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天性の魔導士は愛されて  作者: wise
失われし都
12/13

出発の刻

 目的地はアレクのおかげで分かった。けれど、どうやって行けば良い?それに、あの声の言っていた“謎”とは何のこと?何をすれば………


 クラスメイト達の不安がる声が耳に入って来る。


 もうアレクの演説も終わって、気を紛らわすことが出来なくなっていたからだ。


 私は周囲を見渡した。


 ののを見る。


 彼女は新聞部部長だと言い張ってる。一応自分のカメラは持っているようだ。騒動が起こるとすぐにバッグからそれを取り出して首から提げている。この変事において、その根性は逞しい。けれど、シャッターを切っている様子は無く何をすれば良いのか、まだ戸惑っているようだ。


 うららを見る。


 彼女の性格ならこんな時には誰かを勇気づけているんだろうなって思う。周りを良く見ているのは単純に尊敬する。さすが見た目通り。でも今はただ路肩に佇むそれこそ仏像だ。……彼女の表情は全くといっていい程読めない。ホントはあの石で出来た瞳の奥で、怯えているのだろうか。


 コロセオを見る。


 ………見るのを止めた。


 ネロを見る。


 この子は優秀で自信家で人形のような気品のある美しさがある。それでも、子供なんだ。健気で素直で怖がりなんだ。この一件が始まってから、常にネロは私の手を握っている。白い肌はそのまま透けて消えてしまいそうで、私はネロの小さな手を強く握り返した。けど、大丈夫だよって、言うことは出来なかった。


 ナタリーを見る。


 珍しくナタリーの笑い声がかすれている。でも笑っているのは、いつもと同じことをしていないと精神が保てないからだろうか。ふふっ。ナタリーのいつもはああやって高笑いをすることなのね。私は少し好感を抱いてしまったようだ。


 アレクを見る。


 取り乱してこそいないが、落ち着きは無い。しきりにネクタイをいじっている。そして、思い出したかのように、くしを取り出し金色の髪型を整える。その繰り返しだ。彼には、皆を引っ張る素質があるとは思うのだが、今はその引っ張っていくべき先が見えないのだから、どうしようもないのだろう。


 そして、私は隼人を見ようとした。


 けれど、私は他のことに気を取られてしまった。


「あなたは知っている筈です。この星と地球を結ぶ架け橋を」


 そう、背後から声が聞こえた。


 ばっと振り返る。誰も居ない。


 何だったのだろう。私が、知っている?


 この星、日本のことなど来たばかりで知らない。知ってるのはこの学校くらい…………


 そして、私は気付いたのだ。


「みんな!!私、どうすれば地球に行けるか分かるよ!」


 そうなんだ。あの声、ジークハルドはこう言っていた。


 “失われし都の謎を解き明かせ”


 それは、つまり私達に解いて欲しいということなんじゃないだろうか。


 これはゲームなんだ。


 飛び越えられない段差を造るかもしれない、けれどどこかに梯子がある筈だ。倒せないモンスターを配置するかもしれない、けれどどこかに迂回路がある筈だ。


 私達、このクラスなら乗り越えられる、そんな可能性がなければゲームは成立しない。


 受けてたつよ、ジークハルド!


「この学校には、地球との連絡船があるんだよ」


 私は学校のパンフレットを読み込んでいた。だから小さな欄にまで目を通していた。


 戦闘訓練


 その一環として、国内唯一の地球との連絡船が存在していた。


 私達はその保管場所に向かう。



 大和


 私達の眼前にはとてつもなく大きくてクールで兵器を詰め込んだロケットが


 って言いたいのだが、現実は違った。ぼろい、機関車、かな?


「これは、魔動列車なのだ!!」


 ネロが元気よく叫んだ。列車マニアというよりは、ただ乗り物というだけで大喜びなのだと思う。周囲を走り回り、それに飽きると中に入ってまた走り回っている。


 ののは、ようやくシャッターを切り始めた。


 三両編成で、一二両は人が、三両目は物資を載せられるようだ。そして、輸送手段としての機能しかないようだ。


「テネシーさん。お手柄だね」


 そうアレクが言ってくれた。


「ふんっ!偶然よ。それか、奇跡よ、き・せ・き!!」


 ナタリーは認めてはくれないようだ。




「じゃあ、出発…………


「出発なのである!!」


 アレクが言うのかと思ってたけれど、コロセオに横取りされてしまった。


 落ち込むアレクに、コロセオがすかさず駆け寄る。……なるほど。



 私達は二手に分かれることにした。探索班と防衛班だ。


 この大和は大切な生命線なんだ。


 世界が捨てた土地に、帰りの手段が残されている保証はない。


 大和を失いそして謎も解けないとなると、私達は永遠あの危険な地球に取り残されることになる。


 それだけは避ける、それが半分の戦力を防衛に回した理由だ。


 三日分の食料を載せた魔動列車は地球へと向かう。片道30分のとてつもない距離を往く。


 ネロがまた、私の手を握る。


 白く綺麗な肌をした少女に、私はしっかりとした口調でこう伝えた。


「大丈夫だよ」


 まるで水彩画のように、白色は淡い赤色を滲ませた。

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