ナル金ズ
皆の視線が突き刺さる、こんな状況に終止符を打ってくれたのは、意外な人物だった。
「オーッホホホー!」
その甲高くて耳につく、わざとらしい笑い声を放つのは、記憶にある限りあいつだけだ。私が通っていた中学の同級生に違いない。私立メアリーローズ女学院中等部を主席で卒業した、ナタリーの声だ。彼女のブロンドの長い髪はくるくると巻かれ馬鹿っぽいのだが、全身からはいかにも才女の風格が漂っている。
「彼女が優秀なのは、その血統だけですのよ!」
中学の時から、ナタリーはこんな感じだった。没落した名家の娘だからなのか、私の家柄に対抗意識があるのかもしれない。そのまま高等部にエスカレートするとばかり思っていたのに、意外だ。まさかとは思うが、私を追いかけてきた、なんてことはないよね。
「どう?ここで私と勝負なさらない?そうすればすぐに、あなたのこと十分に知って貰え得るのではなくて?」
ビシッ!と。ナタリーは指を突き付けてきた。
「そ、そんな」
なんだか、引き下がれないようなムードになっている。恥をかくのは、明白だ。
「おい。あの大魔導士スタオラの娘だってさ。聖なる魔法の全てを習得し使いこなす紫の大魔法使いでありながら、驕りの一切ない人徳者。ほんと、その娘はどんな戦いすんのかな?ぜってー、入学最終試験なんて目じゃない試合になるよなー!」
周りは口ぐちに勝手なことを言っている。でも、あの担任が許可するわけ…………
「許可する。若人よ、死合え!」
え!?こんなキャラだったのか。まあ、確かに血の気が多い気はしてたけど。
「決まりですわね」
私達は教室を後にし、戦闘シミュレーション室へと移動した。もう、断れない雰囲気だ。
「あたいは気付いてたよ。あんたの輝きにね!」
ののが、グッと親指を立てながらそう言ってきた。おそらく自己紹介時に名前を聞いても気付かなかったんだろうな。
「ネロはねー」
急にネロが話しかけてきた。
「ネロは、あんな嫌味なナルシストのパツキン達よりもね。お姉さんのことが好きなのだよ」
何故か好意的な様子だ。共通の敵がいるから、味方としてカウントされているのだろうか?
「ボインは正義!」
ネロが、グッと親指を立てながらそう言ってきた。なんか、……複雑な気分になった。
「あっ、ちょっと。ちょい待ち!」
私が大人しく試合の場に行こうとしたら、またもネロの声で引き留められた。そして、グイと腕を引かれ、耳元で話しかけてきた。
「お姉さん。ネロには分かるんだ。危なくなったら、鼻を触ってね」
と、良く分からないことを言ってきたネロは、私の鼻に軽く触れた。
「おまじない、ね。フレーフレー、だよ」
私は本当に単なるおまじないだと思っていた。
ナタリーはやはり強い。すぐに追い詰められた。そして私はネロに言われた通り、鼻を触ったんだ。
ゴッ。
本来シミュレーション室はダメージの概念が存在しない筈。なのに、そこには大きな風穴が開いていた。そして、その穴は幾重もの壁に連なっていた。
いや、「ていた」なんて表現は間違っている。そう、私が開けたんだ。それに、この現象は、何処かで。