第四話 聡子
実日子は、部屋でベッドのシーツに身を埋めていた。聡子がいなくなることがショックだったのだ。父親が失職したことも、絶望的だった。
(お金のない生活なんて、想像できないわ。みんなから馬鹿にされるのかしら。ママに、転校を勧められたらどうしよう)
近くにハルが寄ってくると、
「スー、わたし、どうしたらいいの?」
ハルはぴょこんと実日子のベッドに飛び乗り、彼女の頬にすりよせた。
(実日子、ほんとうに、僕はひどい悪魔だ。悪魔として生まれず、ただの野良猫として生まれてくればよかったのに)
「スーは優しいのね」
実日子は力なく笑い、スーの頭を撫でた。
ドアがノックされた。
「ミカちゃん」
入ってきたのは姉の聡子だった。
「おねえちゃん」
聡子は実日子の勉強机の椅子に座り、彼女に語りかけた。
「パパのこと、恨まないであげてね」
「恨むだなんて、そんな」
実日子は強い口調で言った。
「私が働いて、ミカちゃんたちに仕送りするからね」
「水商売は嫌よ」
くすりと聡子は笑った。
「パパはああ言ったみたいだけど、貯金はあるから、大学卒業までのお金は出してくれるみたいだから、心配しなくていいわよ。パパはちょっと悲観的だからね。」
「じゃあお姉ちゃん、まだいてくれるんだ」
「そうよ。ミカちゃんは病弱だし、家族の存在は大きいものね」
実日子は聡子に抱き付き、ぼろぼろ泣いた。
(ああ、美しいな。不幸になると心が貧しくなるのが人間だと思ったけど、そうじゃない人間もいるんだ。今回の仕事で僕は大切なことを、ひとつ学んだようだ)
ハルは座り、蒼い目を光らせて、姉妹の愛を見つめていた。