第十一話 薔薇の花束
バフォメットがハルに、実日子の死期を告げて2日が経った。
実日子は、楽しく友達とお喋りをしながら、お弁当を食べていた。
すると、実日子は、急に咳き込み、
「……ちょっと、ミカ、血吐いてるよ!」
「どうしたの古畑さん! まあ……どうしよう、救急車呼ばなくちゃ! 谷川さん、保健室まで連れていける?」
担任教師が動転して声を張り上げた。
「わかりました先生、潤子、手伝って。古畑さんを運ぼう」
「……だい……じょうぶ……ゲホゲホ……歩ける……」
実日子は保健委員の谷川と潤子に連れられ、制服を真っ赤に染めながら介助され、保健室まで歩いて行った。
ハルはそのことを知らず、聡子のいる大学へ向かった。
「本当に渡さなくちゃいけないのか? この花束」
荒井は薔薇の花束を持っていた。
「僕が思いつく限りの方法です。もっとも、僕は恋をしたことがないんですけど……」
やれやれ、と荒井は思った。
ベンチに座っていると、聡子の姿が遠目から見えた。
「なんか怖いな」
「じゃあ、花束、置いて行っていいんですよ」
「いいよ、持っていく。俺の家に花びんはないんだ」
そう言って、荒井は花束を持っていき、聡子の元へ向かった。
ハルは実日子のことがずっと、心配だった。
だからはっきり言って、バフォメットの命がなければ、荒井の恋愛事につき合っているいとまはなかった。
荒井は聡子の前にひざまずき、花束を渡した。聡子は動転していたが、花束を受け取った。
(……まさか、やったというのか?)
すると、突然荒井が倒れた。
「荒井さん……!?」
ハルは荒井の元に駆け付けた。聡子はうろたえていた。
「あなた、誰なの?」
ハルは聡子から花束を奪い取った。メッセージカードが付いていた。
(なんだこれ……メッセージを頼んだ覚えはないぞ?)
そこには、こんなことが書かれていた。
『この花束の持ち主の魂を、愛する人に捧げます』
(そういうことだったのか……!)
ハルはすべてを直感し、背筋がぞっとなり、
「説明は後です、古畑聡子さん、あなたの妹さんが危ない。病院に行きましょう」
「な、なにを言ってるんですか? 私の妹は学校に……」
突然、聡子のスマホが鳴りだした。学校からだった。
聡子は応じると、教師から実日子が病院に運ばれたことが告げられた。
「……あなた、何者なんです?」
「いいから早く行きましょう!」
ハルは突然背中から大きな黒い羽根を広げ、聡子を抱えて飛び立った。周囲の学生たちがどよめき、すぐさまスマホでハルの写真を撮り始めた。
「……あなた、もしかして、実日子の連れて来た猫でしょう?」
「勘のいい人だ。僕は恩返しをしなければならない」
「ありがとう、優しい人なのね」
ハルは病院まで聡子に案内され、その屋上に上陸した。




