Episode201 族長との戦いⅢ(練習)
貴重なご感想ありがとうございます。嬉しいです。
※ゲーム本番は次回です。
神殿内にてレナンシーと対時する。
――石壁に這う水滴、冷たい空気、昏い部屋。神殿と呼ぶに相応しいこの場所が、先ほどまでの雰囲気を一変させる。
この広間は俺たちが村に通されたときに牛肉料理を振る舞われた広間だ。本来、神殿の主である『族長』から神託を授かる際の集会場として使われているため、その間取りは広く、レナンシーや俺たち、武装型青魔族三人ほどの総勢十人が一度に入っても余裕があった。
村人が机一つと椅子二つを運び込んでくれた。
対戦のためのゲームボードだ。
といっても、『ウォーリア』は両者の手札五枚から一枚を選んで同時に札晒しするだけだから机一つあれば足りる。
二人で向かい合って座った。
「其方、ジェイクと申したか。ゲームは『ウォーリア』で間違いないのよな?」
「ああ……生憎、俺はそれしか知らない」
「よいぞ。ではルール確認といこうかの」
丁寧に『ウォーリア』のルールを確認し合った。
俺の知ってるものと相違ない。
レナンシーは懇切丁寧に手札の切り方、場へのショーダウンのやり方を手取り足取り――文字通り、俺の手を撫で回しながら説明してきた。
「なんだよ」
「ふふふ、良いのう……外見は瓜二つでも性格は陰陽を分かつほどの対極……所謂『2Pキャラ』じゃな? 色違いを我が手中で愛でるのも幸甚、僥倖、報謝の賜物……ふふふ。この想いも統禦者に届いたか」
「……?」
レナンシーは虹彩がハート型になっている。言ってる事も意味不明な上に吐息も荒くて本気で勝負する気があるのか疑わしくなってくる。
とにかくルールは確認できた。
基本的に俺の知っている通りだった。
インクライズカードの種類は、剣・弓・光・闇の四つの属性。
S・A・B・C・D・E・F・Gの八つの等級。
合計三十二枚のカードがある。
今回、光と闇はSカードしか使わない。
この場では『光』と『闇』と呼ぶ。
使用カードは剣弓S~Gと、光一枚と闇一枚の十八枚だ。
プレイヤーは配られた五枚の手札を使う。
つまり十八枚のうち、両者合計十枚も手札として使うため、山場に残されるカードの枚数の方が少なく、自分の手札から相手の手札を推測しやすい。だから、カードを増やすといったイカサマはしにくいゲームだと、かつてアルフレッドは教えてくれた。
プレイヤーは手札五枚の中から一枚選んで場に出し、一回一回その優劣を競って勝敗を決めるのだ。
カードの優劣関係は、
・光 > 闇 > 剣S = 弓S
・剣弓A~G > 光
・剣弓S > 剣弓A~G
・闇S = 剣弓A~G
この四パターンさえ把握しておけばいい。
光カードは、闇や剣弓Sに強いが、雑魚カードに弱い。
闇カードは、剣弓Sに強いが、光に負け、雑魚カードにドローとなる。
剣弓Sカードは、雑魚カードには勝つが、光や闇に負ける。
手札は最大三枚まで勝負前に引き直せる。
片方のプレイヤーが偶然にもSを四枚も手札に持ち合せていた場合は自己申告してシャッフルしなければならない。
「これは三回勝負か?」
アルフレッドと悪党二人のバトルでは三回バトルで勝負をしていた。
お互いの力量を読み合いながらゲームの展開を決めるための助走として、三回だ。
俺も当然そのつもりだったが――。
「三回じゃと? 其方は三回も賭けられる仲間がおらぬじゃろう」
「え……?」
賭けられる仲間がいない……?
仲間を賭けて戦うのか?
「今なんて言った。仲間を賭ける?」
「ウォーリアを知っておるのではないのか」
なんだ、古代仕様の特設ルールでもあるのか。
未来ルールとのギャップに戸惑う。
俺の動揺を感じてか、レナンシーは卑しく嗤った。
――心理的優位に立ったかの如く。
レナンシーは机の上で乱雑に詰まれたカードを一枚摘み、顔の前で立ててみせた。青い下地に魔族紋章が描かれた怪しいカードの背が、レナンシーの手に合わせてゆらゆらと揺らめく。
「ふふ、『ウォーリア』の由来を教えてやろうぞ。――これは我々魔族に伝わる遊戯。その発端は無用な諍いを減らし、決着を即時につける『殺し合いの遊戯』よ。其方も気づいておろうが、青魔族の連中に然程、個性などない。戦闘力を鍛えようとて人間族のように幅は利かぬからのう。内部で争いが起きたときは互角の勝負にしかならぬ……」
レナンシーがちらりと俺の背後に立つウォードを見やった。
ウォードは怯えて後ずさりした。
俺もウォードとレナンシーの背後の武装型青魔族を眺めたが、確かに彼らの容貌は大差ない。細かい顔の違いはあるが、体格や目鼻立ちは似ていて美丈夫揃いである。
レナンシーは揺らめかせていたカードをぴたりと止め、ゆっくり裏を返して俺に見せつけてきた。
描かれていたのは『A』の一文字と剣士の絵。
「故に――戦力の削ぎ合いを神の命運に委ねる。どちらが正しいか、どちらの主張を採択すべきか、その采配を神の許に行う遊戯が『ウォーリア』じゃ」
気づけばレナンシーは猛禽の眼に戻っていた。
眼光が鋭く光り、俺を射止める。
族長という存在の怖ろしさを感じた。
「賭けるものはそれぞれの言い分だろ? 俺が勝ったらあんたがエリンから出ていく。それだけだ」
「当然、妾が負けたら青魔族諸共、立ち去ろう」
「だったら――」
「しかしてこれは『デスゲーム』じゃ。戦争とはそも、そういうものよ。生死を賭けぬ戦いに意味も、情熱も、愛憎もない。ククク、妾と其方は王であり、お互いの仲間を賭けて勝敗を決める。愉しい遊戯じゃろう?」
「――っ!」
怒りのままに立ち上がり、テーブルに身を乗り出してレナンシーの腕を掴み上げた。
ふざけるな。
「おぉ、情熱的じゃ。今宵が楽しみじゃの、ふふふ」
「どこが平和的交渉だよ」
「クク、血生臭い懐柔より高潔じゃ。ほれ――」
レナンシーは俺に掴み上げられた手とは反対の手で、指をぱちんと弾いた。
刹那、悲鳴があがる。
「「きゃぁあっ!」」
双子の悲鳴は斯くも似ていた。
反響だけ残し、同じ人物が悲鳴をあげて木霊したかのようだ。
後ろを振り向くとエトナとマウナがそれぞれ水球に包まれている。否、水球と言うより水玉だ。内部は空洞で、幸いにも溺れることはなさそうである。
水玉が宙に浮かんで天井の端に追いやられた。
「なによ、これっ!」
「助けて!」
慌てて水玉を叩くエトナとマウナ。
しかし、水玉はビクともせず、両者が拳で叩いても弾力ある音が虚しく響くだけだった。
二人の声も籠って聞こえる。
「清いのう……"水"は美しく愛おしい。血生臭さ、泥臭さ、すべて洗い清めるが海神の在り方じゃ。我が父も海を嘆じて大地を封印せしめた。水とは本来、封じる力よ」
「何のつもりだっ」
「頭数が中途半端じゃからのう。妾と其方で賭ける『代償』は二人じゃ」
そう言うと、レナンシーは自らの部下の青魔族二人も水玉で覆い尽くして宙に浮かべた。
宙で並ぶ四つの代償――。
青魔族二人と巫女二人。
俺たちから見れば、エトナとマウナの命の方が尊く感じてしまう。しかし、レナンシーも『族長』であり、青魔族の『母親』だ。息子二人を差し出しているようなものなのだ。血族の契りを重んじる魔族側にとっても、きっと青魔族二人の命は等しく尊いものに違いない。
こんなルール、聞いてない……。
戦いの代わりにゲームに挑んだのに結局は"戦い"じゃないか。
見るに、水玉に捕らわれた武装型青魔族も助けを求めていた。
俺はあの二人の命も奪いたくない。
誰も殺したくない。
「辞めだ。横暴に付き合う気はない」
「ほう、降りるか? 敗北宣言すれば其方の負けじゃ。生娘の命も無下に手放すか?」
「まだ勝負していな――!」
怒鳴りつける俺を不敵な笑みであしらい、レナンシーは手先で小さな水球を作り出した。
それを見て俺も硬直する。
レナンシーは水球を見る見る凍結させて氷にすると、躊躇なく手で握りしめた粉々に砕いた。
その氷粒をぱらぱらと机に落とす。
そして、ふふっと嗤ってみせた。
こいつ……。
最初からこれが目的だったんだ。
あれは人質だ。
水魔法に囚われた巫女二人の命運は、謂わばレナンシーの手中にある。
俺がもしここでレナンシーに剣を振れば、彼女らは水玉の中で即座に氷漬けにされて死ぬ。時間魔法で止めている間に助けるという手段もあるが、二人を助けたとしても、その後に何か罠が仕組まれている可能性もあった。
それだけの余裕さを表情から感じさせた。
レナンシーは嗤い続けている。
「なにを今更ここまで来て。口説き文句は上等じゃったが、甲斐性のない童貞であったか」
「……わかった、勝負しよう。あと、俺は童貞じゃない」
「ふふ、ならば妾を愉しませて賜れ」
この女、エンペドと同じタイプだ。
命を弄ぶ下衆だ。徹底的に叩き潰すぞ。
レナンシーは手招きして、もう二人、協力者を呼びつけた。
俺の背後にいるウォードと、もう一人の武装型青魔族だ。
それぞれ監督役を出すらしい。
ウォードと武装型青魔族はテーブルの側面に立ち、俺とレナンシーの肩にそれぞれ手を置くように指示された。
これは俺が暴露した『時の支配者』対策。
体が触れていれば、時間を静止させても意味がなくなる。
――切り札は最後まで取っておけ、とエトナに忠告されたのに、それを無視したことが仇となった。それで忠告してくれた本人が人質に取られてしまった。
エトナは正しかった……。
なんて失態だ。
馬鹿正直な自分が間抜けだったのだ。
「ルール確認の続きといこうぞ。此度は『代償』を二人ずつ差し出す一回勝負じゃ。其処な代償は我らの手札次第で『水責め』に遭う」
「水責め……?」
「其方が『雑魚カード』と呼んでいるカードには本来意味があるのじゃ。この『ウォーリア』、プレイヤーの勝敗を決める手札は、等級が『S』のカードに依存しておる。一方で、等級が『A』から『G』のカードの優劣次第では、代償の四人の水玉内に水が充満していくのじゃ……ふふ、もがき苦しむ生娘の姿を見るのが妾は愉しみでのう……」
レナンシーは心底楽しそうに笑う。
まるで虫に悪戯する幼児のように。
……この仕草も作戦のうちか。
ゲームは心理戦。
怒りや焦りで相手の隙を突く"ブラフ"が通ずるゲームだ。レナンシーはわざと俺を苛つかせるように振る舞い、勝負に隙を作ろうとしている。
思い出せ。アルフレッドの度胸を――。
"お前はまだ頭も足りなければ、ポーカーフェイスも足りてねえ"
"顔に出るんだ"
努めて無表情に、無感情に……。。
心を冷静に、時には相手の慢心を誘うための演技を入れる。俺みたいな単純直情型な男には難しい技術だが、事態はあのときの金品の賭け以上のものが懸かっている。
それ即ち、人命だ。
「水が充満していくってどういう事だよ」
「其方も経験者であれば知っておろう。このゲームは五手の勝負じゃが、四手目で勝敗はほぼ決まる。故に――初手、二手、三手、四手を出す前の計四回、『水責め』を賭け、充満する水の量を『上昇』することが出来る。初手や二手目で我らの勝敗が決まれば水責めも終了。代償も解放される。しかし、レイズの判断を見誤り、一手目から水玉内に水を充満させてしまえば、代償の連中は我らの雌雄が決する前に溺死してしまうぞ。ふふ、心して見極めよ?」
「……?」
一度で理解できないから何度も確認した。
古代『ウォーリア』のルールとして、ゲームの勝敗は先ほどの『光』『闇』『剣S』『弓S』で優劣が決まる。
一方で、代償の仲間には本来ドローと判定される『剣A~G』『弓A~G』の優劣で、水責めの刑が執行されるようだ。
しかも、その水も水玉内に蓄積する。
一手目で仮に俺が『剣G』を出し、レナンシーが『弓F』を出せば、勝敗は引き分けだが、等級の優劣では俺が負けているため、エトナとマウナの水玉内部に水が四分の一満たされてしまう。
二手目でも負ければさらに四分の一。
三手目でも負ければさらに四分の一。
四手目でも負ければさらに四分の一。
最悪の場合、四手目で仲間は完全に水球に閉じ込められ、溺死する。しかも、レイズされた場合は四分の一ではなく二分の一まで水が満たされるのだ。
『光』と『闇』のカードにも水責めのルールが敷かれた。
『光』を場に出せば、勝ち負け関係なく『代償』全員分の充満した水は消滅させられる。つまり『光』は、勝敗を確実に決するカードである代わりに、敵味方関係なく仲間を救済できるカードだ。
その反面、『闇』を場に出して勝利できれば、対戦相手の水玉内へ最大まで水を満たして追い込むことが出来る。一方で『闇』を出して敗北かドローだった場合、出したプレイヤー側の『代償』に最大まで水が注がれて追い込まれる。『闇』は諸刃の剣だ。
そうか……。
このルールは焦りを生む。
仲間を苦しめたくなければ早く勝利しなければならず、熟考もできない。
それに、一度『光』を出せば『水責め』から仲間を一旦解放できるという条件だが……もし、手元に光カードがあれば、仲間のピンチ次第で『光』を優先的に出したくなる。
その心理を逆手に取れば、敵の『光』カードを誘い出す戦略も立てられるのだ。
そこを雑魚カードで叩き潰す、とか。
しかも、だ。
雑魚カードにランク差が存在するなら、最初に配布されたカードが好カードでも、両者引き直す可能性が高い。
少しでも等級の高い雑魚カードを確保しておきたいからだ。
そうすると山場八枚のカードは限りなく減り、対戦で『光』や『闇』の攻防が確実に起こることが予想される。
相手のカードも推測しやすくなる。
「引き直しのときに捨てたカードは、対戦相手が確認してもいいのか?」
「それは禁止じゃ」
なら、アルフレッドの手も使えるか。
それは敢えて好カードを捨てる作戦……。
アルフレッドは『闇』カードを敢えて捨て、雑魚カードのみで相手の慢心を誘い、勝った。
でも、もし『光』カードが来た場合は捨てたくない。
光カードさえあれば――。
「もし光カードで俺が負けた場合、エトナもマウナも解放してくれるのか」
「勝負前から負け戦を考えるか……つまらぬ男よのう。安心せよ。代償が死ぬとすれば、それはあくまで『溺死』じゃ。妾から手を下すことはせぬ」
「闇カードで負けた場合は?」
「……ふふ、溺れるまで漬けておくぞ」
レナンシーは嬉々として伝えた。
それを望んでると言わんばかりだ。
「代償の生死は勝敗とは関係あらぬ。生娘どもが死んでも構わぬなら気にすることはない、ということじゃ。尤も、生かして勝利するには策が必要じゃが?」
レナンシーは冷静で扇動的だ。
こいつは代償の青魔族が死んでも構わないのだろうか。
それとも守りながら戦うのだろうか。
エンペドと同じタイプなら前者だろう。
別に仲間二人が死んでも構わないと思っている可能性が高い……。
「それで、あんたが勝ったら?」
こっちはエリン領土を賭けている。
「そうじゃのう……ふふ、其方を貰おう」
「ふざけてんのか」
「ふざけてなどおらぬ。神性の力は使える。妾が勝利したら其方の支配権を譲り受けようぞ。昼は人間に牙を向き、夜は妾に寵愛の限りを尽くして唇を食み、脚を舐めよ……おぉ、想像しただけでも絶頂に至りじゃ……」
「……」
レナンシーは俺を手に入れればエリンとの戦争に有利だと考えているようだ。俺たちを退ければ、この『溢れ者』の拠点も確保でき、一石二鳥というわけか。
「さて、聞くだけでは分からぬこともあろう。本番前の前戯はどうじゃ?」
律儀にも、練習の時間をくれるらしい。
それともそれも罠か?
○
少し考えてから練習試合を申し込んだ。
練習で一度手合せしてみればレナンシーの戦い方も確かめられるはず。
水責めもどのようなものか見せるらしい。
監督役のウォードと武装型青魔族がカードを切って配った。
レナンシーを睨みながら五枚の手札を取る。
俺の手札は……。
剣S 剣A 弓C 弓D 剣G
光も闇もない。弓Sもない。
それらはレナンシーが持ってる可能性がある。
しかも注意しなければならないのは、今回は雑魚カードも鍵だ。この采配を間違えれば『代償』であるエトナとマウナが水責めに遭う。
「手札はどうするのじゃ」
「三枚交換だ」
「ふふ、妾も――」
弓C 弓D 剣Gを捨てる。
そして引いた三枚は……。
「……」
口元を緩めるな。
ポーカーフェイスを努めるんだ。
三枚交換したことで手元のカードは、
光 剣S 剣A 剣E 弓E
光カードを引けた。
これで仮にエトナとマウナが窒息で苦しむ心配はなくなる。だが、光を出すタイミングを間違えれば勝負には負ける。
あくまで練習だが本番のつもりで挑むぞ。
「さて手札を揃えたところで、まず第一手の賭けに移ろうぞ。――妾は『レイズ』する」
「な……」
いきなりレイズを仕掛けてきた。
レイズを宣言すれば等級が負けたときの『水責め』で蓄えられる水の量は二倍になる。俺の手札では雑魚カードの等級は剣A以外、頼もしさに欠ける……。
「どうじゃ。ここで其方が『敗北宣言』すれば勝負には負けるが、娘たちは助けられるぞ? だが初手で降参とは、なかなかどうして情けない決断よな……ふふ」
レナンシーは手札に自信があるのか。
もし雑魚カードの高い等級を出されれば、エトナとマウナが――。
一手目からはったりの可能性は少ない。
お互い手札を三枚とも交換し、最初の十枚に加えて六枚が山札から引かれた。計十八枚のカードのうち、山札に残ったカードは二枚のみだ。
だからレナンシーはきっと『闇』も『弓S』も持っている。
むしろ持っていなければおかしい確率だ。
しかも既に等級の低い雑魚カードは俺が三枚も捨てた。レナンシーが持っている雑魚カードもきっと等級が高い。AやBばかりだろう。
「同乗する」
「よい。では、ショーダウンといくぞ」
「……」
レイズが脅しなら俺の案配を誘っている?
すなわち、奴の狙いは『剣S』。
それを『闇』で叩く可能性が高い。
ならば『剣A』が常套だ。
しかし、その裏をかいて『弓S』で叩いてくる可能性もあった。
「では、掛け声をば。揚々……」
「せーのっ」
ばんと叩きつけられたお互いのカードは、
俺『剣S』vsレナンシー『弓S』
やっぱりだ……。
勝敗は引き分けで両者とも水責めはない。
「ふふ、基本は押さえておるのう」
これでお互い持ってる手札は『光+雑魚』の四枚と『闇+雑魚』の四枚。
俺が勝つ手段は闇を出すタイミングを狙い、光を出すしかない。俺が光を出すタイミングを見誤り、レナンシーに雑魚を出されたら敗北する。
「では次の賭けは其方が選ぶが良い」
「レイズだ」
「同乗じゃ」
俺には光がある。
水責めの実害が二人に及んでも救済手段がある。
それに次手で闇がくる可能性はない。
そもそも『弓S』を失ったレナンシーは『闇』を出す価値はなくなってしまった。俺の『雑魚』にも引き分けで『光』にも負けるカードだからだ。
Sカードのないとき、『闇』はお荷物でしかない。
「揚々……」
「せーのっ」
掛け声と同時に手札を選んで出す。
俺『剣A』vsレナンシー『闇』
「なっ……!?」
「ふむ、引き分けじゃな」
闇カードを出してきやがった。
確かに二手目は勝負には引き分けだ。
しかし――。
「ごぼっ……ぐっ……」
「うぉぁぁっ……がっ……」
レナンシーの背後の青魔族が『水責め』に遭う。
突然水玉内から水が凄い勢いで噴き出して水玉は水球に姿を変えた。『闇』で負けか引き分けとなった場合、己の『代償』が水責めに遭う。
「ほう、苦しそうじゃ。気の毒にのう……」
「……」
まるで俺が彼らを苦しめたと言わんばかりに。
青魔族の苦痛の声が容赦なく耳朶を叩く。
それにこの勝敗、引き分けに見えて実際は――。
「待て、引き分けじゃない。俺の負けだ」
俺の敗北宣言を聞くと、レナンシーは卑しく目を細めて嗤ってみせた。
口元に下弦の月が浮かび上がる。
「ほう、なぜじゃ?」
「考えれば分かるだろ……。剣Sも弓Sも闇もなくなった。俺の手札は『光』と雑魚しかない。レナンシーは雑魚カードしか持ってないだろうし、何手か繰り返せば、いずれはその雑魚に俺の『光』が負ける」
「……くく、ククク、はっはっは!」
レナンシーは高笑いした。
堪えていたものが抑えられなくなったように。
「凡愚よ。なぜ其方は勝負もせずに己のカードを明した」
「だって――」
「妾は其方が『光』を持っておるなど、今知ったぞ?」
「あ……」
そうか。
レナンシーの視点に立てば、俺が雑魚カードしか持っていない可能性もあったのだ。
「そのまま『代償』への水責めを続けておれば、妾から『敗北宣言』を得る可能性もあったというのにのう」
勝敗は札を最後まで出さない限り分からない。
はったりを続け、最後の五手目に持っていく前に相手に『敗北宣言』させれば勝ちなのだ。今回は俺が勝手に"勝敗予想"を共有してしまった。
「其方の弱さは"憐み"じゃ……ジェイクよ、よもや妾の『代償』である青魔族にも情けをかけたのではあるまいな?」
「……」
そうかもしれない。
レナンシーに彼らが苦しそうで気の毒だと言われたとき、俺は勝敗を焦った。だから手札の読みから考えた勝敗予想を勝手に明かし、負けを認めてしまったのだ。
無慈悲にそのまま水責めにして苦しめ続ければ、レナンシーが青魔族らに慈悲の手を差し伸べるため、勝負を下りた可能性もあった。
『ウォーリア』はそういうゲームなんだ。
「妾とて息子たちが苦しむ姿を見るのは心が痛むのじゃ。其方に慈悲をかけられるまでもなく――のう?」
そう宣うレナンシーだが、不敵に笑っている。
本当にそう思ってるのか?
レナンシーに慈悲があるのか否か。
落ち着き払ってるように見せて内心慌ててるのか。
あるいは勝てば良かろうの人なのか。
分からねえ……。
やっぱり練習を挟んで良かった。
でも本番で勝てるか不安になった。
今思えば、その精神的動揺を誘うことがレナンシーの目的だった可能性もある。
ルール分かりにくかったら教えてください。
なんとか書き直します。
※次回更新2016/10/22~23の土日です。




