Episode157 反重力魔法
それからさらに後日。
学園都市ロクリスの街の大通りから何回か曲がり、貴族の別荘が立ち並ぶ住宅街へ。
ここは魔法大学に通う学生のうち、貴族出身の者が暮らしているところだ。
イルケミーネ先生が暮らすシュヴァルツシルト家の別荘もあり、オルドリッジ家の……つまりイザヤが暮らす別荘もある。
我が家の別荘はその中でもかなりこじんまりしている。
他の貴族別荘と違って使用人などは一人もいない。
「住所は……こっちか? あれ、ここ見覚えがある」
ティマイオスに教えてもらった通りに進むと、入学式の日にイザヤを追いかけたときと同じ道順を辿った。そして辿り着いたのが、これまた見覚えのある家。
確か滅茶苦茶に魔法陣トラップが仕掛けられていた家。
どうやらここがオルドリッジ家の別荘らしい。
……うん?
つまり、あの罠の数々は全部兄貴が仕掛けたのか?
まぁ細かいことは気にしないでおこう。
今、この別荘には封印魔法による結界が敷かれている。
外側から入ることが出来ないのはもちろんだが、内側からも出られない。兄貴は自宅謹慎となり、大学職員の魔術師の手でここで拘置されているのだ。
俺はお見舞いにきた。
菓子折り持参で……。
封印魔法といっても出入りする際に魔術抵抗を受けるくらいなので、俺なら軽く通過することができる。もちろんティマイオスに許可はもらってる。
別荘の敷地内に入り、ドアノッカーを叩いた。
平屋だった。
「……お前か」
出てきた兄貴は酷くやつれていた。
俺は自分の家の別荘とはいえ、知り合いの貴族の家にお邪魔するような格好で、服装には気をつけた。
わだかまりはまだ残ってる。
「何しに来た」
「お見舞いに……」
「お見舞い?」
イザヤは俺をジロジロと眺めて、溜息一つで迎え入れてくれた。
平屋の別荘に入り、その部屋の散らかり具合に驚いた。
居間へと案内されて、適当にソファに座るように促される。そして兄貴は奥の汚いキッチンからごちゃごちゃとテーブルを漁ってグラスを取り出し、飲み物を持ってきてくれた。
果実のジュースのようだ。
ほら、と言われて目の前に注がれていく。
イザヤは酷い格好だった。
髭も剃らず、服装も寝間着のような一枚もの。
目には生気がなく、俺と久しぶりに顔を合わせたのに以前のような敵意は微塵も感じられなかった。それだけあの事件で反省したのか。
多分、違う……。
諦めにも近い雰囲気だった。
俺という存在を受け入れたのではなく、諦めた。
弟でもなく、そして否定することもできないまま……。
「ありがと。兄貴は……あ、いや、先輩はいつ大学に復帰できるんだ?」
「…………」
イザヤは向かいのソファに深く腰掛け、静かに天井を仰いだ。
「もう復帰しない。自主退学する」
「えっ、なんで」
「――今更どの面さげて顔出せと? 俺は王女を攫った重罪人だ。免罪になったからって学内の評判は最悪だし、どこを歩いても影で噂されるだけだろう」
誘拐だったら俺も王都でやった。
記事になったくらいだ。
でもその後の評判が回復したのは、エススの専属騎士"候補"になったから。次期女王陛下の運命にあるエススに、最強の騎士をつけたいラトヴィーユ陛下の計らいだ。
本人の力では悪評を覆すのは難しい……。
俺に何かできることは……。
兄貴のために何かできることはないか。
「た、退学してどうするんだよ。魔道士の学位も貰えない」
「要らねぇ。国外逃亡でもして起業する。あるいは東の隣国にも大学はあるし、そっちでも」
東の魔法大学。
確か隣国のガルマニード公国――シュヴァルツシルト家の本家がある国だったか。
東流の魔術も学べる。兄貴にとっても決して後ろ向きな決断ではない。奇しくも、自身が翻弄された東流の魔術を学ぶきっかけとなってしまったことになるが、まぁ悪い話じゃない。
悪の道に走るとかよりも全然……。
ただ、
「先輩はそれでいいのか」
「仕方ない。お前も本当はそれを望んでるんだろ? 俺の完全な敗北で幕を締める――いい終わり方じゃないか?」
「そんなこと……」
「あぁ、いい。もう俺は何とも思ってない。お見逸れしたよ」
兄貴は膝を腕でついて屈んだ。
そしてゆっくり俺を見上げて自嘲気味に吐き出した。
「俺はな、お前が実家から勘当されたとき喜んでた。ざまぁみろって。アイザイアはそうでもなさそうだったけどな……だからそのときの罰だと思って、負けを素直に認めることにする。それでいいじゃないかよ。貴族界じゃ兄弟同士で貶め合うなんてザラだぞ」
俺は貴族じゃない。
そんな未来は望んでいないし、家族はみんな仲良く……そうでありたい。孤高の戦士に憧れて、戦いを求めて傷ついて、最後はたくさんの人たちに支えられた。
本当の強さは支え合いの中にこそあるんだ。
だから兄貴のことも救ってやりたい。
○
大学の校庭に向かう。
イザヤは拘置期間が終わって解放されたら、自主退学するらしい。
それまでに名誉挽回をする方法があれば――。
別に、それで結果的にイザヤがガルマニード公国へ渡ったとしてもいい。でもこんな悪評のまま逃げるように大学から去るよりかはイザヤも少しは気分が良いはずだ。
お節介かもしれないけど、そうしてやることが兄に対する思いやりになる気がした。
「さてロストくん、今日も魔力放出の特訓をするよ」
「はい!」
イルケミーネ先生の助言通り、今は研究を置いておいて時間魔法の効率化を図っている。
これも実は研究の一環だ。
時間魔法の及ぶ範囲を極限まで収束させることが、結果的に俺の魔力の秘密を知る手掛かりになる、と――。
実は先生が見ていない所でもだいぶ練習した。
そしてある程度の成果は得られた。
今まで「――止まれ」と念じて使っていた時間魔法だが、それは魔法の使い方が間違っていただけである。
この魔法は、時間そのものに働きかけるわけじゃない。
時間が静止した領域を生み出す魔法だ。
イルケミーネ先生が「魔法は、魔力の粒子が届く範囲までの有限のもの」と教えてくれたことをヒントに、より想像がつきやすくなった。
そこで閃いた感覚が「――固まれ」である。
ここからここまでの空間が凍りつかせるイメージで魔法を使う。すると、上手い具合に赤黒い魔力の膜が球体となってその場に出現する。
試しにその赤黒い被膜の中に石を放り投げる。
通過のとき、ぴたりと石は制止した。
その空間に囚われた石の時間は止まっている、ということだ。
「凄いね。もう調整できるようになったの?」
「いえ、それが……」
まだ不十分だ。
実は「――止まれ」と「――固まれ」を使い分けることであらかじめ範囲を抑えることはできるけど、その領域を変えたり、広げたりということはまだできなかった。
イルケミーネ先生にそれを相談すると、
「そうね……それは魔力操作の修練次第になると思うわ。でもっ、素晴らしい成果よっ! これで魔力の消耗もだいぶ抑えられるようになったはず。今までこの世界中に魔法を展開していたくらいなんだから、今の範囲なら無尽蔵に魔力も使えるはずよ」
と言って、励ましてくれた。
まぁ確かに、今まで数回しか練習できなかった魔法がこれから何回も練習が積めるようになったのだ。それだけでも大きな進歩だし、先生にも喜んでもらえて嬉しい。
次に始まるのは『魔力操作』の練習だ。
魔法自体を動かしたり、発生させる場所を変える、というものである。
一般的な魔法学校ではこのように……。
まず『魔力放出』で加減を学び、『魔力操作』で狙いの定め方を学び、そこから『魔力纏着』や『魔力探知』といった技術を学ぶのだという。
そして魔道具作製にあたって一番初歩の技術がこの『魔力纏着』。
――アルフレッドがよく火剣を振り回していたあの技術だ。
大学に来てまでやってることがそんな幼稚な練習なんだから、どれだけ俺が魔術の素人かがよく分かると思う。
「……む、発生源はここか。お前たち!」
その修練中、校庭の片隅から誰かが声をかけてきた。
振り返ると、そこには先日俺を助けてくれた先輩がいる。
「あら、ユウじゃない」
「ね、姉さま……!」
シュヴァルツシルト姉弟のご対面。
珍しい銀髪二人が揃うと異種族感が凄い。そもそもこの二人はエリンドロワ王国からすれば外国人だ。種族は人間族でもやはり目立つものがある。
「今はロストくんの個別指導中なんだから。何か用なの?」
「うっ……」
ユースティンは四角い箱を背負い、片手のひらに何か乗せて歩いてきた。
手のひらサイズの台。そこからバネが伸びて、球が先端につけられている。台からは導線のようなものが背中の四角い箱に繋がってる? 何の実験器具だろう。
先端の球はバネに支えられながらグラグラと揺れていた。
それをイルケミーネ先生は眺めて、一言。
「動体実験でもしてるの?」
姉からの質問に目を泳がせ、苦し紛れにユースティンは魔術を放った。
「――Rutsche」
それと同時に足元から水が沸き起こる。
あれはイザヤと戦ったときにも使った移動用の魔術だ。
逃げようというつもりらしい。
それに先生も、あっ、と反応だけして
「ロストくん、今よっ! 逃げるユウを止めて!」
何のつもりなのか俺に時間魔法の練習台に使うように指示した。
躊躇う……。
まぁ、お姉さんからの命令ならいいか。
――固まれ!
赤黒い球体は逃げるユースティンを覆い、彼だけの時間が止まった。
ユースティンの冷や汗も、地面からの水しぶきも固まっている。
そしてイルケミーネ先生がユースティンの進行方向の前に立ったのを確認し、「動け」と念じる。時間魔法が解除され、ユースティンは盛大に姉の胸にぶつかった。
尻餅をつき、顔を赤らめて見上げる。
「瞬間転移だと?! そんな魔術をいつのまに――」
「違うわ。今のはロストくんの時間魔法よ」
「時間……魔法……?」
あれ、知らなかったの、と反応するイルケミーネ先生。
俺と相部屋だから当然知ってるものだと思っていたんだろう。でも、この正義の大魔術師は自分のことばかりで俺の事なんて気にしてこなかった。
ユースティンは、俺がそもそも魔法を使えるということ自体に驚いていた。
…
ユースティンにその場で色々と話す。
一応、ユースティンには借りがある。イザヤを止めてくれた借りが――。
やけに気になっている様子だったので、借りを返すためにも俺の魔法について話した。
そして虚数魔力の存在も語る。
「……反魔力。それは反物質に似た性質があるのか」
「それは今、調べてるところ」
「姉さまは何まで分かっているんだ?」
「何も。鑑定魔法を使っても、何も映らないというより魔法自体が無力化されてるみたいだから、そもそも魔法を消滅させる性質があるみたい。だから"反魔力"という名前通りの魔力なんだろうなって思ってるわ」
「複素数iの性質……まさか!」
ユースティンは何処からか取り出したノートとペンで何かを書き出す。
「ねぇ、ユウがやってる実験って、もしかしてお父様の――――」
「そうか。実験時間によって静止反動加重力の測定結果に差があるのは、この負の魔力因子が大気中に分配された直後かどうかが影響してるのかもしれない」
イルケミーネ先生の言葉も聞かず、ユースティンは喋り続ける。
正直、俺はこの姉弟が何の話をしているのかさっぱり分からなかった。でも、俺の魔力がユースティンの飛び降り実験と何かしら関係しているらしいということは気づいた。
「ロストっ、お前がこうして時間を止められるようになったのはいつからだ?」
いつから。
それはエンペドを斃したあの日だからよく覚えてる。
「もう半年くらい前かな」
「や、やっぱり……時期も一致する」
ユースティンは病的にノートへ書き連ねた。
俺とイルケミーネ先生は顔を見合わせて怪訝な顔を浮かべた。
「こっちで時間魔法の練習をしていた時間帯は!?」
「授業終わってからだから日によっては昼間だったり、夕方だったり」
「間違いない。朝の実験では一度も良い結果が出なかった理由はそれか」
ユースティンが一人で突っ走るのはいつもだから別にいい。
別にいいのだけど、俺の虚数魔力が関係してるってことはもしかして――。
「ロスト、お前はこれから僕の実験に付き合え!」
やっぱりこうなるか。
その形相は必死そのものだった。目をかっと見開き、父親と似たような三白眼になっていた。
イルケミーネ先生がその頭を叩く。
「痛っ……」
「ユウ、それが人にものを頼む態度ですか」
「姉さまっ、これは人類史に名を刻む大きな研究になる! それにロストはこないだの王女誘拐のことで僕に借りがあるんだ。だから、僕の言う事くらい――」
またしてもイルケミーネ先生は頭を叩いた。
「痛い!?」
「関係ありませんっ! ユウはそうやってたまに人のことを物のように扱うわ」
「シュヴァルツシルト家の家訓では"大義親を滅す"と――痛っ」
「…………」
先生の冷たい目がユースティンに突き刺さる。
そして青ざめた顔をしていた。
頼むなら礼儀を弁えろ、と……。
その濃紺の眼が主張していた。
正直、横から見てる俺でも恐ろしい。
「ロスト……僕の実験を手伝ってください」
「それはいいんだが――」
そもそもどういう原理で何の実験をしているのかを教えて欲しい。俺も勉学中心で生きてこなかったとはいえ、魔術師家系として知的好奇心は高い。
イルケミーネ先生はユースティンが態度を改めたのを見て満足そうに頷いたが、そのあとに続く先生の独り言も聞き洩らさなかった。
――まったく、お父様に似てきたんだから、と。
アンファンもそうだった。
目的のためには手段を選ばない。
情を捨て、我が子をも利用して、そして大義を成そうとしていた。
亡き父親の姿が重なって嫌だったのかもしれない。
ユースティンも同じ轍を踏む危険性がある。
○
銀髪の姉弟と並んで歩く。
向かう先は理事長室。ティマイオスのいる所。
シュヴァルツシルト家がお得意とするのは"次元"属性。
転移魔法ポータルサイトを代表とする転移魔法だ。
転移とは、古代では"召喚魔法"として扱われ、大禁呪とされてきた。そのため、闇属性の一つと分類されてきたという歴史があるのだが、実は魔相学の研究が進むにつれて、単に闇属性と纏められないことが判明した。
それは、次元に関する魔力が存在するからである。
"――僕は……次元の魔術師だ"
ユースティンと初めて会った日の地下迷宮で、そう自己紹介された。
転移魔法はシュヴァルツシルト家のお得意技。
その魔力を持つもの以外は使いこなせない特殊な魔法だ。
ドウェインもトランジット・サークルという魔法陣を使っていたが、それはこの家が考案した魔法陣を利用することで次元属性の魔力を扱い易くしていただけなのだった。
シュヴァルツシルト家の人間であれば魔法陣も要らない。
さらに彼らはこの魔力を応用して『重力魔法』を編み出した。
原理は解説されてもよく分からなかったが、次元魔法において重要な空間を歪める過程で、意図的に『超重力』を発生させて対象を重くさせるのだとか。
そして今回のユースティンの研究は、まさにその重力魔法の進化系。
――『反重力』魔法である。
これは加重とはまったく真逆のもの。
対象の重力を無効化させる魔法。
『超重力』は次元魔法による空間の収縮によって重力を付加させる。
『反重力』は次元魔法による空間の膨張が重力を取り除くというもの。
もう訳が分からない……。
だが、その反重力魔法に必要な要素が"負の魔力"だった。
次元魔力で覆えば覆うほど、対象の重力は増してしまう。その対となる魔力――複素数魔力"i"こそ、ユースティンが求めていたものだった。
俺のもつ虚数魔力がおそらくそれだろう、とのこと。
ユースティンの飛び降り実験は反重力魔法がかかったかどうかを調べるため、"落ちゆく自分を止められたかどうか"を指標にしていた。
だから地上から空を飛ぶのではなく、空高くから下へ飛び降りる――。
そんな危険な研究を重ねて何になるんだろう。
天才の考えることはいまいち理解できなかった。
聞くに、この研究自体は亡きアンファンが遺した未完の物だとか。
「たのもー!」
理事長室の前でユースティンは無遠慮にそう叫んだ。
「いや、ノックでいいだろっ」
「僕はいつもこうしてティマイオスに会っている」
昔から何も変わってないな……。
その威勢のいい声に反応して、奥からバタバタと騒々しい足音。扉が勢いよく開かれ、中から金髪ツインテールの少女が飛び出してきた。
「やぁやぁ、あたしのユウたん、そしてイルケミーネ。仲良く揃ってご機嫌麗しゅう」
「ご託はいい。こないだの約束を守ってもらうぞ、雷の賢者――――痛っ!」
ユースティンの威勢に対して、背後からイルケミーネ先生が後頭部を叩く。
「こらっ、理事長になんて口を利いてるのっ」
「く、うっ……」
相当痛かったようでユースティンは頭を抱えていた。
イルケミーネ先生が代わりに謝罪を入れると、
「あぁんっ、あたしのユウたんが苦痛に悶えてるわっ! そんな表情もまた可愛いっ」
ティマイオスは目を輝かせてユースティンを見ている。
本当にお気に入りらしいな。
中に通され、奥の理事長の机の前へ。
相変わらず蓄音機でしかないアルドヘルム・モンタギア=チャーグステン校長が俺たちの物音に反応してまた入学式の演説を始めていたが、無視して通り過ぎた。
あれからしばらく経って蓄音機も自動人形も埃を被っていた。
「さてさて、その面子ってことは……あ、ティミーちゃん気づいちゃったー」
ティマイオスが偉そうに椅子に深々と座る。
机に脚を乗せて、俺たちを仰ぎ見ている。
「そう……西のオルドリッジ、東のシュヴァルツシルトと揃って会いに来たんだもの。もう用件なんて一つしかないわっ! いよいよ、この大賢者であるあたしの配下になりにきたのねっ? ねぇ、そうでしょう? そうなんでしょうっ?」
「んなわけあるかよっ」
全力で否定しておく。
ユースティンは無表情でティマイオスを見下ろしていた。
「ティマイオス、僕の正義のために実験を手伝うといったな?」
「ええ、もちろんよ。ていうか、ユウたんの為なら何でもしてあげちゃうっ」
「ふっ、ならば貸してもらおう……天空の力をな!」
ユースティンは手を翳して、ばさっと決めポーズを取った。
魔術師ローブの丈が舞う。
天空の力。こないだ俺を助けてくれたシステムの事だ。
その名も『ティマイオス雲海』。大規模転移装置。
「――いつか言い出すと思ってたわ。飛び降りには持って来いだものね」
ティマイオスも不敵な笑みを浮かべ、その提案を受け入れた。
「いいわ。きみたちまとめて天空へご招待よっ!」
ユースティンの言い分では俺の虚数魔力さえあれば、『反重力魔法』が完成すると云う。これまでの実験では必ず俺が時間魔法の練習をした日、良好な結果が得られていた。
時間を止め、赤黒い膜が世界すべてを覆い尽くした後、その魔力の残滓は大気中に微量に残され、それをユースティンはわずかながら反重力魔法、すなわち「――Fliegen」に活用していたのではないかと……。
でもその理屈は違和感を覚える。
虚数魔力はユースティンも使うことが出来るのか?
"――僕の行きつく先は、キミの時間魔法に密接に関係していると考えている"
それは誰の言葉だったか。
豪華な貴族の別荘。
パーティーに浮かれる学生たち。
そこで俺に声をかけてきたのは若かりし頃のアンファン……?
朧ろげな記憶に残された前世の記憶。
アンファンはもうそんな昔から気づいていたのか。
時間魔法も、反重力魔法も、どちらも虚数魔力が鍵だったことを。
※アンファンの台詞は第1幕 第2場の「◆ オルドリッジⅠ」にあります。
伏線回収が遅いばかりですみません。
作者も回収に一年以上かかると思いませんでした。




