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011

 流星錘(りゅうせいすい)。それをシンが知っていたのは、単純に以前中国武術を見る機会があったためだ。

 もっとも、その中国武術を見るのもまた、父親が知り合いに対する見栄のため、というのが正解だったのだが。

 それが結局役に立っているのだから、シンにとっても何が役に立つのかが全く分からない。

 ともあれ、流星錘というのは簡単に言えば長い紐の先に重りがついている武器だ。

 構造としてはそれだけというくらいに単純なのだが、だからといって侮れるものではない。

 長い紐であるために間合いは広く、自由に使いこなせるようになれば自分の身体を使って攻撃の軌道を変えたり、何らかの障害物に紐の部分をぶつけることによって、軌道を変えたり……といったように、様々な攻撃方法がある。

 シンが見た演舞では、かなり変則的な攻撃が出来るように見えた代物だった。


「おい、サンディ。いくら何でも、頭にこの武器は……」


 冒険者の男が、流星錘を持ってきたサンディに文句を言おうとするが……


「いいな、この武器。気に入った」


 シンの口から出たその言葉に、『え?』と若干間の抜けた声が出る。

 だが、そんなシンよりも驚いたのは、サンディだろう。


「え? その、シンのお頭。この武器……流星錘を知ってるんですか?」

「ああ。使い方は……待て。流星錘? お前はそう言ったのか?」


 サンディに言葉に納得したように頷こうとしたシンだったが、その口から出た『流星錘』という単語が出たことに驚き……だが、すぐに納得する。

 そういえば長剣と言い、槍を槍と呼ぶのだ。

 であれば、流星錘も流星錘と呼んでもおかしくはない。


(実はこの世界にも昔日本人……いや、地球人が来て、情報を広めたとか、この世界に来るときにあのパソコンにこの世界の言語が分かるようにされたとか……か?)


 そんな風に納得する中で、サンディは恐る恐るといった様子で声をかけてくる。


「その、お頭。もしかして流星錘は気に入らなかったですか?」

「いや、そうでもない。ちょっと珍しい武器だったからな。……そうだな。使わせて貰うとしよう」


 シンの言葉に焦ったのは、冒険者だ。

 長剣のような武器を使い慣れている冒険者にしてみれば、紐の先端に重りがついただけの流星錘という武器は酷く頼りなく見えたのだろう。


「ちょっ、ほ、本気かお頭!? 別に、わざわざそんな武器を使わなくても、普通に短剣とかそういうのでもよくないか?」

「そうだな。お前の言ってることは正しいと思う。けど……短剣だと普通すぎるだろ?」

「いや、普通って……それだけ使いやすいからこそ、そんな感じなんだろ」

「そうかもしれないけど、自分が襲った相手が短剣じゃなくて、いきなり流星錘のような武器を持っていたら、どう思う? 驚いて一瞬……場合によっては数秒時間が稼げるんじゃないか? それに、流星錘は見ての通り紐の長さがそのまま射程距離になる」


 それは、短剣よりも圧倒的に攻撃範囲が広いということを示している。

 それこそ、攻撃範囲という意味では槍のような長物と比べても圧倒的に上だ。

 弓には劣っても、それ以外の武器の多くよりは攻撃範囲は上だろう。

 ……もっとも、流星錘は結局先端に重りを結んだ紐だ。

 その紐を切られてしまえば、使い物にならなくなるのだが。

 冒険者の男はまだ何かを言いたそうにしていたが、結局それ以上何を言ってもシンは話を聞かないと判断し、黙り込む。

 そうして、シンは流星錘を手に武器庫から出て、訓練を始めるのだった。






「お頭、商隊っす! 商隊が来るって連絡があったっす!」


 ジャルンカのそんな報告がシンの下にもたらされたのは、シンが流星錘を使い始めてから一週間ほどが経過したあとのこと。

 流星錘の扱いについては、日本にいたときに見ていたので大体分かっていたのだが、それを実際にやるとなれば話は別だ。

 とにかく扱いにくい武器だったのだが、シンは何故かそれを途中で諦めるといった気持ちにはならず、その練習に集中していた。

 おかげで、完璧とは言わずともある程度は使いこなせるようにはなっている。

 もっとも、ずっとそれだけをしていた訳ではなく、山賊団の運営や山賊山脈に入ってきた商人を襲って物資や食料を入手したりもしていたのだが。

 ……シンにとって残念だったのは、最初に襲ったときのように商人や護衛の冒険者たちは降伏せず、全員殺すことになったことか。

 元騎士か、もしくは落ちぶれた元貴族だったのか……山賊に降伏するような真似しないと言い切り、結局最後まで戦って死んだのだ。

 もちろん、そのような命懸けの相手にシンたちも無傷だった訳ではない。

 シンが率いる山賊の中にも怪我をしたものはいたし、命を落とした者もいた。

 そのような者たちは、他の死んだ者たちと共にしっかりと死体を焼いている。

 それは使者に対しての供養というだけではなく、死体のままで放っておけばゾンビやスケルトン、ゴーストといったアンデッドになる可能性があるためだ。

 山賊山脈には多くのモンスターがいるので、多少アンデッドが増えてもそう大きな差はないのだが……シンが率いる山賊団の縄張りにアンデッドがいるとなれば、話は別だった。

 特に娼婦や降伏した商人のように山賊団で下働きをしている者たちは、戦闘力という点では皆無に等しい。

 洞窟から少し離れた場所には川があるのだが、その川まで水をくみに行くときにアンデッドに遭遇すれば、死ぬ可能性も高い。

 そのような事故を防ぐ意味でも、死体は燃やしておく必要があった。

 ……何より、死体の腐臭や伝染病といったものが広がるのはシンとしては絶対に避けたかった。

 死体が転がっているような場所を、普通なら商人たちも通りたいとは思わないだろう。

 そのような努力の結果、今回のように大勢が一団となって行動する商隊がシンの山賊団の縄張りに入ってきたのだろう。


「分かった、最低限の護衛や見張り以外は全員に出撃の準備をさせろ。それで、商隊の人数ってのは、具体的にどれくらいだ?」

「こっちに来た情報だと、馬車は十台以上、商人や護衛を合わせて五十人を超えてるらしいっす」

「また、随分と大人数だな。いや、商隊ならそれくらいいてもおかしくはないのか?」


 これまでは、大抵が一人か二人の商人、多くても五人に満たない商人だった。

 それに護衛を入れると、十人から十五人といったところか。

 だが、今回は五十人を超えているとなれば、正直なところシンの山賊団で今まで通りに全員を降伏させるか、もしくは皆殺しにするというのはかなり難しい。

 少なくとも、数人……場合によっては十人以上が逃げ出すことに成功するだろう。

 そうなれば、シンたちの情報が持ち帰られることになる。

 ヘルマンが率いていたときの情報が知られているのはともかく、シンが率いるようになってからの情報が漏れるのは出来る限り避けたい。


(となると、バジリスクの能力を使った方がいいか?)


 一度に多くの敵を倒すという点では、シンの持つバジリスクの能力はかなりの威力を持つ。

 一瞥しただけで相手が石化されるのだから、向こうにしてみれば何が何だか分からない間に、戦力の多くを潰されるということになる。

 いざとなったら、バジリスクの能力を使う。

 そう考え、シンは他のヘルマンやジャルンカ、サンディたちを率いて商隊のいる方に向かう。

 山賊だけあって、シン以外の者たちは山を走るのを苦にする様子はない。

 だが、シンだけはまだそこまで山歩きに慣れておらず、どうしても少し遅れてしまう。

 それでも誰もシンに不満を抱かないのは、シンが山賊団を率いるようになってから、暮らしの質が上がったからだろう。

 今まではヘルマンが独り占めしていた酒も、全員に行き渡るようになっていたし、襲撃の成功率も上がっていたのだから。

 それを考えれば、山の中を走る速度が多少遅いくらいは問題にはならない。

 そのようにしながら走っていると……


「シ、シンのお頭! 僕たちの他にも、あの商隊を狙っている人たちがいます!」


 前方を偵察に向かっていたサンディがシンの側までやって来て、そう告げるのだった。

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