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憎悪

「サンゴからか。今のこの瞬間にメールが来るとは、この状況を知ってか知らずかのどっちだろうな」


 俺が、沼の地下に封印されているバーサーカークイーンホーネットの詳細を調査している時に、神運営の眷属であるサンゴがフレンドメールを使って接触してきたのだ。特に不都合もない為、一緒に行動する事を了承する旨と今の居場所を伝えメールを返した。すぐさまサンゴから返信が届き、こちらへ向かうとの事だった。


「巡回馬車であれば、数十分は今からかかるだろう。それ迄に、あの老人達を落ち着かせないとな」


 俺は、満面の笑みを浮かべながら縦横無尽に駆け回る老人達に、目をやった。




「笹本先輩、『魔王様』から返信が来ました。特に疑われる事もなく、同行の了承と現在地を知らせて来ました」


「『そうか、引き続き警戒しておけよ。こちらが運営だとバレて雲隠れでもされたらかなわんからな。それで、魔王様は何処にいるんだ?』」


ここ(始まりの街)の北にあるキタレ村近辺の沼に、今は居るらしいです」


 私は『魔王様』から送られてきたメールを見ながら、笹本先輩へと居場所の情報を伝えた。


「『キタレ村の近く沼か、ちょっと待ってろ』」


 笹本先輩は、一旦通話を着ると数分後に再び運営専用回線で着信があった。


「『第二フィールド二番エリアの事だな。特別なエリアではない筈だが、何をしているんだ?』」


「その辺の理由も含めて、探ってみます」


「『俺の方は、もう少しそのエリアについて過去のプロジェクトも検索してみる』」


 そして、私は巡回馬車に乗り込み『魔王様』が待つ沼へと向かったのだった。




「落ち着いたか?」


「いやはや、お恥ずかしい所をお見せいたしました」


 サンゴがこちらへ向かってくる事を受けて、村民の老人達に声をかけ落ち着いて貰った。そして代表としてギョクサにこちらへ向かってくる者がいる事を伝えた。


「その者は、理の改変を行う神の眷属だと仰るのですか?」


「恐らくだがな。そこでだ、モンスターが再構築されない状況を見られ、此処が注目されるのも面白くない。此処に来る者が去るまで、一度魔力収束点をこれまで通り一旦解除する。既に一度全ての箇所に術式は埋め込んであるから、再度モンスターの再構築を阻害するのは一瞬で出来るから案ずるな」


「そんな事が……貴方は一体……いや、貴方が何方であろうと関係ない事でしたな。恐らく我らが戦う術を思い出したのも、神にとっては何やら都合が悪そうですしな。その神の眷属と接触せずに済むように、一旦我らは村へと戻りましょう」


 ギョクサは、そう応えると他の老人達に事情を説明し全員がこれからの事を理解すると、村へと向かって歩き出した。


「一先ず我らは、去って行った村人へと至急連絡を取り現状を伝えようと思っとります。要らぬ心配だとは思いますが、魔王様もお気をつけて」


「あぁ、気を引き締めておこう」


 そして、ギョクサも村へと向かって歩いていった。そして、その数十分後にサンゴが沼へと姿を現したのだった。




 相変わらずサンゴの見た目(・・・)は、始まりの街(スターテイン)付近の初心者冒険者(プレイヤー)と変わらぬが、こちらへ向かってくる所作は一切の隙が見られない。恐らく俺を欺く為に見た目を偽っているのだろうが、動きが洗礼されすぎており分かりやすい程の偽装は寧ろ微笑ましく思え、その不器用さに思わず顔が綻んだ。


「何? 私の顔が可笑しかったのかしら?」


「いや、済まんな。少し思い出し笑いをしただけだ」


「思い出し笑い?」


「気にしなくていい。それで一緒に何か遊びたいと言っていたが、何をするんだ?」


 サンゴは少し俺を探るような目で見ていたが、そんなあからさまに疑うような目を相手に向けたら、すぐさま疑っている事がバレるぞと内心で思い、再び吹き出しそうになった。そこで話題を俺の所へ来た事へと変えたのだ。


「そうね、特に私も目的がある訳じゃ無いんだけど、知り合いが貴方しかログインしてなくて、それで声をかけただけなの。寧ろ貴方のやってる事に付き合おうかなって」


「暇つぶしって所か?」


「そんな所ね。気を悪くしちゃったかしら?」


「いや、全くそんな事はない。俺自体も特に目的がある訳じゃないからな。強いて言えば、この世界を知りたいと言う事だな」


 サンゴは、俺の答えに少し困惑した表情を見せた。俺がこの世界へと転移してきた理由を探りたいのだろうが、『the Creation』へ来た理由としては『偶然』以外の何物でもない筈だ。『異世界間転移魔法陣』の術式には、転移目標として『人型生命の居る異世界』とだけしか条件設定していないのだから。


「魔王らしく、この世界を破壊したいとか滅茶苦茶にしたいとかではないの?」


魔王()らしく? 何で魔王()が、そんな事をしなくちゃならんのだ?」


「え? 『魔王』ってそう言うものでしょう? 世界に混乱をきたす者よ、魔王と言うのは。そして、最後には『神が選びし勇者』に滅ぼされる運命にある」


 サンゴは、何故かあからさまにイラついてきている様に見えた。俺はその理由が分からないままに、会話を続けた。


「『神が選びし勇者』に、滅ぼされる運命にある者か。それは、避けたいものだな。それに『世界に混乱を来す者』とは中々大袈裟だろう。一人の存在が、世界に与える与える影響など知れたものだ。もしその者の行動により世界が変わると言うのであれば、それは元々歪な世界だったか、世界がそれを望んでいるという事だろう」


「歪?……世界が望む? 何を言って……」


 サンゴは言葉の途中で急に口を閉じた。その仕草はまるで、誰か(・・)から何かしらの言葉を聞いている様だった。相手にその様子がバレている時点で、もう少しその辺りの鍛錬が必要だろうと心の中で苦笑しながら、俺は目線をサンゴから切り足元の沼地へと移した。


 恐らく神運営が施したであろう封印術は、対象の時間を停止させる程の者ではない為にバーサーカークイーンホーネットの憎悪が結界内で膨れ上がっている。サンゴと別れた後にでも俺が新たに対象の時間停止を含めた封印術へと切り替えた方が賢明だろう。今の状態では、余りにも危うい。


 俺が頭の中で封印の術式を構築していると、サンゴが話しかけてきた。


「ごめんなさい、話の途中でだまっちゃって。ちょっと急に思い出したことがあって」


「別に構わない。それで何か、急用でも出来たのか?」


 俺は思わず苦笑しながら、サンゴの会話に合わせる。


「いいえ、特に問題なかったわ。それで魔王様も暇なら、私のレベル上げに付き合ってもらえる?」


「それは別に構わないが、何処でするんだ? 此処でか?」


「いえ、もう少しレベル上げに効率が良い所を知っているから案内するわ」


 サンゴは微笑み、自分に付いてきてと言わんばかりに巡回馬車の停車場へと向かって歩き出した。巡回馬車の停車場へは一度キタレ村内を通る為、サンゴに少し待っててもらいギョクサの家を訪ねた。




「今から二人で此処を離れる事になった。俺たちが離れたところで、遠隔から俺が再び魔力収束点を封印しておこう。そのあとは、漁をしても大丈夫だろう」


「魔王様その事ですが、クレイジーホーネット以外のモンスターはこれまで通り発生する状態で結構です。ただ、クレイジーホーネットは沼の一部分に出現させる様にするのは可能でしょうか?」


「可能だが良いのか?」


 ギョクサは、俺の言葉に不敵に笑う。


「えぇ、魔力操作を思い出した今、我々は戦えます。寧ろ戦わなけれなりませんし、先ずはその力がどの程度通用するのか確認が必要です。恐らく沼地のモンスターであれば、クレイジーホーネット以外は問題にならないでしょう。クレイジーホーネットも一度戦ってみて倒せそうであれば、その一帯を修行場として残して置こうかと」


「成る程な。それは可能だ、ちょっと待っていろ」


 俺は、沼地の魔力収束点に設置した術式を意識し、クレイジーホーネット以外のモンスターに関してはそのままに、クレイジーホーネットは沼の一部分を残して再び封印した。


「既に希望通りになっている筈だ。先ほど怪しまれない程度に解除した分のクレイジーホーネットが、多少彷徨いているが、それを排除したら一区域残してはもう再構築はされないだろう。先ほどの動きを見ると、クレイジーホーネットに囲まれたりしなければ大丈夫だろうが、無理はするなよ」


「えぇ、ありがとうございます」


 そして、俺はギョクサと別れ再びサンゴと合流し巡回馬車へと向かった。




「NPCに、何か用でもあったの?」


「サンゴが来る前に、沼のクレイジーホーネットの駆除クエストをこなしていてな。その終了の報告だな」


 既にクエストは終了しているが、先程の会話を教えるわけにはいかない為、ソラと完了したクエストを利用させて貰った。


「依頼主が存在するって事は、NPCクエストって事ね……」


「どうした?」


「いえ、何でないわ。巡回馬車が丁度来たみたいね、行きましょう」


 そして、俺とサンゴの二人は巡回馬車に乗り込み、その地を離れた。地中のバーサーカークイーンホーネットの事は気になりながらも、特に其処までいきなり封印術が破壊される事は無いだろうと思い、大した心配はしていなかった。しかし、『生きている者』の憎悪というものが、どれ程の力を生み出すかという事を俺は甘く見ていた。




「一度、スターテインで下車してから、別の巡回馬車に乗り継ぐわね」


「わかった。楽しみだな」


 俺は、本心からそう答えた。


 知らない場所へと誰かと向かう。


 ただそれだけの事だが、何故か心が躍る様だった。




「スターテインに着いたわ。それじゃ、次はあっちの馬車ね。ん? どうしたの? そんな怖い顔して」


 スターテインに停車した馬車から降りた所で、俺は強大な気を感じ沼地の方角へと意識を集中させた。


「何故だ……気が上昇を止めないだと? このままでは、持たんぞ」


「何が持たない……え? 魔力の異常上昇!? でも、目の前に……」


 サンゴが何やら叫んだ瞬間に、俺は動き出していた。


 底知れぬ憎悪が渦巻き始めた沼地へと、サンゴを置き去りにして俺は駆け出した。

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