わがままな担任
「君らは合格だ」
私は耳を疑った。だって、試合は新入生チームの敗北だったからだ。
「はあ?納得いかねーよ!こいつらは負けたんだ」
沖田先輩が校長に食ってかかる。いまにも、抜刀しそうな勢いだ。
「やめな」
そういって、最終試験の開始を宣言したあの女教師が先輩の前に立ちはだかった。黒いミニスカートのスーツと黒いタイツ、そして黒くておそろしく高いハイヒール。全身を黒で統一しているので、長く美しい、その赤い髪がよく映える。いかにも気の強そうな美人が、腕組みをして鋭い眼光を向ける。
「……先生が、そう言うなら」
あの先輩も、この先生には弱いようだ。
「ありがとう、奈々子。まあ、沖田、お前の気持ちも分かる。だから、説明をちゃんとする。大人しく体育座りでもして聞いてろ」
先輩は大人しく引き下がり、校長の話は続く。
「まずは、ネロ、君に賞賛の言葉を贈ろう。この合格は君が勝ち取ったものだよ。素晴らしい」
「えへへ。そんな照れるよー」
ネロは、年相応の無邪気な笑顔を見せた。やっぱり子供なんだな。
「この試験の本質を見抜いていたようだね。今年の合格か否かの基準は、勝敗の結果ではなく、チームワークで決めることにしていた。それでネロは連携によって、試合に決着をつけようとした。…沖田、実際問題あそこで長時間、超重量の水に耐えられたか?」
「くっ!それは」
「そう。あの場面で溺死させることが可能だった。いや、そもそも開始すぐうららに神獣レベルの召喚をやらせたら決着はすぐについたんだ。けれど、ネロは全員に見せ場を作った。最初にコロセオだ。彼の見どころは速さ以上に防御、異常なタフさにある。それは沖田とのタイマンで証明された。次にネロ自身。あんなプログラムを構築できるのは流石だ。最後にうらら。あの召喚は痺れた。そして、合わせ技だ。これで、個々の魅力のアピールとチームワークを効率良く披露できた」
「ぷぷぷ」
聞いていると、かなり、というか、ほぼ全てネロの作戦のおかげのようだ。すごい。
「コロセオの近距離戦闘とうららの召喚による広範囲魔法は相性が悪い。それは危険な召喚獣の攻撃に、コロセオが巻き込まれかねないからだ。そして、身体強化型のコロセオや召喚獣にはプログラムの介在する余地がない。そんな中で、よくぞ協力した」
「皆の衆ー!ネロに感謝だな!!」
ネロのテンションはかなり上がっている。飛び跳ねて、手を振っている。周りの新入生からのネロコールが止まらない。向こうでは、ネロファンクラブの会長を賭けた拳闘がすでに始まっている。
「無論、コロセオ、そしてうららも素晴らしい!即席の司令官に従って、命を預けるのは素晴らしい勇気だ。有能な上官を見定めるのも立派な能力。学生諸君、この3人に、そして沖田に盛大な拍手を!!!」
凄い闘いだった。私は、黒の魔法使いで、武器の扱いにも長けてない。そんな私にはまだまだこのステージは早いんだろうな。
「ののは興奮しっぱなのだ。最初の記事はあの3人の特集で決まり!」
入学式は無事に終わった。観てただけだけど、かなりハードだった。一時はどうなることか、だったけど無事で何よりだ。教室に案内されると、ぐったりとして一息ついた。
「ねえねえ、テネシー。あたい達の担任はどんなのだろうね?」
「ののの取材力によると?」
「あんた中々意地悪だねい」
周りは元気に騒いでる。まあ、皆は最終試験のこと知ってただろうしそんなもんかな。そんな中、廊下からコッ、コッという足音が聞こえてきた。そして、ガッと力強く扉が開けられた。教室は静まり返る。
「あたしが、1年を担当する」
あの女教師だった。男子生徒からの熱気がほとばしる。
「自己紹介なんて、どうでもいいよな?取り敢えず、聞きたいことがある。あの試合、退屈だった奴は手を上げろ」
えっ?なんでこんな質問するのかが分からない。新入生から選ばれた代表の戦いだったんだ。しかも、1人は青の魔法使いだよ。
しかし、以外にも数人が手を上げた。
「恥ずかしがってる奴もいるみたいだが、まあこんだけ居たら上出来だ。全員があの程度じゃ、教える気にもならんからな」
「なっ!ネロを馬鹿にしてるのかな!?おばさんの癖に、……ばばあーー。うえーん」
「異議あり!!」
ネロの耳をつんざくような泣き声と、先程就任したらしいファンクラブの会長の抗議の声から始まったブーイングで、教室は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。私はただオロオロしてる。
「キミら、程度が低いよ」
低く、落ち着いた声なのに、教室中に響き、騒ぎを収束させた。その声の主は、さらさらとしたブロンドが目立つ、美少年だった。
「あの試合も確かにマーヴェラスだったさ。急ごしらえのチームだったから仕方ない面もある。ああ、麗しの君、その綺麗な顔を涙なんかで曇らせないで」
「うわっ。キンモっ!ひくわ」
ナルシストは小さな子供には受けがいいと思ってたけれど、理系幼女には最悪だったみたいだ。
「と、とにかくさ。あのレベル以上のパフォーマンスの出来る人は他にも居るよ、この教室にはね。そう、だよね?」
そういって指差されたのは、なんと私だった。
「ねえ?あの大魔導士スタオラの娘、テネシー・ローゼンさん」