プロローグ
ハルという、美しい名前の悪魔がいた。
彼は若干十五歳。その年だが、役所に勤めていた。最年少だった。
ある日、上司から辞令が出た。ハルたち新人の悪魔官僚は、会議室に集められた。
「我々は所詮必要悪であることを、貴様らは忘れてはあるまいな。我々は人間の起こした数々の戦争に、順応しながら価値観を変えて来た。ハル、私が言いたいことは分るな」
「はい、悪魔にも正義がある、ということです」
銀髪ですらりとした体型で背が高い、青色の目をした、黒ずくめのスーツを着た、ハルが答える。
「その通りだ。我々悪魔は人間を試すために生れて来た。ただそれだけのことだ。単に人間を不幸にすることが我々の役目だとするなら、我々に秩序や美学など不要なのだ。……さて、前置きはこれぐらいにするとしよう。貴様らには、渡した書類の人間を、各々の方法で追い詰めてもらう」
「部長殿、ターゲットの人間を殺すこともいとわないと書類に書かれていますが」
「安心したまえ。君たちに殺してもらう人間は、リストに書いてあるから、不正ではないよ」
リスト、というのは、天界の事務局が発行した、死亡予定の人間のリストである。天使や神のいる天界と、死神や悪魔のいる地獄界は、連携をとることもあるのだ。
「任務中は非情になりたまえ。悪魔にとって最大の敵は、情に流されることだ。心してかかるように、以上」
「「御意」」
悪魔たちは、去って行った。
(僕にできるだろうか……こんな心の澄み切った人を不幸に陥れるなんて……)
他の悪魔はどうか知らないが、ハルはもう、胸を痛めていた。