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その手は

「魔王様よ! 呑んでるか!」


「あぁ、さっきから周りが注いでくるからな。それにしても、大騒ぎだな」




 イダイ村長代理が俺から『キングバジリスクの左牙』を受け取り、石化を免れた村民達が手分けして村民の石化を解いていった。どうやらキングバジリスクの左牙を石化部分に突き刺す事で、石化は解除されるらしい。


 シリルの話していた通り、完全に石化していた者も石化を解除されると生きていた。身体的には石化中は恐らく仮死状態と言えるような状態なのか、飲まず食わずでも死なないらしい。更に石化中は精神は狂わないと言えどもやはり消耗は激しく、石化から解除されて暫くは放心するらしい。しかし、個人の差はあれどそれでも村民全員が意識を正常へと取り戻した。


 全員が助かったという報告を聞いた時に、不思議に思いシリルに尋ねた。


「全員というのは、石化していた村民という事か?」


「キングバジリスクに襲われた全員がという事ですよ、本当に良かったです……」


「お母さん……」


 シリルは、アリンを抱き寄せ涙を流していた。シリルが落ち着いてから、話を聞いてみるとキングバジリスクは襲った相手を石化するが『殺しもしないし、NPCを食べたりもしない』と言う。


「キングバジリスクはそう言う(・・・・)モンスターですが、草原にいるゴブリンやスライムと言ったモンスターはNPCも襲われると殺されたりもします。何れにしてもどのモンスターもNPCや冒険者を食べるという事は聞いた事はありません。そもそも、NPCも冒険者も死ねばすぐに光の粒となり消えて行きますから、食べる暇なんてありませんよ」


 シリルは苦笑しながら、俺にそう説明してくれた。


 食べる為に襲うわけでもなく、敵と認識するNPCと冒険者に半ば自動的に襲いかかるモンスター達は、鑑定しても只の魔力の塊と言っていい存在だった。そして、一定時間が経つと決まった場所から再出現する。


「一体、この世界を管理する神運営というは、何をしたいのだ」




「どうしたのですかな? 振る舞いの酒はお口に合いませなんだか?」


「いや、十分旨い。村長こそ、むしろ飲み過ぎないように気をつけたほうがいい。既に顔が真っ赤だぞ」


 俺がシリルとの会話を思い出していた所に、完全石化から復活したハスレ村の村長が話しかけてきたため、一旦考えを止めた。


「ふふふ、何を仰るのじゃ。酒を飲んだら、呑まれるまで飲まなくてはなりませんぞ!」


 村長は、大声で叫ぶや否や木箱で作った台の上に上がり、酒瓶を直接口につけて一気飲みをしていた。


「あの爺さんは、全く。イダイに止めさせ……あぁ、あっちもか……シリルに止め……はぁ、どんだけ酒好きな村だ、ここは……」


 シリルも、女性陣が集まった場所で酒瓶を一気飲みしていた。流石に倒れる前に止めさせるかと考えていると、村民ではない者の気配を感じそちらを見ると、黒髪の女冒険者が俺を見ていた。


 その者から俺に向けられる表情は、何故か酷く困惑している様に感じられた。




「笹本先輩……今、大丈夫ですか?」


 私は、冷静でいようと思いながらも、きっと動揺していたのだろう。笹本先輩に直ぐにでも確認したい事があり、今の自分の業務を完全に忘れるほどに混乱していた。


「『大丈夫だ。丁度こっちも動きがあってな、今連絡を入れようとしていたところだ』」


「笹本先輩は、あいつの着ていたスーツを覚えていますか?」


「『は? 覚えているが、雑談は休憩時間にしろよ。通話は全部記録されるんだからな?』」


「あのスーツって、装備で実装されてました?」


「『全く聞く耳持たんな、お前……はぁ、あいつのスーツは確か親父さんが就職祝いにオーダーメイドで作ったやつだろ。新入社員がそんな立派なもの着れるかって、あいつは呆れてたがな。そういう話は、仕事終わりにでも聞いてやるから、仕事しろ仕事を』」


 笹本先輩は、声だけでも分かるほどに呆れた声をあげていた。それでも、私は確認せずにはいられなかったのだ。


「笹本先輩!……答えてください。あのスーツは『the Creation Online』の世界で着る事ができますか?」


「『一体どうしたんだ、さっきも言った通りアレはオーダーメイドのスーツだ。そんなものわざわざ実装するわけないだろ。いい加減、怒るぞ』」


「じゃあ……アレはなんでしょうか?」


 私は、あの男を写真に撮り笹本先輩宛にメールで送った。


「『……どういうことだ……アレは……誰だ?』」


「周りのNPCから『魔王様』と呼ばれています」


「『アレが……"魔王様"だと?……実は、さっきシステムに上がっていたNPCクエストを調べていたら、さっきのNPCクエストが『受領』になった後に、直ぐ様『完了』に切り替わった』」


 笹本先輩は、私が送った画像メールを見たのだろう。笹本先輩の声は、明らかに動揺した様子だった。しかし、次の瞬間には無理やり感情を押し殺した声で、調査結果を私と共有化するために説明を述べた。


「正直……今の私の頭は混乱しています。あいつに似た顔のアバターを使って、『the Creation Online』には実装されていないはずの、あいつのスーツを着たプレイヤーが目の前に現れるなんて想定は……とっくの昔にし尽くして、そんな可能性すら諦めていたのに」


「『そうだろうな……何にせよ、先ずはコンタクトを取らなきゃ何も始まらない。あの『魔王様』は何者なのか。不正ログインプレイヤーなのか、今回の構造物破壊の犯人なのか……そして、あいつと何かしらの関係があるのか……だ。先ずは、こちらが運営の人間だとバレるなよ。兎に角、今は仕事だと思い込め(・・・・)』」


「……はい。やってみます」


 そして、私は動揺を心の奥に隠し、『魔王様』向かって歩き出した。




「この村に立ち寄った者だけど、一体何の騒ぎ?」


 村人の輪の外から俺を見ていた黒髪の女冒険者が、俺の方へと歩いてきて話かけてきた。


「これはだな……」


 俺が、その女冒険者に説明しようとした瞬間、酔っ払い達が完全にその役割を奪い取っていった。


「あんた、冒険者成り立てだな! この人は、すっごい冒険者だから見習うといいぞ!」


「「「そうだ! そうだぁああ!」」」


 良い感じに出来上がっている酔っ払いどもが、珍しく村に訪れた冒険者という事で張り切って俺の事を説明していた。アリンを助けるところから、村にキングバジリスクの左牙を持ち帰る所まで話を壮大に盛りながらだったが、その黒髪の女冒険者は真剣にそれらの話を聞いていた。


「酔っ払いの話に付き合うと、終わりがないぞ」


「うぅん、とても楽しいわ。そう言えば、自己紹介が未だったわね、私はつい最近『the Creation Online』を始めたサンゴという初心者よ。この辺りを彷徨いていたら楽しげな声が聞こえてきから、立ち寄ったという感じね」


 俺は、初心者という割には全く先ほどから隙がない立ち姿を見て、サンゴに鑑定をかけた。


「ほう、なるほどな」


「何かしら?」


「いや、それで理由も分かったし、村を出ていくのか?」


 俺は、鑑定の結果で知り得た事を表情に出さないようにしながら、サンゴに今からの事を尋ねた。


「どうした?」


「……いえ? 何でもないわ。そうね、特にこの場所に用があった訳じゃないし。これも何かの縁だし、私とフレンド登録しない?」


「俺も、この世界に来たばかりの者だが、それでもいいか?」


「えぇ、構わないわ」


 サンゴからのフレンド申請が届き、メニューで承認を選択した。


「え!?」


「ん? ちゃんと承認出来なかったか?」


「……大丈夫よ。ちゃんと出来ているわ、ありがとう。ねぇ、あなたはこれからどうするの?」


 サンゴは明らかに動揺しているように見えたが、敢えてそこには触れないように今からの予定を答える。


「宴会の主役が抜ける訳にはいかないからな。それに、特に目的がある訳じゃないし、もう暫くはこの村にいるだろうな」


「そう……また会ってもらえるかしら?」


「その為に、フレンド登録したのだろう?」


 俺がそう答えると、サンゴは一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には微笑んでいた。


「えぇ、そうね。それじゃ、私は一度ログアウトするわ。また今度一緒に遊びましょう」


「あぁ、またな」


「またね、『魔王様』」


 そして、サンゴはログアウトし身体が消えていった。


「偽装か……神運営の眷属と言った所だろうな」


 サンゴを鑑定した時に、名前が三つ確認出来たが、これは他の冒険者やNPCでは見られなかった現象だった。そして、レベルや職業や装備が全て二つ確認する事が出来た。一方は、先ほどの見た装備だったが、もう一方は明らかに物々しい名前が付いていた。おそらく、物腰から察するに相当な実力者だったのだろう。


 そして、俺に探りを入れる様子を隠しながらも、彼方も俺に『鑑定』に似た何かを仕掛けてきた。当然、俺の情報が漏れないように防いだが、同時にこちらからも侵入者に対して侵食を仕掛けた。どうやら一瞬だけの接触を試みただけだったらしく、すぐに接続が切れてしまったが、欲しかった情報は得ることが出来た。


「『運営本部』という場所からの侵入という事は、俺の存在が知られたという事で間違いないだろう。どうするか……一万年をかけ、やっと世界の壁を越えることが出来たのだから、まだ帰りたくはないのだが」


 それに、この世界の理に対しても正直不信感を持っていた。



『生きる者』


『創られる者』


『死なない者』



 何の目的で、このような世界を神は創り出したのか。


 他の世界の者が口を挟む事では無いと理解しながらも、俺の心は納得する事を拒んだ。


 この世界から離れてはならないと、俺の魂が叫んでいる様だった。



「『宇海うみ』か……」



 彼女がログアウトして身体が消えて行く時に


 思わず彼女の手を取りそうになった


 理由は分からない


 ただ心がそうさせようとしたのだ



 

 二人の邂逅は、この世界に何をもたらすのか


 『神運営』と『魔王様』である二人は、何を想うのか



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