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魔力の系譜 ~名も無き英雄~  作者: 胡麻かるび
第5幕 第2場 ―ロワ三国―
252/322

Episode205 メルヒェン家


 拝啓。


 お父様、お元気ですか。

 もうじき雪解けの季節となりますが、お変わりなく健やかに過ごされてることと存じます。


 突然の(しら)せで申し訳ありません。

 私、マウナ・メルヒェンはお姉さまとともに帰省の途に就きました。

 青魔族の進攻は巫女の修験地に指定された『北の森』にまで及んでおり、森伏(もりぶし)の儀を途中放棄する結果となりましたこと、ご容赦ください。

 今は南アイル山麓のダリ村からこの手紙を書いています。

 リア先生同伴で周遊を共にしており、

 ダリ村を発てば三日で王都へ帰還できます。

 迎えの準備が整い次第、都入りしますのでダリ宛てへお返事ください。


 諸事情を省く無礼を承知でお伝えしますが、

 『青魔族問題』は解決に向かいました。

 魔族の長で、武力派のレナンシー一派を屈服させ、強制的な国外退去を魔法契約のもとで結ぶことに成功しました。

 "或る男性"の功労によるものです。

 王家の介在無くこのような暴挙を犯したこと等、私やお姉さま、並びにお父様のお立場を危ぶめる決断を下してしまいましたが、どうぞお許しください。

 そしてこの度、帰省に際して、労いの為にも功労者の男性もお連れしての都入りを考えています。


 書簡では語弊も多く、伝え難い事情が多いです。

 王家へのご報告には、お父様の絶大なお力添えを賜りたく直接会って事情を伝える所存です。

 まずはお屋敷への帰省の事前連絡のため、お手紙お送りさせて頂きました。

 お返事お待ちしています。

 季節の変わり目ですが、ご自愛ください。


                敬具


         マウナ・メルヒェン



 ――――――



 エトナ、マウナへ


 連名ですまない。

 まずは無事を知らせる手紙が届き、とても嬉しく感じたことを先に記そう。


 いつでも帰ってきなさい。

 青魔族問題の解決は未だ半信半疑だが、

 それもお前たち"双子の巫女"ならではの強大な魔力の賜物だろうか。

 父として誇らしいことだ。

 協力者の"男"のことは怪しくも感じたが、書簡の様子から察するに害ある存在でもなさそうだ。

 迎えの準備をして待っている。

 王家への報告や進言の手配は任せておきなさい。

 何よりもお前たちの身を案じている。

 残り三日の旅も油断せず、真っ直ぐ帰るように。


             貴族パパ魔人

          オーガスティンより


 (追伸)

 王都もバタついていて簡潔な返信ですまない。

 こちらもペトロ国の交渉で急務が多い。

 その辺りの現状も会ったときに伝えよう。


 ――――――




 手紙を読んだマウナが、くすっと微笑んだ。

 岩石の上だというのに足をきっちり揃えて座ってる様子は才女らしい。

 尻が痛くないのだろうか。


「お父さんからですか?」

「あ――う、うん! すぐ返事きたよ。帰ってきなさいだって」

「なら明日にはもう出ますか」

「そうだね……!」


 マウナもすっかり俺に懐き、敬語が抜けた。

 というかレナンシーとの決闘以降から双子姉妹の俺を見る目が変わった気がする……。

 慕われているのはもちろんだが、心底感謝してるって雰囲気だ。

 まぁ、青魔族の退去で自国の危機を救ったことは事実なんだから当然かもしれないけど、それとはまた別に、まるで自分の窮地(・・・・・)も同時に救ってくれたと言わんばかりである。

 国家の問題より個人的な問題も抱えてそう。

 それがどうも巫女の宿命とか、例の『血の盟約』に関係している気がしてならない。


「お姉ちゃんは?」

「えーっと……」


 岩壁を見上げる。

 リアとエトナの二人はダリ村の展望台からこれから目指すエリン王都への道のりを地図と見比べて確認しているようだ。

 先生(リア)隊長(エトナ)はきっちりタイプだな。

 この南アイル山の麓のダリ村は土地勾配が激しくて、岩肌の斜面に家が連なっているため、展望台までは宿からの登頂が必要なのだ。

 ――不可抗力でエトナのパンツが見えた。


「白いですね」

「白い?」

「あぁいや、霧が濃いですね」

「あぁ、霧のこと――『黎明(ディルクロロ)の森』は魔性が濃いから魔霧がよく発生するんだよ」

「へぇ……」


 この辺は『黎明の森』の近くなのか。

 エリンドロワ王都とエリン王都の位置関係ってほとんど一緒なのかな。



     ○



 さて、リバーダ大陸へ向かうことに決めた俺だが、メルヒェン姉妹二人との約束をきっちり守るために王都へ向かっている。

 二人の護衛を最後まで務めるつもりだ。


 わざわざリゾーマタ・ボルガとエンペドが存在する『リバーダ』へこちらから出向くのは気が引けるが、時間旅行の鍵を握っているのは間違いないから、それは決定事項だ。

 エリン王都は内陸側にあるため、この旅路は遠回りになるものの、色々と気づきを与えてくれた恩人三人だし、当初の役目を投げ出したくないという思いが強かった。



 ちなみにケアはギャラ神殿に残ったまま。

 本人も神殿(ひきこもり)生活が気に入っていた。

 どうせ東沿岸に向かうときに神殿を通るから、そのときに声かけて連れていけばいいだろう。

 一緒に未来へ帰るなら連れてかないと。


 で、大陸横断に協力してもらう予定のレナンシーは、根城にしてる東の街へ戻った。

 父親(リィール)の叱責もあって相当へこんでいたが、エンペドとの再会を考えて浮き浮きしている節もある。

 本当に節操のない女だ……。

 今となっては全く尊敬できない。

 アンダイン"様"なんて二度と呼ばないぞ。



     ○



 王都郊外に居を構えるメルヒェン家。

 黎明の森を半日で一気に抜け、平原に飛び出してみれば、その大きな屋敷が目に飛び込んできた。

 城のようなお屋敷である。

 これはオルドリッジの負けだな……。


 この時代の貴族に爵位があるか知らないけど、間違いなく地位は高い。

 こんな家の令嬢だったらウェンディゴの毛皮コートなんて大した買い物じゃないだろう。

 徒歩で門前へ近づくと慌てて使用人が出てきた。


「エトナ様、お帰りなさいませ。大変でしたね」

「まぁ色々とね」


 エトナは旧来の仲だとばかりに軽く使用人を往なし、屋敷へと歩いていく。

 はぁ~、と盛大な伸びをして庭を進んでいた。

 王城級の建物だってのにかなりの寛ぎぶりだ。

 実家なら普通の反応なんだろうが、貴族のような畏まった振る舞いはない。


「マウナ様もお帰りなさいませ」

「うん。とりあえず客室にこの方を案内して」

「かしこまりました」


 マウナは俺に気を遣ってくれる。

 

「ジェイクさんも疲れただろうから少し休んでて」

「……ありがとうございます」


 俺は庶民生活が長すぎて少し緊張していた。

 使用人が「では――」なんて言って俺と視線を交えた瞬間、ちょっとびっくりした様子が窺えた。

 皮膚の浅黒さとびっしり刻まれた魔族紋章で人間族じゃないと思ったんだろう。

 その第一印象にもいい加減慣れました!



 リアに関しては使用人から見向きもされず、勝手に屋敷の中へとトタトタと駆けていった。

 マウナの後を追ったように見えたが、どうやらそういうわけでもないらしい。

 教育係として自室が用意されてるんだろうか。



     …



 客室へ通された。

 特大ベッドが一台。

 壁際には豪奢な調度品の数々が並んでいる。

 丁寧に手入れされた一輪の花が花瓶に挿されて窓辺に置かれていたのが特徴的である。

 ……ここがおよそ千年前とは信じられないな。


 俺もこれまでの人生経験で、王家や貴族の家や別荘は何軒か経験済みだが、これほど豪勢な客室は見たことない。

 これで客室なのだ。

 当主や子息の部屋なんてどんな異次元が展開されてるんだって話だよ。

 そもそも千年後の方が文明衰退してないか?

 大丈夫なのか、この国。



 とりあえず久しぶりのベッドに跳び込んだ。

 本来、寝る場所ってこんな感じかと驚愕する。

 そもそもベッドで寝るなんて魔法大学の学生寮で過ごして以来じゃないか。

 その寮のベッドすら粗末なものだった。

 故に、メルヒェン家の高級ベッドは俺を即行で睡眠へ貶めるために十分過ぎるほど快適だったのだ。

 感慨に耽る余裕もなく、俺は寝た。

 少しどころか、本格的に休んでしまった。



     ◇



 暖炉の灯る客間で早速にもお父様へ報告する。

 隣にはマウナも一緒だ。


「お父さん!」

「おぉー、マウナ! よくぞ帰ったー!」


 はっはっはと笑いながらマウナを抱きしめる父。

 マウナももう良い歳なんだからそういう厚い抱擁くらい卒業しなさいよ……。

 淑女がだらしないわ。


 父――オーガスティンは豪快な人だ。

 大らかだが、魔性を秘めた『双子の巫女』の父であり、エリン内の権力は王家を除けば随一とされる。そんな絶大な権力と慕われぶりから、屋敷内外で呼ばれる愛称が『貴族パパ魔人』。

 要するに、愛されているのだ。


 私たちの純白の髪は父譲りのものだが、性格はどちらにも移らなかった。

 豪快で、温厚で、器の大きいお父様のことは私も尊敬しているものの、いつまでも子離れしない様子は目に余る……。


「ん? エトナも父に飛び込んでいいぞ」

「嫌よ! 子どもじゃあるまいし」

「ハッハッハー、エトナは相変わらずプライドが高いな」


 ちなみに三年ぶりの再会かしら。

 最後に会ったのも十五の思春期真っ盛りの頃だったから、私が反抗期を引き摺っているのかも。

 でも父にいつまでも甘えるのは淑女の振る舞いではないと私は思うのだ。


「それで、お父様もお疲れでしょうから早速報告させてもらうけど」

「おお、そうだったな――おや?」


 父が部屋を見回して違和感に気づく。


「リア・アルター女史の姿が見えないが」

「気を遣ってるみたいだよ。親子水入らずでどうぞって……後で挨拶に来ると思う」

「ふむ。彼女は家族絡みのことになると敏感になるきらいがあるな」

「先生も疲れてるんでしょ」


 リア先生も私たちの教育係として雇われたとき、家族は遥か遠くの国にちゃんといると自己紹介してくれたし、神経質になる話でもないはず。



「それよりも青魔族問題のことだけど――」


 本題に入る。

 私は事情をすべて包み隠さず話した。

 経緯を語るにはジェイクの存在は欠かせない。

 彼がいなければ私も既に死んでいたのだ。

 それに、追い詰められたゲームで見事にレナンシーを出し抜いて勝利をもたらしたのはジェイク以外の誰の力でもないのだから。


 お父様は話を聞いていても、終始、眉を顰めて警戒心を見せていた。

 ……まぁ、人伝てでは疑って当然か。

 ジェイクの凄さは直接その勇姿を見て、言葉を交わしてみないと絶対に分からない。



 ――怯えた目をしていた。


 私の第一印象では、臆病者だ。

 でもあんな超人が怯える理由なんて、やっぱり人の怖ろしい内面に触れたからなんだろうな。

 圧倒的な力は、誤解や迫害を生む。

 争いの種なのだ。

 私たち巫女の力だって……。


「ジェイクという男は今、何をしてる?」

「客室で寝てるみたい。それも豪快に」

「ぜひ話がしてみたい」


 性急な口ぶりに不安を覚えたのは私だけでなく、マウナも同じだった。

 私が何か言う前にマウナが口を挟んだ。


「お父さん、ジェイクさんは危険な人じゃないよ」

「今の私の話、聞いてて分かったでしょう。変な企みなんてないし、ただの流れ者よ」


 お父様は穏やかに微笑んだ。


「もちろん信じるが、その鬼神の如き強さ、王家が知ったらどう思うかな?」

「それは……」


 エリンは同盟国内でも立場が弱い。

 西のペトロ国は北アイル山を越えた先の遊牧民族との防衛線を担っていて、発言力が強い上に国土が広い。

 ラーダは鉱脈豊かな立地上、武器や建造物用資材の産出が強みだ。

 エリンの強みは水利権――海産資源だが、それが青魔族の侵略で脅かされてしまったことで強く出られない状態が続いていた。

 他国の軍事力に依存し、殊更"戦争"も弱い。

 故に競争力も育たない。

 ……まぁ、争いごとに弱いからこそ青魔族に対抗できなかったというのもある。

 元から温厚な民族から成立した国だそうだ。


 そんな国家なら、おそらくジェイクを手放したくないだろう。

 青魔族を退いた実績で他国へ牽制できる。

 そして今回の問題解決によって――。


「これでお前たちを他国へ引き渡さなくてよくなったんだ。まず父として礼を言いたいのもある」

「お父様、そんな大っぴらに……」


 ――そうだ。

 私たちのどちらかはペトロ国の王位継承者に引き渡される予定だった。

 "政略結婚"というやつだ。

 ペトロ国の最大戦力『ハイランダー軍』を借りて青魔族を退き、さらなる関係強化のための政略結婚を申し入れる。


 エリンの最後の綱は『巫女(わたしたち)』なのである。


 百年に一度程度しか生まれない『巫女』。

 それが今、エリンにしかいない。

 さらに私たちは双子だ。

 魔力を扱える存在はそれだけで貴重だった。

 ペトロの狙いは『巫女』の血統。 

 魔法の御業はそれだけで国力を高める。


「もう解消される話だ。包み隠さなくてもいいだろう。王家にもジェイクという男を使えば(・・・)、うまく交渉できるはずだ。何ならその彼を婿としてメルヒェン家に――」

「ちょっと!」


 なんて酷いことを言うんだ。

 私たちを想っての発言だとしても、父はジェイクのことを微塵も考えていない。

 ジェイクはそういう陰謀に敏感だ。

 だから人間が怖いんだ。

 妹が悪ノリしてぴしりと手を挙げた。


「はい! 私が結婚します!」

「よし、マウナの婿として迎え入れよう」

「ダメーーっ!」


 マウナも馬鹿ね、ほんとにっ。

 一緒に旅してたくせに何でジェイクの気持ちが分からないの?

 それに初対面から不躾に『血の盟約』まで交わしてもらえないかお願いしたそうだ。

 妹は優しい反面、思慮深いところがある。

 きっとお父様と同じようにジェイクの力を使えばエリンの為になると考えたんだろう。


「あぁ、お姉ちゃんはジェイクさん好きだもんね」

「え、ちがっ……」

「じゃあ、文句ないでしょう?」

「私はジェイクの立場を考えて――」


 確かに……確かに、ジェイクが力を貸してくれたらエリンの人は皆、幸せになるかもしれない。

 私たちも幸せだ。

 政略結婚なんてまっぴらごめんだし。

 あんな超人紳士が婿にきたらメルヒェン家も幸せだろう。

 でも、その幸せの中にジェイクの姿はない。

 私はあんな怯えた目をする男の、幸せな顔を見たいと思っただけなのだ。



     ◇



 ――城や宴や、夜ふけて時。

   忍ぶればこそや姫の恋。


 ――夜風が星屑から舞い降りて、

   乙女の髪を揺らして囃す。


 ――夢見る乙女は風に誓う。


 ――此度の戦乱、乗り越えん。

   すなわち我は結ばれよう。


 ――勝利と栄光は約束の大地で

   いずれ、咲き誇る。



 歌声で目が覚める。

 ふかふか布団の魔力によって俺もがっつり寝てしまったようだ。

 窓辺は昼間の姿で開け放たれたまま、夜風とともにその歌声が部屋に舞い込んでいた。

 ベッドから身体を起こし、夜空を見上げる。

 星が綺麗だった。

 辺り一帯の空気が澄んでいるんだろう。


「またか……」


 またエトナの歌声だ。

 これは『ハイランダーの業火 第二楽章』だ。

 こないだの違和感もなく、歌詞は丸きり一緒。



 メドナさん似の少女がその詩を歌う。

 これは偶然ではない。

 運命に偶然はないのだから。


 初めてその歌声を聴いたとき、有名な歌をエトナも知っていただけなのかと思ったが、聞いてみればエトナは「なんとなく歌ってた」と答えた。

 詠唱(アリア)を考えているだけなのだと。


 ――ならば『ハイランダーの業火』はエトナが考えた詩なのか。



 勝手が分からない巨大屋敷の廊下へ出る。

 空気が冷たく、屋敷は静かだ。

 使用人も皆、眠ってしまったのだろう。

 歌声を頼りにその部屋へと辿り着いた。

 階段を何度か昇った。階層的にも、おそらくエトナの部屋なんだろう。


 部屋に声をかける直前、はっとなる。

 これは夜這い行為に当たるのでは……。

 時間帯も遅い。

 寝間着姿だったら失礼だ。

 さすがの俺もそこまで野暮じゃないし。

 引き返そう。



「あれ、ジェイクさんどうしたの?」

「む……」


 そっと立ち去ろうとしたら声を掛けられた。

 ネグリジェに羽織り物を被ったマウナだった。

 暗がりで見ると本当にエススに似て"お人形"みたいな顔立ちをしている。

 白い髪に蒼い瞳が特にそんな印象を受ける。

 マウナがなんでこんなところに――。


「ここが私の部屋。そこはお姉ちゃんの部屋だよ」


 表情で悟ったのか聞かずとも答えてくれた。

 やけに上階まで来てしまったと思ったら双子の巫女専用フロアだったか。


「すみません、迷いました。階段はどっちですか」

「そこの突き当たり」

「かたじけない」


 分かりきった階段の位置を教えてもらって、間髪入れずに早歩き気味に廊下を歩く。


「私が案内しようか?」

「気持ちだけで感謝しますっ」

「あ、待ってよ」


 マウナが何を思ったか俺のあとを付いてきた。


「せっかくだから少しお話でもどう?」

「え……? でも夜分遅いので」

「お昼ぐっすりだったから寝つけないんでしょ」

「あの布団の魔力さえあればいけます」

「布団の魔力? 客室に何も魔法なんてかかってないと思うけど……」


 比喩表現だっての!


「まぁいいじゃない。少しくらいお喋りに付き合ってよ」

「人と話すのが苦手で」

「じゃあ何でここにきたの?」

「それは……」


 マウナはあざとい。

 ほんわかしてるように見せて鋭い所を突く。


「ジェイクさん、お姉ちゃんが好きだよね?」

「えっ!?」

「これまでの旅で何となく感じてたけど。気にしてるなって。間違ってる?」


 憧れの人と激似な時点で気にならないわけない。

 でも、それが恋愛感情に発展してるとは信じたくない。もしそうなら未来で待ってるシアに申し訳が立たないし、そもそも帰る意志が揺らぐだろう。


「それにほら、私たちのこと無償で助けてくれたし。なんでそんなことしてくれるのかなって思ったけど、それも『愛』かなって思えば納得できるよ」


 無償で人助けするのは俺の深層心理に根づいている救世衝動ゆえのお節介なのだ。

 何の感情もない。

 俺は息をするように人助けをする人間なんだ。



「お姉ちゃんも――」


 マウナが肩に垂れた白い髪を後ろに流した。

 はにかむように何をか伝えようとしている。


「お姉ちゃんもね、きっとジェイクさんのこと好きだよ」

「え……」

「お姉ちゃんと結婚する気はないの?」

「なんだって!?」


 話が一気にぶっ飛んだ。

 いきなり結婚とか意味わからないだろ。

 俺には嫁も子もいるんだ。

 誤解を解くための次の言葉を色々と考えあぐねていると、すぐ傍の部屋の扉が徐ろに開いた。

 つまり、そこはエトナの部屋だ。



「――なに? なんか廊下が騒がしいと思ったら何してるのよ、二人揃って」



 顔を出したのはマウナと瓜二つの少女。

 さっきの茶化し発言もあって、一瞬メドナさんが出てきたのかと思ってびっくりした。

 エトナの姿格好はマウナと同じようにネグリジェだけ着ていて肩も少し透けていた。

 そこに艶やかな肌が映る。


「あ、お姉ちゃん、ジェイクさんがね――」

「わぁあああっ!」


 逃走を図る。

 猛ダッシュで廊下突き当りの階段を目指して走り、階下へ転げ落ちた。


「何なのよ。夜更けに迷惑な男ね」

「ふふ」

「マウナも早く寝なさいよ」

「はーい」


 どうやら変な告げ口はされずに済んだようだ。

 危うい。

 マウナ・メルヒェン、油断ならない……。



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