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天性の魔導士は愛されて  作者: wise
出会い(プロローグ)
5/13

平凡な天才

「この試合、ののはどうなると予想してるの?」


「そうだねぇ。あたいの取材によると、……」


 そう言いながら、ののは裏パンフに目を通す。本当に、新聞部なんて立ち上げられる程の取材力なんてあるのだろうか。他人事ながら、心配だ。


「個々の戦闘力で単純に考えれば、圧倒的に沖田が強いだろうね。でも、こっちは3人で、相手は1人…………」


 ののは続けて何かを言ったみたいだが、私は前半のみを受け取った。


「そうよね!数では圧倒的、絶対勝つわよ」


 うん、そうに違いない。この試合で、少しでも他の優れた人達の技術を見よう。ちょっとしたデモンストレーションだ。家でテレビでも鑑賞するように、リラックスだリラックス。両手で軽く頬を2回叩く。


「いけー、お前ら絶対負けるんじゃねえぞ!!!」


 突然、観客席の新入生が叫ぶ。


 紅茶とクッキーでもあればなあって気分なのだけれど、周りはかなり熱が入ってる。というかさっき叫んだ奴の目は血走っている。


「ねえ、のの?これって、賭けが行われてて、彼は全財産賭けてるってことはない、わよね?」


「まあ、熱くなるのも分かるよ。さっきも言ったけどさ、この試合、ほんっとどうなるか謎なんだよ」


 もういっそのこと聞いておこう。やけくそだ。


「そんなに、沖田先輩は強いのかしら?」


「うん、それもあるけど、代表の3人の相性がね、あんまり良くないからね」


 見てれば分かる、そうののは言った。


 見たくない、そう私は思った。



『まずは、ルールの説明だー!お互い殺り合え。以上。みんなー、楽しんでくれよー!!』


 ハチマキ先輩の短い説明の後、ネロが退出した。


『ネロさんには、実戦同様、安全圏からのオペレートも行ってもらう』


 解説担当のテンションは寝起きのようだ。


『戦闘の舞台はルーレットで、ランダムでいくぞー!』


 どこが選ばれれば有利なのかとかは全く分からないけれど、取り敢えず祈る。


『これは、おおっと!コンクリートジャングルだあ。大きさは、軽く一つの街ぐらい。戦略がものをいうか?』


 あ、それなら、ネロ擁する新入生チームが有利なんじゃないだろうか。ネロ様は希望の光だ。


 あの透明な直方体の中の、無機質な空間が、変貌していく。といっても灰色ばかりで味気ないのは変わらないけれど。そして、3人の姿は小さくなっていく。ここからは主にモニターで観戦らしい。あのリングには、身体を縮小させるプログラムが施されているようだ。


 試合開始のゴングがなる。


 沖田先輩は、何も行動しないようだ。1対多だからまずは様子見なのだろう。それに対して、新入生チームは先手を取る。ネロの指示の元、沖田先輩を避けるように、コロセオは大きく迂回しながら走っている。状況を俯瞰的に把握できるネロはかなりずるいような気もするが、味方だからよしとしよう。


『どうやら、挟み撃ちでも仕掛けようというのかー!?』


『本当に、そうかな?』


 解説の人の言葉は気になる。


 コロセオの移動速度は凄まじい。人間の枠に収まらないのは当然として、あらゆる生物もその足元に及ばない。機械の領域フィールドだ。それもそのはず。背中にジェットエンジンが付いているようだ。


『おおっとおお!!コロセオのブリーフから凄まじい推進力が!!』


 ………いいや、背中にジェットエンジンが付いているようだ。


 この試合の領域フィールドはまさしく街だ。3人で争う場としてはとてつもなく広い。なのに、彼はもう沖田先輩の後ろを取った。彼はおそらく身体能力を強化する魔法マジックを自分に使用し、あの兵器アタックの反動に耐えているのだろう。


 コロセオがネクタイをしゅるりと外すと、それはアタックになり、ハットを取ると、それはアタックになった。コロセオは一気に間合いを詰め、沖田先輩に斬りかかる。当たり前だが、数百メートルを数秒で駆け抜けるその推進力をのせての突進だ。


 先輩が持っている日本刀は、彼の唯一の兵器アタックである。


 魔法の才が無い先輩には、その刀が唯一の戦う手段である。


 しかし、抜刀しない。


 彼は生身なのだ。科学技術の粋である兵器アタックが少しでもかすれば、それは即ち死である。


 しかし、抜刀しない。


 しかし!!!自ら負けにいくようなら、あんな啖呵をきる訳も無い。


 沖田先輩は避ける!避ける!!避ける!!!コロセオの直線的な突進は全て見切られてしまった。


 コロセオはスピードを抑えて、柔軟な攻撃にうつるしかないのかな。


『コロセオの速さだけの単調な攻撃は、沖田には全く通用しないー!!!どうする!?コロセオーーー!!』


『やはり、コロセオくんはスピードを落とすようだ』


 コロセオの「背中」からの炎が弱くなる。不規則な攻撃に移行するようだ。


 私から見ても、明らかにスピードが落ちてしまった。 


 そんな攻撃は寧ろ先輩には避けやすいもののようだ。少し重心をずらすだけで、右に左に避けていく。


「おい、変態。お前のやってる剣技は機械がやればいい」


 ビュンッ


 ギャッ


 何が起こったのか、分からなかった。それは観客の多くだと思う。


 気付けば、つばぜり合いをしている2人の姿があった。


『解説ー。プリーズテルミ―!』


『簡単だよ。トップスピードを隠してたんだ。沖田くんに、コロセオくんのスピードは大したことないと思わせてからのトップスピードでの奇襲だよ。沖田くんが油断して喋った時に、GOサインを出した。ね?ネロさん?』


「ぷぷぷ。ネロは凄いのよ」


 しかし、ネロの計算違いもあるようだ。


「おいおい、その刀。修学旅行でテンション上がって、買っちゃたか?」


「かような、なまくらではない」


「じゃあ、それを扱うお前がなまくらってことか」


 沖田先輩はコロセオの矛を弾き、二度程自らの刀で、ギャッ、ギャッと、その矛に攻撃を加えた。すると、無残にも矛は砕け散ってしまった。


『おおっと!コロセオ、万事休すか?』


 先輩は刀の先をコロセオに向けたが、すぐに鞘に納めてしまった。


「ふっ、天才少女だかなんだか知らないがな、お前の作戦は失敗だ。何故ならこの変態に、この俺を誘導する程の力も無いんだからな。……まあいい。このおっさんはいつでも片づけられる。まずは、あの青の召喚士だ。こいつがこっちから来たんだ。奴は向こうか」


「吾輩、まだ戦える。雷神よ我が盾に!」


 天空から、雷が降り注ぎ、コロセオの盾が帯電する。


『あの雷で、攻撃力も硬度も先程までとは比べ物にならないですね』


 コロセオは突進する。しかし、先輩の刀の一振りで、その風圧のみで、コロセオは飛ばされていた。ビルを何個も突き破って止まった。


「寝てな」


『コロセオ、ダウーン!!!』


「おいっ!しっかりしやがれ!!」


 周りはやじを飛ばしているけれど、私は先輩の強さに、ただただ驚くばかりだった。

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