Episode189 救世主
剣を携え、一歩前に踏み出す。
赤茶けた土が砂埃を舞い上がらせる。
一陣の風が寂しく荒野に吹き抜けた。
僕の様子を見たエススが慌てて馬を降りようとしたため、後ろを振り返り、声をかけた。
「王女様はそのまま乗っていてください」
「でも、ランスロットは――」
「僕はペレディルと決着をつけます。危険ですから、いつでも逃げられるように――トニー、危なくなったら王女様を連れて逃げるんだ!」
僕の呼び声に応え、愛馬がぶるぶると鼻を震わせた。
物分かりが良くて助かる。
危険か……。
もうこの国を混乱させた元凶は消え去った。
もう王都に潜む危険は存在しない。残された戦いはただ一つ。目の前にいる残党を――否、僕にとってはこの男こそ、この騒乱の渦中で最も忌むべき宿敵だった。
ならば、対峙する男は残党ではない。
"君"が残してくれた最後の戦い。
僕がケリをつけるべきものだ。
「何故だ……貴様は何故そこにいる?」
静まり返った荒野の中、男はそう問いかけた。
なぜ、そこにいる――質問の意図は先ほどの文言の続きだ。
"英雄譚の主人公にでもなったつもりか?"
それはかつて騎馬戦ジョストでも聞かれた問答。
即ち、僕ごときがこうして王女を救うべくして現われた事が――英雄のような在り方が気に入らないのだろう。
ペレディル・パインロックも黒帯になりたかった。
理由はきっと僕と同じだ。
騎士御三家と謳われたマグリール、パインロック、ルイス=エヴァンスには代々背負ってきた誇りがある。剣を取り、戦場を駆け、王家に忠を尽くすことこそが願いであり、威信を示す唯一の手段だ。
王宮騎士団を束ねる黒帯は最高位の称号となる。
しかし、現代は魔法至上主義の時代。
魔術が剣術に遅れを取っていた時代ではない。
故に、元より魔術の素養を磨いてこなかった御三家が没落傾向であることは世間も知っていた。その出自である僕らが、王都で黒帯選抜戦が行われるとなれば、挙って集うのは自明の理。
一席しかない栄誉を奪い合うのは必然だった。
そうして巡り合った末裔同士だ。
「僕は、エススを救うためにここに来た。それだけだ!」
だが、その栄光の座は至極くだらない。
先代が積み上げてきた、吐き捨てるべき汚泥だ。
栄誉のために騎士になる。
名声のために黒帯になる。
――そんな理想は中身がない。建国から千年、時の流れが風化させた亡骸に他ならない。くだらない肩書きに拘って、本質を見失っていたのは僕ら騎士だけでなく、王家も同じだ。
大事なことは格好じゃなかったのだ。
"――お前は分かってるはずだ"
"黒帯である必要なんかないってこと"
そう教えてくれた友達が確かにいたんだ。
その言葉は僕が悩み続けた靄をすべて吹き飛ばしてくれた。
僕が当初目指していた理想は『王女を守る騎士』だが、そうなるためには『エススという少女を守る男』には成りきれない。
でも『王女』とは誰か?
僕の理想の中に存在する、形のない『王女』は何処の誰なのか?
考えれば、目指す姿は始めから一つだったのだ。
「ふ、フハハ、ハーッハッハッ! カッカッカ!」
「……」
「クク、ランスロット・ルイス=エヴァンス……やはり思っていた通りだ。貴様は生ぬるい世界で生きてきた。そんな単純な思いだけで黒帯になれるほど、世界は甘くない」
僕の決意を笑い飛ばす黒い幻影。
――雌雄を決したとすれば、この時だ。
僕にあってペレディルにないもの、それがこの勝敗を分けたと云えよう。一歩間違えていれば、僕もこのような存在になっていたのかもしれない。何故なら僕も当初は『黒帯』に拘り続け、王都にまで来たのだから。
「僕は黒帯になれなくていい……」
「……うむ?」
「英雄にもなれなくていい。脇役だっていい」
そうだ、端から答えは決まっている。
何故ならこの身は――。
「ならば消えろ。貴様のような甘い世界の住人を見ていると吐き気がする」
ペレディルが聖剣を構えた。
大きく振り被り、ぴたりと動きを止めて僕を見据えた。まるで鷹の目だ。冷徹な眼差しが僕を獲物として捉え、そして駆逐するために刃を振るうと告げていた。
地鳴りがする。
聖剣リィールブリンガーは天変地異を引き起こす浸食剣だ。
それが猛威を振るわんと呻りを上げる。
以前だったら足も竦めていた脅威だが……。
「ペレディル――お前の云う世界と僕の決意、どちらが甘いか、その身を以て思い知れ」
虚仮にされる時間は終わりだ。
くだらない拘りも、理想も、肩書きも、全身全霊をかけて打ち砕く……!
ロングソードを片手に構えた。
「ハッ、多少強くなった程度で粋がるなっ!」
火蓋は切られた。
先手を打ったのはペレディルだった。剣を振るえば軽々と舞い上がる百の飛礫。大地が震動し、大小様々な岩肌が上空に散りばめられて、敵の兵器として牙を剥く。
「くらえっ!」
ペレディルが空になっている手を前に突き出し、それらに命じるように叫んだ。
直後、高速で放たれる弾丸。僕めがけて襲い掛かるそれら岩石の砲弾は、まるで大軍が差し向けた殺戮兵器のようだった。
「……っ!」
僕は長剣でそれらを弾き落とした。
的確に捉え、目測で飛来するまでの時間、威力、そして叩き落とすために必要な太刀筋を思い描く。それであんな飛び道具は無力化できる。
僕もそんな特訓をしてきた。魔法大学で。
そうだ……。
特訓したんだ。あの日々に。
目の前に広がるは星空のように煌めく魔力弾の数々。
『踏み込んで……そうだ、そこで叩き落とせ!』
声が聞こえる。
あの学園の日々で僕に剣を教えてくれた"君"の声が――。
「ハァァアッ!」
踏み込んで、叩き落とす。
威力のある弾丸には、重心をかけて破壊する。間髪入れずに次弾――弾丸の飛距離から、飛来する順番を探り、そして太刀筋を思い描く。一撃一撃を払い落とす。
もしも剣戟が間に合わないようなら――。
『三発目の火球は受けるんじゃなくて躱した方が良かったかもしれない』
また記憶が呼び起される。
すべては"君"が教えてくれたことだ。
腕で間に合わないなら足を使う。
身を翻して、次弾の飛来の前にその場から横跳びして回避する。
「なに!?」
迫り来るは巨軍の鏃。
横に走って逃げ、そして払い落とせるものから順番に叩き落とす。それだけのことだ。そんな単純なこと、今まで出来なかった自分が悔しい。
隙を見ては近づいて、こちらからも手を加える。
敵は攻撃直後が一番隙だらけで、カウンターが効果的なのはどの戦闘場面においても同様だった。
舞い上がる荒野の砂埃。
赤い世界は影を落とし、夕闇が迫っている。
僕はペレディルの懐へ飛び込んで剣を振り被った。
下段の構え――。
それは聖心流の剣技の中では邪道だった。縦斬り、横斬りといった一撃一撃に精神を集中させる聖心流では考えられない構えである。
だが、この構えはカウンターの一撃を決めるのには適している。脇下から逆袈裟方に振り上げる剣筋は、威力こそ劣るが、致命傷を与えることも出来るのだ。
この剣技も"君"が教えてくれたものだった。
最後に消えてしまった、名前も顔も思い出せない英雄が教えてくれた。――でもこの体に染みついたものは忘れるわけがない。忘れてたまるものか。
そう……君のおかげなんだ。
ここまで来れたのは。
だから、先ほどのペレディルの問いかけに、動機ではなく原因を答えるとするならば、それは"君"が導いてくれたおかげなんだと答えたかった。
でも、歯を食いしばって僕は宣言した。
エススを救うためにここに来た、と――。
だから君が残してくれたもの、導いてくれたこの結末を無下にしないようにケリをつける。そうやって"物語"は受け継がれていくんだ。
「ぐっ、おおお!!」
ペレディルは咄嗟の反応で、僕の下段からの剣の振り上げを聖剣で受け止めた。それはペレディルの意志というよりも、聖剣自らが勝手に動いたように見えた。
担い手に神の加護でも授けるのか、この聖剣は。
――――……。
瞬き一つの間に五連撃。
打ち込んだ剣戟はすべてを容易く弾かれた。
僕の剣閃が、剣術ではなく聖剣そのものに弾かれ、最後の一手で受け止められた。お互い制止した剣で鬩ぎ合い、交差する刃の隙間から視線がぶつかる。
「どうやら、神は私に微笑んだようだな」
「この――っ!」
弾き飛ばす。
まだだ……僕には神が遺した剣がなくとも、"君"に託された剣がある。
腰の帯から『魔力剣』を引き抜いて二刀流で構え直す。
「実にくだらぬ! 本数を増やせばこの身に届くとでも?」
「聖剣に頼ったお前の剣技に負けるものかっ」
ペレディルに肉迫し、剣を振るう。
乾いた剣戟の音が荒野に鳴り響き、そして何十撃にも及ぶ打ち合いが繰り広げられる。敵の剣技は神が遺した聖剣によるもの。
聖剣と魔剣が拮抗し、それらがぶつかり合う度にバチバチと紫電を放って大地を轟かせた。
……ペレディルの実力に、鍛錬の軌跡は存在しない。
宿した神の力に何の意思もない。
それが相応しい担い手であるものか。
僕が担う魔製の剣は"君"が存在した確かな証拠であり、託されたものは剣だけではなく、技のすべてだ。
その僕が、負けるわけがない。
「くっ――――」
「せぁあっ!」
押し返した。
蹈鞴を踏む矜持の騎士。それが無様に尻餅をついた。
とどめを刺せる――。
今だ、と駆け抜けたその刹那。
「ひ、ひぃいっ!」
窮地に立たされたペレディルは咄嗟に『念動力』を使った。何が動いたのかと思えば、目の前から飛来したのは僕の不意を付くものだった。
――生首が飛んでくる。
それはペレディルが乗り捨てた黒馬の荷として提げられていたらしい。道中はまったく気づかなかったが、騎士団長アレクトゥス・マグリールの斬り取られた生首だった。何故そんなものが提げられていたのかは謎だった。精神を狂わせたペレディルが、故郷へ帰る際の土産として提げていたのか、ただ晒し者として置いていたのかは分からない。
ただ、僕のトラウマを抉り出すには十分だった。
く、首が……。
屋敷の鉄柵に突き刺さった人の生首。それは僕のトラウマだ。
動きが止まる。
「ヒーッハッハッ!」
僕の動揺に気づいたペレディルは腰を上げる。
そして、剣を振り被って斬りつけた。
「う……あ……」
「臆病者のルイス=エヴァンス! 貴様の世界は生ぬるい! これが現実だ! これが人の死だ!」
ペレディルは高らかに嗤い、飛来してきた生首の髪を引っ掴み、そして振り回した。僕は震えて身動きが取れなくなった。
そこに追撃が襲いかかる。
波を打つように歪んだ剣は、僕の心臓に突き刺さる。
担い手のペレディルは貫通した歪曲剣をぐりぐりと抉り、僕の傷口を抉り拡げた。血が吹き出していく。身体が冷たくなっていく。
視界がぼやけて、荒野の暗がりはより深くなっていく。
「甘かったのは貴様の決意だったな。死して恥じるがいい」
ペレディルは僕の体を突き飛ばして、荒野に投げ出した。
どしゃりと倒れる肉体。
何故か白い光は僕を包んではくれない。
まさか、『白の魔導書』が蘇生する力にも限度がある、のか……?
「ランスロット! ランスロット……っ!」
遠くからエススが僕の名を叫んでいる。
その声はどんどん遠のいていく。いや、僕の意識が闇の中へ堕ちているんだ。暗がりは広がって、ついには別の世界に移ろいゆく感覚が襲った。
死んだ人間は生き返らない。
その絶対的な真理を超える力がある。
『白の魔導書』がそうだった。選んだ人間を蘇らせる。選んだ人間を……。
それは神の意志か。
あるいは、また別の存在が因果を編むための思惑か。
その思惑に当てはまらない人間が選ばれることはないのだ。
僕が、この選定に選ばれたのは……。
――生きてっ、ランスロット!
そうだ……。
世界が僕を選んだのは、≪王の選定≫に選ばれた少女を救うため。
『ゲーボのお導き』が示した次代の王だ。
僕はその少女のために、これまで足掻いてきた。
だから、その意志がある限り、この命も尽きることはない。
トラウマがなんだというのだ。
そんなもの、果たすべき役割の前では小さいものだ……!
"――en; Converge lim{x→0} 1/x^⑧――"
光が包み込む。
極限まで死んで死んで、死に尽くせ。
この身は、投げ出すだけが取り柄の勇住邁進の肉体だ。
「白い光……! 『ゲーボのお導き』が!」
エススが僕の背を眺めて驚きの声をあげた。
相対する騎士も困惑している。
「貴様は、なぜ!? なぜ蘇ったのだ……!」
「……僕が、死ぬわけにはいかないんだぁぁあっ!!」
猪突猛進。
爆発する力で振り払う。それは過去の情景。屋敷の鉄柵に刺さる生首の映像だ。
生首は僕にとって恐怖の象徴だった。生首を連想すると、身動きが取れないほどに怖気づいてしまう。だから兜で常に首を守り続けてきた。
でもそんな些細なこと、為すべき救国の前では――。
「雑魚が、何度蘇ったところで――!!」
ペレディルは団長の生首を掲げて僕に示しつける。
それを見て、今は恐怖よりも怒りが湧いた。僕を脅すためにそうやって持ち上げている存在は僕が憧れた騎士団長だ。
お前ごときが……見かけ倒しの貴族風情が弄んでいいものじゃない!
「ふざけるなぁぁ!!」
「貴様、先ほどより速――――ぎゃあああああ!」
僕は跳び込んで袈裟方にペレディルを斬りつけた。
防御の姿勢をとったペレディルは片腕が切断された。腕が宙を舞い、悲鳴が荒野に響いた。団長の生首とともに舞い上がる。
「ぐぬっ……き、消えろぉっ!」
ペレディルが片腕で力を振り絞って聖剣を振る。
すると赤い大地が隆起して、僕に押し寄せた。超自然的な力が僕を押し潰さんと目の前に迫る。それは大波のようだった。海と大地の神リィールが遺した聖剣が、天変地衣を引き起こして僕を殺そうと襲いかかる。背後からも。
両側から迫った大地が、僕の体を押し潰す――。
"――en; Converge lim{x→0} 1/x^⑨――"
"――en; Converge lim{x→0} 1/x^⑩――"
"――en; Converge lim{x→0} 1/x^⑪――"
"――en; Converge lim{x→0} 1/x^⑫――"
「あぁぁあああああっ!!」
体が押しつぶされ、一斉に四度の死を乗り越える。
死を重ねる毎に僕の力は漲って、溢れんばかりにエネルギーを爆発させた。炎魔法でも打ち放ったのかと思うほど、爆風が舞い上がり、僕の周囲一帯にクレーターが出来た。
胸当ても剥がれ落ち、その拍子に固定していた『白の魔導書』も飛んでいった。
――もう必要はないだろう
「ば、化け物……っ!」
「僕は雑魚でも、化け物でもいい! エススを、死んでも守りきれるなら!!」
気合いの一声。
静寂が奔る荒野に僕の叫びが木霊した。
「矜持に溺れろ、ペレディル!!」
瞬速を超えた世界。
まるで時が止まったかのようだった。
駆け抜ける荒野はあまりにも小さく、僕はその小さな荒野の、至極矮小な存在を切り裂いた。
止まった世界に放った連撃は数知れぬ――ペレディルの体は片手の指先五本、足首二つ、両耳が細切れになって周囲に飛び散った。勢い余って両目も潰した。
そうしたのは僕の意志だ。
「あっ――――がぁああっ! 痛いいいい! 痛い痛い痛い!」
転がる肉体はまるで虫のようだ。かつての主君と同じように、足掻く事も出来ずに蠢くだけの存在に成り下がった。
「お前を裁くのは僕の役目じゃない……」
命まで取ってやるものか。
司法権は王家にある。この男には色々と罰を与えることが山ほどあるのだろう。僕が勝手に死刑に処していいものじゃない。口が利ければ十分だと判断して、それ以外の戦闘手段を取り上げたまでだ。
絶叫し続けたペレディルは次第に力尽き、意識を失った。
出血が少ない箇所を切り裂いたから死んではいないはずだ。
「……」
太陽が姿を見せているのも、あと数刻。
八割方が顔を隠し、赤かった荒野にも夜の帳が下りていた。
藍色に染まり始めた『黄昏の谷』はただ静かで、星の瞬きしかこの地を彩るものがない。
そこに小気味良く、軽快な蹄の音が届いた。
「ランスロット……!」
「はは……」
以前の僕のままだと示せるように、片手を上げて軽く笑ってみせた。
呼吸を整え、佇まいを整え、少しはマシな姿で迎えられるように最大限の努力をして顔を上げた。彼女を守り抜いた存在が、少しは綺麗に見えるように。
人間離れした力――の正体はよく分からないけど、でもこれで少しは安心してエススも僕に近寄れるだろう。
それが単なる杞憂だったと思い知らされる。
「……あっ……とと」
エススはトニーと共に僕のところまで近づくと、降りた勢いで僕に抱きついてきた。彼女をしっかりと受け止めて、丁重に降ろしてあげる。
それでもエススは僕の体に回した腕を離さなかった。
照れくさくて固まる。
こういう時は何て言えばいいか分からない。
戦いの場ではあんなに冷静な判断が出来たというのに。
「……無事で何よりです、王女様」
「えへへ、それはボクの台詞だよ」
その心配は不要だった。
僕はこの戦いにおいて自ら死ににいっていたようなものなのだから。そうやって捨て身で戦い続けたからこそ勝てた。
「それに、呼び方がさっきと違う」
僕の顔を上目使いで覗きこみ、拗ねたような声をあげた。
エススが――。
あ……。
「すみませんっ! ぼ、ぼぼ僕としたことが無意識に呼び捨てにしてました!」
肩書きなんてどうでもいいと決意した時から勝手に心の中でもエスス様のことを『エスス』と呼び捨てにしていた……。
どうしようどうしようと慌てふためく僕の口元に、彼女は指を当てた。
「いいから、これからはエススって呼んで?」
「え……え、あ……はい、エススさ……エスス……」
「合格!」
顔が真っ赤になる僕の頭を、エススはよしよしと撫でてきた。
なかなか小悪魔めいた性格をしてる。
これからも傍に仕えるのには苦労しそうだな……。
二人で馬に跨り、王都へ帰ることにした。
もちろんペレディルも縄で縛って運ぶ。団長の生首も……弔いのためにも布で包んであげてトニーの荷に提げた。
『白の魔導書』は僕が滅茶苦茶に扱ったせいで表面が傷だらけだったが、まだなんとか形を成している。というか、これをずっと背中に括り付けて戦ってたのか、僕は……。
傍から見れば、さぞ滑稽だっただろう。
まぁ格好なんて気にしないけど。
エススと反省会しながら荒野を進む。
背には沈みきった赤い太陽が、少しだけまた顔を出してこちらを見たような気がした。そんな事はあるはずがないのに、僕はちらりと後ろを振り返って、そこに広がる星々を眺めた。
――あの日の光景を思い出す。
強くなりたいと伝え、剣術指南をお願いした友達がいた。
僕の無理なお願いに、とことん付き合うよ、と二つ返事で"君"は引き受けてくれた。そのときにも、あんな星空が広がっていた気がする。
ありがとう……。
君のことは絶対に忘れない。
君こそ、僕たちをここまで導いてくれた救世主だ。
また会えたら、ちゃんとお礼を伝えよう。
そう決心した時、星がまた一つ瞬いた。
(第4幕「魔法と騎士」 完)
第4幕の本編完結しましたが、まだEpilogueに続きます。
王都のその後を描きます。
※次回更新は2016/9/3~4の土日に更新します。




