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013


 シンが率いる山賊団がその場に到着したとき、ちょうどその現場では激しい戦いが繰り広げられていた。

 片方は馬車数台を要する商隊。

 もう片方はシンたちとは違う山賊。

 その二つが、真っ正面から戦っていたのだ。

 ただ、シンにとって予想外だったのは……山賊たちが思ったよりも苦戦していたことだろう。

 本来なら、商隊の中で戦えるのは基本的には護衛だけで、商人というのは多少の例外を除いて戦わない。

 だが……現在シンの視線の先では、冒険者だけではなく、何人もの商人までもが山賊たちと戦っていたのだ。

 商人の中にも、元冒険者だったり、もしくは護衛を雇う金がないので自分で商品を守る者もいるのだが、山賊たちにとっては運悪く、今回はそのような商人の多い商隊だったということだろう。

 いや、商人たちにとっては、戦える商人を商隊に組み込むことで襲撃されたときの戦力を増やすということを期待していたのだろうから、むしろこの結果は狙い通りだったのかもしれないが。

 しかし、ここで商隊たちの運が悪かったのは、本来相手にするはずのシンたち以外の山賊までもが先に襲いかかってきていることか


「どうする、シンのお頭?」


 山賊の中の一人が、そう尋ねる。

 その言葉の中には、すでにシンを認めているような色があった。

 それは、今日もそうだが、ここ何度か行われている襲撃で、常にシンが先頭に立って襲いかかっていたからだろう。

 山賊だけに、強く、自分が先頭に立って戦う男を信頼しやすいのは間違いない。

 ……以前まではその対象がヘルマンだったが、今ではそれがシンに変わったのだろう。


「どうするって言われてもな。やることは変わらない。商隊と山賊の両方を同時に叩く。それとも、縄張りを荒らした山賊たちを助けろとでもいうのか? もしくは商隊に協力して山賊たちを倒すとか」

「いや、あんたが頭だ。その命令には従う」


 納得したのかどうかはシンにも分からなかったが、ともあれ判断は決まった。


「よし、行くぞ! 皆、商隊と山賊、両方を倒すんだ。……ヒャッハー!」


 何故、いきなり自分の口からヒャッハーなどという叫びが出たのか、それはシンにも分からない。

 だが、何故か……それこそ、心の底からその声が出たのだ。

 目の前に広がるのが予想外の光景で、それだけにシンも興奮していたのも、大きいだろう。

 そんな叫びが出た理由はシンにも分からなかったが、そう叫んだ瞬間、自分の中から力が湧いてきたのも事実だった。

 ともあれ、理由は分からないがそれで自分が強くなれるのであれば、問題はない。

 ……何より、『ヒャッハー!』と叫ぶと、爽快感があるのもまた間違いないのだ。

 そのまま叫びながら、シンたちは商隊と山賊が戦っている場に乗り込む。

 この状況で、最も驚いたのは当然のように商隊の面々だった。

 まさか山賊と戦っている最中に、別の山賊がやって来るとは思いもしなかったのだ。

 そんな商隊とは裏腹に、そこまで混乱しなかったのは商隊を襲っていた山賊たち。

 当然だろう。この山賊たちは、元々ここがヘルマン率いる山賊団の……そして現在はシンが率いる山賊団の縄張りだと知っている。

 知っている上で、こうした行動をしていたのだから。


「何ぃっ! もうやって来たのか!? ……ええいっ、ヘルマンの野郎に備えろ! あいつは厄介だからな! それと、ヘルマンを倒したって奴にも一応注意しろよ!」


 そう叫んだのは、この山賊団を率いている男。

 年齢は三十代後半ほどで、ヘルマンには劣るがしっかりと筋肉のついた身体をしている男だ。

 その男は、動揺している商隊を襲おうか、もしくは背後から襲ってくるヘルマンたちを叩こうか迷い……だが、その迷っている時間に、シンの率いる山賊の中から、弓を手にした者たちが矢を射る。

 その矢は、商隊と戦っていた山賊の何人かの手足や身体に刺さり、一瞬……一瞬だけだったが、それを見た商隊の者たちに、もしかして自分たちの援軍か? と希望を抱かせる。

 しかし、そんな淡い期待は次の瞬間には消え失せた。

 何故なら、射られた矢は山賊たけではなく、商隊の面々にも降り注いだのだから。

 それでも山賊たちは、頭の命令に従おうとする者もおり、シンたちを迎え撃とうとした者もいた。

 いたのだが……それよりも、混乱した者の方が圧倒的に大きい。

 山賊は騎士や軍人のように統率のとれた集団ではない。奇襲を仕掛けられ統率や命令系統に混乱が生じるのも無理はない。さらに練度と統率のとれた弓兵の存在も山賊山脈では珍しく、混乱の一因としては大きい。それで混乱するなという方が無理があった。

 中でも、真っ先に突っ込んできたヘルマンといった強者と呼べる者と戦うことになった山賊は、ほとんど何も出来ず、混乱したまま死んでいった。

 そんな中、シンもまた縄張りを荒らした山賊に攻撃を仕掛ける。

 流星錘という特殊な武器を持っているシンだったが、運が良いのか悪いのか、混乱していた山賊は、シンの持つ武器の異常さに戸惑うより、前後から攻撃されたということに対して混乱していた。


「ぐわっ!」


 そんな混乱している山賊であれば、シンも倒すのは難しくはない。

 これが兵士であれば、何らかの防具を装備しており、流星錘で狙える場所も少なかったのだろう。

 だが、兜の類すら装備していない山賊は、それこそシンにしてみれば狙いやすい相手でしかない。

 頭部に流星錘の一撃を食らった山賊が意識を失うのを見て、シンは次の獲物を探す……が、そんなシンの姿が、近くにいた別の山賊の目に留まったのだろう。その山賊は、すぐにシンを敵だと判断して持っていた斧を手に襲いかかってくる。

 長剣や槍のような一般的な武器とは違い、流星錘という武器は敵の攻撃を受け止めるといったことは出来ない。

 いや、紐の先端には重りが付いているので、本当に腕の立つ者であれば受け止められるのかもしれないが……残念ながら、流星錘を使い始めたばかりのシンには、そのような真似は出来なかった。

 だからこそ、斧を振りかぶってきた敵の攻撃に対処するには、回避するか……もしくは……


「ちっ!」


 回避したのはいいものの、ちょうど回避した先にあったのは、木。

 山の中で戦っているのだから、周囲に木々が生えているのは当然だった。

 それを把握出来なかったのは、純粋にシンの経験不足だろう。

 この世界に来たことにより、人を殺すことに躊躇しなくなってはいたが、それでも別にシンは熟練の戦士という訳ではない。

 日本にいたときは、剣道や柔道、空手といった習い事もさせられたが、結局それは習い事でしかなく……今までの襲撃では出ていなかった未熟さが、これ以上ない形で出てしまった。


「よっしゃぁっ! こいつの首は貰ったぁっ!」


 シンが木にぶつかって体勢を崩したのを見てとった山賊は、獰猛な……血に酔った笑みを浮かべつつ、斧を振り上げ……次の瞬間、動かなくなる。

 周囲で戦っていた山賊や商隊の者たちには、最初それに気がついた者はいなかった。

 だが……次の瞬間、山賊の悲鳴が周囲に響く。


「うっ、うわぁっ! な、何だこれ! 何だこれはよおおおおおおおおっ!」


 斧を持っていた右腕は、すでに完全に石化しており動かすことは出来ない。

 その上、石化した場所は徐々に広がっていき……このままでは、そう遠くない未来に男が完全に石化するのは間違いなかった。

 そんな異様な光景に、商隊とシンたちの縄張りを荒らした山賊たちは、唖然として、何が起きたのか分からないといった様子で石化していく男を見て、自然と戦闘は収まるのだった。

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