第五話 実日子を待ち受けていたもの
ここ数日の間、テレビで、父親の事件が明るみに出た。実日子は少しだけぞっとして、ベッドに向かった。すると、潤子から連絡がきた。
「ミカ、大変だよ。友達から聞いたけど、あの新聞社の事件、ミカのパパが起こしたって?」
「そ、そんなことどうして?」
「どうしてもこうしてもないわよ。ネットでもう、いろんな情報が特定されてるわよ。ねえ、あれ、本当にミカのお父さんが起こしたの……?」
「……うん、そうだよ」
「……そっか。ねえ、明日からさ、私、別のグループの坂口さんたちにお昼ごはん食べようって、誘われてるんだ」
「もしかして……私抜きで?」
「ごめんね、ミカ……」
潤子はそこで電話を切った。
実日子は絶望にうしひちがれ、そのまま眠りについた。
翌朝学校に行くと、机に、「父さんが倒産だ」「犯罪者の娘、もう来るな」「もう一回留年しろ」と落書きされていた。あたりを見渡すと、実日子を独りにして、周りの生徒がにやにや笑みを浮かべている。潤子の姿を見たが、悲しそうな表情をして、すぐに潤子は視線を逸らした。実日子は、浮かんできた涙を、必死でひっこめようとした。
それでも、帰りになると、潤子がSNSで、
「ミカ、中庭で待ってるね」
とメッセージを送ってきて、放課後そこに行くと、
「ミカ、一緒に帰ろ」
と、言って、潤子は実日子へのいじめの首謀者の悪口を言いまくった。実日子はそれがすごく嬉しかった。
実日子へのいじめはひどくなっていった。理科で使うBTB溶液で椅子が濡らされていたり、女子生徒に消毒スプレーをかけられ、笑われたり。実日子へのいじめをやっていたのは、基本的に坂口というリーダー格の女子グループだった。だが彼女らのいじめは狡猾で、犯罪に行くか行かないかギリギリのラインでいじめをとどめていた。
秋ごろになると、実日子はもう、転校することを希望した。潤子にまでいじめの手がくることを恐れたのである。そういうわけで、ある日、潤子と帰る時、心の中で転校することをどう母親に話すか考えていた。
ところが、家に帰ると母親はいない。七時ごろまで待ったが、帰ってこず、一本の電話が入った。
「W警察署の者です。古畑さんのお宅で間違いないですね」
「……はい」
「あなた、娘さんですか?」
「……そうです」
「直ちにR病院に来てください。お母さんが事故に遭いました」