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「あー……駄目だな、お頭。ぶっちゃけ、お頭には妙な癖がついてて、実戦では使い物にならねえ」


 長剣を握ったシンにそう言ったのは、数日前までは冒険者をしており、現在は山賊になった男の一人。

 結局短剣だけを渡されて放り出されても死ぬだけなので、それならば……と、生き残った冒険者と商人たちは全員が山賊になることに決めたのだ。

 奴隷になれば、奴隷紋という自分の所有者には絶対服従させられる刻印魔法を使われ、自由というものはなくなる。

 もしくは、奴隷の首輪を嵌められて、こちらもまた自由というものはなくなる。

 そのようなことにならず、冒険者から山賊になってしまったものの、こうしてある程度自由にさせてもらってるのを思えば、それに感謝するのは当然だった。

 もちろん、シンも自分たちに恨みを持っていてもおかしくない相手をすぐに信じた訳ではない。

 現在も、冒険者や商人たちは山賊が監視として一緒に行動しており、何か妙な行動をとった場合は、即座に殺すと明言していた。

 そしてシンの持つバジリスクの能力も直接見せ、逆らえば石像にされると脅しもしている。

 それらのおかげもあってか、現在は冒険者や商人たちが裏切る様子はなかった。

 場合によっては、奴隷にされるかもという不安も、そこにはあったのだろうが。

 何より、冒険者たちは別にずっと一緒に行動していた訳ではなく、今回だけの臨時のパーティーだったというのもシンたちに深い恨みを抱いていない理由だろう。

 また、昨日と一昨日に商人を襲った際に護衛の冒険者を殺すといった試しも終えているので、恐らくもう裏切ることはないだろうとシンは判断してる。

 ともあれ、現在シンはそんな冒険者の一人に長剣を使った戦闘の方法を教えて貰っていたのだが……冒険者の男が口にしたのは、実戦では使い物にならないという言葉だった。


「妙な癖?」

「ああ。……もしかして、お頭は以前誰かから剣を習ったことがあるのか? 何となくそれは分かるんだが、それは模擬戦とかならまだしも、実戦で使うのはちょっと無理そうな感じだ」


 そう言われ、シンは日本にいたときに習っていた剣道を思い出す。

 その癖がついており、だからこそ実戦で使えないのだろうと。

 もちろん、剣道そのものが実戦で使えない……という訳ではなく、シンが中途半端に剣道を習っているからこその結果だろう。

 本当に才能があれば、それこそ剣道を実戦で使う技術に応用したりも出来るのだろうが、生憎とシンは剣道を習っていてもそこまで突出した才能があった訳ではない。

 才能がもっとあれば、剣道の動きを実戦に応用するような真似も出来ただろう。

 才能がなければ、剣道の癖が身体に染みついていたりせず、最初から長剣を使った戦い方が出来るはずだった。

 この辺りは、中途半端に才能があったからこその不幸。そう言い換えてしまってもおかしくはない。

 だが、幸いシンはそこまで長剣に拘る様子もなかったので、ならどんな武器がいいのかと考え……取りあえず、長剣での稽古はここまでにして、冒険者と共に武器を保管してある部屋に向かう。


「あ、シンのお頭。どうしたんですか? もし暇なら、私とちょっと遊びません?」


 洞窟の中を歩いていると、そんな風に声をかけられる。

 山賊団の雑用をするように交渉し、娼婦兼雑用として働き始めた女の一人だ。

 今は雑用をしているので、娼婦らしくもない動きやすく簡素な格好をしているが、普段の生活から男を誘うことには慣れているのか、シンに向けられる視線は艶めいている。

 もっとも、シンはそんな視線を向けられても特に何も感じた様子もなく、口を開く。


「悪いけど、お前はあまり趣味じゃないんだ。別の奴を誘ってくれ。……それと、サボるなよ」

「酷い! でも、そこがいい! ねぇ、そう思わない?」

「いや、俺に聞くなよ。……まぁ、おかげで俺は奴隷として売り飛ばされずにすんだんだから、感謝はしてるけどよ」

「ほら、とにかく武器庫に行くぞ。俺も能力だけじゃなくて、きちんと戦えるようになりたいからな」

「へいへい、分かりましたよお頭。じゃあ、まぁ、そういうことで。ああ、そうそう。俺で良ければ今夜頼むわ」

「そうね。考えておくわ」


 そんな言葉を交わし、娼婦を分かれたあとでシンは冒険者と共に武器庫に向かう。

 もっとも、武器庫と言われてはいるが、実際には洞窟の中にある空き部屋に武器を置いており、それを勝手に武器庫と呼んでいるだけなのだが。

 その武器庫の中には、山賊たちが使っていない武器がいくつも置かれている。

 それでも乱雑に置かれているのではなく、ある程度整理されているのはとある人物がここの整理をしているためだ。


「え? シ、シンの頭!? どうしたんですか!?」


 武器庫の中にいたのは、偵察要員としてシンが期待している人物……サンディ。

 戦闘に参加することは出来ないサンディは、この山賊団の中でも下っ端でしかなかった。

 戦闘を得意としているヘルマンにしてみれば、偵察くらいしか出来ないサンディは役に立たないという認識だったのだろう。

 結果として、サンディはこの武器庫にある武器の整理を命じられたりしていた。


「ちょっと武器を探しにな。……そうだな、何か俺にお勧めの武器はないか? この武器庫に詳しいサンディなら、何かそういうのがあるだろ?」

「え? いえ、急にそう言われても……その、困ります」


 自信なさげに呟くサンディに、シンはそれを聞き流しながら口を開く。


「そうだな。俺の能力を考えれば、俺が前線に出て直接戦うといったことはあまりないと思うから、一瞬でも相手を驚かせるような、そんな武器はないか?」

「え? え? えーっと……そうですね。ちょっと待って下さい。そう言えば……ちょ、ちょっと待ってて下さい。すぐに持ってきますから」


 最初は自信なさげにしていたサンディだったが、シンが自分の注文を口にするとすぐに倉庫の奥に向かう。


(なるほど、サンディのうじうじした言葉を聞かないで、直接命令すればいいのか)


 思わず手に入れたサンディという人材の活かし方にシンが納得していると、ふと隣の冒険者が自分に不満そうな視線を向けているのに気がつく。


「何だ?」

「いや、何だって……せっかく俺が武器の使い方を教えてたのに、何だってそういう色物に興味を示すんだよ?」

「そう言われてもな。長剣とかに適正がないって言ったのはお前だろ? なら、そういう正統派の武器じゃなくて、お前がいう色物を選んだ方がいいかと思ってな」


 それに、と。それ以上は冒険者には言わなかったが、シンはバジリスクの能力の他にも土の魔法の才能をもっている。

 今はまだ使えないが、魔法を使えるようになれば、余計に前衛に出るようなことは少なくなるだろう。

 そういう意味でも、武器は一般的な物ではなく相手を驚かせるような代物が最適だった。

 ……もっとも、それはこの武器庫に来るまでの間に思いついたものなのだが。


「いや、けど……」

「お、お待たせしました! 相手を驚かせるような武器というと、こんなのがありましたけど……どうでしょう?」


 そう言ってサンディが差し出したのは、細く編み込まれた紐の先端に重りがついた……いわゆる、流星錘(りゅうせいすい)と呼ばれる武器だった。


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