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NPCクエスト

「『魔王』様……はっ!? 助けて下さってありがとうございます!」


「気にしないでいい。偶々近くに居ただけだからな。それより、こんな所で何をしていたんだ?」


  俺がフォレストウルフの群れから助けた少女は、特に武器や防具を装備しているわけでもなく、片手に籠を持っているだけだった。


「私は、アリンと言います。この森には、お母さんの病気を少しでも和らげたくて、石化進行を遅らせる薬草を取りに来たんです」


「アリンは幼そうに見えるが、しっかりしているな。しかし、事情があったにせよ、戦えぬ身でありながらこの森に入るとは、どう言う事だ?」


 アンリを鑑定した結果、NPC(非プレイヤー)である事は分かっていたが、死んだら終わりのNPCの少女がこんな森の中に居たという事が、妙にひっかかった。


「この先に私の村があるんですけど……キングバジリスクに襲われて……何人も大人の人が石になっちゃって……お母さんも……足とか腕とか……ひっく…」


「よしよし、落ち着け。俺が居るからもう大丈夫だ。まずはアリンが探しているという石化に聞く薬草を探そうか」


 俺は、アリンが探しているという石化進行を和らげる『イシオクレール草』を、一緒に探す事にした。




「凄いですね魔王様! そんなに、イシオクレール草を見つけられるなんて! 見た目はその辺の草と変わらないから、抜いて根の形で見分けなきゃいけない薬草なのに!」


「俺は、魔王だからな」


 片っ端から鑑定してから抜いているので、間違うはずは無い。


「ほれ、それもそうだぞ」


「わ!? 本当だ! これだけあれば、他の人にも配れそうです!」


「アリンは、母親だけでなく、他にも分け与えるというのか。これはアリンが、自ら命を賭けて手に入れたのだぞ?」


「それはそうですけど……他の石になった人が居たから、私が助かったんだろうし……それに、魔王様が沢山採ってくれたので!」 


 アリンが正に、満面の笑みと言った顔で俺を見てくるので、俺もつられて笑顔になった。


「ふふ、そうか、アリンの住む村は何処にあるのだ。送って行ってやろう」


「え!? いいんですか!」


「当たり前だろう。また、フォレストウルフに襲われたりしたら、目も当てられんしな」


「そっか……迷惑をかけてすみません」


 アリンが申し訳なさそうな顔で謝ってきたので、それをやめさせる。


「そんな顔で謝るな。俺は、アリンが笑ってくれた方が嬉しいぞ」


 俺が微笑むと、アリンも安心したのか笑顔になった。


「はい! ありがとうございます!」


「はは、そうだ、それでいいんだ。子供は笑っている方が良い」


 そして、俺はアリンというNPCの少女と共に、キングバジリスクに襲われた村へと向かったのだ。




「おはようございます、笹本先輩」


「おう、おはよう」


 私は、運営本部室へと出社し既に出社していた笹本先輩へと挨拶して、自分の席に着いた。


 時間が経つにつれ、ちらほらと他の社員の人達も出社して来て、挨拶を交わしながら、私はメールのチェックや運営本部の人が発行している公文書を見ていた。


 そして、一通り目を通した所で、昨日渡された笹本先輩のプロジェクト資料を返しに向かった。


「笹本先輩、これ読みましたよ」


「……相変わらず、早いな。ちゃんと読んだのかって質問は、上井には意味無いか。何か、気なった事はあるか?」


「そうですね、プロジェクトで実装(導入)した装備やアイテム、新しいジョブやイベントですが、その後の後追い調査結果でも、全くバグ(エラー)の報告がありません。笹本先輩が手がけたからって訳じゃ無いですよね?」


 私は、これだけの大規模な展開をしているゲームで、且つこれほどまでに短期にイベントなどを開催しているのに、全くバグ(エラー)の報告が無いのには、違和感しか感じなかった。


「普通、大体新しいシステムやジョブなんかを実装(導入)した場合、多かれ少なかれバグ(エラー)は出ると思うんですが」


「普通はな」


ここ(・・)は普通じゃ無いと?」


 私がそう聞くと、笹本先輩は私目を真っ直ぐ見ながら口を開く。


「あぁ、尋常じゃ無い程に飛びっきり優秀なエンジニアがわんさか居るそうだ(・・・)


「いるそうだ(・・・)って、どう言う事ですか?」


 笹本先輩の言い方に、引っ掛かりを覚えて再度質問をした。


「ちゃんとメールも届くし、技術保全部からの公文書も発行されているし、承認依頼を出すときちんと承認も貰える。だがな……電話をいくらかけても、必ず録音の自動音声でこう言われるんだ『要件は全てメールにて、お願い致します』とな」


「……からかってます?」


「真面目な話さ。まぁ、実際かけてみればわかる事だがな」


「という事は、もしかして技術保全部の人に会った事無いんですか?」


「ないな。それどころか声すら聞いた事ないし、見た事もない。何処に技術保全部自体があるのかも、俺は知らない」


「え? あれ? そう言われてみれば、技術保全部の場所って新人研修でも行かなかったですね」


 新人研修の期間で、事業部や営業部、勿論ここ(運営本部)も見学に来ており、様々な部署を見て回ったのだ。


「そりゃそうだろう、技術保全部は謂わばうちの心臓だ。『the Creation Online』の全ての技術とデータを管理しているのが技術保全部であり、その所在は社内でも限られた人間しか知らない」


「何ですか、その存在自体が都市伝説みたいな部署は」


「事実なんだから、仕方ないだろう」


 笹本先輩の返しに呆れていると、ふと思い出した。


「そう言えば、借りていた資料の中に『NPCクエストの扱いについて』という検討課題案件というのも見つけましたが、これは一体なんですか?」


「上井、お前そんなモノまで見つける程に読み込んだのか?」


 流石に驚いた表情の笹本先輩だったが、直ぐに元の表情に戻り私の質問に答えた。


「まぁ、お前ならあり得るか。『NPCクエストの扱いについて』だったな、クエストがどの様に発行されているか知っているか?」


「固定クエストやイベントクエストは運営が設定して、その他にもプレイヤー自体がクエスト依頼を出したりしてますが、それが何か?」


殆ど(・・)はな」


「え? 他にどんなクエストがあるんですか?」


「それが『NPCクエスト』だよ」


「まさか……NPCが自発的にクエストを依頼するんですか?」


 私がそう口にすると、笹本先輩は苦笑した。


「そうだ、彼ら(NPC)もクエストを依頼する。内容は様々だが、その殆どが『低報酬高難易度』だ。だから、受けるプレイヤーも少ない。一般のクエスト依頼画面に普通に載っているが、プレイヤーには運営が出しているクエストと、見分けが付かん」


 運営が出している採取や討伐クエストは、架空の人物からの依頼と成っている。プレイヤーはクエスト案内所からクエストを受け、再度クエスト案内所で採取物や討伐部位を提出する事で報酬を得る。


 そのため、別に依頼主が架空の人物でも全く問題がない。クリアの際の報酬は、運営が用意している為だ。


 しかし、一見運営が用意した様に見えるクエストの中に、NPC(非プレイヤー)が自立的にクエスト案内所で依頼し、報酬もNPC(非プレイヤー)が用意しているものがあるという。


「運営が、管理していないクエストという事ですか?」


「まぁ、そうなるよな。こちらが、出していないクエストだからな」


「笹本先輩は、受けた事ありますか? そのNPC(非プレイヤー)クエストは」


「俺は、受けた事は無かったな。『低報酬高難易度』じゃ、第一線のプレイヤーは普通受けねぇからな……いや、あいつ(・・・)は受けてたな」


「そう言うの好きそうですもんね、あいつ」


 私と笹本先輩は同時に少しだけ、微笑んだ。




「そろそろ、わたしの村が見えてきますよ!」


「あぁ、早く薬草を届けてやらないとな」


「はい!」


 魔王様は、母親を想う少女と共に、モンスターに襲われた村へと向かっていくのであった。


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