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第01話:プロローグ

夕凪ゆうなぎなら、もうひとりで大丈夫」


 突然、さぎりさんの声が聞こえた。

 もちろんそれは、私の心が聞かせた幻聴なのはわかっているけれど、

 それでも、たったそれだけで気持ちが楽になった自分に気付く。


 ――そう……私は大丈夫、心配しないで、さぎりさん。


 心の中で呟いて目の前の現実に集中する。


 これが初めての実戦。この世界で、この身体で。


 最初にやるのは敵の位置の確認。

 敵とは――魔物。私の新しい世界を脅かす存在。


 視界の片隅に見える簡易マップ、魔物はそこに映る赤い点。

 ざっと見て三、四十くらい。その方角に向けて速度を上げる。


 移動手段は自動一輪車。

 タイヤがひとつしかないバイクのような乗り物。色は赤。


 ――命名『コテツ君』


 しばらく走り続けて、ようやく肉眼ではっきりと敵が確認できる距離。

 といっても、この眼。肉眼って言って良いかどうかは微妙なところ。

 まあ、いい。いまその答えはいらない。


 見えてきたのは二種類の魔物の混成集団。

 毒ヒトデと突進魚。

 人の身長ほどの高さに浮かんで、こちらを威嚇するように動いている。

 見えるのは十体と少し――マップに表示されている数と合わない。


 と思っていると、すぐにも残りの魔物が姿を現わす。

 やはり毒ヒトデと突進魚。結局、マップにあった赤い点と同じ数になる。


 戦場になる場所は――

 大きな岩の柱が所々に突き出ているのを除けば、ほぼまっ平ら。

 その表面は地面と呼ぶにはあまりにも違和感がある。

 見た感じガラスのようで、景色を反射しつつ下も透けて見える。


 もちろんしっかりと固さがあるのだけれど、

 いま現れた魔物達はその下からスーッと浮き上がってきた。

 何ともおかしな光景。

 私の生まれ育った過去の世界とは全く違うのだと、改めて教えてくれる。

 けれども全て訓練で経験した通り。戸惑う必要はない。


 ――で、何処から攻める?


「右から行こう」


 これは自問自答。


 赤い点は左右に広がっていて、まっすぐ攻めたら回り込まれて囲まれる。

 右側が若干赤い点の密度が小さい。

 距離が離れているから銃撃はまだお預け。無駄玉はもったいない。

 それに今日は初の実戦。今後の為に身体を使った戦いも試してみたい。

 そのくらいの余裕はある。


 ひざで車体をきっちり押さえて身体を固定。

 握っているハンドルからコテツ君に減速を指示。体重移動で右旋回。

 すかさず車体を倒しすぎないように加速の指示を出す。


挿絵(By みてみん)



 こっちの動きに合わせて魔物が移動し始める。

 敵集団の右に回り込む位置につけて、そこで左に体重移動して急旋回。

 タイヤを滑らせて、正面に魔物を捉える。


 ここはもう射程内。銃撃開始。

 コテツ君を走らせたまま、視界にある照準を魔物の集団に合わせて、

 引き金の代わりに思考で直接トリガーオン。

 小気味良く軽快な音が鳴って、

 車体両側面にある銃口から、正面に向けて間断なく弾丸が吐き出される。

 同時に視界左下に表示された残弾数が減っていく。


 魔物の集団の側面、層が厚い方向からの攻撃だから無駄玉も少ない。

 だけど、銃弾の威力に比べて魔物の体力の方が上。

 一発当てただけだと倒れてくれない。


 それでも集団が固まっていたから、今の銃撃で十体くらいは光に還した。

 訓練で経験していた魔物の強さよりもちょっと弱い……かな。

 残弾数は九割……敵の残りは三十体弱ってとこ。


 で、このまま直進すると、敵の真っ只中に突っ込んでしまう。

 それはまだ早い。だから急旋回で一旦離脱。


「次は反対側から」


 これも独り言。

 たぶん小宇羅ちゃんたちには聞こえているだろうけど、

 聞かれて困るセリフじゃない。


 そのままぐるっと集団の左側面まで回り込む。

 銃撃再開。今度もあまり狙いにこだわらないで連射。

 攪乱させるのが目的だから。


 ある程度敵を削ったら――

 コテツ君から降りて戦うつもりなので、これはそのための準備。


 さっきは先制攻撃が上手くいって一方的に攻撃できたけど、

 今度はさすがにこちらに向かってしっかりと反撃がくる。


 毒ヒトデは腹をこっちに向けて、

 そこにある尖った口を開けて半固体の毒液を放ってくる。

 で、その毒攻撃……このロボットの身体にも少しは影響があるから、

 小宇羅ちゃんに「なるべく当たらないように」って言われている。


 話はそれるけど――


 この身体をロボットって呼ぶと、

 小宇羅ちゃんが何故だか不機嫌になる。アンドロイドって呼んでもダメ。


 でも『自律式絡繰少女人形』なんて呼び方、長いし言いにくいし解りにくい。


 そういえば、今乗っている自動一輪車――コテツ君――だって、

 小宇羅ちゃんに『熱血ばく進号』だなんて名前にされそうだった。

 名付け方がちょっとおかしい。


 まぁ、それはおいといて――


 毒液はコテツ君の前面を護る透明シールドで阻まれる。

 シールドには毒液なんか意味ないから直接の被害はない。

 とはいっても張り付いて広がって視界を邪魔されるのが困る。

 もうすでに二、三発が命中して、見えにくい場所ができている。


 もう一種類の魔物――突進魚は、

 鋭い牙のある口を開けて、高速で体当たりをしてくる。

 命中されれば衝撃で運転に支障が出るから、なるべく避けたい。

 蛇行しながら進んでいるから、そう当たるものではないけど……。


 ゴンッ!


 前面シールドに当たった。

 避けられないとわかっていたから、正面衝突を狙ってそれがうまくいった。

 少し速度が落ちただけで、これくらいなら車体は大丈夫。

 当たってきたサカナは光に還った。


 魔物たちは命が尽きると光の粒になって消滅する。

 これは前世でも同じだった。

 詳しい理屈は知らないけれど、グロい姿を見なくていいのは助かる。

 二度目の攻撃で倒した魔物の数は、十体にちょっと足らない。


 けれど今度はそのまま銃撃を止めずに、

 コテツ君に乗ったまま魔物の群れの中に飛び込む。


 恐怖は無い。


 何でかって言うと……。



 ◇ ◆ ◇



 彼女の名前は立原たちはら夕凪ゆうなぎ――転生者である。

 異世界の存在に生まれ変わった元日本人。


 今の世界を現世界と考えれば……異世界からの転生者。


 いまから三日前、

 この世界で彼女が目覚めた時からこの物語は始まる。



 新作プロローグをお読みいただきありがとうございました。

 今後ともご愛読いただけますよう、よろしくお願いいたします。


 ということで――

 お待たせしました。【動く挿絵付き】第二弾、新作始まりました。


 今後の更新は――

 明日6月11日の昼頃「キャラクター紹介その1」を掲載。

 その後、同日の夕方から夜にかけて本編三話を順次更新予定です。


 その後は週に二話更新くらいのペースで考えています。

 皆様の温かい応援をよろしくお願いいたします。


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