商人によれば、かなり珍しいモンスターの卵らしいので……え?」


 シンの前にいる山賊の頭が、言葉の途中で戸惑ったような声を出したのは、卵が微かにひび割れたからだ。

 その言葉に、シンもまたそんな卵に視線を向け……卵のひびに気がつく。

 そして一度ひび割れてしまえば、あとはもうそのひびは大きくなっていき……やがて、微かに開いた穴から、一匹のモンスターが――なお、この世界ではモンスターであれば鳥だろうがウサギだろうが魚だろうが、数え方は匹となる――姿を現す。

 握り拳二つ分ほどもある卵から孵ったとは、思えないような小ささ。

 それこそ、掌の人差し指くらいの長さのそれは……


「しゃあ?」


 どこか舌っ足らずな声で、そう鳴いたのは白蛇……本当に真っ白で純白と表現してもいいような、そして蛇とは思えないほどの円らな瞳を持つ、愛らしい白蛇だった。

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