衛星国家
ジークハルドと名乗ったその声は、直接私の頭で再生されたように聞こえた。同年代の男のように思う。これから起こることを想像して、笑ってしまいそうなのを必死に抑えている、そんな印象を受けた。
そして勿論その声はこのクラス32人全員にも聞こえていた。
「皆!聞こえたかい!?」
そう叫んだのは、あのブロンドの美少年だ。
光沢の有る銀白色のタキシードスーツと、細い青色の格子が入った白を基調としたベスト、そして白一色のネクタイを締め、アイロンのかかった青色のハンカチを胸ポケットから見せている。
それらは多分入学式という式典に合わせたという事では無くて、普段着なんだと思う。
そんな、ピシっとした服装の彼が髪の毛をクシャクシャにしながら叫んだのだ。
………入学最終試験の後ではあんなにも威勢が良かったのに、結構繊細らしい。
「アレク!!」
そう叫んだのは、あのブリーフの中年男(そう見える)だ。
艶の無い茶褐色の肌と、太い赤色の糸でコロセオと刺繍された白のブリーフ、そして赤一色のネクタイを締め、糊で硬くした黒色のハットをギトッとした頭にのせている。
それらは考えるまでも無くて、普段着だろう。
そんな、ある意味ピシっとした服装のコロセオが叫んだのだ。
………そして、コロセオは不安がるアレクを慰める。
2人は強く、固く抱きしめ合った。
「止めて下さらないっ!穢らわしい!!」
そんな望まれないBLを止めたのは、ナタリーだった。
「ブーン。ナタリー、止めるの良くない、チームワークは大事」
え!?うららはこのBLを望んでいるの!?
ーーー仮チーム編成でうららは、私への対抗意識の塊であるナタリー、ナルシストで繊細なアレク、変態のコロセオの3人とチームを組んだ。孤立していた3人を見かねたうららが誘ったのだーーー
少しした後、何事も無かったかのように、目を腫らしたアレクが場を仕切り始めた。実に見上げた性格だ。
「まずは状況の確認をしよう」
先生が突如として消え、頭にいきなり知らない人間の声が響いたのだ。普通ならパニックかもしれない。
けれど、クラス全員がもう落ち着いていた。それはあんな濃いものを見せられたからだろう。
・・・まさか、うららはわざと止めなかったのだろうか?
手分けをして、あの声の真偽を確かめる。
学校には誰もいない。電話をしても誰も出ない。空を飛び回れる能力のあるクラスメイトに頼んで、この国を見て回って貰ったが誰も居なかったようだ。
おそらく他の国もなのだろう。あの声が嘘をつく理由は見当たらない。
まあ、そもそもこんなことに巻き込まれる理由も見当たらないのだが。
確認を終えると、教室に32人が集まった。
色んな手を使って状況を確認して出た結論は、このクラス以外に人間はいない。なんとなくは分かっていたけれど、揺るがない事実だと知ると重くのしかかる。
「じゃあ、これからの為に全員の自己紹介をしよう」
そして、順々に名前と、自分の扱う武器が魔法なのか兵器なのか、はたまた操作なのかなどこれから協力していくのに必要であろうことを伝えあった。けれど、このクラスは32人も居る。把握しきれない。
取り敢えず、あの男、キス魔の名前は「隼人」だということは記憶しておいた。
「それではボクの見解を発表しよう。うららさん、頼んだよ」
うららの目から光が発生し、教室の壁をスクリーン代わりに教材ビデオのような映像を映し出す。でも、仏像型映写機に見えてるのはどうせ私だけなんだろうな。
本当に、うららは何者なんだろう。
とにかく、うららが映す映像に合わせて、アレクが説明する。
「世界の人口は増えに増えた。そこで、月を人の住める環境へと変えて一部の人間を移住させることにした。しかし、たちまち立ち行かなくなった。だから衛星を増やした、可能な限りたくさんね。居住衛星、農場衛星、工場衛星、エトセトラ。ああ、そこまでは良かったんだ」
皆、失われた都がどこかは分かってる。なのに、昔話まで絡めて……。それにこれはお父さまの批判に繋がる話でもあるから、余り聞きたくはない。
「オーラン王は正しかった。戦争はやはり起こり、地球は変わった。地球は今や、手の付けられないモンスターと自律型の兵器が蠢く土地だ。そして人々は衛星へと逃れた。衛星は国となり、人々は人種など関係なく好きな国に居住している。今ボクらが居るこの日本もそんな衛星のひとつ」
そうだ。私は英国の私立メアリーローズ女学院中等部から、科学技術に偏重した日本へと来たのだ。
「失われた都とは、地球のことさ!!」
おおーっ!
繊細なアレクを気遣ってか、皆はオーバーなリアクションを決めた。
得意げなアレクを尻目に、慰めの準備が整っていたコロセオには哀愁が漂っていた。
自信が無い1話です(;´Д`)