Episode57 アーバン・フラタニティ 戦
夜。
バンフラ初日の夜もまた、昼間と同様に盛大に賑わっていた。もしこの街の住人が冒険者以外ばかりだったら絶対クレームものだっただろうというくらいに。
「おっし、終わったぜ? どうだよ、ロスト」
俺はそんな街中がバカ騒ぎしている夜ふけ、グノーメ様の魔道具工房のもとで右腕の改造手術を受けていた。外の賑わいとは相反して、工房は静まり返っている。
「特に違和感はないです」
「良かった……」
グノーメ様は額の汗を腕で拭い、見た目にはそぐわないおっさんくさい動作で腰を叩いた。
「悪かった。あたしもこんなギリギリになるとは思わなかったぜ……」
三か月前に右腕のアップグレードを提案してから試行錯誤の末、ようやく俺のこの右腕に融合した旧式マナグラムの改造と装着実験が完了した。
「こうなると"試射"もぶっつけ本番になるな」
「まぁ今までと使い方は変わらないですし、俺が押し出されるか、弾を打ち出すかの違いですよね?」
「そうだな。そんな難しくもねえか。あとはお前の照準の精度がどれくらいかってとこだな」
グノーメ様には感謝してもしきれない。
興味とはいえ無償でこんないろいろやってくれたわけだし。
「悪いがこれでテメェはあたしの作品になったわけだから命名権はもらうぜ!」
「マジですか」
グノーメ様の作品か。周囲に放り投げられたヘンテコな機械の数々。
俺もこの1つになったわけだ。
グノーメ様は俺の右腕を"インシグニア・アームズ"と名づけた。男の勲章、という意味らしい。
○
そして2日目の俺たちの試合直前。
出場者の発射台に立たされた。
そこには転移魔法陣トランジットサークルが施されている。俺とユースティン、アルバさんの3人はそこに立ち、スタッフによって3人一斉に闘技場へと転移させられた。
時が一瞬止まったかのような錯覚の直後、俺たちは歓声が飛び交う闘技場へと召喚された。
<2日目 Bブロック 第1回戦 第2試合>
遮蔽ブロックで死角になって見えないが、おそらく相手の「スタルワート・ウォーリア」チームもスタート地点にいるに違いない。
―――いいぞー! チーズパン頑張れよー!
―――チーズパンってなんだよ! なめすぎだろー!
いろんな野次が飛び交う。
やはり俺たちの「暗黒覚醒チーズパン」は不人気のようだ。
闘技場側から観客席を見ると、全然違う世界に見えた。人があまりにも多すぎて豆粒の大群にしか見えない。大舞台に立たされるってこういうことなんだろうか。自分の戦いぶりをここまで注目されることはないから緊張する。
「じゃあ頑張るか、みんな!」
俺は気を引き締めて後ろの2人に話しかけた。
だが反応がない。
「……?」
後ろを振り返る。そこにいたのは足をがたがたと震わせるアルバさんと、固まったまま青い顔したユースティンだった。
「なんだ?! どうしたんだ?」
「………」
「………」
2人とも焦点があっていない。俺がいること分かっているんだろうか?
「もしかして緊張してるのか?」
2人とも俺に顔を見合わせ、その青ざめた顔を縦に振る。あれだけ俺に気合いが足りんとか自覚が足りんとかなんとか言っておいていざ舞台に立つとそれかい!
「とにかく深呼吸するんだ! 観客はカボチャだ! ここは激戦地、気抜いたら死ぬと思え!」
俺が発破をかけるも、2人はぎこちない動きでゆっくりと歩きはじめるのが限界のようだった。
…
作戦としては俺とアルバさんが近接タイプ、ユースティンが魔法による遠隔タイプということから、ユースティンが司令塔で、俺とアルバさんが前衛に位置する隊列でいくことにしている。
隊列を崩さず、敵の攻撃を防ぐ。
対人戦に持ちこんだら場外へ弾き飛ばし、集団戦になったらユースティンの魔法で撹乱させながら着実に倒していく。基本的にAブロック第1試合で見た「鉄壁のオフェンス」チームの模倣だ。
障害物に身をひそめながら、ゆっくりと進んでいく。
「ユースティン、お前のワンフレーズ魔法で死角から突けばいいんじゃないのか?」
小声で提案してみる。
「……お前はなにも魔法を分かってない。目標も定まらないのに打てるわけがないだろう」
そりゃそうだ。闇雲に打ち放ってもこっちの位置を相手に知らせてしまうだけだしな。
ちなみにユースティンの転移魔法もこのトーナメントでは禁則事項とされている。戦闘のぶつかり合い以外の方法での場外アウトはもちろんダメということだ。つまり、洗脳魔法によって対戦相手を操って場外へ落とす方法や転移魔法を使って闘技場から強制排除はダメということだ。
確かにそれらが使えるなら敵を落とすのも容易いだろうな。
どれだけ進んでも敵の姿が見当たらない。
この際ばったりエンカウントしてしまった方が手っ取り早い気もするが……いやいや向こうの作戦かもしれない。じっくり時間を使って俺たちを焦らせ、出てきたところを滅多打ちにするつもりかもしれない。
「………」
後ろの障害物から気配のようなものを感じる。俺のもつ直感スキルが働いたからかもしれない。
本当に偶然だ。
後ろをちら見したときに石壁のブロックの裏に影が少し飛び出ているのを見つけた。
「アルバさん! ユースティン! 後ろから来てるぞ!」
俺の掛け声に対して咄嗟に後ろを振り返る2人。
いつの間に後ろまで回ってこられたんだろう。モタモタしているうちに囲まれたのかもしれない。
「―――オセルより芽生えし、豊潤な光芒よ! 我が樵路を防ぎし生骸を葬れ!」
刹那、大きな声で誰かの詠唱が始まった。
試合はもう始まっている。いつ攻撃を食らっても仕方がない場面なのだ。
「出でよ、インテンス・レイ!」
続け様に唱えられた魔法の呼称。
ギュイーンとやたらと盛大な音が会場内に鳴り響き、その直後に石壁ブロックの裏からキャベツ一玉くらいの光の球がいくつも出現し、高速で俺たちに迫ってきた。
観客席からも「おおお!」という歓声が響き渡る。
派手な魔法を見られて観客側も満足しているんだろう。
「おい! 標的が定まらないと放てないんじゃないのか?!」
「あれは聖属性の上級魔法インテンス・レイ!」
「インテンス・レイ?」
「照準が要らない自動追尾型だ! 光の球は消さない限りずっと追いかけてくるぞ!」
いやいや、初戦から上級魔法ってレベル高すぎだろ!
慌てふためいている間に光の球は迫ってくる。
敵の一番近くにいたアルバさんがまず最初の光の球のターゲットになっている。しかしアルバさんもあれでもかなり戦闘能力が高い。難なく躱して体制を立て直してくれるはずだ。
と思いきや。
「あああああああ!!!」
全然動けてなかった。躱すどころが直撃し、体中が光に包まれた。露出された腕や脇から焦げた肌を覗かせている。
「おい、アルバさん!」
きっと緊張していつも見せる身軽な動きができないんだ。さっきも足をがたがた震わせていたし……。
俺が叫んでいる間にも光の球の数々は俺とユースティンに向かってきていた。
「――――Elektriche Kugeln………Duplikat!」
ユースティンが珍しく、2語の単語で詠唱した。
と同時にユースティンの背後から浮かび上がる2つの電撃魔法の球。それを器用に操って、自身に目がけて迫ってくる光の球のうち、2つを打ち消し合った。
しかしその戦闘の背後。
「―――我が主はカノの力を借りし者、紅蓮に焼かれ、その身を転じる」
聞き覚えのある詠唱がまた別の箇所から聴こえてきた。
これはよく聞いたことがある。
"数多の戦火を鎮めても尚……"
きっとそんなフレーズだったはずだ。
放たれるのは凝集された火球。火属性の中級魔法ファイアボールだ。
どこで見た経験があるんだろうか。後ろを振り返ると、想像していたものより少し小さめだが、ファイアボールがチーズパンの3人を焦がし尽くそうと、ゆっくりと舞い降りてきていた。
聖属性上級魔法インテンス・レイに火属性の中級魔法ファイアボール。
こんな魔法対決に持ち込まれるとは……。
まさか「スタルワート・ウォーリア」対「暗黒覚醒チーズパン」の試合でこんな派手な魔法バトルが見られると観客席の冒険者も考えもしなかっただろう。
「ロスト、まずいぞ! ………Elektriche…………ッ!」
ユースティンは汗をだらだら垂らしながら頑張って詠唱を始めたものの、ワンフレーズの詠唱すら口ずさむ隙はなく、ユースティンはジャンプして回避した。俺との拳闘術のトレーニングの効果も多少出ているようだ。
しかしその間にもファイアボールが今まさに着弾しようとしている。
おそらく着弾後には大爆発が起こり、俺たちは吹っ飛ばされることになるだろう。そうしたら衝撃次第では一斉に場外アウトに持ち込まれる危険性がある。
こういうときにこそ、グノーメ様お手製のインシグニアの出番だ。
「くらえ!」
俺は右腕に力を込めて照準を合わし、その反魔力のエネルギー弾を放った。ある程度の効果は予測している。俺のこの右腕の光の粒子は魔法を無力化する力がある。
その粒子を寄り集め、弾丸として放つことが出来れば……。
俺の放ったエネルギー弾は予想以上の大きさと速度で、ファイアボールのその火球を迎撃し、その球を霧散させた。
最初から何もなかったように消え去る炎の球。
「なんだと?!」
背後に立つ敵の術者も驚愕の声を上げている。
「……よし! 成功だ!」
これだ、これこれ! 求めていたもの。
それ自体に何の力もない。
建物を破壊するエネルギーも、敵を吹っ飛ばす力もない。
だが魔法を無き物へと変えるエネルギー。
魔法を使えない俺と同じ土俵に、強制的に立たせる秘儀だ。
「ロスト! 後ろだ!」
ユースティンからの叫び声。
振り返ると同時に、目の前にはインテンス・レイの光球が3つほど間近に迫ってきていた。
咄嗟に上体だけ逸らして回避する3つの光球。
しかしその3つはまた進行方向を曲げて、俺の方へと迫ってくる。
「――――我が樵路を防ぎし生骸を葬れ! インテンス・レイ!」
その間にもまだ詠唱は続いた。
上級魔法の重ね掛け……!
術者はどれだけの魔力を持っているんだろう。
俺は迫りくる3つの光球を素早く躱しながら、石壁のブロックの上へと飛び上がった。
途端に姿を現す新たな光の球が6つ。
さっきのと合わせて計9つの光球だ。それが全て俺めがけて襲ってくる。
石壁の上からさらに高らかにジャンプして上空からステージを見下ろす。
最初からこれで敵の位置を探っていればよかった。
アルバさんの正面の石壁の裏にインテンス・レイの術者が1人。
俺がさっきまで立っていた位置から数メートル先にファイアボールを放った術者が1人。
いずれの2人も剣士のような格好をしているから一件魔法使いには見えない。
だが放った魔法は一級品だ。
チーム名「スタルワート・ウォーリア」も魔法使いだと思わせないためのフェイクか。
だけどもう一人が見当たらない。
どこに潜んでいるんだろう。
上空から俺はインシグニア・アームズで狙いを定め、合計9つの光球のうち4つを打ち消した。
あと追尾する光の球は5つか。体をくねらせながら落下して、なんとかその5つをやり過ごして闘技場の上へと再び舞い降りた。
「アルバさん、その石壁の裏!」
着地と同時にアルバさんに向かって言い放つ。
その間もさっき躱した5つの光球は俺めがけて上空から飛来してきた。1つ2つ、そして3つ、4つと回避して5つ目をインシグニアで打ち消す。
あと4つ……!
「く……私としたことがっ!」
いよいよ緊張している暇もないことがわかってきたのか、アルバさんはかぶりを振って剣を構え、その石壁の裏へと駆けていった。あれなら任せても大丈夫だろう。
もはや隊列なんか気にしている場合じゃない。
敵に派手な魔法使い2人もいるなら、個別に撃破するしかない。
「ユースティン、一人どこにいるか分からねえ! 警戒しろ!」
俺は振り向くことなくユースティンに言うと、ファイアボールの術者にブロードソード片手に迫った。
俊足で走る。
背後からはインテンス・レイの4つの光の球が、俺を追いかける形で迫ってきた。
「馬鹿がっ!」
立ち向かう炎の魔法剣士は俺を罵倒し、腰から2本の剣を取り出して構えた。
二刀流らしい。
――――バクッ……バクッ……バクッ……。
「馬鹿はてめぇだよッ!」
血が湧き立った俺は自分でもびっくりするくらい乱暴な口調で叫び、世界がスローモーションになっていくのを感じていた。
ゆっくりと振り下ろされる2本の剣を、俺は1本のブロードソードで弾き返し、そのままタックルして炎の魔法剣士を弾き飛ばした。
背後の石柱ブロックを派手に破壊し、そのまま場外へと吹っ飛んでいった。
「……はっ、速い――――」
場外に敷かれた転移魔法陣がそのまま彼をどこかへ転移させた。
これで1人いっちょ上がりだ。
歓声が沸き起こる。
だが俺には一息ついている暇はない。
インテンス・レイの追尾はまだ続いている。4つを俺は難なく回避した。もはや動きが単調だから躱し続けるのは容易だ。だけど正直これが続くとなかなか疲れる。
次の標的はアルバさんと戦っているはずの光の魔法剣士だ。共闘して倒し、さっさと片付けてしまおう。残り一人の姿は見当たらないが、3対1に持ち込めれば、敵も意気消沈して途中リタイア宣言でもしてくれるかもしれない。
またしても疾走し、闘技場の反対側へと回る。
「ぐぅ………!」
俺が石壁の裏へと回ったその瞬間だった。
アルバさんが場外へと弾き出されている姿を目に入った。
「アルバさん!」
「ロスト、そこを踏んだら―――!」
何か言いかけている最中、アルバさんは場外の転移魔法陣に倒れ込んで転移した。
アルバさんもやられた。
「くそっ! 2対2かよっ!」
俺は苛立ちを覚えて石壁を殴った。なんだかスタルワート・ウォーリアのやり方が卑怯な気がしてならない。別にルール違反ではないが、魔法による火力押しはなんだか正々堂々とは少し違うような気がした。もっとも、俺自身、魔法が使えない劣等感を感じてそう思っているだけかもしれないけれど。
「2対1だよ、お馬鹿さん」
「は……!」
振り返るともう一人いた。
それは相手チームの、他2人と同じ格好をした剣士だった。
こいつは魔法が使えるのだろうか?
他2人が魔法剣士なら、こいつ自身も……?
というか、2対1ってユースティンもやられたのか?
「――――ジャミング・フィールド!」
対峙する相手は地面に手をついて魔力を込めたようだった。
その瞬間、俺の足下には魔法陣が展開され、バチバチと弾けるような音ともに紫電を纏った魔法が解放された。
その電撃が俺の脚に纏わりつき、足に電撃が伝わってくる。
「うぁあああああ!!」
電撃初級魔法のパラライズを受けたときの倍の衝撃が足先を支配した。痺れるどころじゃなく、俺を強制的に地面に縫い付けるため電撃の鞭だった。
それと同時にインテンス・レイの4つの光の球がまたしても俺を襲う。
「はははっ! チェックメイト!」
迫りくる4つの光の球。高らかに笑う雷の魔法剣士。そして背後にもニヤついた光の魔法剣士が控えている。
これは俺に対するリンチだ。
追い込まれた獲物を弄ぶクソ野郎たちの笑い。
囲い込んだリンチ……。
◆
「おら、立てよ!」
「うああ!」
裏庭はいつも俺の処刑場だった。
屋敷の使用人たちはみんな見て見ぬふり。
兄2人からいつものように殴られて蹴られて……。
俺は顔中ボコボコになっていた。
「見てるだけでムカつくぜっ!」
腹に一蹴り食らわせられる。
「…………」
卑しい笑い。下賤な目つき。
これが俺と同じ人間なのだった。俺と同じ血を受け継ぐ兄弟だった。
だったら俺は、血など要らない。
無機質な案山子で十分だ。
◆
何かを思い出す。それは遠い日の思い出だった。
「無機質な案山子で十分……」
――――バクッ……バクッ……バクッ……!
心臓の鼓動が加速していく。スローモーションになる世界。高らかに笑う目の前の雷の魔法剣士も声のトーンがどんどん低くなっていった。
静かな動作でインシグニアを構える。
照準は自身の足先へと向けた。
両足に合わせて2連撃放つ。
バチンっと紫電が弾け、俺の脚が解放された。
「な、なんだこいつ……! さっきのファイアボールのときといい!」
「いいからやっちまえ! 後1人だぜ!」
俺は近くにいた雷の魔法剣士に音もなく肉薄した。
遅すぎるその剣戟。
俺は振り降ろされた敵の剣先を素手でつまみ、引っ張ってその刀剣カットラスを奪取した。
遅すぎる。
本当に。
「え?!」
そのカットラスをすぐに持ち替えて、持ち主の肩に突き刺してやり、近くへと抱き寄せた。体を密着させて防護壁として使う。
インテンス・レイの4撃のうち、2撃をそいつに直撃させた。
「ああああ! いってぇ!」
すぐカットラスの柄を引っ張って、雷の魔法剣士を背負い投げし、光の魔法剣士に投げつける。
光の魔法剣士がそれを躱したことにより、投げ飛ばされた彼は場外アウトになって転移された。
「こいつなんて馬鹿力だ! それに……速すぎる……!」
続け様に光の魔法剣士に向けて駆ける。
その背後にはインテンス・レイの光球はまだ2発、俺に迫り続けていた。
「俺をなめるなっ! 剣術なら他2人よりも……!」
吠える光の魔法剣士。だが、構えからしてそれほどではないことは分かっていた。
乱雑に振るわれる剣閃を、俺はブロードソードで5連撃くらい弾き返して討ち合った。
インテンス・レイ2発は、ひらりひらりと躱されながらも何度も何度も俺を追尾する。傍から見たら俺の周囲をただ光の球2つがぐるぐる回っているだけのようにも映ったかもしれない。
回避と同時に剣の打ち合い。
やり過ごした後に、さらなる速度で打ちつけてやる。
コンマ5秒の間に7連撃。敵の剣撃の10倍速だ。
「……く……こんなはずじゃ……」
俺の剣撃への対処に限界を迎えたようだ。
フルフェイスのヘルメットに俺のブロードソードが直撃し、彼の動きが止まった。
意識を失ったのだろうか。
俺はそれを蹴り飛ばして場外アウトにし、さっきから小賢しく俺めがけて何度も軌道修正するインテンス・レイを殴って霧散させた。
戦いは終わった。
フィールドに残されたのは俺一人。
投げつけられる罵倒やら黄色い歓声。
罵倒してる人たちはトトカルチョで賭けに負けたんだろう。
○
後から知った話だが、「スタルワート・ウォーリア」は今大会の優勝候補チームだったらしい。
優勝候補に初戦から当たる俺たちって……。
しかもそんな実力者だってこと知らなかったし。
やけに魔法も強力で、剣筋も悪くなかったわけだ。
スタッフに確認したところ、「暗黒覚醒チーズパン」は無名とはいえメンバー(俺、ユースティン、アルバさん)のステータスが突出しすぎてて優勝候補チームくらいしか初戦に見合う相手がいなかったらしい。
だけどこのシステムだと強豪チームの当りが所詮に回ってきてしまって、のちの準決勝、決勝戦がつまらなくなるんじゃないだろうか……?
「すみませーん! 暗黒覚醒チーズパンのチームの方ですよね?! 既に出場してからであれですが、試合への意気込みなんかをっ!」
アーバン・フラタニティのインフォメーションセンターと化している冒険者ギルドを出たところ、紙と羽ペンを持った猫耳の女の人に話しかけられた。獣人族のようだ。
どうやら今回のバトル・トーナメントを記事にして売る予定らしい。要するに記者だ。
詳しく聞くと、不運にも優勝候補チームと当ってしまった「暗黒覚醒チーズパン」には取材の価値なしと判断してインタビューしてなかったらしいが、基本的にほぼすべてのチームに突撃インタビューしている人のようだ。
「いや、えーっと……俺たちは」
俺が躊躇いながら答えようとすると……。
「勝利と栄光をこの手に掴む!」
「僕の魔法が正義を貫く!」
アルバさんとユースティンがそう高らかに宣言した。
本番中もその堂々とした感じで挑んでくれよ……。
…
さらに街中を歩いていると。
――――きゃー、あの人じゃない?! 最後1人で2人相手にしてた人!
――――あの子が魔法使いの? かわいいー!
――――うっひょおおおお! 女戦士だあああ!!
俺たちの周囲には取り巻きがたくさん出来ていた。俺とユースティンには主に女性陣が、アルバさんの周辺には男性陣が取り囲む。
――――まだ子どもじゃーん! かわいいー。
もみくちゃにされて、正直、悪い気はしない。
悪い気はしないが、小っ恥ずかしい。
それに、何か迫りくる殺気のようなものも感じる。
それは、まるで日傘から火を吹いて迫りくる青い流星のようだった。
その殺気は、俺たちの目の前に着陸すると同時に、日傘をぱたりと閉じた。
「では帰りましょう」
半ば強引に引っ張られて、俺たち3人組はシアの家へと戻った。
初戦とはいえ、そうとうレベルの高い戦いだった。
今日はシアの手料理で癒されよう。