Episode49 迷宮ピクニック30層
30層。アザレア城の内部。
俺たちは城門を潜り抜けて、とりあえず城の入り口まで足を踏み入れた。
城の中は静まり返っている。冷気が強く、とても寒い。これこそがまさにダンジョンと行った感じだ。城の内部構造は荒れ果てることもなく、綺麗に整っていた。
「アルバさん、本当にもうここからは引き返せねえぞ」
「引き返す必要はあるまい」
城から漂う不気味なオーラ。俺たちを飲み込もうかというばかりに通路の奥は闇が支配していた。
それに躊躇もせずに進んでいくアルバさん。
その背中が「私についてこい」と語っている……。
もうこのあたりには他の冒険者は一切いない。攻略組のパーティーがこない限りは、敢えて冒険を犯すほどの城ではないんだろう。何か危ない目にあったときに助けてくれるベテラン冒険者がいる可能性はもうないのだ。
むしろこんな間に合わせの野良パーティー5人組でよくここまで来れたほうだ。
タウラス曰くアザレア城は挑戦した冒険者の数も少ないことから情報が少ない。本当に手探りで攻略を進めていくようなことになるそうだ。
「この先に………!」
ツンツンなユースツンもアルバさんの後に続いた。
この先に? 何か狙いがあるのか?
「僕は正義の大魔術師……父様に証明してみせる!」
父様……なにか事情がありそうだな。
ユースツンも奥へ進んで行ってしまった。俺もシアもその二人の後を追った。タウラスも仕方なく、という感じでそのさらに後をついてくる。
ここからが本番ってことだな。
…
壁際には埃の被った燭台がびっしりと並んでいる。天井には蜘蛛の巣を被ったシャンデリアが無数に続き、たまに何体かフルメイルの鎧にフルフェイスの兜が飾られていた。
ありがちだけど、独りでに動き出しそうだな……。
通路はシャンデリアから漏れる光によって照らされている。既に人なんて住んでないだろうに、怪しい光を放ち続けるシャンデリア……。ダンジョンとはこういうものなんだろうか。
その廊下は延々と続いていた。代わり映えもなく、燭台、シャンデリア、フルメイル。その繰り返し。
途中に分かれ道がいくつもあったが、俺の直感でこっちだろうという方向へ進んでいった。
果たしてその道が正解なのか不正解なのかも分からないくらいに通路は続き、モンスターらしいものも出てこない。
ある程度進んだところに大部屋があった。扉もなく、大部屋は開け放たれている。
大部屋は行き止まりだった。その先に通路はない。特に何もないし、入る価値もない。だっていうのに、アルバさんはその部屋にずしずしと入り込み、ユースツンもその後に続いて入ってしまった。
俺はとてつもない嫌な予感を感じていた。
「なんか嫌なことが起こりそうだ」
「ふむ、何もないではないか?」
「話によるとこういう大部屋に大量に魔物が沸くらしいぜ」
タウラスは大部屋を見回しながら、そんなことを吐いた。冷え切った石造りの城内では、やたらと声が響く。
その直後、ガラガラと大きな音を立てて、廊下と大部屋の間の鉄格子が勢い良く閉じられた。
大部屋から出られなくさせるための何かの仕掛けみたいだ。
やっぱりトラップか……。
「――――うぁ!」
さらにはアルバさんの悲鳴。何かと思って、彼女を見ると苦痛に顔を歪ませて跪いていた。
足の甲からは杭が突き出ている。
トラップのようだ。
「アルバさん?!」
「足をやられた……抜けぬ」
床から突き出た杭がアルバさんの足の甲に刺さって身動きが取れなくなっている。
―――――シュ………。
さらに壁の隙間、よくよく見ないと気づかないような穴から、小さな矢のようなものが飛び出してきた。
「きゃあ!」
響き渡るシアの悲鳴。小型の矢――ボルトがシアの右肩に刺さっている。
それは惨劇の始まりだった。壁の隙間という隙間からすごい量のボルトが飛び出してくる。右から左へ、左から右へ。
ここはどうやらトラップ部屋だったらしい。冒険者が入ると発動する処刑トラップ。
「シア、大丈夫か?!」
それらを避けながら、傷ついて蹲るシアに駆け寄る。
右肩から血を流していた。
「クロスボウです」
シアは右肩に突き刺さったボルトを強引に引きずり出して床に投げ捨てた。
攻撃はまだ続いている。どこからともなくやってくるボルトの数々。俺はブロードソードを振り回して、シアに飛来するその攻撃を打ち払い続けた。
高速で横切る無数のボルトは甲高い音を立てて俺たちに迫る。狂気の音を奏でる笛のようだった。
なんとか目で追える。
だけど、この場にいて守りきれるのはシアだけだ。
他のみんなは……?
見回してみると、アルバさんはその大きな盾を被るようにして体を隠し、なんとか防ぎ続けている。だが身動きが取れないようだ。
タウラスは幸運にも四隅まで逃げ切り、ボルトのやってこない位置を確保していた。だけど完全に怯えきっていてこの状況をなんとかできそうな様子はない。
ユースツンは……。
あんな手ぶらで無防備なツンツン坊やが、こんなボルトの雨に晒されたら一溜まりもないだろう。
何かしらの魔法を駆使するにしてもこの数では詠唱の余地もない。
城へと入る前に「父様」がどうとか言っていた……。
まだ親がいるんだ。ここで死なれたら、ここまで連れてきた俺たちのせいだ。
守らないと――――。
だけど、闇に紛れたその魔術師は平然と立ち尽くしていた。
いや、悠然と言うべきか。ボルトがいくつ目の前に飛来しようとも、特に動じることなく部屋の中央に立ち尽くしている。
なぜ?
なぜダメージを受けない?
そもそもボルトはユースティンの体に突き刺さることなく、"通り抜け"ていた。
いや、通り抜けているんじゃないな。ユースティンの目の前で一瞬消え、消えた小型の矢は背後で現れて後ろへと過ぎ去る。飛来するすべてがそんな感じだ。
そんな中、取りこぼされた一発のボルトがユースティンのフードを突き抜け、その衝撃でユースティンが目深に被っていたフードがふわっと舞い上がった。
ユースティンの素顔が曝け出された。
銀髪に濃紺の瞳。正義感溢れる眼差し。
色白で線が細い美少年の姿がそこにあった。
「――――Eröffnung」
そのユースティンがまた何かワンフレーズだけ詠唱したかと思ったら、今度は目の前で消えたボルトが、同じ位置から"目の前へと"射出されていた。
真逆へと放たれたそれは同じ軌道を辿って元の隙間へと戻り、何かに突き刺さった。その隙間からはもう新しい弾丸が射出されることはなかった。
そんな調子で次々とユースティンは弾丸を跳ね返し、無数の雨の攻撃を防いだ。
ユースティンはただ立っているだけだ。
汗一つかかずにこの部屋を鎮圧してしまった。
「…………」
信じられないものを見た。俺だけじゃなく、この場にいた全員が。
「ユースティン……お前、今なにしたんだよ!」
攻撃の手がなくなり、開放されたタウラスがユースティンの元へと駆け寄った。
「僕は正義の大魔術師だ」
「いや意味がわかんねえけど、お前が大魔術師だってことはよく分かったぜ!」
タウラスが賞賛の声をあげる。火でも氷でも雷でも、ましてや闇でも聖でもない属性に分類されることがない魔法。
あれは……転移魔法?
―――僕は事前に描いた魔法陣の地平面と、その場で描き上げる魔法陣を反地平面にして結ぶことが……。
ある遺跡の内部。茶色いベストを着た学者風の男が得意げに語っていた。
頭痛がする。何かを思い出しそうになるたびにいつもそうだ。でもユースティンの魔法が空間転移に関連した魔法であることはすぐ分かった。
飛来するボルトは一度ユースティンの目の前を通り抜けて、空間転移し、別の場所から飛び出たんた。
確かその魔法の名前は転移魔法―――。
「トランジット・サークル?」
ぼそりと呟いた。
ユースティンはその言葉にびくりと反応を示し、俺の方へ振り返った。
「ロスト、お前は魔術の知識もあるのか?」
濃紺の鋭い眼光に睨まれた。あどけない少年の顔にしては、冷静で淡白な口調だった。
「だが残念。今のはトランジット・サークルじゃない」
お、外れたか。まぁ俺もトランジット・サークルなんて魔法は知らないし、そもそも魔力もゼロで魔術の知識なんか一切ない。記憶から掘り起こしただけだ。
「じゃあ何だって―――」
言いかけた瞬間。
大部屋の出口をふさいでいた鉄格子が、再度ガラガラと音を立てて巻き上げられた。ようやく解放されるようだ。
と思いきや、その出口の方からぞろぞろと敵と思われる漆黒の魔力を纏ったフルアーマー軍団が進入してきた。その鎧はさっき通路にいくつも飾られていたものと同じだった。漆黒の魔力はどこかで見覚えがある。森のベヒーモスが纏っていたオーラと同じもののようだけど……。
その黒い鎧たちはクロスボウを握り締めている。
ゆうに20体くらいはいるだろうか。ガシャリガシャリと行進しながら大部屋へと入り込んだ。
「もしかしてさっきの攻撃ってこいつらが?」
「そのようだな」
復帰したアルバさんが覚悟を決めたように得物を構えた。杭が突き抜けた足の甲はシアのヒーリングによって治ったようである。
しかし数が数だけにこれをこの5人が相手にできるような気はしない。
「ユースティン、お前の魔法でやっちまってくれよっ」
「………」
タウラスがユースティンの肩を叩いた。
ユースティンはその様子をちらっとだけ見て、青白い顔を浮かべている。
元から色白だったその顔が、余計に青白い。
「………Schocker」
ワンフレーズの魔法。
それは電撃による牽制だった。バチバチと音を立てて鎧に当たったかと思ったら弾けるように霧散した。ユースティンはそれをさも当然みたいな感じでこちらを振り返った。
試し撃ちしただけって感じだ。
ほら、見たかってそんな言葉が顔に書いてある。
「……ブラックコープスの鎧は対物・対魔のエンチャントが付いている。魔法はおろか物理攻撃も通じない」
ユースティンはため息をついて、再度続けた。
なにその最強の鎧。アルバさん、あれが最強ってやつですよ。
ユースティンはサラセニアのときもそうだったが、迷宮の敵に精通しているんだな。
「終わりだ」
「なに?」
「魔法しか使えない僕には手立てがない」
「ええ……」
自嘲気味にユースティンはふっと笑った。童顔なわりにその仕草はやけに大人びていた。
ユースティンにはガードはできても攻撃はできない。
「他の冒険者はどうやって倒しているんだよ」
「あれは倒せない」
「そんなわけないだろ! だってまだ入ったばかりだぞ?!」
「ブラックコープスは本来こんな階層で出るような敵じゃ――――」
ユースティンが何か言いかけた瞬間、かちゃりと乾いた音が大広場に響き渡った。
鎧がこちらに向けて一斉にクロスボウを構える。その洗練された軍隊の動き。20体の敵が俺たちを蜂の巣にするつもりで、一斉射撃を浴びせかけた。
「………!」
ボルトが降り注ぐ。それを見た俺たちはユースティンの周辺に寄り添い、そのボルトを凌いだ。
ユースティンはさっきの転移魔法でボルトを通過させ続けていた。
時折、そのボルトの軌道を変え、そのままお返ししても、ブラックコープスの鎧には効果がないようだ。
「この調子で防ぎ続ければ何かできないか?」
「その前に僕の魔力が切れそうだ……」
ユースティンもこんな調子。最強の防御はできても、攻撃手段がない。
「ロストさん、ロストさん」
シアがまた耳打ちしてきた。
ふっと耳元に吹きかかる息にドキドキする。
この天使と見せかけた小悪魔め。
狙ってやってるのか?
「あの黒い魔力……対物理・対魔力効果のついた鎧は、ベヒーモスの毛皮と同じです」
ベヒーモスも確かにあんな漆黒の魔力を纏っていた。俺はそれを細切れにしたことがある。
なら倒せるじゃないかと思ってシアを見た。そして目が合う。
その表情は悪戯にニヤニヤしている。
「がんばってください」
多くは語るまいと声援だけが飛んできた。
役割は役割だ。シアのゴーサインも出たことだし、やってやるか。
弾道は目で負える。避けることもできるし、摘むことだってできるだろう。
「ユースティン、みんなの防御頼むぞ」
「え……? ロスト?!」
タウラスが飛び出した俺に驚いたようだった。
俺は右腕の光を噴出し、素早くブラックコープスに肉薄した。
一体なんでこんな力があるんだろう。
俺はブラックコープスに殴る蹴るの肉弾戦をぶちかましながらそんなことを考えていた。
こんな力があるのなら、巷では有名人になっていてもおかしくないんじゃないか?
記憶を失う前に、すでに大迷宮の奥底に一人で潜入したりとか、そういうことをしていてもおかしくはない。
それだけ力の差はあった。
拳が鎧を貫通し、吐き出された光の粒子がブラックコープスの鎧の中から衝撃派を与えて爆散していく。ばらばらに砕けた鎧は、床に散らばると同時にただの残骸になった。
まるで元からそうだったように。
爆散機能付きなら、そもそもこの光の粒子を弾丸にしてエネルギー弾のように射撃できないかな?
いちいち近づいてから近接攻撃しないといけないから効率が悪い。
この手首の機械も改良の余地があれば改良したいな。
…
20体をすべて倒し終わってから俺はその部屋の惨状を見回した。
タウラス、アルバさん、ユースティン、3人とも呆然と俺を眺めている。
一言で言えば、ドン引きしている。
この感じ、懐かしい。
最初ルクール大森林でたまたま遭った冒険者たちからもこんな態度を取られた。
シアの言うことは最もだった。めちゃくちゃな能力はパワーバランスを崩壊させて、もう対等にコミュニケーションを取ってくれなくなる。俺は強いぜとアピールしても後に残るのは後味の悪さだけなのだ。
だけどその3人は、やっぱりちょっと変わっていたみたいだ。
「すっげえええええ! ロストこんなに強かったのかよ! 男の俺でも惚れちまうぜ!」
「こ、これが最強………」
「ロスト、よくやった。僕が正義でお前は正義の味方だ」
プライドのないタウラス。最強に拘るアルバさん。正義のユースティン。
この3人にとって、俺が強かろうが弱かろうが、自分の拘りの前には関係のないことのようだ。
なんだかちょっと、心がほっこりした。
しかしさらにその後、ブラックコープスはさらに部屋の入り口から続々と現れた。
俺はなんだか安心しきっていた。
自分の思い通りやっても、後ろの4人なら俺を受け入れてくれる。
ありのままの自分を出せるって気持ちがいいな。
「ロスト、やっちまえー!」
タウラスの声援も後ろから響いていた。
俺は調子に乗り出した。
次々と現れるブラックコープスの大群を、何匹も駆逐した。
気分よく倒していたとき、勢い余って壁を殴りつけてしまった。
バコンと大きな音を立てて壁が崩壊した。
「あ……」
崩壊した壁から剥き出しになったのは、大きな魔法陣だった。
壁の側面に描かれた大きな魔法陣が姿を現した途端に、怪しく光はじめ、何かを起動してしまったのを感じた。
「まずい―――ここは転移の間?」
ユースティンが何か呟いたと思った矢先のこと、起動した魔法陣は何体かのブラックコープスと一緒に、俺たち5人をその壁に吸い付けた。
世界が暗転した。
○
気づいたときには、通路に寝転がっていた。赤い光でぼんやりと照らし出されている。飾られた蝋燭の火のおかげだということに気づいた。
城内に入りたてのときはまだシャンデリアの光によって周囲が見渡せたが、ここの空間はちょっと薄暗い。さらには冷気もそんなにない。蝋燭の火によってちょっとだけ温もる。
アルバさんもここだったら寒くなさそうだな。
そういえば、他の4人は?
周囲を見回す。四肢や胴体がバラバラになったブラックコープスの残骸が目に入った。
その中に、シアやタウラス、アルバさんにユースティンの4人がいた。ちゃんと五体満足。目だった傷もなさそうで、通路で倒れ伏している。
ほっとした。
心許せると思った人たちが、次の瞬間には死んでいたなんてなったら俺の心も崩壊していただろう。
俺は4人を起こして無事を確認した。
4人とも混乱しているようだが、すぐに気を取り直した。
各々体についた埃を振り払ったり、装備を点検したりしていた。
ユースティンは直前に「転移の間」と言っていたが……。
「ユースティン、転移の間っていうのは?」
「………」
あれ、また黙秘か。
でもさっきからやたらこの迷宮に詳しすぎやしないか?
モンスターの情報もそうだけど、まるでこの城の中にまで入ったことがあるかのような。
「とりあえず一回休憩しようぜ。普段だったらもう寝てる時間だ」
もう迷宮に入ってから12時間以上は経過したような気がする。
タウラスはバックパックから薄手の絨毯を取り出して通路に敷き、そこにあぐらをかいた。両手を後ろについて顔を上に向け、あーと声を漏らして疲れをアピールしていた。
アルバさんも珍しく黙ってその絨毯の上に腰を下ろした。
ユースティンや俺とシアもそれに続く。
それぞれ背中を突き合わせる形で座っていた。
しばし沈黙の時間が流れる。
俺としてはいまさらになって自分の思い通りの力が発揮できてボルテージも上がってきたところだ。だが、自分のミスのせいで変な魔法陣を起動させ、今に至っていると考えたらばつの悪い気分になってきた。
「………みんなすまなかった」
そんな反省の気持ちを浮かべている中、沈黙を破ったのはアルバさんの方だった。
「私は無力だ。さっきは手も足も出なかった。最強にはまだまだ程遠い……」
これまでのハキハキとしたトーンとは別物だった。小声で疲れきっていて、申し訳なさそうに彼女は空中に言葉を投げた。
その言葉を受けて、俺はうまく返せる言葉が見つからない。
何かフォローできるか?
アルバさんは強かったって? 俺が言ったら嫌味っぽいかな。
迷惑なんかじゃない、楽しかった……うーん、みんな楽しい雰囲気でもない。
「そんなことはないです」
そこにシアが口を開いた。
「20層あたりの到達時間はだいたい6時間くらいでした。それまでアルバさんがほぼ一人で戦っていましたから、タイムアタックで記録していれば最強クラスのタイムを叩き出していたことでしょう」
そうだ。確かに迷宮の潜入速度でいったらとてつもなく早かったのだ。
「………」
「最強とは程遠いのはその装備の方です。そんな裸同然の装備でこんな地下深くまで来れたのですから、アルバさんは最強ですよ」
アルバさんが寒がっていたのを最初に気遣ったのもシアだ。その装備の脆弱さ。ポイズン系の魔物も臆することなく倒していた。確かにもっとまともな装備だったらさらに強かったと思う。
理由と考察。シアはその辺がしっかりしている。
シルフィード様曰く、両親は考古学者だったか。
学者の娘ともあって話し方も論理的だな。
「………」
でもアルバさんは黙っていた。
「アルバさん、おっぱいに何かが滴っているぜ」
「うるさい、黙れ」
文句を言うその声が掠れていた。どうやら泣いているらしい。
謝ってみたら、人が自分の最強を証明してしまった。
証明を説いたのはシア・ランドール。
もう十分だろう。
「帰ろう……私はもっと修行する」
アルバさんはぼそりと呟いた。