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天性の魔導士は愛されて  作者: wise
出会い(プロローグ)
3/13

くのいちののの

 私は立ち竦んでいた。単純に言葉が見つからなかったからだ。


「どけてくれ」


「え、ええ。そうね、……そうよね!」


 彼はもう覚えていないのだろうか。全く動揺する素振りもなかった。


 少し、ショックかもしれない。…いいえ、寂しいだなんてそんなことない!本当に軽く、両手で頬を2回叩いた。これで、多少はスッキリした気になれる。

 

 そのまま無言で、番号で指定された席に着いた。後ろの席には仏像が座っていたが、この際どうでも良い。自分の席に座ると少し冷静な気持ちで、今朝の出来事を振り返っていた。


 よくよく考えてみると、あれは明らかに私を狙っていたのではないだろうか。あそこで、運良く、……いや悪くか、ドラゴンに遭遇するなんて都合が良すぎる。


 誰かの策略?誘拐目的?大魔導士スタオラの娘である私を狙っていたのは確かだろう。


 色々考えてみても、全くサッパリだ。そして、一番の疑問は、後ろの仏像は何だ?


「おっす!」


 急に、横から大きな声で話掛けられた。彼女はいかにも元気溢れる快活な少女といったところだろうか。ニマニマと、屈託のない笑顔をこちらに向けてくる。


「あたいは望月のの。あんたは?」


 初対面の子に、あんた呼ばわりされるのは少し不愉快なのだが。まあこの笑顔に免じて許そうか。


「私はテネシー・ローゼン。テネシーでいいわ。よろしく、のの」


「うん!よろしくテネシー」


 自己紹介を終えると、また私は今朝のことを考えていた。そういえば、何かを見落としているような。


 そして、気付いてしまった。とてもとても大事なことに。あれは大事なファーストキスだったんだ。見ず知らずの男に奪われてしまった!


 今まで、恋愛なんて症状に陥ったことが無かったから、考えもせずに行動してしまったけれど、あの時本当にキスなどしても良かったのだろうか。好きな人に、じゃなきゃ。


 でも、ドラゴンを退治するときの姿はかっこよかった……かもしれない。


 つんつん。つんつん。ビクッ!!私は思わず跳ね上がった。


「なに!?」


 ののが横からつついていたようだ。そして、耳に口を近づけ、どこかを指差しながら、言葉を発した。


「あいつのこと知りたいか?」


 ののの指先は今朝のキス魔に向いていた。


「ばっ、ばか!あ、あの男のことなんて知りたいわけないじゃない!」


「またまた~。来てそうそう見つめ合ってたじゃないか!」


 もしやこの子、積極的に話しかけてきたのはこのちょっかいを出したかったからなの?心なしか、ニマニマが加速しているような。


「まあ、あたいに任せな!新聞部部長ののの様にね!」


「部長って、まだ入学式も済んでないのに?」


「大丈夫なのだよ。この学校には新聞部が無いから、あたいが創設したら、あたいが部長なのだ」


 えっへん!そう言いながら、小さな胸を大きく張る。誇れるような、ことなのだろうか。


「……それはいいとしても、部員とか、顧問の先生とかに当てはあるのかしら?」


「それは、だねえ……」


 ののは、私を上から下から舐めるように見てきた。


「わ、私は嫌よ!新聞部なんて」


「そんな殺生な~、やろーよー。あのメンズの情報手に入れ放題だよ~」


「入らないですし、要らないですう!あんなキス魔のことなんて知りたくもない!!」


 どよどよ。どよどよ。


 ののとの言い合いの中で、思わず大きな声を張り上げてしまった。周囲からの視線が痛い。思わず顔を伏せてしまった。


 えっ、キス!?とかそういうざわつきが執拗に聞こえてくる。


 ・・・・・・あれ?何か声が近い。チラッと横目で見る。ののだ。


「あんたですのお!!」


 思わず力いっぱい突っ込んでいた。すると、あははという周りの笑い声が聞こえた後、キス魔という言葉への注目は消えた。代わりに、教室の至る所から、ですのお~、ですのお~、と聞こえてくる。


「の~の~(怒)」


「いやー、怒んないで」


 ののは、小さな身体を更に縮めてガードする。小動物のようだ。


「まあ、ハア……いいですわ。ところで、何で新聞部を?」


「あたいはくのいちなのだ。だから隠密による諜報活動が大好物なのである」


「要はゴシップ大好きってこと?」


「ち~が~う~の~だ~。あたいは自分の長所を生かしてだな、学校のみなさんに有益な情報をね、届けたいだけであって、別に誰が誰を好きとかいうのが知りたくてたまらない性質な訳じゃないんだよ!」


「ええ、自己紹介をありがとう」


 ののはふくれてしまった。しかし、すぐに表情は明るさを取り戻す。切り替えが早いようだ。


「じゃあ、これからテネシーに取材力を見せつけるぞ!」


 ののはどうしても、自分がいかに新聞部に向いてるかを、私に示したいようだ。


「何をするの?」


「クラスメイトをかいつまんで紹介するのだ。まず1人目!青の魔法使い、乙女うらら!」


「え!?青の魔法使いが、居るの?高校入学前なのに?」


 基本的には、小学校を卒業する前までに魔法の適正を知ることになる。才能が少しでもあれば黒のオーラを纏うし、全く片鱗も無ければオーラは発現しない。無だ。


 そして、中学生は魔法能力の幅が出る。黒→白への変化で止まるものが大多数。更に、白→黄、黄→赤へと変化するのはエリートの部類だ。けれど、その先を行く青のオーラとは。


 黒→白への変化すらしなかった、私のような落ちこぼれよりも、更に珍しい存在だ。


「そうなのだ。いるのだ。召喚術のエキスパート。彼女に召喚出来ないものはない!!」


「誰?どの席?」


「テネシーの真後ろの席だ!!」


 そこには、仏像があった。ちょいちょい気にはなってたけど、さ。


「えっと、これ?」


「これじゃないよ!うららだよ」


 私には仏像にしか見えない。


「あ、の。うらら、さん?」


 ブーン


 まるで、壊れたパソコンにCDを読み込ませた時のような音がした。そして、うららが喋った。


「私はうらら」


 録音した音声を再生しただけのように聞こえるのだが…………

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