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出会い

「じゃーん! これぞ、見習い魔術師憧れの『いっぱし(一人前)の魔術師ローブ』です!」


 街に戻りクエストクリア報酬を受け取ると、ソラはその足で街のNPC(非プレイヤー)の防具屋へと向かった。そこで『始まりの街スターテイン』で購入出来る魔術師の屋台装備の中では、一番高級なローブを購入したのだ。


 紺色のフード付きローブに身を包んだソラは、確かにいっぱし(一人前)の魔術師に見えた。


「中々、似合っているな。『深淵』に一歩近づいたんじゃないか?」


「こふ!……魔王様、真顔で言われるとメンタルにダメージが……」


 ソラが、まるで精神攻撃を受けているかの様に、悶絶していたが俺はその様子を見て不思議に思う。


「なるのだろう? この世界の『深淵(アビス)魔術師(マジシャン)に」


「あ……はい! 勿論なってやりますとも!」


 ソラは、そう言うと天に杖を掲げ、不敵な笑みを浮かべていた。


「ソラは好きだな、その姿勢をとるのが」


「やはり、決めポーズは必須かと!」


「楽しそうで何よりだ」


 俺は、天に掲げ杖を見ながら、ソラに問いかける。


「防具は新調したが、杖は良いのか?」


「杖もこの『始まりの杖』から変えたいんですけど、お金使っちゃったし、次ですね!」


「ふむ、先ずは身を守る事を優先した訳か」


 俺が、ソラの考え方に頷いていると、思いっきり否定された。


「魔王様、何言ってるんですか?」


「違うのか?」


「そんなの、ローブの方が魔術師になったって分かりやすくて、格好良いからに決まってるじゃないですか!」


「そういう……ものか?」


 俺が、若干ソラのあんまり過ぎる断言に困惑していると、再度ソラは一片の迷いもなく言い切った。


「そういうものです! 杖だとよほど大きい杖に変えないと、魔術師だって分かりにくいですから!」


「そうか、一見してどの様な者か分かるというのも、大事かもしれんな」


「です!」


 ソラは顔一杯に笑顔を張り付けながら、頷いていた。




「そう言えば、ソラはNPC(非プレイヤー)の店で買える『屋台装備』を買っていたが、何か理由はあったのか?」


 再度、ソラとクエストを受けて狩場へと向かっていた俺は、歩きながら装備について尋ねた。


「そっか、魔王様は、装備買ってないんでわからなかったですよね。プレイヤーが出店している物は強化が施されてて、ただの屋台装備よりも強いんですけど、その分高いんです」


「あぁ、俺は装備を変える気がないから、値段や物まで見てなかったから知らなかったのだな」


「そうですね。それに、折角だから、防具も自分で強化して育てたいですし! マイ装備を!」


 ソラは、楽しげにそう話をしていた。


「まぁ、プレイヤーが店を出している場合は、装備屋に限らずどの店も大概高いですけどねぇ」


「そうなのか?」


「そうですよ、御飯屋さんなんかも結構いい値段するみたいですし。私達は、この世界で食事を取る必要はありませんが、味は感じますから結構人気も高いんです」


 俺は、その説明に違和感を感じた。


「食事を摂る必要がない?」


「勿論そうですよ? だって、ゲームの中で食べたって、現実の世界の身体お腹は膨れませんからね」


 笑いながら、ソラは俺にそう告げた。


「『擬似肉体(アバター)』は、腹が減ることはないという事か」


「勿論。どれだけリアルっぽくてもアバターですからね。現実とは違いますよ」


「それならば、NPCはどうしているのだ? 食事は取るのか?」


「また、細かい設定を気にしますね。どうなんですかね? 流石にNPC(非プレイヤー)だし、食事を取らないと思いますけど」


 ソラがそう口にした時に、丁度狩場へと着いたので、俺とソラは其処からはクエストクリアの為の討伐とソラのレベル上げを続けた。




 俺は、狩りをしながらソラの先ほどの言葉を考えていた。


『流石にNPC(非プレイヤー)だし、食事を取らないと思いますけど』


 ソラの口ぶりからすると、NPC(非プレイヤー)は食事を摂る方がおかしいという雰囲気だった。


「だが、NPCは恐らく食事を摂っているだろうな」


 俺は、一人呟きながら狩りを続けた。




「キャン!」


 狩場を森へと移した為、フォレストウルフと言うモンスターが、襲ってくる様になった。


「魔王様、モンスターをケンカキックで吹き飛ばすって……ぱねぇっす」


 ソラの呟きが時折聞こえるものの、順調に狩りは続いた。


「そろそろ、私はログアウトの時間になりそうなんですけど、魔王様はどうしますか?」


 森で狩りを続けていたが、ソラがそろそろログアウトすると言う時間になったらしく、俺に尋ねてきた。


「俺は、特に何もないから、ソラの好きにしたらいいぞ」


「それなら、ギリギリまでここでレベル上げしちゃいますね!」


「あぁ、それでいい」


「魔王様の殲滅速度が速いので、結構レベル上がるの速いんです!」


 セラは、無邪気に喜んでいる為、心が何やら温かくなるのを感じながら、引き続きフォレストウルフを蹴飛ばしていると、人の気配を感じた。


「む、ソラよ。この先に人の気配が……」


 俺がソラにその事を伝えようとした時に、ソラが慌てながら声を出す。


「あ! ログアウトのアラームなっちゃいました! お先にログアウトしますね! また、夜にログインしてたらメールします! では、またです!」


「そうか、それではまたな」


「はい!」


 そして、ソラの身体が徐々に薄くなり消えていった。


「さて、では俺だけで行ってみるか」


 俺は、感じる人の気配とそれを追いかけ取り囲もうとしているモンスターの気配の元へと駆け出した。




「保護区域から、出ちゃったんだ! どうしよう!」


 わたしは、数頭のフォレストウルフに森の中で見つかり、追いかけられていた。


「きゃ!」


 慌てるあまり、わたしは木の根に足が取られてしまった。しかし、手には母親の受けている痛みを少しでも和らげる事ができる薬草を持っていたので、そのまま身体ごと地面へと転がった。


「「「グルルルルル」」」


 フォレストウルフに見つかった時、最初は一匹だけだったが逃げている内にどんどん引き連れてきてしまい、とうとうわたしの周りには十匹を超える数になっていた。


「そんな……こんなのって……」


 わたしは完全に周りを囲まれ、逃げ場のない状態で腰が抜けたようになり、立ち上がる事さえ出来なかった。


「……お母さん……ごめんね……」


 そしてわたしの呟きを合図に、フォレストウルフ達が一斉に飛びかかって来た。


「キャイン!?」


 全てを覚悟し、目を瞑っていたわたしに耳に、獣の悲鳴が聞こえ、恐る恐る瞑っていた目を開けると、目の前に変わった服(・・・・・)を着た人が立っていた。



「さぁ、お前達、俺の狩りの時間はまだ終わってないぞ?」



 その人がそう言うや否や、フォレストウルフ達が次々と蹴られ殴られ、光の粒子へと変わっていき、あっという間に全てのフォレストウルフが討伐されていた。


「……すごい……あなたは……誰ですか?」


 わたしは、その人の名前(・・)を尋ねた。



「俺は『魔王』だ」



 こうしてわたしは、『魔王様』に助けられた初めてのNPC(非プレイヤー)となった。


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