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第04話:転生したっていいじゃないか(3)

挿絵(By みてみん)



 夕凪は歩き出した小宇羅の後に続いて、並んでいる全員の正面に立つ。


 四人の女の子たちは姉妹なのか、皆よく似た顔をしていた。

 ぱっと見て、まだ小学校にも通っていないくらいの年恰好。

 髪の色と髪型はバラバラだが、全員同じように――

 頭のてっぺんから触覚のような二本の毛がぴょんと飛び出している。


 着ている服はそれぞれの髪の色に合わせたドレス。

 今はみんな緊張しているのか、口を一文字にして硬い表情を浮かべている。


 小宇羅が皆の前でニカッと笑って告げる。


「紹介しよう。

 これからわたしたちの仲間になってくれる――立原夕凪殿だ」


 ――私の仲間……。


 幼い少女たちの姿を見て夕凪は思い出していた。


 それは――前世での記憶の断片。


 五歳の時――


 自分が何者なのかすら知らされないまま、

 幼い身体で検査と訓練を強制されていた頃。

 突然大きな屋敷に連れて行かれ、「立原」の苗字と「夕凪」の名を与えられた。

 そこで待っていたのはさらに過酷な訓練。


 それから四年後――


 立原家の大人に連れられて、宿命と教えられていた場所――

 最も古い記憶の頃からずっと言い聞かされていた場所に赴く。


 そこで出会ったのが――さぎりさん。


 最初は綺麗すぎてキツイ感じのお姉さんだと思った。

 だけど、それまでに出会った大人はみんなそんな態度だったから。

 だから、いつもと同じように無表情に無感情に自己紹介した。


 けれども、さぎりさんはの反応は予想と違っていた。

 まだ小さかった自分に目線を合わせるため腰を落として第一声。


 ――夕凪ちゃん……これから一緒に頑張ろう!


 整った顔が台無しになるくらいの笑顔でこう言ってくれた。

 たったそれだけで何故だかこれまでの自分が救われたと感じた。

 実際には、さぎりさんに素直に笑えるようになるまで時間がかかったけれど。


 だから十六歳になった時に初めて――葉月という名の――後輩ができて、

 その女の子が昔の自分と同じ顔をしていたから、さぎりさんの真似をした。


 ――葉月ちゃん! これから一緒に頑張ろう!


 葉月もキョトンとした顔をしていた。

 そして、自分と同じで素直に笑ってくれるまでには時間がかかった。

 病室にさぎりさんと一緒にお見舞いに来てくれた時、

 初めて見せてくれた笑顔……よく覚えている。


 でもそのあと葉月が泣き出してしまい、

 泣き止んでもらうために交わした約束は――結局守れなかった。


 そこまでを思い出し、心がチクリとする。


 ――この幼い女の子たちがここにいる理由はまだ知らないけれど。


 何故だか――

 名前を与えられた時の自分と重なったから、

 さぎりさんに始めてあいさつした時の自分と重なったから、

 そして最初に出会った時の葉月の表情がこの子たちと重なったから。


 夕凪は膝をついて目線を下げて、

 四人の少女に「こんにちは」と優しく笑顔を浮かべる。


 それに応えてくれたのが、覗き見してた子。


「アタシはミカンです!」


 少し頑張って無理した感じもするけれど、

 緊張した表情から、にこっと元気に笑って挨拶をしてくれた。

 くせ毛のショートヘアで髪の色はオレンジ。


「私は夕凪、これからよろしくね。ミカンちゃん」

「ミカン! ミカンでいいです……夕凪……さん……」

「んっ、わかった、ミカンね。私も夕凪でいいよ」

「あっ……いえ……夕凪お姉ちゃんって……呼んでいいですか?」


 上目づかいでそう訊かれた。

 人付き合いの少ない夕凪にとってそんな風に呼ばれるのは初めて。

 何だか恥ずかしくなって顔が赤くなりそうになったけれど。

 もちろん断るなんてしない。


「い、いいよ、……ミカン」

「はいっ、夕凪お姉ちゃん! よろしくおねがいしますっ!」


 今見せた笑顔が本来の笑顔なのだろう。

 夕凪も負けじと「うん、よろしく」と笑顔で返す。

 そのやり取りを見て、他の三人の緊張もほぐれたようだ。


「ボクはミカンねえの妹、ヒスイだよ……夕凪(ねえ)


 真面目そうな顔で挨拶をしてくれた子は、

 まっすぐな髪を両サイドに垂らしたショートヘア、髪の色は青に近い緑色。


「ワタシは三女のスミレ……よろしくおねがいします、夕凪姉さま」


 おかっぱ頭の紫の髪の子は、

 おすましした顔で大人びた挨拶をしてくれた。


「……サンゴ……」


 ちょっとおどおどして挨拶してくれた子は、

 クルクルっとした髪型で色はピンク。

 大事そうにクマのぬいぐるみを抱えている。


 隣りのスミレが「サンゴは末っ子です」と補足する。


「四姉妹なんだね……これからよろしく!」


 もう一度四人の子供に笑顔を向ける夕凪。

 見た目よりはしっかりしている子が多いようだ。

 ここは異世界、見た目通りではないのかもしれないし。


 ――小宇羅ちゃんはあの姿で『神』だしね。


 夕凪は腰を上げて、

 次に子供達の後ろに立っている女性二人に目を向ける。


「あれ?」


 女性二人の容姿はそっくりだった。

 ひとりは腕に『1』、もうひとりは『2』と書かれてる。

 1の女性はメガネをしていて、2の女性は髪に白いメッシュが入っている。

 あとは胸にしているリボンの色が違うくらい。


 けれども夕凪が驚いたのはそれが理由ではない。

 二人の身体は――。


「二人は自律式絡繰メイド、一花いちか二葉ふたば

 見てわかる通り……」


 小宇羅がそこで一拍置くが、その先を聞くまでもない。


 ――うん、確かに見てすぐにわかる。私と同じ『身体』だ。


 そう……小宇羅の言う絡繰人形の身体だったのだ。


 違いはというと、夕凪のようにツインテールではなくショートヘアの黒髪で、

 全身が白黒のカラーリング、そして腰にスカートをはいているところ。


 だが――


「見てわかる通り……おっぱいは夕凪殿の方が大きいんだよねぇ」


 ニカッと笑う小宇羅。

 わざとフェイントを入れたのはこれを言うためだったらしい。


「…………」


 そんな小宇羅の戯れ言を完全に無視して挨拶を始めたのは、

 腕に『1』と書いてあるほうの絡繰メイド。

 表情に感情が全く現れていない。


「初めまして、夕凪様。わたくしの名前は一花です。

 主に小宇羅様の身の回りのお世話をしております」


「一花さん……私の先輩になるんですか?」


「いえ、夕凪様はこの身体のことをおっしゃっているのかと思いますが、

 わたくしと二葉は夕凪様のように人の魂を持っておりません。

 あくまでも小宇羅様に仕えるため、作っていただいた存在なのです。

 そのように御理解いただき、今後とも接してください」


「はあ……」


 続いて腕に『2』と書いてあるほうの絡繰メイド。

 一花と比べてちょっと目つきが悪い。


「あたしは二葉。そこにある売店とか家畜の世話に野菜作り……、

 外の仕事があたしの役目だ。おっぱいの大きさは気にしていない」


 ――気にしているのね……。


「……二葉さんですね。よろしくお願いします」

「あたしを呼ぶのに敬称をつけるな。二葉と呼べ。敬語も使うな」

「…………二葉……よろしくね」


 夕凪が二葉の性格を掴みかねていると、

 そのやり取りの最中に小さな呟きで「……おっぱい」と聞こえる。

 声の主はミカン。悲しそうに自分の平らな胸を見ている。

 夕凪は心を鬼にして、見なかった振り聞こえなかった振りをする。


「で……この場所にいるのがこれで全員? この場所って?」


 そう言って辺りを見渡す。

 周りは切り立った崖で囲まれている。


「……他の場所と行き来ができないの?」

「夕凪殿が想像しているのとはちょっと違うんだけどねぇ」


 小宇羅が眉尻を下げて、困ったような顔をする。


「ここは『箱庭の世界』。といってもミニチュアの世界ではないけどね。

 ただ……外とは隔絶されていて、この場所の外側は人が暮らせる世界じゃない」


「……箱庭の世界……?」


 夕凪はこの場所を説明するのにその言葉はぴったりだと思った。

 小さな場所に色々な景色が詰まっている。

 ただ……それよりも――

 この外側には人が住めないというのはどういう意味なのだろう。


「一花と二葉は、夕凪殿と同じ絡繰りの身体を持つ人形だけど、

 この子供たちも……人の姿を真似ているだけで人間じゃない」


 四姉妹が少しビクッとしたように見えた。

 その態度は気になったが、夕凪は小宇羅に話の続きを促す。


「人間じゃないって……?」


「そういったわけで……ここには動く人間はひとりもいないんだよねぇ」


 だが夕凪の問いかけに答えは無かった。

 何か事情があるのだろうと、それ以上の追及はしなかった。


 それよりも小宇羅の説明が正しければ、

 この場にいる者は小宇羅が『神』、四姉妹は人間ではない存在、

 一花と二葉は魂のない絡繰人形、夕凪は人の魂を持つ――やはり絡繰人形。


「話をした通り『百群郷』は完全に消滅してしまって、今はもう影も形もない。

 残っているのは、わたしたちと、この箱庭にある物……」


 小宇羅がそこで一旦言葉を切る。

 続いて彼女は衝撃的な事実を語り始めた。


「そして……崩壊する『百群郷』からどうにか救い出した生き残りの者たち。

 合わせて千人の人間と亜人。

 彼らには――今立っているこの場所、ここの地下に全員眠ってもらっている」


 この箱庭の世界に動く人間はいない。

 動かない人間……眠り続ける人間が千人。


「ここは箱庭であり……、

 眠る人々が暮らせる新たな大地を目指す『箱船』でもある。

 ただ問題は……目的地が何処に行けば見つかるのか、

 それ以前に、本当にそんな場所があるのかすら分らないってことなのだが。

 だからといって、このままという訳にもいかない。

 この箱船で……行き先の分からない旅を始めなきゃならないんだ」


 淡々と話し続けていた小宇羅が、

 ここでようやく結論を告げる――夕凪がここにいる理由。


「でだ……。夕凪殿にお願いしたいのは――

 新たな大地を探す旅をする間、護ってもらいたい。

 この箱船を襲ってくる敵から……。

 そのために、そのための能力を持った、その身体に転生してもらったんだ」



 第04話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――実力を見せてくれないか(1)です。


 次回更新は6月14日を予定しています。


※6月11日 一部ルビ修正

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