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状況証拠

「さぁ、魔王様! どういう事か説明してください!」


「説明と言われてもな、言った通りの事だけなんだが」


 俺は、何故か街の中心広場に置いてある椅子に座らされ、ソラから詰問されていた。


「言った通りって……魔王様の話をそのまんま信じると『偶々森でNPCの少女を助け、その少女の村が困っていたから、キングバジリスクの巣があった岩山をドォンと吹き飛ばした』って事ですよね?」


「まさに、その通りだな。ドォンと吹き飛ばした」


「……な訳……ないでしょうがぁあああ!」


「あんまり大声出すと、目立つぞ?」


「は!? ごほん……まぁ、魔王様も男の子なのでしょうし、ちょっと誇張したぐらいの表現をしたって事ですよね? 魔王プレイですし、そういう(設定)にしておいてあげます」


「ありがとう……なのか?」


「です! でも、いいなぁ。そんなイベントクエスト、私も受けてみたいなぁ。それで、そのイベントクエストの報酬は『お酒』だったんですか?」


「あぁ、宴会が終わった後に村から去るときに、酒をしこたま持たされたな」


「ユニークスキルの取得じゃなかったのは残念ですが、報酬がお酒とかって、もし未成年がクリアしていたら報酬も変わったんでしょうかね?」


 ソラは何やら不思議そうな顔をしていたが、すこし考えた後に取り敢えず棚上げにしたらしい。


「ところで、そのキングバジリスクの右牙はどうするんですか?」


「そうだな、特に必要な訳ではないが、どうするかな」


 俺は特にこの世界において、何かの装備が欲しいという事はない。その為、金が必要ということもなかった。


「取り敢えず、採集クエストを確認して、キングバジリスクの右牙の採集クエストがあれば、クリアしちゃうってのも良いですね。なければ売っちゃうか、預かり所でも良いと思いますよ」


「なるほどな。そうであれば、先ずはクエスト案内所に行くとするか」


「はい、私も何かイベントみたいなクエスト受けてみたいです!」


 そして、俺とソラはクエスト案内所へと向かったのだった。




「『キングバジリスクの右牙』が、十三本ですね。キングバジリスクの右牙は討伐証明としても使えますので、討伐及び採取クエストクリアとして提出致しますか?」


「あぁ、それでいい。十三本もあるが、全て討伐と採取クエストで使えるのか?」


 俺はクエスト案内所のクエスト報告の列に並び、自分の順番が来ると手に入れた十三本のキングバジリスクの右牙を受付に差し出した。受付の女性は、手元の画面を操作しながら達成可能なクエストを一覧として俺に見せるようにしてくれた。


「ん? 同じクエスト名なのに、随分報酬額が違うが?」


「クエストは、冒険者やNPCから依頼が出される場合は、依頼主が報酬を決めていますので、そうしたバラツキが生じます。報酬もGコインだったり素材や武具だったりと様々となります」


「それにしても、報酬額の桁が明らかに低いのがあるが、同じ難易度ならコレを受ける冒険者はいるのか?」


 クエストの中には、明らかに報酬額が周りと比べて低いものがいくつも混じって見られていた。


「あぁ、これは『誰も受けない』クエストですね。大体の場合は、難易度に対して報酬額が余りにも低い為に、冒険者で受ける方は稀ですね」


アレ(・・)か……ふむ、なら報酬額が低い(・・)順から依頼を受けてくれ」


「え? 魔王様、高い順じゃなくてですか? 折角同じクエストなら高い報酬くれるクエストから受けた方が良くないですか?」


 俺の横で黙って話を聞いていたソラが、思わず口に出してしまったという感じに声を出していた。


「『魔王』様、お連れの方の仰る通りですよ。『限定』クエストは、報酬額が高いものが多い上にGコイン以外にも報酬を用意している場合も多いです」


 受付の女性も、ソラと同じく高い報酬を貰えるクエストを薦めてきたが、俺は考えを変えるつもりはなく、底報酬順からクエストを受けた。


「達成報酬は、メニューから御確認ください。ありがとうございました」


 持っていた全てのキングバジリスクの右牙を『誰も受けないクエスト』の達成として引き渡した。それらクエストと俺が持っていたキングバジリスクの右牙の本数が一緒だった為、丁度良く達成出来て良かった。


 


「本当に良かったんですか、魔王様。明らかに全部報酬が低かったですけど」


 俺とソラは、一先ず俺のキングバジリスクの右牙関連クエストの報酬を全て受け取ると受付から離れ、クエスト案内所に設置されている椅子に座って話をしていた。


「俺は別に金も素材も必要とはしていないしな。そうであるのであれば、『誰も受けないクエスト』を俺が受けたら丁度良いだろう」


「弱きを助け的な感じの、良い魔王様設定ですかね? それなら、バンバン『誰も受けないクエスト』をクリアしちゃったら良いんじゃないですかね! 何かそういうのカッコ良いです!」


 ソラが目をキラキラさせながら、俺を見てくるので思わず笑ってしまった。


「ソラは、本当に楽しそうにしているな」


「勿論ですとも! 楽しいですからね!」


 そして、俺とソラはこれからレベル上げをする狩場に近い場所の『誰も受けないクエスト』を検索し、それを受領してから街を出たのだった。




「まだやってるのか? そろそろ帰ったらどうだ」


 私が明日の月報会で使う資料と上長に提出する魔王様関連の報告書を作成していると、笹本先輩がコーヒーを片手に持ちながら机のすぐ横に来ていた。


「初めての報告会ですし……笹本先輩は、まだ帰らないんですか?」


「ふふ、笹本君はいつも帰るの最後らしいから」


 私が、笹本先輩にそう問いかけると、丁度帰る準備を終えた久留間さんが微笑みながら、私に教えてくれた。


「別に帰っても、家には誰もいませんしね。その上に仕事は、どんどん降ってきますし」


「またまたぁ、自分で仕事見つけて取って来てるだけでしょうに。上井さんのOJT担当は笹本君だったわよね。ダメよ? こんな風になっちゃ、社畜よ社畜。笹本君も結婚したら、早く家に帰るようになるかもね」


「はぁ……社畜……」


「余計な御世話ですよ、全く」


 そして、久留間さんは笑いながら「お疲れ様」と言いながら帰って行った。


「余計な事を久留間さんが言っていたが、俺が大体最後になるのは本当だ。だから、その資料の仕上げが出来たら、メールで添付して俺に送っておけよ。OJT担当として、チェックしておくから」


「はい、ありがとうございます。もう少しで仕上がるので、送らせてもらいます」


「会議は明日の午後一だからな。明日の午前中もまだ時間あるから、そんなにいきなりこん詰めるなよ? 本当に、今からそんなんだと社畜になるつもりかと言われるぞ」


 笹本先輩は苦笑しながら、自分の席へと戻っていった。


「張り切り過ぎ……かな?」


 私は、冷めたコーヒーを口に含み、目の前のディスプレイに写っている上長向けの『魔王様』に関する報告書をジッと見つめていた。既に、明日の報告会に使う方の報告書としては、殆ど出来ていた。しかし、今後の検討についての項目を迷っていた。




 私がログアウトして運営本部に戻り、笹本先輩との『魔王様』についての打ち合わせをした結果、笹本先輩からもたらされた情報は、彼が不正プレイヤーである可能性が高い事を示していた。


 私が『魔王様』とフレンド登録した際に、知り得た『魔王様』のユーザーIDを笹本先輩がすぐ様、運営本部の主査権限にてプレイヤー情報を検索した。登録されているプレイヤー情報自体は個人情報である為、運営本部の人間であろうとも知ろうとするには、運営本部長並びに関係各所の承認が必要となる。


 但し、運営本部の主査以上の役職については、プレイヤーのアバター情報は閲覧出来る権限を持っている。その為、笹本先輩は『魔王様』のアバター情報を検索し見ようとした(・・)


 プレイヤーIDデータには、アバターネームが『魔王』である事と、ジョブは『無職』である事は表記されていたが、装備品、ステータス数値は、『参照不可』文字が表示され、運営権限を持ってしても参照することが出来なかったらしい。通常そんな事はあり得ない事で、笹本先輩も驚きを隠せなかった。


 作成した報告書を見ながら改めて『魔王様』の存在を考える。


 破壊された構造物の近くの村にいたプレイヤーであり、あの辺りでは破壊された岩山にしか生息していないキングバジリスクを大量に討伐していた事。


 一般プレイヤーでは不可能な筈の、『参照不可』をアバターデータに施している事。


「そして、不正ログインがあった日に、初ログインか……」


 状況的には、今の所『魔王様』以上に不正ログインを疑われるプレイヤーは見つかっていない。今回の報告で笹本先輩は限りなく不正ログインプレイヤーの可能性が高いとして、黒羽本部長に、『魔王様』の登録情報の開示を承認してもらうつもりだ。


 私は魔王様の報告書の最後に検討課題として『決定的な不正の痕跡が無い』事を挙げ、『行動特別監視対象』としての登録を提案する旨を明記した。最後に誤字脱字等を確認するとメールで笹本先輩へと送付した。


「後は俺が見ておくから、上井はもういい加減帰れ」


「わかりました。よろしくお願いします。すみませんが、お先に失礼します。お疲れ様でした」


「お疲れさん」


 パソコン画面を見ながら、笹本先輩は片手を上げていた。そして、私は軽く頭を下げると運営本部から帰路に着いたのだった。




「お嬢ちゃん、冒険者なのに泣いてくれるのかい?」


 ソラは、老人NPCの話を聞きながら涙を流していた。


「誰も来なくなった狩場……か」


 俺は、神運営とやらが管理するこの世界に、静かに怒りを覚えるのだった。


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