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魔力の系譜 ~名も無き英雄~  作者: 胡麻かるび
第3幕 第1場 ―新しい生活―
95/322

Episode79 真紅の少女


 金の力、というのは凄い。

 シアもサラマンドもいるし、ソルテール行きの馬車に相乗りさせてもらって移動したわけだが、あっという間だった。ゴールドに換金したとはいえ、そして手数料もいくらか取られたとはいえ、俺は迷宮都市で稼いだ金の持ち合わせがけっこうあった。


 一度徒歩でダリ・アモールからソルテールに移動したときは三日三晩かかったか……。

 当時は子どもの足だったけど、今歩いても2,3日かかるのは間違いない。それが丸一日で着いてしまったわけだから、やっぱりこれが馬の……いや、金の力というものなんだろう。


 町に近づくたびに緊張してドキドキする。

 約5年ぶりの再会。変わったのは俺だけじゃないだろう。でも二次性徴を迎えた俺の方が印象も変わっているに違いない。

 ダイアーレンの森の街道も、馬車で通り過ぎた。こっちの森はルクール大森林と違って針葉樹林が多いから伐採区としてちょうどいいらしい。

 当時リベルタ入隊試験で狩っていた熊たちも、今の季節で言うと冬眠の準備をしている季節だろうか?


 このあたりからは見慣れた光景だ。

 変わったところもない。

 森を抜けて、丘が見えてきた。


 もう辺りはすっかり日が傾いて、夕暮れ時の秋空と薄いシラス雲が棚引いている。風も少し肌寒い。

 年中熱帯だったアザリーグラードの気候と比べたら、なかなか快適な方である。


「ここは……」


 シアがその光景を眺めながら、風にたなびく長い青髪をかき分けた。この町は吹き上がる風が心地いいのだ。見覚えがあるとか言ってたけど、何か思い出もあるのかな?


「シアはこの町に来たことがあるんだったか?」

「はい」

「長閑で良い町だよ」

「はい、通りかかったときから憧れてま……憧れてたー」

「無理そうなら敬語でもいいけど……」

「……大丈夫だと思うー……多分」


 相変わらず不思議ちゃんだな。

 自然に喋りやすいようにしゃべればいいのに。

 いつかタメ口も慣れてくれるんだろうか。



     ○



 そんなやりとりをしてる間に、町の端に位置する馬車の停留所で降ろしてもらった。

 ここからは徒歩で野原の田舎道を歩いていく。若干、坂道になっているから長旅になると最後のこのラストスパートがキツいのだ。

 この道の両脇の平原には大型のダイアウルフが待ち構えている。

 道を外れて人気がない所まで行けば、それこそ血肉を求めた犬っころたちが冒険者や商人に襲い掛かる。

 俺もリベルタに入隊したばかりの頃には、修行の場所としてよくここに連れてこられたものだ。熊やグリズリーに比べたらまだマシだが、それでもすばしっこさで言えばダイアウルフにも苦戦を強いられた。

 俺が昔のことを思い出して、少し黄昏れているときの事だった。



 ―――ギュルギュルと、高速で回転するエネルギー音が遠くから木霊した。


 その音は狂気に満ちている。

 エネルギーが凝集しているような音?

 どこかで聞き覚えがあった。


 それと同時に平原の奥地から、必死に逃げ惑うダイアウルフたちがこちらに向かって駆けてきた。


「なんだ……?」



 ―――ハッ……ハッ……ハッ……!


 犬っころ達が懸命に逃げていく。

 群れにして6,7頭くらいはいるだろうか。

 徒歩で坂道を上る俺たち2人と1匹の目の前を、見向きもくれずに通り過ぎていった。


 その光景を俺たちは呆然と眺めていた。


「なんだか物騒だな」

「何から逃げているんでしょう」



 ふとダイアウルフの群れが逃げてきた方向に一瞥くれると、そこにはとんでもない光景が目に飛び込んできた。

 そこにいたのは、悍ましいほどに特大な火達磨だった。

 火達磨……というのだろうか。

 いつかルクール海岸で見かけた玳瑁(タイマイ)のようである。

 燃え盛る火球に包まれた楕円形の胴体からは手足のようなものが生え、その脚が高速に動きながら地を這い、ダイアウルフに襲い掛かっていった。

 そして這いずり回った後には焦げ跡が残る。


「え、えぇぇ?!」


 あんな魔法―――魔法かどうか分からないが、魔法生物だとしてもあんな火の塊は見たことがない。

 その火達磨は、ダイアウルフの群れから遅れを取ったと判断するや否や、手足のように突き出ていた部位を引っ込め、今度は蛇のようになって蛇行するよう這い回った。

 動きは機敏で、かつ気味が悪い。


「サラマンド、あれは何だ?」

「さぁ……見たこともねぇ」

「火の賢者のくせになんで分からないんだよっ!」

「バイラ火山に引き籠ってたんだから世間のことなんて知るわけねぇだろ!」


 火の賢者ですら分からない、火達磨の正体。

 ソルテールは平和そのものだったはずなのに、なんだというんだ。

 新種の魔物が現われたのか?


 その"大蛇"は平原に火炎を残しながら旋回して回り込み、逃げ遅れたダイアウルフ1頭を追い詰めた。

 逃げ場を失って戸惑うダイアウルフが後ずさりする……魔物とはいえ可哀想である。くぅんくぅんと怯えた声も出していた。他の群れも心配そうにその逃げ遅れたダイアウルフを見守っている。


 しかしその怯えるダイアウルフ1頭を、容赦なく"大蛇"は丸のみにした。

 動く焔は大口を開くようにして狼をバクリと食べてしまった。その動きは生物の捕食というよりも無機物な機械の動きのようだ。


 しかし"大蛇"は、ダイアウルフを平らげても尚、満足することはなかった。

 お次は特大の球体に変化して、ふわふわと浮かび上がる。

 ……変幻自在だ。


 その球体は空中に浮かび上がると、ギュルギュルと高速スピンしてその剛炎を振りまいた。地上には丸焦げになったダイアウルフの死体だけが無惨にも残されていた。

 そのスピンした球体はダイアウルフの群れに空中から突進するように襲い掛かった。


「容赦ねぇな……あの動きは生き物じゃねぇ。何かの魔法だ」

「魔法?」


 俺とサラマンドの会話の最中、シアは背中のロングボウを構えていた。

 あの火炎球を撃ち落としたいらしい。


「シア……?」

「風の力を使うかもー」

「風魔法で掻き消せんのかな」

「何事もやってみれば、というやつかも……です……!」


 シアは一本だけ矢を引き、低姿勢に弓矢を構えて渾身の力を込めていた。きっとダイアウルフが苛められているように見えて助けたくなったんだろう。確かにあれは魔物とはいえやり方が残酷すぎだ。


 そしてその弾丸は直線軌道を描いて、標的のど真ん中へと飛び込んだ。

 さすがシア・ランドール。

 エアリアル・ボルガの力なくしても空中の移動標的を射止めることもお手の物のようだった。特に標的があれだけデカければ当てやすいというものだ。

 その気流を纏った一矢は火炎球にぶち当たると、ガスの噴出音のような音を立ててその火炎を掘り進む。


「………え?!」


 だがそれも失敗に終わる。

 火炎球の中心部に掘り進んだその矢は、力尽きてダイアウルフ同様、飲みこまれてしまった。

 勢いを失うことなく、火炎球は高速回転し続けていた。

 シアも困惑してそれ以上何もすることができない。


 火球はその場で少し静止したが、特に俺たちに構うことなく引き続きダイアウルフの群れに襲い掛かった。


「なんだよ、あれ……」

「火の上級魔法のさらに上位、だな……。準神級魔法の一歩手前くらいか。あんだけのモノをあんな精密に操作できるってことは相当の魔術師が近くに潜んでるぞ」


 サラマンドも忠告している。

 上級魔法のさらに上位?

 やっぱり魔法なのか……。上級魔法って言ったら俺が知ってるのはリンジーが使っていた"ブレイズガスト"くらいか。でもブレイズガストよりも変幻自在で、絶えず炎の形状が変化していく。

 準神級魔法の一歩手前って……どれだけの魔術師がこんな町に来ているんだ。

 でもそれだけの大魔術だけど、使い方は頭が良いとは言えない。

 あんな乱暴に使いまわしていたら山火事でも引き起こしかねないぞ。


「シア、風で直接あれを誘導してくれ。放っておいても危ないし、とりあえず消し去る」


 俺はそう言うと、駆け足でその大惨事の近くへと駆け寄る。

 そして右腕に付属された機械を構えて狙いを定めた。インシグニア・アームズは俺の反魔力を結晶化して放出してくれる土の賢者グノーメ様開発のシリンダーだ。

 シアが空気をコントロールしてその火炎球の動きを邪魔したその隙をつき、その結晶を打ち込んだ。

 威力はないけど、振れた瞬間に打ち消してしまえる。


 特に何の抵抗もなく、その特大の火達磨は、霧散した。


 よしよし、ちゃんと機能してるな……。

 どういう原理か知らないけど、新規の変な魔法だったら効かないらしいこの力。

 いろいろと検証した結果、火・氷・雷・闇・聖属性の5つならちゃんと消せるみたいだ。あと基本属性以外でもより古典的な風魔法や土魔法も一応無効化できる。

 最近自信を失いつつあったけど、大丈夫そうだ。


 尻尾を下げて逃げていったダイアウルフの群れを見送ってから、俺は駆け足でシアのもとへ戻った。


「なんだったんでしょう」

「さぁ……」


 俺たちがさっきの魔法の正体に疑念を抱いている最中のこと。

 怪訝な表情の俺たちを再び混乱させたのは、可愛らしい悲鳴だった。



「わぁぁぁんっ!! ずるい、ずるいっ! そんなのずるいもーんっ!」


「?!」


 遠くから木霊する柔らかい声。

 声の主はかなり幼いように聴こえた。

 お次はなんだよ……やけに可愛らしい声が響いた。


 町の物見櫓の方からだった。田舎で見晴しの良いこの町は物見櫓を一つ置いているのだが、どうやらさっきのダイアウルフが逃げ惑う様子を高みの見物をしていた人間がいるようだ。魔法が消えたことに不満があるらしい。

 しかもかなり幼い。

 とりあえずその櫓へと向かうことにした。



     …



 梯子を登ってひっそりと近づいた。人の気配はあるが、息遣いが荒い。

 こちら以上に、相手は恐怖心を感じているようだ。


「………はぁ……はぁ……」


 相手の荒い息遣いを感じながらも、俺はひっそりと櫓へと登り詰めた。

 ゆっくりとその風通しの良い高倉の最上部までたどり着くと、その声の主が目に付いた。


「……う………ま、魔族……?!」


 俺のことを非常に警戒している。

 声の主は、全身赤で身を包んだ幼女だった。

 最近、幼女との縁が多い俺だが、決して自分から求めているわけじゃない。求めているわけじゃないぞ。本当にたまたま幼女を見る機会が多いだけだ。だから、別に自分が幼女好きというわけじゃない。むしろどっちかというと俺は年上の方が好きだ。

 年上の女性の落ち着いた感じに甘えたいと思っている。

 いやそれはさておき、目の前にいる子どもは身構えていた。

 年は……5,6歳くらいだろうか。

 本当に小さい。

 特徴的な、燃え盛るような真っ赤な髪―――それが長く後ろに伸ばされ、子どものわりには目元がはっきりしている。

 全体的に強い意志のようなものを感じた。

 グノーメ様も赤みを持った緋色の髪だが、この子の場合はもっと純粋に赤い。

 血のように赤い真紅の髪だ。

 こんな赤い髪をした人物を、俺は生涯でただ一人しか知らない。


「う………くぅ………」


 その子は、その大きな澄んだ翠緑の瞳を涙で濡らしていた。

 でも助けを呼ぶわけじゃない。

 強がりなんだろう。

 その小さな小さな手を、拳闘術の要領で構えている。


「……な、なぁ、さっきの魔法は――――」

「わわっ――わがあるじの、カノのほむら、の……えーと……そのっ……ば、ばるばりお・ふれいむ!」


 俺がその子へと手を差し伸べようとしたその時だった。

 その子は魔法を詠唱……したらしい。

 俺に怯えて慌てて詠唱したせいか、ところどころ噛み噛みで、しかも舌っ足らずなこともあってマトモな詠唱になっているのか不思議で仕方ない。


 だけど、その魔法は発現した。

 その子の構えた小さな握り拳、そして足先に、赤い魔力が集まっていく。

 やがてそれが燃えたぎる炎と化して、その子の手、そして脚を強くさせた。


「強化魔法……!?」

「えーーいっ!!」



 ―――そして、その赤くて華奢な身体が飛び跳ねた。


 炎によって強化された四肢が、俺に向かって飛び掛かってくる。

 やけに好戦的な子だった。

 その燃え盛る拳が迫り来る様子は、小さくても迫力を感じた。

 まるで投擲用の火樽のようだ。


 俺はそれを軽く往なして身を躱す。


 脚部の炎をブースターにして魔力でスピードを補正しているようだが、近接戦闘はそれほど得意じゃないらしい。たどたどしい飛び蹴りを躱すのは雑作もない。


「え……?! なんでっ」


 狭い木造の櫓で炎魔法を纏って戦うなんてなかなか賢いとは言えない……。

 これじゃあそのうち周囲に飛び火して物見櫓ごと崩壊してしまうだろう。

 だが幼女は戦うことをやめなかった。

 躱されても果敢に、俺という標的に対して殴りと蹴りを叩き込もうとしてくる。俺はそれを時には手刀打ちで軽くガードしていたけれど、いい加減止めないと火事が怖い。


「それっ」


 飛び込んできたその足を右腕で受け止めて、小さな足裏を掴んだ。

 それと同時に、足を強化していた炎魔法は掻き消えた。


「あっ!! やめてっ!! 離して!!」


 そして逆さ吊りにしてぶら下げる。

 ミニ丈の赤いスカートを履いていたせいか、ぶら下がる事によってそのスカートが捲くれ上がり、真っ白いパンツが露わになった。


「パンツは白か……」

「あぁ~~!!」


 幼女の顔が見る見る赤くなっていく。

 これで剥き出しのおみ足以外は本当に全身赤だ。

 髪も顔も服も、全部真っ赤。


「このっ! へんたい!! はれんちっ!! やめてっ」

「やめるのはそっちだ! こんな狭いところで炎魔法ぶっ放してたら危ないだろう!」


 俺はその白パンツを……いや、その子を叱った。


「わーっ!! 誰か助けて! この人、へんたいなのっ!」


 さっきとは打って変わって、この状況になって初めて助けを求めていた。

 生意気だ。

 危険人物はこの子どもの方なのに、なんで俺が変態扱いされなければいけないんだ。

 しかも俺は何も暴力なんて奮っていない。

 暴力なんて奮ってませんよ、メドナさん。


 確かにこの状況、傍から見たら俺がまるで小さい女の子の白いパンツを見るためにこうやって逆さ吊りにしているみたいに見えるかもしれない。

 でもいきなり襲い掛かってきたのはこの少女の方だ。

 俺は正当防衛で、この子の攻撃を防いでいただけ。

 そう、この逆さ吊りは正当防衛だ。

 正当防衛の結果、白パンツが丸見えになった。

 だからつまり、白いパンツが丸見えになっているのも正当防衛だから仕方ないんだ。



「………何をしているんですか、ロストさん」


 俺はあまりにパンツに夢中になり過ぎていて、物見櫓を後から登ってきたその人物の存在に気づかなかった。

 振り返ると、そこにいたのは青い髪した冷ややかな表情をしたハーフエルフだった。

 敬語は殺意にも感じ取れた。

 その青はこの赤い少女と相対するように冷ややかだった。


「シア………これは、正当防衛だ」

「どこにも正当さを感じませんけど」


 シアのジト目に映るのは、幼い少女のパンツを覗き見る変態の姿しかいないようだ。

 旅先早々、運が悪い。

 どうしてこうなった。



     ○



 シアの存在に安心したのか、この子も冷静になってくれた。

 いろいろと事情を聞かなければいけない。

 そもそもこんな幼い女の子なんだから、親だってこの町にいるはずだ。

 そんな子が1人で物見櫓に潜んでいたというのはどういうことだ。

 そして、さっきのダイアウルフを襲った炎魔法……。


「お姉ちゃんっ! 耳可愛いっ」

「ハーフエルフですので」


 とりあえず町の外れに位置する原っぱの一本杉の木蔭で、3人揃って休憩していた。

 幼女はシアの膝上に座って体を摺り寄せ、その尖った両耳に手を伸ばしてじゃれ合っていた。元々幼い印象のシアが、こうして実物の幼女と一緒にいるのを見ると、シアもお姉さんなんだと感じる。

 赤と青のコントラスト……なかなか良い組み合わせだ。


「名前はなんというのですか?」

「わたしはリナリー! お姉ちゃんは?」

「シア・ランドールです」

「シアお姉ちゃんっ」

「なんですか?」

「ふふふー」


 名前はリナリーというのか。

 シアの事を相当気に入ってくれたようだ。


「ちなみに俺の名前は―――」

「へんたいお兄ちゃんの名前なんて知りたくないっ」

「………」


 そうですか。

 まぁいい。とにかくこの女の子の事は親御さんに帰さなくてはいけない。

 だけど、というかもしかして、この真っ赤なスタイル、そして好戦的なあの態度。なんとなく俺の中で直感スキルが……というか誰でも立てられそうな推測ではあるが。


「いててっ! やめろ! この俺様を誰だと思ってやがるっ!」

「えっへへ……とかげ可愛いっ!」


 さらにはシアの肩に隠れていたサラマンドを、リナリーは強引に引きずり出していた。胴体と尻尾部分を両手で握りしめられ、豪快に引っ張っている。

 無垢な残虐性……子どもはけっこう残酷だ。

 子どもってのは平気で虫や小動物をいじめたりするからな。


 憐れ。

 憐れだぞ、火の賢者サラマンド。竜族の誇りがなんだとか精霊の中でも随一の強さとかあんな豪語しておいて、今ではこんな子どもに玩具にされて……。

 俺としてはざまぁみろと言いたいところだが、あまりにも残酷な引っ張られ方をしているのでサラマンドとはいえど、可哀想に見えてきた。


「この子はサラちゃん。レッドドラゴンです」

「どらごんっ?!」


 名前を聞いてさらに目を輝かせたリナリー。

 より胴体を引っ張る力を強めた。


「いででぇ……! やめろっ!!」


 ついに我慢しきれなくなったサラマンドは口から炎を、わりと高火力で噴き出して、その無垢な顔面に浴びせかけた。あれこそ正当防衛ってやつなのだろうか。

 だけど、リナリーはまったく動じない。


「火ふいたっ! 火ふいたよっ!」


 余計に面白がって顎を無理やりに開かれる赤トカゲ。そこに指を突っ込まれたりしていて遊ばれる。サラマンドは泣いていた。普段は乾ききった眼からは大粒の涙がぼろぼろと流れていた。


「火の耐性が強すぎる……なんだこのガキ……」

「さっきの魔法はリナリーさんが作ったのですか?」

「まほう?」


 シアは子どもに対しても基本敬語に"さん付け"で喋りかけるようだ。

 礼儀正しいのか、壁を張ってるのか……よく分からないけど、その壁を俺に対しては取っ払ってくれたわけだから嬉しいものだ。


「ダイアウルフを襲っていた炎魔法です」

「そうだよー。わたしがやったんだもんっ」

「………」


 こんな5歳児くらいの年の子が上級魔法をあんな精密に操作できるなんてあり得るのか?

 ガラ遺跡で見たリンジーが放った上級炎魔法ブレイズガストの事を思い出す。確かリンジーがアレを放った時にはワンドを使って、制御するのさえ苦戦していた気がする。

 しかも使った後には魔力も枯渇してふらふらになっていたよな。

 だっていうのに、リナリーは平然としている。しかもその魔法を使った後だというのに、強化魔法も使って俺に襲い掛かったくらいだ。

 どれだけの無尽蔵な魔力を持っているんだろう。


「…………」


 俺だけじゃなくて、シアも火の賢者サラマンドですらドン引きしていた。

 火の耐性が強い。准神級の炎魔法。赤い髪。強い闘志。

 もう9割方、そうなんだろうなと結論づいた。

 炎魔法の異常な火力を発揮した子ども。

 強すぎて逆に腑に落ちないところもあるが……。

 でも、間違いない。

 このリナリーという子、アルフレッドとリンジーの子どもだ。

 見た目の赤い印象、そして好戦的な性格はアルフレッドに似ている。

 でも顔立ちやそのふわりとした髪はリンジーの面影が強かった。


 なんてこった。

 こんな危険な子ども放っておいて何してんだよ、あの夫婦。



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