インテリ校長
「そう簡単には、行かせないんだよ」
ネロにとっては、この空間全てが自分の武器らしい。先輩に向かって、数多のコンクリートが飛来する。
『どうやら、ネロさんは爆風でコンクリートを飛ばしているようだ。おそらく、うららさんに炎エネルギーを出して貰い、それをプログラムしてる』
『じゃあ、ここからはネロの頭脳が勝つか、はたまた沖田の剣の腕が勝るかの勝負ってことみたいだぜー!!』
ネロは必ず、先輩の背後にコンクリが飛ぶようにしているらしい。大振りな刀1本が武器の先輩にとっては、効かなくとも嫌な攻撃には違いない。けれど、うららがいるであろう方向へと進む先輩の、走りを止めることは出来ない。
「おい!天才少女!こんな寒い攻撃が俺に通用すると思ってるのか?」
「ぷぷぷ。じゃあね。お熱い攻撃をどうぞーーッ」
『うおっ!解説ー。あんなのプログラムでどうやってやんだよ!』
『さあね。これがMIPの実力なのかな』
解説ですらその役割を放棄した、その攻撃は凄まじかった。先輩の前方から、数多のコンクリではなく、数多のビル群が飛来してきたのだ。いや、先輩へと吸い込まれるといった表現の方が正しいかも。それくらいの勢いと敵を狙う正確さがある。
「ふっ。まだまだ温いぜ」
沖田先輩は余裕を覗かせる。私だったら、自分に着弾するまでの数秒間、ビルという名の弾頭をただボケーっと見てるだけで過ごすだろう。
かたや、先輩の動きに焦りなどなく、洗練された動きに迷いはない。
最初に4棟のビルが来る。先輩は刀を右前方、そして左前方に振る。それらの斬撃は2棟のビルを完全に捉えた。そして、涼しい顔で棒立ちをしている。
え?2棟も残ってるけど。
これはまさしく杞憂だった。斬られたビルは、まるで中に爆弾が仕込まれていたかのように、激しく崩壊した。その勢いは残りの2棟に波及し、もろくも崩れ去った。
そして、先輩は次々と斬撃を繰り出し、続々と飛来してくるビル達に斬りこんでいった。自らの斬撃の性質を知り尽くした先輩は、おそらく最少の手数で、全てのビルをねじ伏せていた。
「もう終わりか?」
「……」
「どうしたあ?負けを認めたのか?純然たる敗北だろう?」
「……ぷぷぷのぷー。そうだね。敗北なのよ。センパイ」
「はあ?」
『沖田くんは、どうやら嵌められたようだ。あの寒い攻撃は沖田くんをイラつかせるのが真意だったみたいだ。最後のは本気で取りに行ったかもだけど』
解説の人が言うには、いつの間にか先輩は追い詰められたっぽい。
「くそがァー!!」
私には何のことやらだけど、先輩の焦りからも、どうやらネロの作戦らしい。
『おおっと!2人は上空に居たのか!』
『ああ、ネロさんの作戦は挟み撃ちじゃなかった。あの場所に、つまり土地の低いところに誘導するのが目的だ』
うららが召喚したのか、烏天狗が2体、うららとコロセオをのせて飛んでいた。どうやら、コロセオはあの攻撃に耐えていたようだ。
「ブーン。海坊主よ、来たれ」
うららがそう言うと、コンクリートジャングルは海に沈んだ。そして、巨大で凶悪な海坊主が現れた。
海坊主、それは一言でいえば巨大な異形だ。そして、闘いにおいて、身体の大きさはかなり重要なファクターである。
蟻と象。これらが素手で殴りあうとする。
どちらが勝つか。
考えるまでも無く、象だ。
『海坊主に、沖田を倒させるのかー!?』
一寸法師と鬼。一寸法師が針を、鬼が棍棒をもっていて、単純に殴り合うとしよう。
どちらが勝つか。
これも鬼だろう。しかし、一寸法師の持つ針が、仮に触れたもの全てを破壊するような武器だったとしたら………。
『いや、違う。水だ。海坊主召喚に伴い出現する、大量の水が狙いだ。海坊主くらいじゃ、沖田くんは倒せない』
「ぷぷぷ。溺れちゃえー」
『ですが、解説!沖田なら、水攻めくらい大丈夫なんじゃ?』
『ネロさんもそれくらい考えてるよ。おそらく、プログラムで、水の重量を何倍にも跳ね上げている筈だ。さしもの沖田くんもすぐには浮いてはこれないし、水圧でやられる方が先かもな』
「最後の仕上げ。初老!雷神を呼んじゃえーーっ」
「まだ言うか!吾輩はまだ少年である。……えへん!雷神よ、大海に降り注げ!」
あの禍々しい海坊主も、雷神の放ついかずちには敵わず、あわや鼓膜を破るかのような大きな呻き声をあげながら、倒れてしまった。そして、水も消えた。
『まさか、あの沖田を破ったのかー!?』
「ぷぷぷー。ネロの勝ちです!」
『…………いいや、ネロさんは判断を誤った。もう少し、水に閉じ込めておくべきだったよ』
先輩は無傷で、ただ怒りの形相で立っていた。
『何!?無傷だと!!』
「俺の刀の腕を、舐めるなよ」
『ビルすら破壊出来るんだ。沖田くんが器用に刀を扱えば、超重量の水とはいえ、身ひとつ分の水の無い空間を作るのは簡単だ』
一瞬だった。一瞬で先輩は2人との間合いを詰め、斬り捨てた。
『勝負ありだー!!勝者は在校生代表、沖田ーー!!!』
私は、膝から崩れ落ちた。まさか、こんなことって。
「私は校長。講評します」