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現場調査

「笹本先輩、ログインしました。聞こえてますか?」


「『あぁ、よく聞こえている。先ずは、現場となった第三フィールド六番エリアに向かってくれ。俺は、別件の仕事をしているから、到着するまでは特にこちらに話しかけなくて良い。ただし、わかっていると思うが社会人の基本は忘れるなよ?』」


「報連相ですよね?」


「『あぁ、運営として会社からログインするのは初めてだろ。会話の記録(ログ)は全て管理されているからな。それと、報連相は大事だが何でもかんでもこっちに聞いてくるなよ? 緊急性がなく、気になったことはボイスメモに記録(ログ)を残しておけば良い。あとで、報告書を作る時に役立つからな』」


「はい、分かりました。それでは一度通信を切って、現場に向かいます」


「『あぁ、わかった』」


 笹本先輩との通信を切り、私は『始まりの街スターテイン』の中央広場にある噴水の前から歩き出した。会社から『the Creation Online』へとログインする際は、一般プレイヤーとは異なり、ログイン地点登録がある街や村であれば何処にでも降り立つことが出来る。その為、第三フィールド六番エリアに最も近いログイン地点に降り立ったのだが、それはゲームを始めた初心者が最もログインする街だったのだ。


「そこの、キレイなお姉さぁん。始めたばっかり何でしょ? 色々教えてあげるよぉ?」


 運が悪いと、こう言う輩に絡まれることもある。中には本当に親切心から声をかけてくれるプレイヤーもいるが、実際はそんな良い人が少ないのが現状だ。


「ありがとう、でも大丈夫。ツレが街の外で待ってるから」


 ナンパして来たプレイヤー()を軽くあしらいながら、再び歩き出した私は街の外へと出た。正直、『始まりの街スターテイン』には随分前から来ていなかった。入社前は、もっとハイレベルなフィールドでプレイしていたのと、初心者エリアに近づけば近づくほど、さっきみたいあの輩が増えるのが面倒だったからだ。


「はぁ、久しぶりで忘れてたわ。面倒がらずに髪型や髪の色だけでなく、顔や性別も思いっきり変えておけばよかったわね」


 軽く溜息を吐きながら、メニューで地図を確認する。運営特殊設定により地図も閲覧権限のある場所ならば、基本的に行ったことがない場所でも既に表示されている。地図で現場の近くに『ハスレ村』と表記が出ているのを確認し、現場を確認した後にでも寄ってみようと思いながら、私は足早に現場へと向かった。




「これだけあれば、大丈夫だろうな」


 俺は、岩山があった(・・・)場所でキングバジリスクのドロップ品である『キングバジリスクの左牙』と『キングバジリスクの右牙』を全て拾い集め、マジックバックの中へと回収していた。


「ちょっと派手にやりすぎたか? 神運営とやらも、コレは流石に勘づくだろうな」


 命を持たない作り物が、懸命に生きている者を苦しめていることに腹が立ち、石化解除の為の『キングバジリスクの左牙』を得るついでに、そもそもの巣となっている岩山を破壊したのだ。


「この世界を管理する神運営とやらが、どれ程の力を持っているか分からんが、簡単には再生できない様にはしておくか」


 岩山があった場所の中心部になっていた場所へと足を運び、膝を折り屈むと右手で地面に触れた。


「『領域指定』『キングバジリスクの岩山跡地』『魔力収束制限』『制限解除条件』『発動者による許可のみ』『術式隠蔽』」


 この世界のモンスター達は、この世界の空気中に存在する濃い魔力が収束し、核となる魔結晶を創り出され、それが動力源となり身体を構成し動いていた。そして、レベル上げの際に周囲を観察してると、幾つかの場所で一定時間毎にその現象が起きている事に気付いていたのだ。


「これで、この場所では魔力収束は起きないだろう。念の為に、術式は隠蔽しておいたから知られる事は無いはずだがな」


 一時の対処にしかならないかもしれないが、何もしないよりはマシだろうと考え、再びこの地にキングバジリスクが発生しない様に細工を施した後、ハスレ村へと俺は移動を始めた。




「この辺りの筈ね……これは……酷いわね」


 私は、地図(マップ)で表示されている座標のポイントへと辿り着き、キングバジリスクの岩山があったという跡地を見ていた。再度、地図に表示された座標と問題の起きた現場の座標情報を確認し、岩山の残骸が残るこの場所が目的地だと確信した。


 笹本先輩に現場に到着した事を伝える前に、先ずは現場を自分で調べることとした。


「おかしいわね……何もいない」


 岩山の残骸が広がるこの場所に、何もない事に違和感を感じながらも周辺を調査した。




「笹本先輩、第三フィールド六番エリアに到着しました」


「『少し時間がかかったな。現場調査を先にしたのか?』」


「はい、報告の二度手間になりそうでしたので。先に到着の報告の方が、良かったでしょうか?」


「『いや、それでいい。それで何か分かったか?』」


 私は、先に調査をしてから報告をした事を咎められなかった事に少しホッとしながらも、先ほどまでの調査結果を報告した。


「先ずは現状の岩山の状態ですが、確かに消失という表現で良い状態です。岩がゴロゴロと転がってはいますが、どちらかというと荒野という表現が合いそうな感じです。今、画像をそちらにメールしました」


 メニュー画面で、写真機能を選択し撮影しておいた画像を、運営専用メールにて笹本先輩に送信した。


「『あぁ、今確認した……これは、酷いな。消失という言葉を黒羽本部長が使っていたから、もっと更地になっている感じかと思ったが、まるで圧倒的な火力で吹き飛ばしたって感じの印象だな』」


「そうなんです。あり得ないですが、正に現場はその表現がしっくりくる感じです」


「『現場で、他に違和感を感じる様な事はあったか?』」


「はい、ここに到着した時も、ここで調査している時も、ここには何も(・・)居ませんでした」


「『それは、モンスターが湧いて(再出現)こないという事か?』」


 通話越しでも分かるほどに笹本先輩の声色は低く、警戒した様子が伝わってきた。


「はい、一体も此処には出現しません。これは、岩山が破壊された事よりも異常事態かもしれません。岩山の跡地から一定の距離を離れた所では通常通りにモンスターが湧いてくるのを確認出来ましたし、湧いてくる(再出現)所も見えました」


「『分かった、その事が分かっただけでも現地を直接見た価値があったな。システム上では、そこは構造物(ストラクチャー)の消失というトラブルは確認出来ているが、モンスターのリポップ(再出現)異常なんてのは、報告に上がってきていない。技術保全部も把握していないトラブルが、そこで起きているという事だな』」


「此処では、恐らくこれ以上の事は、私では分かりそうにありません。近くにハスレという村があるので、そちらも聞き込みなど行いたいのですが、良いですか?」


「『あぁ、丁度そこに行ってもらおうとしていたところだ。数日前のメンテナンス明けから、『キングバジリスク討伐クエスト』と『石化解除回復薬またはキングバジリスク左牙採取クエスト』の二つが、その村からNPCクエストとしてシステムに登録されている。怪しいと思わないか?』」


 私は、笹本先輩の話を聞きながらハスレ村へと移動を始めていた。


「確かにそうですね。依頼主のNPCは村長ですか?」


「『いや、違うな。村長代理のイダイという男性NPCになっているな。上井は村でそのクエストを受けようとした者がいたかどうか聞いてくれ。俺は、技術保全部にモンスターが湧いてこない件の調査依頼をする』」


「分かりました」


 笹本先輩との通信を切り、早足程度だった移動速度を駆け足へと切り替え、村へと急ぐ事にした。笹本先輩では無いが、早く村へと行かなければならない予感がするのだ。


「このモヤモヤした感じは、なんなの?」


 思わず一人呟いてからは、無言でハスレ村へと駆け続けた。




「帰ったぞ、飯はもう冷めてしまったか?」


「「は?」」


 俺が、アリンとシリルの家の扉を開け中へと入ると、二人は固まっていた。


「いえ、むしろまだ用意が出来てませんが……まさか、また何か忘れ物ですか?」


 シリルが台所で料理をしていた手を止めて、俺に見当違いな事を確認してくる。


「母さん、魔王様だって忘れ物ぐらいするよ! 魔王様、何忘れたの?」


「何故、忘れ物をしたこと前提なんだ。キングバジリスクを討伐して来たから帰ってきたに決まっているだろう」


 俺が、そう二人に告げながらテーブルの上にマジックバックから『キングバジリスクの左牙』を十数本取り出して置いた。


「……母さん……これ……」


「……えぇ……キングバジリスクの左牙ね……」


 二人がテーブルに置いた「キングバジリスクの左牙」を手に取りながら、再び固まっていた。


「二人とも、それで村人を救えるのだろう? 固まっていて良いのか?」


「は!? あまりの非常識さに固まってしまいました! アリン! 一本コレを持って急いでイダイさんを呼んで来なさい! 兎に角、キングバジリスクの左牙が沢山あると言えば、飛んでくるわ!」


「うん! 分かった!」


 アリンは、転びそうな程に勢いよく家から飛び出していった。手にはしっかりと、キングバジリスクの左牙を掴み、目には涙を流しながら、それでも顔は笑顔だった。




 そして、程なくして勢いよく扉が開き、褐色で体つきの逞しい男が息を切らしながら、家に入ってきた。


「シリルさん! キングバジリスクの左牙が十本以上あるってアリンちゃんが言いに……これは……」


「イダイさん……はい……ここに居られる魔王様が私達のクエストを受けてくれて……採ってきてくれたんです……」


 シリルは、涙を流しながらイダイと呼ばれた男に説明をしていた。


「貴方が、俺たちのクエストを受けてくれたのか……済まんが、クエストの発行人は一応俺なんだ。改めて、クエストを受けてくれるか? そうで無いとクエスト報酬が貴方に渡せない」


「俺は、別にクエスト報酬がなければ無いで構わんが、そちらがその方が都合が良いのであれば、そのようにしてくれ」


「ありがとう。例え報酬額は少なくても、クエストを達成してくれた貴方に渡したい」


 イダイは、シリルと同じく涙を流しながら、俺にそう告げた。


「それなら勿論、有難く頂こう」


 俺が、イダイからの申し入れを受けると、頭の中にメニュー画面に新しい情報が追加された時の『お知らせ音』鳴り、メニューを確認すると『受注クエスト』に新しくこの村で受けたクエストが追加されていた。そして、改めてキングバジリスクの左牙をイダイに手渡すと同じくお知らせ音が鳴り、メニューを確認すると『クエスト完了』との知らせが届いていた。


「クエスト報酬額は微々たるものでしょうが、これがこの村の精一杯です……本当に……ありがとうございました!」


「そんなことはないさ、こんな大金をありがとう。もう、クエストは完了したのだろう? それで村人の石化を、早く治してやってくれ」


「はい!」


 イダイはそう言うや否や、外へと十数本のキングバジリスクの左牙を抱えながら飛び出していった。家のすぐ外では、すでに無事だった村民が集まっておりイダイが外へと出ると歓声が上がった。そして、手分けして石化した村民を元に戻し始めた。




「……何? 何でこの村NPC達、泣きながら抱き合ったり騒いだりしてるの?」


 私がハスレ村へと到着すると、村民達が家の外で涙を流しながら抱き合ったり、泣きながらも笑いあったりしていたのだ。私は何かのイベントがあったのだろうかと考えながらも、村民NPCに話しかけ、イダイ村長代理の居場所を尋ねるとシリルと言う村民NPCの家にいるだろうと教えられた。


 私はメニュー画面から村内地図を選択し、『シリルの家』を探し、その家に向かった。


「……何これ?」


 辿りついた『シリルの家』は、大勢の村民NPC達の野外宴会場の様になっていた。


「「「魔王様! 乾杯!」」」


「え? 魔王様?」


 酔っ払っている村民NPC達が、『魔王様』と叫びながら何度も乾杯と声をあげていた。そして、大勢の村民NPC達に中心で酒を注がれているのは、スーツ姿の男だった。


「……なんで?……」




 私は、そのスーツを見て固まった


 魔王様と呼ばれている男の着ているスーツは


 あいつ(・・・)が好んで着ていたスーツだったから


 

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