様子見
「紅、このゲームって〝魔王無双〟って名前だったっけか?」
「初心者達が、取り敢えず団子になって魔王に群がってるからね。闇雲に突っ込んだら、デスペナもらいに行くようなもんだね」
初心者達がレベル上げを良くしている流行りの狩場に、野生の魔王が現れたとの情報は、すぐに私が所属するギルド〝紅蓮の翼〟にもすぐに届いた。
「やっぱりコレまでの突発系レイドボスと同じように、強さが鬼畜っぽいなぁ。でも、これまでと違って、割と早めに発見されたみたいだけれど、属性とか全く予想できないんだけど。何系を装備を打てばいいだろうかね」
鍛冶屋のカジカは、あの魔王を見ながら、ギルメンにどんな装備を造るかを考えているが、私はそれどころではなかった。
アレが、レイドボスだと!? 運営は、何考えてんのよぉおおおお!!!
「運営から、うんともすんとも返答ないし、どうなってんのよ……」
「どうしたん?」
「いや、何でもない。どうしたら、アレを討伐出来るかなと思ってさ」
心の中に渦巻く怒りを心のボックスに仕舞い込みながら、もう一方でこのゲームのトッププレーヤー勢としての目でも、あの変態魔王を分析してみるも、眉間に自然と皺がよる。
「確かにねぇ。まぁ、でも今までも突発系レイドボスは、難易度高いし、大体二から三のギルドとの共闘になってるから、今回もそうなるんじゃないか」
「まぁ、そうなるだろうね。正直、個人的には単騎でボコボコにしたいところだけど……ただ、今回のレイドボスの討伐貢献度一位の報酬が〝不可侵の島〟だからねぇ。おいそれとギルド同士が手を組めるかというと、難しいかもね」
「確かにぃい! ただの島ではなくて〝不可侵設定〟されている島とか、生産系ギルドなんかも喉から手が出るほどに、欲しすぎるって!」
ギルドの本拠地というのは、今でもフィールド上に建築スキル持ちのメンバーが建てたりするけども、野生のモンスターの襲撃が一定周期で到来する上に、他のライバルギルドからの襲撃もまた悩みの種だった。
「島全体が非戦闘区域の安全地帯ということは、プレーヤー達の街が作れたり、NPC達を住まわせて、シミュレーション系のロールプレイだって面白うだしね。ただ……」
「報酬が破格過ぎて、ギルド間の協力プレイは、期待できない……か」
「今回は、報酬が良すぎるんだ。ある意味では、タイミングも最悪。新大陸がアップデートされた矢先に、新大陸への拠点に適した位置に、今回の報酬の島を解放しちまったもんだから、どのギルドだって欲しいのさ。まぁ、ただ以前からの同盟関係にあるギルド同士であれば、事前の取り決めをしっかりすれば、何とかなるかもね」
攻略系ギルドが全て、ギルド内に生産系プレーヤーを抱えているわけではない。そして生産系ギルドが、全ての素材を自分達で収拾しているわけでもない。需要と供給の関係性として攻略系と生産系のギルドが同盟を組む場合も少なくない。
「それにしても、今回のボス仕様はえげつなくない? 気づいてる? アレ、あの野生の魔王さ、しっかり倒したプレーヤーの金やアイテムを回収してるっぽいんだけど。そんなのアリ?」
普通はモンスターにプレーヤーが倒された場合、所持金の半分と装備品以外のアイテムからランダムで、その場にばら撒かれてしまう。
PKの場合は、倒した相手もしくはパテメンしか、それらの物は回収できない。モンスターの場合は、そもそもばら撒かれた金やアイテムなど興味を示さないから、本来はフィールドにそのまま放置される。
一定時間放置されれば、それらの物は消滅するが、神殿で復活してからすぐに戻ってこれば、再度本人が回収することは難しくはないはずだった。
しかし、今回のあの変態魔王は、配下っぽい者に、それらをしっかり回収させていた。その配下は、仮面を被っている為に素顔は見て取れないが、どこか見覚えがあるのは、気のせいだろうか。
「おそらく今回は、そうして回収した金やアイテムが、そのまま討伐の際のドロップとして貰えることになるんじゃないか? あの群がってる初心者達は、最初の生贄ってところじゃあないか」
「なるほどな。しかし、魔王に群がってるのが初心者ばかりってこともあって、どうにも強さを測りかねるね。紅は、アレが野生の魔王と公表される前に、一度戦ってるんだ……ろ?」
「あぁあん?」
「ひぎぃ!? こわいこわいこわいこわいって!?」
仕方ないじゃない? 人のトラウマを思い出せるの方が、悪いのでは?
「私の方が、悪いみたいな顔しないでほしいんだけれど……まぁ、いいや。中堅どころから上位のギルドの偵察もいるみたいだし。きっと、初心者達が殲滅されるタイミングで、きっと何人かチャレンジにいくだろうし。って、言ってる側からフリーのボッチプレーヤーが動いたね」
「……お手並拝見ってところだね」
結果は見えているものの、しっかり目に焼けつけることにしよう。私がお前を仕留める為に、情報は幾らあってもよいのだから。
「今度は、少し骨がありそうなのが来たな。ちょうど、肩慣らしが終わったところだ。〝深淵〟よ、少し下がっていろ」
「魔王様、承知いたしました。この〝深淵の仮面〟は、仰せのままに動きまする」
ソラの顔がバレると、のちのち面倒になりそうだったので、簡単に黒色の仮面を創って顔につけさせたが、思った以上に気に入ったようで何よりだ。
「さて、やるか」
更に闘気を一段階解放したところで、十名程の冒険者が一斉に俺に向かって飛びかかって来たのだった。




