大魔導士スタオラ
この世界において、太古の昔に栄えていた文化、それは魔法である。何も無い場所から、人が念じるだけで、火が水が雷が発生する。その不思議を解明できなかった古代の人々は精霊の力だと考え、崇めた。そして、精霊の名の元に集団が形成された。
国だ。
火の国イグニス、水の都アクア、雷の谷ファルガー、………。これらは、精霊を絶対神とする、宗教国家なのだ。教えを広めるという大義名分によって、他国民の殺戮、領土の侵害、強奪は止まらなかった。
そして、国という体系は滅びた。
滅びは、綻びだ。統制を逃れた魔法は、うねった力を生み出し、その勢いを渦へと変貌させ、世界を飲み込んだ。
そして、世界が滅んだ。
…………確かに滅んだ。
しかし、我らは生きている。
何故か?
時の国オーランは、絶対王政ではない。選ばれた国民による議会が存在していた稀有な国家だ。だが、君主が国の全てを動かしていた。全国民の信任によって、民主主義がその姿を変えていたのだ。恐怖ではない。洗脳ではない。信頼だ。
オーランは、時空魔法の使い手たちが集まった国だった。ある特殊な遺伝子を持つ者だけが扱える、そんな魔法の一種だ。
オーランの王は言った。人間は絶える。それは仕方ない。ひとつ悔いがあるとすれば、世界もろとも他の生命までをも滅ぼすことだ。
オーランの民は言った。世界は絶える。それは避けられない。けれど、王、あなたには生きていて欲しいんだと。
民の命によるエネルギーが、王に集まった。そして、ある強大な時空魔法が発動した。
リセット
世界の時計は逆に回り、渦は消え失せ、国は消え失せ、そして人々から魔法の知識が消え失せた。
オーランの王は涙を流した。民の命は巻き戻らなかったのだ。
王は誓った。同じ道は歩ませないと。世界を正しく導く為に、老いを、死を捨てた。
世界は先に知る。念じなくとも、火は起こせる。水は、川から、井戸から得ることが出来る。電気はモーターを回せば生まれる。そうして、兵器が生まれた。
世界を滅ぼすまでの力を持つ兵器の登場には、年月がかかった。だから、小競り合い、しかし、尊い犠牲だけで済んでいた。そうして時が経ち、理論上は世界を壊せる兵器が開発されても、その時には戦争は経済を武器にしたある種代理戦争という形を取っていた。
けれど、やはり生まれるのだ。王が世界を、民の存在した場所を愛するように、憎む者は現れる。世界を滅ぼす兵器を実際に使うものが誕生した。
王がそれを許しただろうか。否、それは有り得ない。
王は敢えて、魔法を流布していたのだ。兵器の発射ボタンが押されても、魔法により災厄は回避された。
王は魔法が正義に使われるのを見て、死を迎えることを選んだ。一人息子が15歳を迎えると、王は死んだ。最後に、その息子にこう言ったという。私は世界を救った、けれどそれは一時的に、いや一度救ったというだけかもしれない。強大な力同士を拮抗させただけなのだと。
そして後に、魔法、そして兵器、両方を強化する技術が生まれる。操作だ。誰かの気まぐれで、世界は滅ぶのかもしれない。
そんな、伝説、いや史実がある。
時空魔法は、血で受け継がれる。そうオーランの王の一人息子とは、お父さまスタオラのことだ。
教室の注目は一気に私に集まる。あのスタオラの娘なのだ、当然だ。隠す気はなかったとはいえ、こう奇異の視線に晒せるのは気分が良くない。…………それに、私は出来そこないだから。