Episode159 魔術戦闘防衛学実習
赤い閃光が空を切り裂く。
爆発音とともにそれが迫ってきた。
一歩前へ踏み込み、その閃光を魔力剣で切り裂く。
爆散とともにそれは弾け、次に迫る雷光も下段から斬り上げた。
影真流の剣技は融通が利きやすい。
暗殺用なんて嘘だ。
無数に飛来してくる魔力弾を、こんなにも容易く討ち払えるんだから。
トリスタンからは、見つかったら最後、乱戦には対処しにくいと口すっぱく言われてた。でもこの流れる剣技――秘剣ソニックアイは複数の標的を斬り伏せやすい。
そんな鮮やかな剣技を授業で披露してみせた。
校庭では女学生の黄色い歓声が上がる。
校庭の端々から多種多様な観衆が俺のその動きを見守って、声援を送ってきた。
同じ授業を受けてる連中、そして俺に向けて魔力弾を放った数人の学生も息を飲んでいる。
――『魔術戦闘防衛学実習』の授業中だった。
正直に言おう。
この講義を履修したのは失敗だった。
何の意味もない。
そもそも基本の五属性の魔法をすべて無効化する肉体では防衛する意味もない。
仮にそんな能力がなかったとしても、師匠直伝の剣術で魔法の斬り伏せ方を熟知してるので、防衛する方法は分かっていた。
「ったく……あやつにやらせても何の参考にもならんわい」
初老の講師も太い腕を組んで呆れ返っている。
老人のくせに逞しい身体をしていた。
経歴を聞くと、元王宮騎士団の茶帯だった老人らしい。
魔術の知識も豊富で、戦闘経験もあり。
さらに茶帯は代々白帯に剣術指南する役目もあるので教えることも得意だ。
「す、すげぇ……史上最強は伊達じゃないな」
「お前あの動き見えたのか。俺には何も……」
「ロストくんかっこいいっ」
「あぁん、私もお近づきになりたいなぁ」
誉めてくれる学生の脇を抜け、校庭の端っこで座る。
あぁやって言ってくれるのはいいけど、一部からは見せびらかすためにこの講義を受けたんじゃないかと陰口を言われているのも聞いたことがある。
そう思われても仕方なかろう……。
未来の魔術師の卵の中に、剣士が混じってるんだから。
『魔術戦闘防衛学実習』
これはあくまで、魔術師が、魔法戦のときの戦い方を学ぶための講義だ。
だんだん戦いなんて時代じゃなくなって魔法の利用の仕方も変わってきたけれど、基本は魔力弾を使って撃ち合うバレット魔法が主流だった。
戦闘行為が発生するのが魔術である。
もちろん俺の『魔力剣』も、魔術による戦闘方法の一つ。
心象抽出という技は、術者の魔力を凝集させて造形化する魔法で、魔力がそのまま武器になる。
使用する魔力によって、火剣だったり、氷剣だったり、雷剣だったり、色んな性質の武器を作れるから戦闘向きだった。
だから俺も授業を受けるときは『心象抽出』による防衛方法を基本としてる。
初老の講師もそれを推していた。
「よいかっ、おぬしら。今のを参考にするのは間違いだが――そもそも真似できる奴はおらんだろうが、『魔力操作』による魔力弾の討ち合いには限界がある! 一瞬の操作ミスで命を落とすだろう」
最近、イルケミーネ先生の指導のもと『魔力操作』の練習をしているからよく分かる。
魔法を動かすという事自体、難しいのだ。
それを戦いの中で正確に敵に向けて撃つなんて上級者の技。さらに標的が魔法自体だったら――。
例えば、火球に対して水球をかけるなんて芸当、動いてるボールにボールを当てるくらい難しい。
まぁ、慣れればできるんだろうけど。
当時は何とも思ってなかったが、冒険者時代、アタッカーの魔術師がどれだけ重宝されていたかがよく分かる。
ユースティンなんて器用すぎて頭がおかしいレベルだ。
「だから『心象抽出』か『魔力纏着』が有効だろう。前者は扱えないものもいるかもしれないが、後者ならこのように――な?」
初老の講師は持っていた鉄の棒に炎を纏わせた。
その光景はアルフレッドの芸当を思い出す。
魔法を武器に宿す。
魔道具とは異なり、物質に魔法を発現させる技だ。
仮に魔力弾に襲われても、あれで叩き落とせば身体にダメージを受けることはない。
素の剣や杖で魔法を受ければ武器も壊れてしまうから、最低限、対になる属性で打ち払おうということである。
「ではそこのおぬし!」
「は、はいっ」
「騎士団員と聞いたのだが剣術は披露できるだろう? やってみるがよい」
次に指名されたのはランスロット。
この講義はランスロットと被っている。まぁ騎士としての意識が高いあいつならこれを受けるだろうと思っていた。
「まずその兜と鎧を脱ぐがよい。ここでは魔術師同士の戦いを想定しておるのだ」
「えぇ、こ、この兜は無理です」
「脱ぎなさい」
「無理です、鎧ならまだ……」
ランスロットは兜を取ることを執拗に拒む。
前々からそうだ。
頭……首から上は守られていないと不安らしい。
過去のトラウマがあるとか何とか。
仕方ないとばかりにランスロットは鎧だけ脱ぎ、兜はそのままにさせた。
そして魔術師ローブを羽織らせる。
ローブと兜という異様な装備を、周辺の学生は笑った。
ランスロットは校庭の真ん中に移動し、鉄の棒に『魔力纏着』を施す。
講師と同じ炎属性の魔法だ。
協力してくれる学生たちは水魔法のバレットを作り、そして一斉にランスロットに放ち始めた。
ランスロットは炎を纏った鉄の棒を振り回し始め――。
「お前さん馬鹿者か!」
「え……」
「水に対して炎で挑む馬鹿がどこにおる!」
「あっ、ご、ごめんなさいぃ」
「相手が放つ魔法を見極めて、纏わせる魔力も変えよ! それはこの授業で教えるようなことではなかろうて! 基本のことであるぞ!」
さらに学生たちの間で笑いが起こる。
俺みたいに反魔力だけなら使い分ける必要もないんだろうに。
魔力の種類を使い分けるって大変そうだ。
俺はその様子を遠くからぼーっと眺めていた。
「ねぇねぇ、隣いい?」
ふと知らない女学生に声をかけられる。
三人くらいの女の子のグループが近寄ってきた。
全員、人間族の女の子だ。
「どうぞ」
目線で合図だけ送り、すぐまたランスロットの方に視線を移す。女学生たちは俺のことを取り囲むように陣取り、そして身体を密着させるように座ってきた。
「ねえ、王女様の護衛って大変なの?」
「うーん……まぁ」
エスス自体は何の問題もないけど、その周辺に面倒事が付き纏う。そういう意味で云えば大変だった。
「ロストくんってオルドリッジ家の子なんでしょう?」
反対側の女の子からの質問。
オルドリッジといえば魔術師の名門。
どちらかというと学術派だ。
アイリーン曰く、オタク気質だとか。
だから俺が戦士であり、王家の騎士をやっていることに違和感を覚えるのだろう。
「どうやって強くなったの?」
女学生が顔を近づけてきた。
腕にしがみつき、胸を押し付けてくる。
この子はおっぱいがでかい。
どうやって――。
それは話せば長くなる。
遡れば俺が生まれる前の話もしなければいけないし、実家での出来事、冒険者時代の話も。
色々だ。
そうだ、とそこで閃いた。
「イザヤが叩き込んでくれた」
「え……?」
「兄貴が、俺を鍛えてくれたからな」
なぜかその名前が出てきた。
兄貴は王女誘拐の件で学内での評判は最低だ。
前まではこの校内で主席の成績。魔術の腕前も最高級で男前な容姿が評判よく、女学生たちからキャーキャー言われていたそうだ。
それをあんなふうにしてしまったのは俺のせい。
自主退学の前に俺が出来ることは――。
「お兄さんって……あの……」
「兄貴は凄いよ。十歳のときには闇魔法を使いこなしてた。俺との殴り合いでも絶対に勝ってたし……。俺は当時から魔法の方はダメダメだった。でも兄貴は両方とも凄かった。今でももしかしたら五分五分で負けるかもしれない。それだけ凄いんだよ。イザヤはオルドリッジ家が誇る天才児だ」
ちょっと言い過ぎただろうか。
少し嘘を織り交ぜたけど、まぁ虐められて敵わなかったのは事実だし。
「でもさ、強いからって悪いことはしちゃダメじゃない? 私、ロストくんは正義の味方って感じがするけど、お兄さんの方はなんていうか……悪者のイメージ」
後ろから身を乗り出して俺の背中に胸を押し当てる女の子がそう言ってきた。
「違う! あれは――」
イザヤが自宅謹慎になっている理由を何とか言い繕えないか考えて目を泳がせた。
黒い魔力による精神汚染の話をしても、結局イザヤが悪者になってしまう……。
そこで校庭で必死にバレット魔法に抗うランスロットを見て、閃いた。
「あれは俺がいけなかったんだ……」
「ど、どういうこと? ロストくんが王女様を助けたって校内の記事では――」
言葉を手で遮る。
そして校庭を指差す。
「あそこにいる相方のランスロットは見ての通りまだ未熟でさ……鍛えてやりたかったんだ。それで兄貴にお願いしてエスス様の擬装誘拐を――そう、アレは模擬訓練だったんだ」
「え、模擬訓練?」
「ランスロットとエスス様には事情を話してなかったのがいけなかった。模擬訓練と知らずに、本気を出したランスロットが兄貴と衝突したとき、エスス様が事故で怪我をしそうになった。それで騒ぎが大きくなってしまって……そうそう、その時に俺は責任取ってこの学校も騎士団もやめるつもりだった。でも兄貴が『お前には立場があるんだから俺が代わりに』って……」
よくもまぁ次から次へと嘘が出るものだ。
自分自身にこんな才能があることに衝撃を受けた。
「そんな……じゃあイザヤ先輩は自ら犠牲になって停学処分に……」
「え、それって可哀想」
「事情も知らずに私たち悪い人だと思ってたね」
女子たちが俺から体を離して各々噂し始めた。
良い感じだ。
これを少しずつ「皆には内緒だよ。兄貴の漢気のためにも」とでも添えて色んな人に言いふらせば、イメージアップに繋がるじゃないか。
噂は絶対広まっていく。
俺の評判は落ちるだろうけど、それでいい。
黒い魔力を連れてきてしまった俺のせめてもの罪滅ぼしだ。
これで兄貴を救ってやれる。
○
寮の部屋でユースティンと落ち合い、外へ。
今日は反重力魔法の実験に付き合う予定になっている。
ティマイオス雲海はもう懲り懲りなので、とりあえず郊外の草原で俺がユースティンを連れて高くまで跳び上がり、そして放り投げるという方法で落下距離を稼ぐことにした。
俺とユースティンが歩いてると、だいたい色んな方面から黄色い歓声が上がる。ユースティンは舌打ちして鬱陶しそうに歩き去るが、俺は愛想よく手を掲げ、時に話しかけたりした。
この学校の女の子たちは揃って同じようなことばかり聞く。
――オルドリッジなのになぜ戦士に、と。
魔術に生きてきた彼らはイザイア・オルドリッジの名前をよく知っていた。だからその息子の俺が剣の道に生きていることを不思議がっている。
憧れるように質問する子もたくさんいた。
そこで「兄貴の方が――」という話を振る。
不審がったとき、あの事件の真相(嘘)を語る。
今では王宮騎士団の黒帯――かつ王女様の護衛である俺の言葉は絶大的に信頼されてる。
だから皆、信じてくれた。
「ふん、お節介な奴だ」
ユースティンはそんな俺を鼻で笑った。
「これは責任だ。アレは兄貴の仕業じゃないんだから」
「イザヤ・オルドリッジがそれをどう思うか分かったもんじゃないぞ。きっと、余計なことしやがってと吐き捨てるだけかもしれない。僕だったらそうする」
「それでもいい。どう転んでも名誉挽回はマイナスじゃない」
「……」
夕陽を背に大学の敷地内を歩いてるとき、背後から誰かが駆けつけてくる足音が聞こえた。
ガシャガシャと派手な音が立っている。
振り返らなくてもランスロットだと分かった。
「待ってくれ、ロスト! それにユースティン先輩も!」
立ち止まる。
ユースティンは冷静に鎧姿の男を睨んだ。
「僕とロストはこれから人類史に名を刻む正義の大実験を行うんだ。邪魔をするな」
「すみません。でもお願いしたいことがあって――」
ランスロットは膝に手をついた。
呼吸を乱している。これが次期女王陛下の護衛と言われると、やっぱり無理があったかもしれない。
「お願いって?」
「僕を……鍛えてほしい……!」
ユースティンは眉を顰める。
俺はいつかはくるだろうなと見越していたから驚きは少ない。エススが兄貴に誘拐された日からランスロットは思い詰めていた。
自分が弱いばかりにこんなことが、と。
…
郊外の平原まで連れていく。
日も大きく傾き、剣の鍛錬をするにしてもあまり時間は取れないだろう。でも毎日の日課とすれば少しずつでもランスロットの技能は上がっていくかもしれない。
俺はその申し出を快く引き受けた。
ランスロットにも借りがある。
兄貴の名誉挽回のために名前を勝手に借りてしまったのだ。
俺のストーリーでは、情けない男役に当てはめてしまっているんだ。ちゃんと後日談として個人的な指導を願い出たとあれば信憑性も増すし、彼の評判も高まるだろう。
「ったく……なんで僕がこんな一般兵の特訓に付き合わなければならないんだ」
ユースティンは首の後ろを掻いて面倒くさそうに悪態をついた。
「いいだろ。どっちにしろ俺の協力がないとお前も実験ができないんだ。ユースティンには俺の協力が必要なように、ランスロットの特訓にはお前の協力が必要……そして俺はランスロットに借りがある。これでおあいこだろ」
適当に理由をつけてユースティンに協力を仰いだ。
嫌だな、このまま人を騙し続ける人間になりたくはない。誰も傷つかない嘘なら少しはいいよな……?
ランスロットから色々と事情を聞く。
彼の願いはただ一つ、とにかく強くなりたい、ということだった。
エススのために。
エススを守る力が欲しいと言っている。
そして未来永劫エススのことは自分が守っていくという堅い決意も公表していた。それは傍から聞けばまるで嫁にもらうくらいの勢いで熱く語っていたのだが、無垢な本人にはその自覚はまったくなさそうである。
「体力作りなら自分で出来るけど、対人戦や対魔術戦を教えてほしい。大学の講義だけじゃ……僕はいつまでも強くなれない気がする」
「そうか」
ちょうど『魔術戦闘防衛学実習』の授業で対魔術戦闘を習ってきたばかりだ。
それにユースティンもいる。
魔力弾の対処の仕方をまず叩き込んでみるのはどうだろう。ユースティンなら魔力弾を大量に展開するなんて造作もない。
ランスロットを配置に立たせ、ユースティンには魔力弾をお願いする。
「――というわけでユースティン先輩、やっちゃってくだせえ!」
「なんだその三下の台詞は……」
「ランスロット、準備はいいか!?」
平原の遠くにいるランスロットに声をかけた。
彼は大きく返事をして腰の剣を取り出す。そして魔力纏着の用意をした。
魔力弾を剣で弾くための最低限の魔術だ。
ユースティンは腰のポケットに手を突っ込んだまま(彼はこのキザなポーズを気に入ってるらしい)、空中に無数の魔力弾を展開した。
それは炎から氷、電撃に留まらず、見た事もない形をした魔力弾の夥しい数々。暮れなずむ空にはそれがまるで夜空に輝く星々のように映る。
広く全景に展開され、増殖は止まない。
「え……」
展開していくどころではない。
昼間の授業がお飯事に見える。
平原の周囲全域が魔力弾で覆われ、軍隊を丸ごと一つ葬れるほどの数が出現していた。
「いくぞ、一般兵。―――Salve」
ランスロットを取り囲んだ魔力弾の数々が一気に襲い掛かる。
強烈な音とともに。
「ひぃ!」
「馬鹿、加減くらいしろよ!」
俺がそう言うと、ユースティンは左手でパチンと指を鳴らし、「――Ende」といって魔力弾を全部消失させた。
「なんなんだ、協力しろと言ったり馬鹿と言ったり」
「あれじゃ軍の小隊でも壊滅させられるぞ!」
ユースティンは、俺の目に狂いがなければ黒帯にも匹敵する実戦型の魔術師だ。
本人にその自覚があるかどうか知らないが、そんなものをランスロット一人にいきなり挑ませたら即死間違いなしだった。
容赦なさすぎるだろ……。
今度は一発ずつお願いすることにした。
「よし、今度こそ。ランスロット、準備はいいか!」
まず一発ずつだ。
そこからゆっくり数を増やしていけばいい。
ユースティンは指先を振って魔力弾一発を放った。
しかし、お次は威力が酷い。
一発になったことによってその一撃にとんでもない加速をつけたようで、ギュンという激しい音とともに魔力弾が翔けた。それをランスロットは剣で対処しようとするも『魔力纏着』を発現させる前に鎧に直撃した。
鎧が凹み、ランスロットは豪快に吹っ飛ばされた。
俺は慌てて駆け寄る。
「大丈夫か、ランスロット!
「う……うぅ……」
次いで、ユースティンがゆっくり近づいて見下ろす。
「踏み込みが甘いな。腰が引けてまるで駄目だ。一振りが間に合ったとしても魔力弾に押されて飛ばされる」
先輩厳しいな。
確かにその通りだが、初めての特訓でそんなにきつく言わなくても――。
そのままユースティンは脇を通り過ぎて街へ歩いて行った。
「どこ行くんだ?」
「興醒めだ。実験はまた今度にする」
周りを見渡せば、もう暗くなって月や星の煌めきが見られた。
ユースティンだったら自分の実験ができなかったことを怒り出すかと思ったが、そんなことはなかった。
意外と満足だったのかもしれない。
ランスロットは起き上がり、悪態をついて地面を叩いた。
「くそ……!」
「俺たちも帰るか?」
「まだ……まだお願いしたい」
意志が強い。
王都にいる頃からそうだった。
「わかった。今日はとことん付き合うよ」
素振りだけだけど、今日のところは剣術を教えてやろう。
イザヤがあんな風になってしまったのも、エススが誘拐されてしまったのも、ランスロットがこうして強さを追い求めるのも、俺が――。
そこまで考えて思考が止まった。
またシアに怒られてしまう。
そうじゃなくて、これは純粋にランスロットを鍛えるためにやることだ。
聖心流は知らないんだけど大丈夫かな……。
その日の晩、学園都市の郊外には素振りをする学生の声が木霊し続けた。空に輝く月明かりがいつまでも俺たちを見守り続ける。
ランスロットは俺の剣術指導に歯を食いしばって耐えていた。
肩で息をしながら、もう限界だろうって思っても何度でも立ち上がる。
それがリベルタに加わったばかりの幼い俺の姿と重なった。
いつか報われる。
この努力は絶対にいつか報われるはずだ。
夜空を見上げて、少し離れた王都のことを思い出した。王宮騎士団の面々もランスロットを馬鹿にしていた。
――帰ったときには見返してやれ。
俺は一生懸命、剣を振り続けるランスロットを見てそう思った。
お前はあそこにいる誰よりも心が強かった。
戦士に一番大事な強さだ。
第4幕 第3場 ―魔法大学― 終了です。
次回からは視点がしばらく(5,6話ほど)王都に戻る予定です。
※次回は2016年5月15日(日)に一話だけの更新になると思います。




