Episode184 自死回帰
馬を走らせて西区の大聖堂へ。
ここもここで霧が濃い。黒魔力の瘴気で空気も汚染されているかのようだ。
馬にはラトヴィーユ陛下もエススも乗せて三人乗りしている。エリンドロワが誇る体力勝りの騎馬も、とうとう息が上がり、教会の前にかかる大橋に辿り着く頃には大地を蹴ることもできず、ついには立ち止まってしまった。
「くそっ、ここからは歩きか」
悪態ついたが……なに、もう橋さえ渡れば教会だ。
俺は先に降りてエススを降ろしてあげた。そのあと後ろに乗っていたラトヴィーユ陛下のことも降ろしてあげる。
丁重に、傷口が拡がらないように……。
ペレディルの手によって深々と腹を抉られた陛下だが、移動中のエススの献身的な治癒魔法によって傷口も塞がり、なんとか一命を取り留めた。しかし、彼女の魔法もまだ修練中だ。傷口を塞ぐ程度の治癒魔法は出来ても、完全に治療することはできなかった。
「陛下、歩けますか?」
「……うむ、なんとかな」
「良かった。教会さえ辿り着けば、大司教が治してくれます」
リピカも、神性の力は備わっていないとしても通常の魔法くらいお手の物だろう。最後の最後までリピカに頼り切りになるが、今は貸しを惜しんでいる場合じゃない。
それに――。
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ジャックへ
地下聖堂で待つ
一緒に過去を清算しましょう
女神より
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もう一度、送り付けられたメモに目を通す。
あいつも今回のことに責任を感じている。
リピカは言った。――自分自身の正体はわからない。でも、女神ケアはエンペドと共謀して俺の肉体を奪った。そして千年前へと至り、人々に絶望を与え続ける無間地獄を再現した。
"リピカ"という存在はそんな狂気を繰り返した女神自身だった。
今のこの世界は、それに失敗した"もしもの世界"。
神が存在せず、存在するはずのない女神は、その代理者に存在を変えた。彼女自身もそれを代償と受け止め、償いとして俺を援助してくれた。
――神の思惑通りにいかなかった世界。
この失敗も考えず、多くの人を掻き乱した結果、あんな魔王が完成した。だから、リピカもそんな過去を消してしまいたいのだろう。
俺自身もまた……。
成り上がりに自惚れて、王都では色々やらかした。
王都の黒帯選抜戦が中止されたのも、俺が王都に来てすぐ勘違いして王宮騎士団の連中を一斉に倒してしまったからだ。
そういえば、宿ではエススの服も剥ぎ取ってしまった。
シアが酷く怒ってたなぁ……。
成りゆきで騎士団に入ることになって、王家や同僚の騎士からも一目置かれることもあれば、嫉妬の対象にされることもあった。
ボドブ殿下にもコケにされたな。
もうその王子もこの世にいないんだった。
魔法大学に行けば、せっかく兄貴とも再会できたのに怖がられた。和解できたけど、もっと兄貴とも仲良く、大学で遊びたかったな。
イルケミーネ先生との共同研究も楽しかった。魔術の原理や修行もしてもらったし。そういえば、マナグラムの改良研究もまだ中途半端だ。ユースティンは上手く先生を浄化してくれただろうか。先生が無事なら、マナグラムの研究の続きもやりたかった。
シアとの学園生活も楽しかった。結婚もしてないのに子どもも作ってしまった。歪な生い立ちの俺でも、そうやって家族を作って普通の幸せを感じながら暮らしていけると思ったのに――。
全部が全部、良い日々だった。
「ロスト……?」
エススが不安そうに俺を覗き込む。
「あ――あぁ、早く進まないとな!」
「そうじゃなくて」
「うん……? もしかしてどこか怪我でもしたのか。大丈夫か? エススも歩けるか?」
「ボクは全然平気だけど……その、ロストの方が心配だよ」
「え……」
そう言って、指を差されたのは俺の目だ。
手で触れてみると、水滴がついた。
どうやら俺は意識もせずに涙を流していたらしい。こんな化け物みたいな肉体でも、人間のようにちゃんと涙が出てくるものなのだ。そんな所はしっかり機能するなんて、こんな肉体に造り換えた女神も野暮なものだ。
「俺は――」
言葉が出てこない。
ラトヴィーユ陛下もエススも、俺のことを心配していた。この二人は、俺みたいな地方貴族出身で冒険者育ちの野蛮な男からすれば、身分や地位が高すぎて言葉を交わすことさえ有り難いことなのだろう。そんな二人に、揃って心配されるなんて怖いもの知らずも良い所だ。
「私が負担をかけすぎてしまった……。君もまだエススと変わらない年齢だというのに、私は我が子の保護ばかりに目がいって、君を苦しめてしまった……謝罪しよう」
陛下が目を伏せた。
息も荒くしているというのに、王国の最高位の立場の人間が俺みたいな怪物に謝るなんて。
闘技場では俺だけじゃない、ラトヴィーユ陛下にまで罵声を浴びせる市民もいたのだ。その罵詈雑言の中、陛下も色々と思うことがあったのかもしれない。
「……ロストは、ロスト自身のこともたまには心配してあげて。もう無理だって音を上げて、もし逃げ出しちゃっても、ボクはロストの事を恨んだりしないよ……」
王女様にまで労いの言葉をかけられる始末。
こんな様子では騎士失格だ。
元から俺にそんな素養なんてなかったんだ、と反省する。
それに今苦しいのは俺だけじゃない。否、俺は元から苦しい思いなんてしていない。人から妬まれ、怨まれ、憎まれ抜いた。ただそれだけだ。王族とはいえ、血縁の家族を喪ったこの二人の方がよっぽど苦しいに違いない。
王子や王女、王妃まで。他にも信頼していた騎士にまで裏切られた。この二人の心労の積み重なりは俺の想像を絶するところまで来ている。
「逃げ出しても、か……」
教会に向かうのも、ある意味、逃げかもしれない。
リピカの提案する「過去を清算する」なんて方法は究極の逃げ道だ。辛いけれど――この選択は俺の望む形ではないけれど、優先すべきは全人的救済。俺一人の選択一つで、まだこの人たちを助ける余地があるのなら、俺は喜んで身を投げ出そう。
「大丈夫だ。教会に向かおう」
決意を新たに。
どうせ逃げても、こんな狂った世界は生き辛い。
それならちゃんと修整して行方を眩ました方がよっぽどマシだ。
○
教会へと至る大橋を歩く。
この橋も薄暗いときは街灯が照らすお洒落な橋だったのに、今やそれらも無惨に破壊され、瓦礫と化して周囲に散らばっていた。
陛下も怪我をして早くは歩けないし、エススはそれを庇っている。
俺は周囲を警戒しながら進んだ。
――やけに静かだ。
先ほどまで暴徒化した民衆の野次を聞いていたからだろうか。
西区は元々人口も少なく、自然が豊かに広がる区域だ。
元々汚染された市民なんて少なかったのかもしれない。そう安堵して、大橋の半ば当たりまでたどり着くと、それが単なる勘違いであったことに気づく。
「……」
ごろごろ……ごろごろ……。
斧鉞を引き摺るこの音には聞き覚えがあった。それはたまに夜な夜な徘徊し、王宮騎士団を不眠に追いやったことさえあるのだ。
そんな平和な日々の事件でさえも微笑ましく思える。
目の前に現われた黒帯の騎士は、ほんの少しの違和感だけ残して、以前と変わらぬ姿のまま、目の前に対峙した。
「リムだ……!」
「待て、あれを見ろ」
エススを手で制し、大斧鉞を片手に引き摺るリムの足元に視線を投げかけた。エススやラトヴィーユ陛下も驚愕して息を呑む。
彼女の足元には無数の死体があった。
それは黒魔力に汚染された市民、そうでない市民も構わず、すべてを薙ぎ払って殺害したかのように、多種多少な屍が転がっていた。そしてその凶器である斧には血が付着して黒く染まり上がり、凶行の痕跡を物語っていた。
――リム・ブロワールも黒魔力に汚染されている。
そう確信して、俺は『魔力剣』を生成した。
今は時間が勿体ない。『時の支配者』でリムの体感時間を止め、その隙に教会へと向かう方が先決だ。だが、俺はリムのその姿のままにしてこの場から立ち去りたくなかった。
何故だろうか。
なんとなく……その長耳が、学園に残した最愛の人を思い出す。
リムは純血なエルフ族で、シアは人間族とのハーフエルフだ。髪色もリムの方が鮮やかな浅葱色をしているし、耳もシアより長いから似ているとは言えない。
でも、その虚ろな瞳がそっくりだった。
当時、迷宮都市で初めて遭ったシアの虚ろな瞳と、今のリムの瞳は似ている。悲観しているが受け入れているような、そんな儚い視線。境遇は知らないけれど、放っておけなくなるのはそんな理由だった。
よく見ると、彼女の黒い胴着も皮膚も髪も、血生臭く黒染まりしている。
屍の数は正確に数えられないが、相当な数を殺しているみたいだ。きっと救いを求めてこの教会に駆け込んだ人も無惨に葬ったのだろう。そんな狂気に耐えられるか心配だが、これ以上罪を重ねるのも彼女の本意ではないはずだ。
そう思って、速攻で駆け出した。
「――」
差し迫る斧鉞の一閃。
こんな重厚な鈍器を、そんな細い腕でよく振り回せるものだと感心する。一体、その斧にどれだけの思い入れがあるのか、どんな訓練をすれば、そんなに強くなれるのか。
彼女に同情しながら、その一閃を腰を落として回避した。
転げてしまいそうな程、低く姿勢を保つ。蛇のように。
そのまま懐に飛び込み、剣戟の間合いへ。
斬りつけるなら何処がいいか。傷口が目立たないとすれば脇腹のあたりだろう。狙いを定めて、するりと剣筋を通す。
あとは駆け抜けて敵の背後で立ち止まり、『魔力剣』についた瘴気を振り払う。
「……うぅ……」
振り返ると低い呻き声がした。
これで正気に戻っただろうか――と息をついたのも束の間、リムは何の躊躇いもなしに踵を返し、背後にいる俺めがけて斧を振りにかかった。
「浄化作用が働かない!?」
なぜ――と思って斧鉞を受け止めた。
重たい一撃に、踵が橋の通路に埋もれる。ぼこりと入った亀裂と凹みがリムの一撃の強さを示していた。俺は力を込めて振り払うと、ふわりと宙返りして、リムは軽々と橋に着地した。
まだ好戦的な様子で、ぶるぶると大きく斧で弧を描いた後、また俺に真っ直ぐ鉾の切っ先を向けて構え直した。
睨み合いの最中、彼女の瞳をもう一度見定めた。
その瞳からは黒魔力を滾らせることなく、静かにそこに存在した。
「汚染されてない……」
リムは黒魔力に支配されていなかった。
この屍の数々も正常な彼女自身が積み上げたというのか。
一体、なぜ――。
「リム、なんで……」
そう思ったのは俺だけじゃなく、エススも同じだった。
その声に気づいたリムは標的をエススに移した。ゆったりと視線を移したかと思えば、最速の動きでエススの前へと立ちはだかる。
俺は素早くその間に割って入り、得物で払う。
二度の打ち合いで拮抗したお互いの凶器。俺の『魔力剣』はばらばらに砕け、リムは斧鉞ごと後方へと引き摺られた。
「あの子は救えない。自分の意志でそうしてる」
「……」
明らかに王都の異変が関係しているのだろうが、彼女の殺戮は黒魔力とは無関係に行われていた。退魔の『魔力剣』で切り取っても、元々存在しない魔力は削ぎ落とすことは出来ない。
「ロスト、先に進もう」
「いいのか?」
「お父さんが心配だ。リム自身にも何か訳があっておかしくなったと思うけど、今正気に戻せないなら後回しにするしかないよ」
「そうだな……」
エススはわりと決断力がある。
ここで"リムを殺す"という選択肢もあっただろうが、その判断が出てこない当たり、王女の人格はしっかりしていた。王の選定で既に選ばれてると聞いた時にはこんな天然の子どもで大丈夫かと心配になったものだが、今では王としての素質は十分だ。
俺は「――固まれ」と念じ、リムの周囲一帯を時間魔法で取り囲み、時間を止めた。
リムの過ごす時間だけが止まる。
その隙に陛下を誘導した。
肩を貸して、王宮騎士団元黒帯を横切った。
「……」
固まったリムとすれ違う際、横目でその姿に一瞥くれた。
横顔が少しシアに似ていて、ここに置き去りにすることが心苦しかった。そして何より、学園に置いてきてしまったシアの事も思い出し、申し訳なくなる。
これから大聖堂に向かうのは、もしかしたらシアとの約束を破ることになるかもしれないのだから。
○
重く閉された扉は建てつけが悪くなり、開くのに苦労した。
力づくで開くと、扉はそのまま外れてしまった。
構わず扉を放り投げ、俺が先行して三人で大聖堂の内部に入った。教会内は以前訪れたときの荘厳な雰囲気はなくなっていた。
祭壇も整列する長椅子もすべて薙ぎ払われている。
独立した封印の魔術式を形成していたというのに、聖堂はもはや廃墟と化し、長く匿っていた神意の存在を包み隠すことなく、この悪天の下に晒していた。
――なんとなく、以前メドナさんと熾烈を極めた戦いで閉じ込められた獄中魔法で、再現された廃墟の聖堂を彷彿とさせた。
「よく、ここまで辿り着いたわね」
膨れ上がった憎悪がもたらした報復のようだ。その雑排の吹き溜まりと化した棲家を嘆くこともなく、主は毅然として俺を迎えた。
司祭服は襤褸となり、見てくれも煤で汚れて酷い有り様だったが、そのすべてを見透かしそうな青い瞳や神秘的な薄紫の髪は相変わらずだ。
――メルペック教皇リピカ・アストラル。
リピカの言葉は皮肉にも聞こえた。
冷笑は癖みたいなものだろうが、あんな伝言を送りつけておいてそれはない。
「あれ……図書館の司書さん?」
エススも見かけた顔の、見慣れない姿に困惑している。魔法大学の学生がこの姿のリピカを見たら、皆一様にこんな反応をするに違いない。
一人二役で欺いてきた代償だ。
リピカはエススに向けて、にこりと微笑んだ。
敵対の意志はないと示しているようだが、あらためてそんな咋な作り笑顔で迎えられても寒気がするだけだ。
「国王陛下……ごきげんよう。神の御加護の前に、まずはその傷を癒しましょう」
リピカの近くまで歩み寄り、まずはラトヴィーユ陛下の治療を優先した。
よく見ると、聖堂騎士団のパウラさんも、抜け殻の少女ケアも司教座の近くにいたのだが、パウラさんは体調不良のようで意識も半ばでぼんやりしており、ケアはそれを介抱していた。
大聖堂での奴らの奇襲の壮絶さを感じさせた。
陛下の治療も終わり、リピカは「じゃあ……」と言って、すくりと立ち上がった。
本題に入るようだ。
俺を見据え、冷徹な目で問いかける。
「自死回帰の覚悟はできている――ということでいいのよね?」
「……え?」
困惑の声はエススのもの。
俺はその問いかけを黙って聞き流した。
アポトーシス? 難しい言葉はよく分からないが、あの伝言と、そしてリピカがここで待機しているという時点で何を提案していたのかは理解していた。それが結果として自殺のようなものになるのなら、その覚悟を一度確認するのは女神の慈悲――。
「その前に確認だ」
恐怖で震える声も押し殺し、俺は静かに問いかけた。
毅然と、王家二人の前では弱い部分を見せないように。
「アレは……俺も死ぬことになるのか?」
「――ふふ、語弊があるわね。必ずしも貴方の存在や痕跡すべてを消す必要はない。何故なら、エンペドの存在意義は"イザイアが憎い"というだけの感情なのだから。黒魔力の中のイザイアが消滅すれば、それに縋り付く彼も同時に消滅する。貴方はイザイアではなくなり、ロスト・オルドリッジでもなくなる。ただそれだけよ」
――結局のところ、黒魔力はそれだけのもの。
"イザイアが憎い"という負の感情そのものだ。
ならば、イザイアという人物が存在しなかったら?
奴が憎む対象が消え去った世界では、奴の存在意義もなくなり、黒魔力も消滅するだろう。
俺さえいなくなれば――。
"破綻しているわね。殺すほど憎い相手にしか興味がないなんて"
"そんなにイザイアに依存して、彼を抹消したあとは貴方に何が残るの?"
何も残らない。
だから俺さえいなくなれば、こんな馬鹿げた内乱は終焉を迎えるのだ。
行方を眩ます程度ではない。そもそも存在しなかった事にすれば、という話である。それを可能とする神秘の力が大聖堂に眠っていた。俺もかつて危うく抹消される脅威となった、神隠しの陰謀が――。
「あともう一つ……俺は、この王都に来てから色んなことをした。騎士団に入ってモイラさんの眼も治した。魔法大学に行ってマナグラムの改良も、あと少しで完成するところだった。そして……シアとの間に子どもだって出来た。そうやって今までやってきた事が全部無かった事になるのだけは、なんか悔しい……」
願いを汲み取ったか、リピカは静かに目を閉じて天を仰いだ。
それは神のお告げでも伺うような仕草だが、長年司祭として生きた彼女の癖なんだろう。
「早とちりね。さっきも言ったでしょう。『イザイア』や『ロスト』は消えても、貴方自身が消えるとは限らない……。具体的に言うなら、貴方がロスト・オルドリッジとして残した名誉は消えるけど、その功績が消えることはない――いえ、消すことは出来るのだけど、その事実を残したまま、貴方の名声だけを消すことが出来る」
それを聞いて安心した。
なら、あまり迷う必要もないかな。
「以前もアレで一度、みんなから忘れ去られた事があるでしょう?」
それと一緒よ、と諭してリピカが頭上を見上げた。
司教座の頭上。女神像が祈りを捧げる手前には、それが既に準備されていた。三つの円月輪が折り重なって回転し、球体を象っている。
中身は空っぽだ。空洞を象る円月輪。
それは本来、赤黒い魔力で満たされ、過去を改竄するべく機能する神の羅針盤だ。破壊されたはずだが、もうすっかり銀の輝きを取り戻していた。
――神秘の兵器『リゾーマタ・ボルガ』だ。
「……『無銘』という起源は怖ろしいわね。こうまで貴方を名無しへ回帰させる」
起源――リピカはよくそんな話をする。
人にはそれぞれ起源があり、その起源に沿って人生を歩む。運命なんて決まったものではないけれど、ある程度の性質は決められた上で個々の因果に作用する。
俺の起源は『無銘』だと云う。
生まれ以て名前は無いが、これからの人生もきっと銘打つ事も無い。
そんな運命を辿るのだ。
「さて、名も無き英雄さん。名前を捨てる準備は出来たかしら」
そうだ……。
俺はどう足掻いても"名も無き英雄"だ。
名声や名誉なんてものは最初から持つべきではなかった。
故にこれから行うことは、元に戻すだけ。
――気がかりなのは最愛の人との約束。
シアは、また俺が誰だか分からなくなっても思い出してくれるだろうか。
でも彼女なら、きっとまた……。
そう信じて、伝言一つでも送っておこう。
※ 王宮騎士団No.5 リム・ブロワールについては『Ëpisode164 狂化(case:リム)』の後書きで解説を挟んだ通り、独立した脅威となっています。無差別に殺戮を尽くしてます。
※ 起源『無銘』……タイトルが「名も無き英雄」ですから。主人公が名声を広めることはありません。リピカとのやりとりも『Episode136~138 女神再臨』『Ëpisode165 聖剣』をご参考までに。




