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第34話:我がこのダンジョンのラスボス(2)

「何処からでもかかって来るがよい!」


 四姉妹の初手は、ヒスイの魔法ブーメランとスミレの魔法弓【火の玉】だった。

 どちらもラスボスの左右の曲刀に、いとも簡単に弾かれる。


 だが、それは計算の内だった。


 両手が対応に追われている隙を狙って突撃したのはミカン。

 今までにないほどの速さでラスボスに肉薄する。

 レベルアップに伴うステータス上昇の恩恵である。


 そして、がら空きの胴体に【刀術レベル2】の強烈なサーベルの一撃。

 これまでの全ての努力が形になった見事な斬撃であった。

 強化されたサラマンダーさえも瞬時に光に還せるほどの威力。

 まともに喰らえばラスボスでさえ無視できないダメージを与えられるはず。


挿絵(By みてみん)


 しかし――


「か……空振り……?」


 夕凪が肺に溜まった息を吐き出すように声を出す。

 確実に胴体を横に薙ぎ払ったように見えたのだが、

 ラスボスは少しのダメージも受けずに、平然とその場に立っている。


「まだまだっ!」


 ミカンは動揺を押し止め、返したサーベルで左から再び胴を狙う。

 軽く回避行動を取るラスボス。

 結果、サーベルは胴体の半分ほどをかすめる軌跡を通る。


 二度目ともなれば誰の目にも明らかだった。

 ミカンのサーベルはラスボスの身体を素通りしていた。


「攻撃が効かない!?」


「ああ、こんなに早く知られてしまうとは予想外だ。

 この部屋に挑戦できるだけの力はあるということか。

 だからといって見てのとおり、お前たちに勝ち目はないのだがな」


 ――小宇羅ちゃん、悪い顔をしているなぁ。


 夕凪は戦闘中の助言は控えるようにしていた。

 このダンジョン自体が四姉妹を成長させるのが目的だと知ったから。


 だから今、小宇羅がラスボスとして立ちふさがっているのも子供たちのため。

 この場で夕凪ができることは見守ることだけ。


 ――でも……小宇羅ちゃん、絶対楽しんでやってるよねぇ。


 嬉々としてラスボスになり切っている元神様に、ジト目になる夕凪。


「では、こちらの番だな」


 ラスボスが再び曲刀を身体の前で交差させる。

 攻撃が素通りしてしまうという今まで経験したことのない状況に、

 子供たちは次の手段を決めあぐねていた。そこにラスボスの攻撃が降り注ぐ。


「切り裂け!【風刃】!」


 風属性の全体攻撃魔法。

 とっさに動いたのはやはり長女のミカン。

 後方にいた三人の妹たちを抱きかかえるようにする。


 その背中を襲う無数の真空の刃。


 いくら姉妹の中で防御系のステータスが最も高いとはいえ、

 魔法を放ったのはラスボスである。

 その直撃にミカンの体力が極限まで削られる。


「大丈夫だよ、このくらい」


 痛みに歪みそうになる顔を無理やり笑顔にして妹たちに向ける。

 それが長女の務めだから。


 そんな姉の痛々しい姿に目をそむけたくなるヒスイだったが、

 自分たちを想っての「やせ我慢」を無駄にするなんてできない。

 逆に奮起するための力に変えようと目を凝らす。

 すると、自分たちの身体を包んでいる淡い光に気づく。


「これはミカン姉のスキル【護りの心】……」


 体力が減少すればするほど仲間の防御力を上昇させるスキル。

 それが発動していた。それが全員を護っていた。

 だがそれは……ミカンの体力が残り少なくなった証拠でもある。


「回復を!【癒しの光】!」


 サンゴもこの淡い光の意味を知って、急いでミカンに回復魔法をかける。

 防御力が上昇したままのほうが安全だなどと、妹たちが考えるはずもない。

 ミカンの回復に伴い、全員を包んでいた光も弱くなる。

 そんな四姉妹の様子を、ラスボスは追撃せずに見ているだけだった。


「どうした、まだ戦いは序盤だぞ」


 ――結構真面目に攻撃してるよね……小宇羅ちゃん。


 以前、元神様は教えてくれた。

 試練や条件を達成した者だけに力を与えられると。

 だからこの戦いは必要なもの。

 少なくとも……子供たちが諦めない限りは自分に止める権利なんてない。


 戦いはまだまだ続いている。

 元気を取り戻したミカンが妹たちに作戦を伝えていた。


「いつもと変わらないよ。アタシが押さえる。

 ヒスイ! スミレ! 二人は後ろでこいつの弱点を見つけて!

 サンゴは回復をお願い! クマ太は三人を護って!」


「「「はい!」」」三人の妹の声がそろう。クマ太も手を上げ下げして応える。


 ミカンがラスボスの正面に立つ。

 ラスボスの攻撃は高速で振り下ろされる両手の曲刀。

 対するミカンは愛用のサーベルと盾。


 太刀打ちなど不可能としか思えない猛攻を、今のミカンは見事に受けきる。

 レベルは上がった。身体能力も上がった。剣術のレベルも盾術のレベルもだ。


 さらに後方から、ヒスイとスミレが弱点を探るための攻撃。

 頭、胸、腹、腕、腰、足……、

 あらゆるところを魔法ブーメランと魔法弓【火の玉】と【氷の針】が狙う。

 二人が示し合わせて二ヶ所を同時に狙ったりもしている。

 しかし、その全てがすり抜けるか曲刀で遮られてしまう。


 ラスボスの顔にはまだ余裕が感じられる。

 ミカンを相手にしながらでも、後方からの攻撃に対応している。


「ほお、なかなかやるな。……だがそっちの三人の防御がお留守だぞ」


 ラスボスの口から「切り裂け!【風刃】!」と魔法発動の言葉と共に、

 多数の真空の刃がミカンの頭上を越え、妹たちを襲う。


 対応が間に合わなかった長女の代わりに、巨大クマ太が盾になる。

 ミカンから託された役目を全うするため、

 三人を背中にして真正面から風刃を受ける。


 サンゴの魔力で生み出されたクマ太の身体に、無数の裂傷が刻まれる。

 それでも倒れない。心配するなと言っているかのように首を何度も上下に振る。

 その痛々しい姿に心を痛めるミカン。

 しかし、この戦いの場では、その行動は大きな隙となってしまう。


「よそ見をするなんて、随分と余裕じゃないか」


 ラスボスが繰り出した強烈な右手の曲刀。

 どうにか盾で直撃を避けることができたが、勢いで弾き飛ばされる。


「回復を!【癒しの光】!」


 すかさずサンゴが魔法杖から回復魔法をミカンに向けて放つ。

 淡い光を受け回復するミカン。


 ラスボスは、攻撃対象を妹たちに変えて進み始めた。

 傷だらけのクマ太が突進して、その胴体にタックルしたのだが……、

 すり抜けて後方に走り抜けてしまう。


 続いてヒスイが右手をナイフに持ち替えて、ラスボスと対峙する、

 その時すでに立ち上がっていたミカンが、後方からサーベルで斬り付ける。

 焦ったように振り向いて、その攻撃を曲刀で受けるラスボス。


 そのやり取りを間近で見たヒスイに、スキル【見極めの瞳】が発動した。


「ミカン姉、わかったよ! こいつの弱点は目を隠しているマスクだ。

 このラスボスはそのマスクをいつも庇うようにしている。

 ボクの【見極めの瞳】がはっきりと教えてくれた!」


 頭への攻撃は透過していたが、

 マスクに攻撃が当たっていたことは一度もなかった。

 その時だけラスボスは曲刀で攻撃を遮っていたのだ。

 ついにラスボスの弱点がわかった。


「ありがとう、ヒスイ!」


 その時ラスボスが大きく跳躍、一回転ひねりを加えて後方に着地。

 再び曲刀を身体の前で交差するポーズをとる。


「よく見極めたな。だがお前たちよ。

 弱点がわかったところで、そこを狙えるのか」


 不敵な笑みを浮かべるラスボスにミカンは力強い笑顔を向ける。

 自分自身を励ますように。妹たちを励ますように。


「もうこれで大丈夫。アタシたちは絶対にあきらめない。

 必ず、その変なお面に攻撃を当ててみせる!」


 そして再び始まる熾烈な戦い。

 しかし、先程までと大きく変わり、四姉妹の攻撃に迷いはなくなっていた。

 その反面、狙いが弱点のマスクという一ヶ所だけになり、

 逆にラスボスが四姉妹の攻撃をさばくのも楽になってしまった。


 その結果、長い膠着状態が続く。


「どうした、このままだと、お前たちの体力が尽きるぞ」


 笑いながらミカンのサーベルを受け流し、

 ヒスイの魔法ブーメランとスミレの魔法弓を避け、

 さらに時折【風刃】で攻撃までするラスボス。

 サンゴは回復魔法を使い続け、クマ太は身体を張って妹たちを護り続ける。


 そして――一筋の光明が長かった戦いを終わりに導く。


 魔法を使い過ぎると意識がもうろうとしてくる。

 魔法回復薬を使っても戻らない疲れが蓄積される。

 特に魔法の消費が激しいスミレが膝をついて、目を閉じてしまったとき。


 スミレのスキル【心眼】が発動する。

 まぶたを下ろした暗闇の中に、激しく動くラスボスのマスクが浮かび上がる。

 そのままスミレは魔法弓を構える。

 そして静かな声で。


「魔法の矢【火の玉】」


 魔法弓にセットされた【火の玉】で造られた矢が、ある一点めがけて放たれる。

 その時、スミレも知らない【心眼】の隠された効果が発動した。

 百回に一回ほどの低い確率で、

 どれだけ相手が動いていようと狙った目標に攻撃が必ず命中するというもの。


「ぐぎゃあ!」


 マスクの眉間を魔法の矢で見事に打ち抜かれ、大きく叫び声をあげるラスボス。

 そこから飛び跳ねるように後退し、部屋中央の魔方陣に横たわる。


 この時、誰もが三女の攻撃が命中したのは偶然だと思っていた。

 それほどラスボスの防御は完璧だったから。

 矢を放った本人のスミレでさえ。傍で見ていた夕凪でさえ。

 そして――本人の知らぬ間にスキル【幸運】を発動させていたサンゴでさえ。


「やられたぁ!」


 ラスボスがうつ伏せのまま身体をピクピクと痙攣させて、そこから顔を上げる。

 マスクはひび割れ、半分あらわになった顔は苦悶に歪んでいる。

 ……ちょっと芝居がかっているけれど。

 

 そして最後に一言。


「よくぞ私を倒した。だがゆめゆめ忘れるな。

 いつか必ず第二第三のラスボスがこのダンジョンに現れて、

 お前たちにとって新たな脅威になることを。

 わたしはこのダンジョンのラスボスとしては最弱。

 まだ上に四天王がいて、幹部が三人いて、その上に大魔王がいて、

 それから、えーっと……」


 ……一言じゃなかった。


「長いよ!」


 口を出さないつもりだったんだけど……、

 と思いつつも突っ込まずにいられなかった夕凪。


 ラスボスは顔だけ夕凪に向けて「てへっ」っと笑顔で答えてから、

 それまでの苦悶の表情などなかったように平然と立ち上がる。


「この戦いはお前たちの勝利だ」


 腕を組んだ姿勢でゆっくりと四姉妹を眺め、

 一度ニカッと笑ったあと、優しさに満ちた表情を浮かべる。


「この先に宝の部屋がある。忘れずに持って帰れ。

 ダンジョン攻略おめでとう」


 静かな声でそう言い残し、魔方陣の中に沈んでいった。

 あとに残ったのは大きな白い魔石がひとつ。

 子供たちはラスボスの消えゆく姿を最後まで黙って見送っていた。


 てれれてってってー。

 てれれてってってー。

 てれれてってってー。

 てれれてってってー。


 四姉妹はレベルが上がった。


 ミカンは【刀術レベル3】を手に入れた。


 ヒスイは【ブーメラン術レベル2】を手に入れた。


 スミレは【火魔法レベル3】を手に入れた。

 火属性上級攻撃魔法【爆炎】を覚えた。


 サンゴは【治癒魔法レベル3】を手に入れた。

 上級回復魔法【聖なる輝き】を覚えた。


 子供たちは少しの間、ラスボスを倒した余韻に浸って、

 レベルアップのファンファーレを聞きながらその場に座り込む。


 そして奥の部屋にあった宝箱から手に入れたモノは――


 魔法石【破魔術の心得】が四つ。



 第34話、お読みいただき、ありがとうございます。


 次回――「破魔術の心得」

 ダンジョンの攻略が終了し、新たに会得したスキルと手にしたお宝。

 その威力や効果を試す夕凪と子供たち……です。


 更新は11月1日を予定しています。


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