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魔力の系譜 ~名も無き英雄~  作者: 胡麻かるび
第1幕 第4場 ―楽園潜入―
35/322

Episode31 潜入調査ブリーフィング


 ストライド家の本館へ移動した。やたらと大きな両開きの玄関扉を開けると、そこはオルドリッジの屋敷に似たような洋式造りの屋敷だった。

 別館の質素な屋敷とは全然違う。


「おかえりなさいませ、マーティーン様」


 執事もちゃんと居た。さらに広間の奥の方に一人、メイドさんもいた。

 執事もメイドもまだまだ若そうな人だ。


「こっちじゃ」


 言われるままに右へ曲がり、廊下へと入った。そのまま何部屋か通り越した後、ある部屋へと通された。暖炉があって、長いソファが2つ向かい合って、来客との面会用の部屋だった。

 俺とアルフレッドは同じソファへ、トリスタンは向いのソファへ、マーティーンさんは小さいソファに座った。


「さて、まず何から話したもんかの」

「……爺さん、さっきも聞いたことだが、結局この仕事ってのは例の誘拐事件の調査ってことでいいんだよな?」


 先手で声をかけたのはアルフレッドだった。


「そうじゃな」


 それに対してマーティーンさんは試験前とは打って変わってすんなりと返事をした。


「誘拐犯の居所を押さえたってことか?」

「押さえたわけではない。それらしき場所を発見したのじゃ。そこのトリスタンがな」


 マーティーンさんの言葉と同時にメイドさんが入ってきて、4人分の紅茶を並べ始めた。


「トリスタンが? てか、お前はここでいったい何してたんだよ」

「それは……」


 トリスタンはマーティーンさんをちらりと見た。


「いいじゃろう」


 マーティーンさんは頷いた。トリスタンへ会話の主導権を渡そう、という意味だろう。

 そこからトリスタンは半年間のことを語り始めた。


 トリスタンは俺が行方不明になった後、ダリ・アモールにしばらく滞在していたようだ。資金稼ぎとガラダンジョンへの進入路確保のため、冒険者ギルドや商業者ギルドにいろいろと出入りして仲間集めをしていたようだが、結局どうにもできなかったようだ。

 そこで俺を探すついでに依頼が増えていた子どもの捜索依頼のクエストを受けることにした。

 そのときにマーティーン・ストライドさんの息子と孫、つまりパーシーン・ストライドさんと、まだ誘拐されていなかった12歳の子ども―――チャーリーン・ストライドと出会ったそうだ。チャーリーンは、ダリ・アモール・カーニバルで妹アイリーンを誘拐された事に居ても立ってもいられず、身を投げ出しておとりとなる事を決めたそうだ。

 誘拐発生時刻が多いのは朝か夕刻。

 トリスタンは夕暮れ時のダリ・アモールを一人で歩くチャーリーンをひそかに尾行し、誘拐の現場を押さえる予定だった。

 しかし結果はチャーリーンが誘拐されるだけに終わり、そのまま12歳の子どもは帰ってこなかった。


「トリスタンがその手の仕事をミスるとは珍しいな」

「俺とて注意を怠ったわけではない。常にチャーリーンを見張りつつ、気配を消していた……だが、チャーリーンは、誘拐された瞬間だけ姿を消した」

「誘拐された瞬間だけ?」


 俺は思わず疑問の声を口にした。


「あぁ……まるで彼だけが景色から切り取られたように忽然と消えたんだ」

「まじかよ」

「そんな魔法があるの?」


 俺はさらにトリスタンに聞く。


「ジャック、尾行は目視だけでやっていたわけじゃない。俺とて魔力源があれば探知できよう。つまり何らかの魔法が発現していれば俺も気づくはずなんだ」


 魔法でもないのに、忽然と姿が消える?

 そんな事がありえるのか?


「……俺はそれからストライドの方々に謝罪したものの、俺の中で納得はできなかった。捜索を続けたんだ」

「どうやって?」

「チャーリーンの時は、一人の人間に意識を傾けていたから誘拐に気付けなかった。そこで俺は一人ではなく街全体に意識を傾けることにした」


 街全体に意識を傾けた?


「それは間違い探しのようなものだ。ダリ・アモールで一番高い場所―――サン・アモレナ大聖堂の屋根の上から大広場を常に観察し続けた。いや、観測と言った方が正しいかもしれない。街を行き交う人々の動きの"全景"を見続けたんだ」 


 それはどれだけの労力を使う事だろう。塵のように映る人たちの動きを常に見ているんだ。

 並大抵の集中力では途中放棄してもおかしくない。


「……それで俺はその全景の不自然さに気付いた。たまにふと何かが消えたような違和感があったんだ。それがおそらく誘拐の瞬間なんだと気付いた。そしてその直後、必ずと言っていいほどある事が起きる」

「あること? それは一体どんなやつだ?」


 アルフレッドが興味津々に聞いていた。犯人のしっぽを捕まえられそうでうずうずしているんだろう。


「兵士だ」

「兵士?」

「兵士の姿をした人物が複数、慌しく走り回るんだ。ダリ・アモール近衛隊と同じ鎧で」


 ダリ・アモール近衛隊。もしかして俺がケアを連れてアーカーシャの聖典を探しに潜入したときに追ってきた兵士たちもそうか?


「まさか近衛隊自体が関わってるのか? それはもう街ぐるみでヤバいことしてるってことになるぜ?」

「そこは俺にも分からない。もしかしたら兵士に扮した誘拐犯かもしれない」


 可能性としてはそっちの方が高そうだけど、でも俺が追われたときは正真正銘の近衛隊だった。あのときは確かラインガルドとの戦いの後に追われてたんだっけ?

 なんか今回の誘拐事件と関係しているような気がしてならない。


「んで、もちろんその兵士たちの後は付けたんだよな?」

「無論だ。その兵士たちは大聖堂近辺の倉庫のような場所へ移動し、街の西口からひっそりと馬車で移動していた。俺はその馬車を3日3晩尾行した。西へ西へと進み、そしてある山間の大きな施設に行き着いた。積荷を運び入れているようだったが、形や大きさからおそらく子どもが運び込まれているに違いない」


 それがアジトって事か。


「だったらさっさとそこに侵入して親玉をとっ捕まえちまえばいいじゃねーか」

「おぬしは本当にせっかちな男じゃのう……」


 今まで黙ってトリスタンに説明を任せていたマーティーンさんが深い皺を眉間に寄せて、怪訝な顔をした。


「フレッド、事態はどうやらそう単純ではなさそうなんだ」


 トリスタンはそれができるならそうしている、と言わんばかりの顔だった。


「どうもこの誘拐事件は単なる悪党どもの仕業ではない」


 トリスタンが補足した。

 確かに誘拐事件の発生件数的にかなり大規模な組織の犯行だ。累計で言えば100人単位で誘拐されている。


「この事件は最低3つの組織が関与している」

「3つも?」

「そうだ。一つは俺が尾行したダリ・アモール近衛隊あるいはそれに扮した実行犯グループ。そして2つ目の組織は"教会"とその傘下の聖堂騎士団」

「教会ってのは、つまりメルペック教の?」

「そうだ。教会が子どもを匿う施設を作り上げ、その中で"養っている"」

「わけがわかんねえよ。ダリ・アモールでメルペック教会って言ったら大聖堂とセットの街の観光名物みてぇなもんだろ?」

「教会側はスポンサーだ。資金提供と、戦員補強のために騎士団を派遣している」


 だめだ、ついていけない。


「待って、俺にも教えてよ。そもそも近衛隊と聖堂騎士団っていうのは違うの?」

「……聖堂騎士団はメルペック教大司祭と6人の側近たちで結成された戦闘集団だ。ダリ・アモール近衛隊はあくまであの街の自治組織の一つ」

「街を守るって意味じゃ同じ事をしてるんじゃないの?」

「少し違うな。近衛隊は街を守っているのに対して、聖堂騎士団はメルペック教という宗教そのものを守っている」


 なるほど……目的が違えば組織も違うって事か。

 ってことは聖堂騎士団はダリ・アモールに限らずいろんな街に根城があるってことかな。


「俺はその山間の施設に聖堂騎士団の一味が入っていくのを見た。さらに子どもが何人か連れてこられるのもな」

「トリスタン……それであと一つの組織ってのは何なんだよ」


 俺とトリスタンのやり取りの間に紅茶を一口飲んだアルフレッドが、またしても会話に加わった。


「それがどうも正体不明だ。おそらくその集団が今回の主犯。本来、住民の味方であるはずの近衛隊や聖堂騎士団の連中を引き込んで、バーウィッチやソルテール、他の街の子どもさえも誘拐した」

「主犯の正体は不明か。確かにここ一年の話だからな。悪いことしようと持ちかけた奴らがいるってのは間違いなさそうだ」


 アルフレッドも納得して、話を呑んだ。


「よし、背景は分かった。つまりジャックにそこへ潜入して、中を見てこいってことだろう?」

「その前に、俺からも教えてほしい。ジャックの事だ」


 トリスタンは俺の方を向いて無表情に声をかけた。トリスタンのこの感情の起伏が少ない感じも懐かしいな。


「ジャックのその変わり様、いったい何があったのか」


 もちろんそれはトリスタンが一番気になっていたことだろう。弟子が半年足らずで師である自分に追いつくほど戦闘力が上がった。気にならずにはいられない。

 俺はトリスタンに俺の半年間について要所要所、掻い摘んで話をした。



     …



「そうか。ジャックのそれは女神の加護によるものか」

「女神の加護……まぁ、見た目はちょっと酷いけどね」

「おぬしのその顔、潜入のときには隠さねばならんのう」


 本来の依頼主が口を挟んだ。

 右頬に触れる。確かに禍々しい。ソルテールでは何度も魔族の子どもと勘違いされた。というかマナグラムにも俺の種族は「人間(魔)」になってる。

 (魔)ってなんなんだ。


「ご貴家のリオナに任せてみては?」


 トリスタンはマーティーンさんに問いかけた。


「ふむ、確かに変装が必要じゃな―――リオナ、こっちじゃ」

「はい」


 マーティーンさんが声を発すると、部屋の入り口近くで控えていたメイドさんがすたすたと歩いて近寄ってきた。


「この子にメイクを施してやってくれ。顔の模様が隠れるようにな」

「かしこまりました」


 リオナと呼ばれたメイドさんは一礼すると、俺の方へと近寄ってきた。


「え、今ですか?」

「潜入は後日じゃが、変装は今のうちからでも準備できようぞ。ものは試しじゃ」

「それではお坊ちゃま、こちらへいらしてください」


 戸惑いが隠せなかったが、アルフレッドもトリスタンも特に止めるでもなく黙って俺が別部屋へと案内されるのを見送っていた。

 まぁ顔の模様隠すだけなら、ぱぱっとやってもらえるか。



     …



「こちらです」


 会談の部屋を出て、3つほど隣の部屋に通された。

 こじんまりとした部屋に、きらびやかな化粧台も置かれており、周囲にはさまざまな衣装がかけられている。クロークとしての機能と、メイクルームとしての機能を兼ね備えているようだった。


「………」


 俺が突然の事態に目をぱちぱちとさせていると、メイドさんはゆっくり近寄ってきて、優しい目を向けた。


「私はリオナって言うの。大丈夫よ、こっちの椅子に座って」


 リオナさんは俺に対して敬語をやめて、近しい距離感で話しかけてくれた。この女性もアルフレッドたちやナンシーさんととそれほど年齢も変わらないぐらいだろう。

 さすが金持ち貴族のメイドというだけあって、美人だった。顔のバランスがすごく均整がとれていて、目鼻くっきりの黒髪美人だ。

 俺は促されて化粧台の前の椅子に座った。


「名前はなんて言うの?」

「ジャックと呼ばれてます」

「呼ばれてます?」


 あ、しまった。つい変な言い方をしてしまった。


「あ、いえ、ジャックです」

「ジャックくんね。歳は?」


 リオナさんはいろいろと化粧道具の準備をしながら俺にフレンドリーに話しかけてくれていた。気遣ってくれているんだ。


「一応、10歳………もうすぐ11歳になります」

「え~、まだそんな小さいんだ。確かに見た目も幼いものね。アイリーンお嬢様と同じくらいね―――あ、問題はこの模様か」


 リオナさんは俺の顔をまじまじと観察してきた。

 ちょっと緊張する。


「ポイントメイクじゃ無理ね。よく見ると首の方にもあるし、これは全顔必要か」

「まるまる化粧するんですか?」

「そうね、でも任せて。あ、あと目つぶってて」


 もうどうにもでもなれ。

 目を瞑ってリオナさんにすべてを委ねた。



     …



「仕上げはこれでいいかしら」


 何か頭に被せられた。あきらかにウィッグだ。変装ってそこまでやるのかよ!

 そして櫛を何回か通されて、髪型を整えられた。


「はい、完成! じゃあいいよ、目を開けてみて」


 言われて、恐る恐る目を開ける。そんなに長い時間、化粧されたわけじゃない。そんな大きく変わるわけはないだろう。

 そう思って目の前の鏡を見た。映っていたのは、その辺に居そうな普通の女の子だった。魔族の紋章も隠されている。


「………な、なんだこれ……」

「いいわね! すごく可愛い」


 茶色いボリュームある長髪がうまいこと胸の方へと垂れて、首筋の魔族の紋章も見えなかった。でもこれじゃ変わり果て過ぎてアイデンティティ崩壊だ。服装は変わっていないからかなり滑稽にみえた。


「なんで女装?」

「変装っていったらそうでしょ普通」

「いや、模様隠せばいいだけじゃんっ」

「女装なんて若いうちにしかできないんだから、いいじゃない。すごく可愛い」


 リオナさん、だいぶ茶目っ気のある人だった。

 これは面白がってされたってことだよな?

 本番は女装とかなしでやってくれるんだよな?



「ジャック、そろそろできたか?」


 そんなところに廊下の方からアルフレッドの声が届いた。やばいぞ、こんな姿を見られたら。


「はい、お待ちしておりました」


 それにリオナさんが扉の方へと駆け寄り、扉を開けようとする。俺の方をちらりと見やってウィンクしてきた。

 いやいやダメだよ! なに「いいよね?」みたいな感じで浮き浮きしてるの。

 なんか俺の周辺って意地悪な人多いな!


「どうぞ」

「なんかえらい時間かかってたなぁ」


 赤毛やそれに続く白騎士、ご老人も見えた。


「あぁ! だめだめ、ちょっと待って!」


 こんな痴態みられたらもうフレッドにもトリスタンにも顔合わせできない。



「なんだなんだ、どうしたジャックそんな慌てて―――」


 ばっちり目が合った。もうだめだ。終わりだ


「………あ、すみません間違えました」

「えぇ?!」


 アルフレッドはすぐ扉を引っ込んで戻っていった。


「フレッド、どうやらあれがジャックのようだ」


 トリスタンがそこに補足を入れる。


「え、ばか言ってんじゃねえよ。俺にはこの部屋に男が居るようには見えねえ」

「リオナの変装メイクの技術はすごいからな」

「……まじかよ。お前ジャックか? ぷっ……はは! 女装してやがるぜ! うっはー、なんだその顔!」


 顔面が真っ赤になっていくのを感じる。

 何たる屈辱。子どもにだってプライドくらいある。


「なかなかいいじゃないか」

「うむ、これでおとり調査はばっちりそうじゃの」


 トリスタンとマーティーンさんは冷静に評価していたが、俺にはそれすら屈辱だった。

 やっぱりこれで潜入するんだ。

 性別偽るスキルなんて持ってないんですけど。

 そしてアルフレッドはその後、終始、俺のことをばかにし続けた。



     ○



 ストライド家との面会は終わった。俺は不機嫌すぎて帰りの道中アルフレッドと会話をしたくなかった。

 そんな俺のことを気にもせず、アルフレッドは俺に話しかけまくってきた。


「ジャック、大丈夫だ。趣味なんて誰しもが持ってるもんだ。それが一般の奴らからは……ぶっ……受け入れら……はは、だめだ。あの光景が目に焼き付くぜ」

「フレッド、いい加減にしろよ! 俺は好きであんなのやったわけじゃない!」

「へいへい……く、くく………」


 少しは大人しくなったがずっとアルフレッドはにやにやしていた。

 女装が趣味だと? アルマンドさんじゃあるまいし。



 トリスタンはストライド家の屋敷に残った。この事件がうまく落ち着いたら、リベルタのアジトに戻ってきてくれるという約束だ。

 女装は屈辱だったけど、子どもを助けるために一肌脱いだ、いや一肌変えたと思ってやるしかない。


 潜入調査は3日後に開始だ。チャーリーンと同様に1人でダリ・アモールをふらふら歩いてわざと誘拐される。その尾行役はアルフレッドだ。


 そして山間の施設付近で待機しているトリスタンに俺が無事に潜入できたかどうか知らせるために、施設潜入前に少し抵抗を見せて"目印"を外へ投げつける。

 あとは向こう側の言いなりになることで無事に施設内へ潜入。それ以降は俺のアドリブで何とかするしかない。チャーリーンやアイリーンを発見し、無事に連れて帰れれば成功だ。



     …



 そうして夜にソルテールへ戻ってこれた。朝から出発して何とか日帰りで帰ってきた。


「アルフィ、ジャック、おかえりなさい」

「おかえりなさい」


 リンジーとケアが出迎えてくれた。


「どうだったの?」

「いや、それがよ、リンジーにも見せたかったぜ! ジャックの滑稽な姿をよ、くく……」

「どういうこと?」


 アルフレッドは女装の事を言っているんだ。でもリンジーが聞いているのはそういうことじゃないはずだ。


「ああ! いや面接試験には無事に受かって3日後に依頼を受けることに決まったよ!」


 俺が無理やり横から割り込んで、アルフレッドの次の言葉を遮った。


「滑稽な姿っていうのは?」

「べ、べつになんでも!」

「………?」

「あぅ……!」


 ケアは何かに気付いたようだった。女神の目には見えているのだろうか、俺の先ほどまでの痴態が。

 反応がアルマンドさんの女装しかける姿を見たときと同じってことはその可能性も否めない。

 く……ちくしょう……。


 アルフレッドをちらりと見ると、笑いをこらえている姿が目に入った。

 なにがそんなに面白いんだろうか。

 俺が睨みを利かせると、手をぶらぶら振りながら背を向けた。

 "わかったわかった、黙っておいてやるよ"と伝えたいようだ。

 これ絶対俺がいないところでリンジーに言うだろうな。


「じゃあまた3日後に行っちゃうんだね」

「……そ、そう! それで、ここからは良い知らせなんだけどさ!」

「なに?」

「トリスタンを見つけたんだ」


 その名前にリンジーは目を見開いた。


「え?! 本当?」

「うん! 今回の依頼主にトリスタンも雇われてたんだ。それでこのクエストもトリスタンと一緒にやるよ」


 リンジーは心底嬉しそうに眩しい笑顔を作った。


「そうだったんだ。トリスタンも一緒なら安心だね」

「この仕事が終わったらこっちに戻ってきてくれるって」

「………そっかぁ……また賑やかになるね。家事も大変になるかな」


 リンジーは涙ぐんだ。


「大丈夫、俺が頑張るから!」


 俺もなんだか嬉しくてちょっと涙がでてくる。さっきまで屈辱でアルフレッドにいら立っていた感情もすっかり抜けてしまった。


「ふふ、ありがとうね、ジャック。ほんとうに」


 "ジャックが帰ってきてから、きっとみんなもいつか帰ってくる、、ドウェインも元に戻るってなんだか思えてきてね"


 リンジーは昨晩そんな事を言っていた。本当にそうなってきている。

 思ってた以上に順調に。俺はその期待に応えて頑張る。

 それが俺の命を救ってくれたリンジーへの恩返しだ。


「よし、そうと決まれば前祝いだ! 今日はぱーっとやるぜ!」


 アルフレッドが意気揚々と玄関扉を潜って、リビングに入っていった。アルフレッドも徐々に以前の調子に戻ってきたような気がする。

 あとはリズベスがどこにいるのか、だ。

 リズベスが戻ってきてくれれば一応パーティーは揃う。

 ドウェインの治療は最悪後回しでも、命を蝕むものでもないから大丈夫かな。


 とりあえず今回の依頼をちゃんと達成して、誘拐事件を解決する。それで街の人たちにも笑顔が戻って、リベルタにも笑顔が戻る。

 3日後の潜入調査に向けて、俺はゆっくりと休むことにした。


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【魔力の系譜~第1幕登場人物~】
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