第一歩
第一歩
夏の終わりにも関わらず、日差しは私の肌を突き刺している。蝉も忙しそうに鳴いていた。うっすらと遠くの方から人々の声が聞こえる。少々鬱陶しい気もした。
「…暑いな…いやほんと暑過ぎるでしょうよ…夢夏…はいないんだった。」
独り言なんて滅多に言わない私だったが、暑さのあまり何かに縋りたくて言葉がこぼれて行く。腐れ縁とも言える筈の友人が隣にいない事にふと気づいた。
「この異常気象、今日だけで済むといいんだけれど。」
遠くの声がどんどん小さくなっていく。蝉の声も小さく、目の前も霞んで……。
最後に聞こえた微かな蝉の声は、私を嘲笑う様だった。
…何か、聞こえる。
私は倒れたのだろう。地面に体が引っ付いてるんじゃないだろうかってくらいに怠かった。聞こえてくる声は少しづつ鮮明になっていく…。
「ねえ!!聞こえないの!?死んだ!?」
「うるっ…」
「さい!!」
左手を思わず振ってしまった…勢いが結構あったと思う。話しかけてきたのであろう少女は完全にのびていた。申し訳ない気持ちもしたが、まあ寝てる私を起こそうとしたのだし当然の報いと言っていいだろう。そこでのびてろ。
ところで此処は何処なのだろうか。この子に運び込まれた…?いや、そんな事するなら私を起こそうとなんてしないだろう。
「痛あ…なんてことしてくれるのよ!死んだと思ったのに!」
「なに、初対面の人の死を望んでた訳?」
「ふふふ…ええ!!そうよ!貴方の魂を貰うためにね…!」
変な服着てるだけあって変な事を言う。こういうのは警察に任せよう。
…と思ったのだが。携帯の充電がゼロだった。周りは木、充電があっても電波は繋がりそうにない。
体はとても怠い…が、逃げよう。こういうタイプはまともに相手しちゃいけない。
「なに、逃げようとしたの?無理無理、人間が逃げようとするのは不思議だわ。」
「!?」
私は…ありえない光景を見ている。ありえない光景がありえてしまったのだ。
少女は飛んでいた。跳んでいたのではなく、飛んでいた。
「…ワイヤーはどこ?」
「貴方の言うワイヤーって言うのはこれの事?」
背中を見せてきた。そこには羽が生えていた…その羽は作り物にしてはとても美しい羽であった。ワイヤーだなんてとんでもないくらいに。
「さあさ、甘くて蕩ける魂をちょうだい?」
「…魂食べて何になるのよ!」
「ちょっっっと待って!!何なのアレ…あたし聞いてないよ…!?」
何を言っているんだ、と言おうとしたのだが…そんな暇もなく光が私を包む。
暖かくて心地よい。
「うわーん!あんまりだよー!」
すごく子供らしく逃げていった…。それにしてもあの光は何だったのだろうか。
「善行を積むと良いことありそうよね。うふふ。」
「エッ誰!?」
「まだ…ヒミツよ。」
振り返り、一瞬だけ顔が見えた。とても…美しい顔だった。
全く意味がわからないが、とんでもない事が起こってしまったみたいだ…。