表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

最終話 運命(さだめ)

 ハルと聡子は、階段を駆け下りて急いで実日子のいる無菌室に向かった。

 そこには、息の絶えようとしている実日子がいた。

「実日子!」

 ハルは駆け寄った。すぐ傍にいた医者は、

「体力が非常に低下しています。もう治療をする余地もありません。今夜が峠でしょう」

 窓の外では、西日が傾き、茜色の陽が差していた。

「ああ、実日子……」

 聡子は泣き崩れた。

「実日子、僕が誰だか分るかい」

「…………」

「覚えているかな、僕は……」


「スー……おいで……」


 実日子はか細い声で、ハルを呼んだ。

 ハルはすぐさま、

「これを受け取ってくれ、実日子……」

 花束を渡そうと、実日子に近づいた。無菌室のビニルのカーテンに入ろうとすると、医者は止めようとした。

だが、実日子は、その花束を受け取ろうとしなかった。

「何故受け取らないんだ、これを受け取れば君の命は……」

「スー、おいで……」

 実日子はスーの首に手を絡ませ、頬にキスをした。

「大好きだよ、スー。いっぱいわたしのクッキー食べてたね。可愛かったよ。わたしの枕元で寝転ぶスーを見てると、いつも私はスーのお腹を撫でてた。すごく温かかったよ」

「僕はまた猫の姿に戻るよ、実日子。だからどうか、生きてよ」

 実日子はハルの頬に手を添え、力なく微笑み、涙を一筋零した。

「違うでしょ」

 実日子は静かに言った。ハルはぼろぼろ涙を零し、

「そうだね……人間の姿に戻ったから、言わなくちゃね」

 ハルは花束を棄てた。そして実日子の頬に口づけをして、

「……愛してくれてありがとう、僕も君を、永遠に愛してる」

 そしてそのまま、実日子は息を引き取った。




 ――魔界にて。

 ハルは官僚を辞め、高校教師になった。

 もう二度と、仕事のなかで、愛によって傷つくことはなくなった。

 ところが、彼は恋をして、妻をめとることになる。

 魔界の生徒たちの視線はまっすぐだ。ハルは生徒たちにも恵まれ、いつしか、愛の本当の意味を知った。

 ある日の数学の授業。

「それじゃあ、この間の期末テストを返す」

 ハルがそう言うと、クラスは非難の声でどよめき、ハルが名前を呼び、生徒にテストを返して行った。

「次」

「はい」

 少女の悪魔が立った。

「95点か。大変いい出来だ」

「ええーっ95点!?」

 生徒のひとりが驚いた。今回の試験は難しかったのだ。

「頑張れば先生のお給料上がるんでしょ」

「いや、それはない。ほら、早く受け取って、席に戻りなさい」

「はーい」

 少女が席に戻ろうとすると、振り返って、

「ハル先生」

「何だ」

 少女は意地悪く笑い、

「スーって呼んでいいですか」

「駄目だよ、実日子」

 ハルは笑い飛ばし、いつまでもニコニコほほ笑んでいた。


[了]


最後まで読んでいただきありがとうございました。まだまだ描写力が足らないのが課題ですね。もっとハルと実日子のかけあいをやるつもりだったんですが、先を急いでハルと実日子が別離してしまったのは、自分でも失敗だったなと思います。ディティールを精密に描けるよう努力します。再びになりますが、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ