チュートリアル
「それでは、『the Creation Online』のチュートリアルクエストを、早速初めさせて貰いますね」
「あぁ、よろしく頼む」
俺とソラは、チュートリアルを受けるために、『チュートリアルクエストはこちら』という看板をもった男に話しかけ、建屋の中に案内された。
そこで、俺とソラは一緒に小部屋へと案内され、二人一緒に説明を受けることになった。
「先ずは、お二人とも『メニューオープン』と唱えてみてください」
『『メニューオープン』』
二人で言われた通り唱えると、目の前に文字が書かれた透明な板が現れた。
「ほほう、これがこの世界の理か」
俺は、世界を超えて転移する際に、転移先の世界から異物として弾かれないように、『異世界生存条件自動適応』を転移陣に組み込んだ。その為、きちんとこの世界の理にも適応しているのだ。
ソラは俺の呟き等聞こえてない様子で、メニューの板を凝視していた。
「そのメニュー画面から、様々な設定をする事が出来ます。連続プレイ時間アラーム設定や、攻撃を受けた際の痛みの設定等も出来ますので、色々試してみて下さい」
説明している男にソラが、色々と細かい事を質問している様子を、じっくり聞いているとわかってきた事がある。
おそらく、この世界には少なくとも二種類の人型種族がいるらしい。
ソラのような、別の世界からこの世界に『ログイン』という方法で訪れる『プレイヤー』という人種。おそらく、この人種に俺も思われているのだろう。
そして、『NPC』と呼ばれる、元々この世界に生きている現地人種。そして、人種以外にも様々な種族がいるらしい。
そして『プレイヤー』には、この世界で活動出来る時間制限があるらしい。
「そして戦闘不能となりますと、最後に『地点登録』した街の『復活の神殿』で復活する事になります。ただ、ご注意して欲しいのは戦闘不能となりますと、所持金の半分がその場にばら撒かれ失います。装備品は失いませんが、所持しているアイテムがランダムで同じく半数をその場でばら撒かれます。大事なアイテムは、戦闘不能時にもばら撒かれないマジックバックを入手して、そこに入れるようにするか、預かり所に預けるようにすると良いでしょう」
そして、驚いた事に、『戦闘不能』即ち死んでも『プレイヤー』は『復活の神殿』で復活するらしい。
「すごい世界だな。どんな神が何柱でこの世界の理を創り、管理していると言うのか……」
「魔王さん、この『the Creation』の運営はプレイヤーから『神運営』と呼ばれていますよ」
俺の呟きに反応したソラは、教えてくれた。
「『神運営』か……」
この世界を管理する神に見つかって、強制送還させられても面白くない。極力、『プレイヤー』になりすました方が、この世界で長く旅が出来そうだ。
「目立つのは不味い……か」
「え? 何か言いました魔王さん」
「いや、何でもない」
「そしたら、次は戦闘チュートリアルに移りますが、よろしいでしょうか?」
「あぁ、頼む」
「お願いします! スキル! 魔法!」
俺とソラはチュートリアル男に連れられて、次の部屋へと移動した。
「ほう、空間拡張しているのか」
「その通りです。この空間は、戦闘チュートリアル用の部屋となっております。そこの武器置き場に様々な武器が置いてあります。戦闘訓練用に初期レベルのゴブリンを用意してありますので、ご準備出来た方は、そこのサークルに武器をもって入って下さい」
「どれでもいいのか?」
「はい、お二人とも未だジョブクエストを受けていませんから、現在『無職』の為、どれでも装備が可能です」
「魔法は、この部屋で体験する事は出来るんですか!」
ソラが、異様に魔法に対して興奮しているが、そんなに魔法が好きなのだろうか。
「お二人とも現在『無職』ですので、そのままでも『基礎魔法』のみですが使用する事が出来ます。『基礎魔法』以外は『魔術師』クエストを受けて、『見習い』魔術師にならないと使えませんが、ここはチュートリアルルームですので、基礎魔法以外も可能です」
「やったぁ! 魔法! 魔法!」
ソラは、随分興奮した様子で杖を選び、自分のサークルへと駆け出していった。
「『魔王』様はどうされますか?」
「ふむ……」
俺は、大剣、片手剣、双剣、槍、弓、杖、メイス等などと目を移して行くと、端にただの手袋のような物が置いてあった。
「これは、なんだ?」
「それは、拳闘士のグローブですね。これになさいますか?」
「拳闘士とは、自らの拳で戦うという認識で良いか?」
「はい。拳にこの様なグローブ型の武器を装備し、自らの拳で戦うジョブです」
「そうであるのならば、別にグローブ自体も付けなくても良いと言う事か?」
「左様でございます。ただし、その場合は、武器による攻撃力は上乗せされませんので、純粋にプレイヤー自身の『攻撃力』のみでの相手へのダメージとなります」
正直、武器は自分で創造すれば良いので必要がない。取り敢えず、今確認したいのはこの世界の戦う事になる相手に自分の力が通じるかどうかだ。
「それなら、一度何もつけずに戦闘訓練を受けてみたいが、可能か?」
「えぇ、大丈夫です。時折、その様なプレイヤーの方もいらっしゃいますので」
「えぇ!? 魔王さん、何も使わずに素手ですか! 折角色々あるんですから、使えばいいのに!」
ソラが、信じられないという顔を向けてくるが、自分の力を試してみたいと言うと不思議そうな顔をしたが、取り敢えず自分の事に集中する事にしたみたいだった。
「それではお二人とも、ご準備はいいですね?」
「あぁ」
「はい!」
「それでは、戦闘チュートリアルスタート致します」
チュートリアル男が、何やら空中で指を動かしていると、前方に醜い小男が一匹現れた。
「ファンタジー定番のゴブリンだね! くぅ! ファンタジー来たって感じ! いっくぞぉ!」
ソラは、自分のサークルの中に現れた醜い小男に向かって、魔法を放った。
「行くよぉ!『ファイアボール』!」
ソラが、杖をゴブリンにむけて『ファイアボール』と唱えると、ゴブリンに向かって火の玉が飛んでいった。そして、ゴブリンに当たるとゴブリンは光の粒子になって消えていった。
「うわ! 火の玉が飛んでった! やったぁ! 魔法使っちゃった!」
サラは興奮していたが、俺はゴブリンが光の粒子になって消えていった現象に驚いていた。
「どうなっているんだ? 肉体が、消滅した?」
「魔王さんも、ほら! ゴブリンが待っているよ!」
ソラが興奮冷めやらぬ中に、俺のサークルにいるゴブリンを指差していた。
「あぁ、それじゃ試してみるか」
俺は、スタスタとゴブリンに向かって歩いていった。すると、目の前までくると、ゴブリンは持っていた棍棒で殴りかかってきた。
「魔王さん危ない!」
ソラが心配してくれているが、特に問題なく片手でその棍棒を掴み取り、もう一方の手でゴブリンを殴ってみた。すると、ゴブリンは簡単に爆ぜた。
「え?」
「問題なさそうだな」
「お二人共、無事にゴブリンを討伐出来ましたね。お見事です。それでは、倒したゴブリンがいた所を見てください。この世界の通貨であるGコインが、落ちている筈です。それに触れてみてください」
落ちていた金貨に触れると、一瞬にして消えて無くなった。
「む、消えてしまったが?」
「今触れて消えたGコインですが、メニューを表示してみると、画面の右上に新たに10Gとなっている筈です」
確かに、画面右上に10Gと映し出されている。これがこの世界の通貨の仕組みらしい。
「だが何故、モンスターを倒すと通貨が手に入るのだ?」
「魔王さん、そこは深く考えちゃダメな所だよ! そういう世界だと思わないとだよ!」
「そうか、ここはそういう世界なのだな」
俺が納得していると、チュートリアル男は更に説明を続けた。
「通貨はモンスターを倒しても手に入りますが、他にもクエスト報酬やアイテムや武器防具等の売却でも手に入れることが出来ます。そして、PKでも手に入ります」
「PKとは、何なのだ?」
「PKとは、プレイヤーがプレイヤーを戦闘不能にする行為の事です。この世界では、プレイヤー同士の戦闘行為は禁止されておりません」
「そうか……人同士で殺し合う事が禁止されていない世界なのか……」
俺が、この世界の厳しさを知り考え混んでいると、またソラが説明してくれた。
「それも、深く考え込まない方がいいよ魔王さん。別に可能であるってだけで、みんながみんなPKをする訳じゃないから」
ソラは、顔を顰めながら俺にそう話した。
「そうか、わかった。くれぐれも気をつけよう」
「それでは最後にスキルに関してご説明します。スキルにはジョブスキルとユニークスキルとがあります。ジョブスキルはジョブレベルを上げる事で、取得できるスキルであり誰でも取得出来ます。ただ、ユニークスキルは別名イベントスキルとも言われ、この世界で起きる様々なイベントクエストをクリアした際に、稀に取得できるスキルであり、スキル取得イベントをクリアした方のみ取得が可能となっております」
「ユニークスキルとか、ゲットしてみたいよねぇ!」
「そんな事で、スキルが手に入るとは中々面白い世界だなここは」
「これにて、チュートリアルクエストを完了しました。報酬は1000Gと、回復薬五個になります。この時点でお二人は、入手された状態となっております。それでは、良い旅を」
そして、俺とソラはチュートリアルクエストを終えて、建屋を後にしたのだった。
「魔王さんどうです? このゲームの事、分かりました?」
「あぁ、大分理解が進んだな。あとは、細かい所はこの世界で過ごすうちに分かってくるだろう」
これからこの世界で、過ごせば分からない言葉も少なくなって行くだろう。
「そうですね! でも、結構なんだかんだで、時間かかっちゃいましたねぇ」
「そうだな。そういえば確認なんだが、この世界は『ゲーム』だと言っていたな?」
「はい? そうですけど? まぁ、言い方なだけですけどね」
ソラはこの世界は『ゲーム』だと、俺に説明してくれた。
「どういう事だ?」
「どうしたんですか? そんな難しい顔をして」
ソラが不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「いや、何でもない」
俺は、先ずこの世界の事をもっとよく知る必要があるだろう。