Episode130 王女の悩み
王の子どもは平等に王位継承権を有する。
三十を超えた王子でも、十代の王女でも……。
末子では王位を得るのに圧倒的に不利なこの状況で、継承権争いが起きず、平和な時代を維持しているのには秘密があった。
それは王家が代々守り継いできた"宝"にある―――。
古代に数多の国々が領土争いをしていた時代。
エリンドロワ建国史によると、小国エリンは隣接する二国(ラーダ、ペトロ)と合わせて『ロワ三国』と呼ばれていた。
戦乱の渦中、ペトロ軍に属する"ハイランダーの反乱"にて最大の勝利を収めたエリンは『ロワの最上国』となって、世界最大の王国を建国した。
戦争の後、摩耗しきった大地に再び自然の息吹を与えた"魔法の書"がある。
――それが王家の宝『白の魔導書』である。
黒の魔導書が"死の書"ならば、対となる白の魔導書は"生の書"である。
現在普及している治癒魔法の原点はすべて、『白の魔導書』にあった。
そこには治癒、生命回復の秘文が記述されており、その力でエリンドロワ王国領土は肥沃の大地となり、現代までその豊穣は維持されている。
白の魔導書は、王家の財宝である。
以降、王の選定は『白の魔導書』によって行われた。
魔導書のお導きで生まれたこの国は、王の選定も魔導書によるものだ。王の子孫のうち、魔導書が『ゲーボの導き』を示した者に王位継承権が与えられるようだ。
しかしながら、国の統治から隔離されつつある≪メルペック教会≫の見解では、この『白の魔導書』も封印指定となっていた。
王国内で見れば平和の象徴であるこの魔導書も、世界規模でみれば「歴史、文化潮流、物理自然法則、既存概念、現存する世界資産に悪影響をもたらすと考えられる聖遺物あるいは魔法そのもの」にあたり、王家が保管しておくものではないと主張している。
……それはさておき。
つまり、この選定次第では末子にもすぐ王位が継承されてしまう可能性がある。
現在のエリンドロワ王家の末子は、突然与えられたこの責任重大な立場に困惑し、逃れるか、受け入れるか、整理のつかないまま自室に引き籠っていた。
言うまでもなく、エススのことだった。
心理療法に向かうのは、治療師のカレン先生、かつてのエススの恩師である宮廷教師イルケミーネ先生、そして専属騎士候補である俺。あくまで"候補"だが。
あと何故か、朝方に倒してしまった重装備のランス何某くんもいた。
彼は、俺たち三人が長い回廊を歩いているとき、一階の中庭庭園でいきなり合流してきた。
「……なんでお前も宮殿にいるんだよ」
「僕は最後まで宿場街での乱闘を見ていた重要参考人として呼ばれたんだ」
俺が王宮騎士団を怪しい修道士軍団と勘違いして全滅させてしまったとき、この彼は最後まで立ち上がってみせた。確実に気絶させたと思ったのに、なかなか根性のある男だと感心した。
さっきの裁判の裏で何か証言をしていたのかな。
「いや、だからってエススのところまで付いてこなくていいんじゃ?」
「ぼ、僕はっ、エスス王女殿下の黒帯になりたくて……その……」
王女殿下の黒帯というのは、つまり専属騎士になるってことだ。
その役割は俺にあるらしいんだけど……。
まぁ、正式に引き受けたわけではないし、それを俺が主張するのも変な話だから敢えて言わない。でもそもそも"黒帯"は選抜戦に勝ち抜いて、さらに特異魔法を認められて教会からの洗礼を受け、王女に認められてようやく成れるものだ。
この男は願望だけ口にして、実際それだけの素質があるのかどうかは不明だ。
「せめてその鎧くらい脱いだらどうだよ。これから行くのは王女様の部屋だぞ」
「あっ……! う、うん、失礼!」
ランス何某くんは言われて慌てて鎧を着脱し始めた。
結構おどおどしている。
根性はありそうだけど、性格は引っ込み思案のようだ。
まず兜を取り、彼の容貌が明らかになった。
黒い髪、眼は琥珀色の特徴的な容姿をしていた。しかも童顔だ。雰囲気的には色々な経験を積んだ年上な気もするし、年齢はよく分からない。
おそらく年下(十六より下)ではないだろう。
肌の質的に下賤な世界とは無縁だったように見える。間違っても冒険者あがりとか、汚い世界で生きてきたとかではなさそう。どちらかという貴族出身の高貴な世界で鍛錬を積んだという印象を受けた。
……最近いろんな人を見てきたからか、雰囲気で育ちとかを感じられるようになってきたな。
「付き添いは構わないが邪魔はしないでくれ。王女殿下は少し神経質になっているらしいからな」
カレン先生は彼が鎧をすべて脱ぎ終わるのを見届けてから言い放った。そしてイルケミーネ先生ともども自己紹介を済ませ、朝に起こった俺の非礼を詫びてくれた。
そういえば俺も謝罪がまだだった。
謝った方がいいよな。
知らなかったとはいえ、襲いかかっちゃったわけだし。
「朝のことは申し訳なかった……。あと昨日の夕方も。俺はロスト・オルドリッジだ」
彼と握手を交わす。
その手は細かった。
「いや、いいんだ。僕がまだまだ修行不足なだけで。むしろ手合せありがとう。僕の名前はランスロット」
「……ランスロット?」
「そう、ランスロット・ルイス=エヴァンスだ」
彼は誇張した。
その名前に誇りがあるように、堂々と強調していた。
それよりも―――。
またしても聞き覚えのある名前だった。怪力屋のサウスバレットといい、王都に来てからやたらと見聞きした名前が飛び交ってくる。都会とはそういうものなのだろうか。
でもサウスバレット姓よりもその記憶は鮮明だ。
なぜなら、ルイス=エヴァンス家とは北方クダヴェル地方の地主家系――である以上に、俺の恩師が昔仕えていた家の名前であり、ランスロットとはその話を教えてもらったときに登場した、ルイス=エヴァンス家の跡取り息子だったからだ。
―――トリスタン・ルイス=エヴァンスは騎士として家系を再建する。
弱虫で、騎士としての素質が皆無なランスロットに変わり、養子として迎え入れられた我が師匠。結局、すべてを投げ出して『自由の騎士』となったわけだが……。
トリスタンの物語はそこで終わっていた。
でも残されたルイス=エヴァンス家の物語が同時に終わるわけではない。
彼らも生き続ける限りは、物語が続く。
その結果が、ここに……。
まさかここでその彼と巡り合うとは。
運命のいたずらとは恐ろしい。
これも手繰り寄せられた因果の罠なのだろうか。
「どうかしたの?」
「い、いや……」
名前を聞いただけでランスロットが"黒帯"に拘る理由が理解できた。
見るに、彼は騎士を目指している。
格好は騎士というよりも重装騎兵のような感じだけど。
トリスタンがいなくなった後、自らの力でルイス=エヴァンス家の再興を目指して生きてきた、という感じだ。だから"黒帯"となり、家名を上げたい。
そんなところだろうか。
しかし、イルケミーネ先生の時と同様、積もる話は後だ。
積もる話というか、共通の知り合いがいるだけだけど。
今じゃなくても、いつかトリスタンの話をする機会もあるだろう。
○
エススの部屋の前までたどり着いた。
この辺りの宮殿の廊下は白大理石と緑大理石の四角いタイルが交互に敷き詰められていて、壁も豪華に装飾されていた。数々の絵画のようなものが等間隔に飾られている。
大きな両開きの戸の前に、侍女二人が困った表情で立っていた。
「失礼。国王陛下の命令で王女殿下と面会にきた。私は治療師のカレン・リンステッドだ」
「は、はい……?」
「私は宮廷教師のイルケミーネよ。はい」
戸惑う侍女二人に、イルケミーネ先生が資格証みたいなものを提示する。
すると慌てた様子で戸越しに声をかけ、返事を確認してから俺たち四人を案内してくれた。もしかしたら、隠し子発覚で突然"王女"になったエスス同様、ここの侍女や召使いなどもまだ慣れていないのかもしれない。
扉が開き、中へ入る。
広い部屋に、大きなソファが二つ向かい合せで置いてある。
部屋を彩る調度品の数々。大きな鏡台やランプなども一つ一つが大きかった。この一部屋でオルドリッジ家の食卓並の広さはある。
俺とランスロットが巨大な部屋に目を白黒とさせていると、イルケミーネ先生が慣れた様子で部屋の奥へと入っていき、大きなソファの上に座る小さな影の傍に立った。
こちらからでは表情までは確認できない。
「エスス……」
「………」
俺たちも近くまで寄ろうとしたら、イルケミーネ先生に手で止められた。
首を振っている。どうやらエススは人前に見せられる顔ではないようだ。きっと泣き腫らしていたんだろう。
「イルケミーネ……。ボク、前から変だなって思ってたんだけど、今なら納得できることがたくさんあるよ」
「なーに?」
「イルケミーネがボクに勉強を教えてくれてた事とか……」
「あはは……。私は宮廷教師だからね。家人の子には教えてあげられないわね」
後から聞いた話だが、エススは隠し子だったが、宮殿で普通に暮らしていたそうだ。
必要最小限の部屋だけ与えられ、お付きの侍女も一人だけ。
教養を学ぶには宮殿や中庭、王宮騎士団の訓練場なんかを見学して回るだけで十分だった。だが、耳にする情報はラトヴィーユ国王陛下が操作しており、世間一般でいう"常識"には疎かった。
―――だから鎖帷子のダサい服を着たり、日除け帽子を二枚重ねて被るという奇行も何とも思ってなかったらしい。
父親のことも王様という意識はなかった。
父親と過ごす時間は長く、その中でも「陛下」と呼ばれている場面を何度も目撃していたが、そういうものなのかと特に深く考えてはいなかったらしい。
ある程度の年齢になって自我もはっきりしてきた頃、暮らしている場所が宮殿であり、身近に王族がいて――――やはり自分が回りの人と扱いが違うというのは自覚していたようだ。
「いつかはボクも何か仕事をするのかなって漠然と思ってた。イルケミーネみたいに先生になったり、料理人みたいに美味しいご飯をつくったり………やりたいことがたくさんあって、どんなことをしてるんだろうって想像するのが楽しかったんだ」
エススは与えられた環境の中、成りたいものを思い描いていた。
俺が書斎で戦士に憧れたのと同じように……。
でもその理想は、王族と認知された途端に掻き消されてしまった。
元々、王家の人間として育てられていれば、こうはならなかったかもしれない。王家の誇りや民衆よりも特別であることを自覚せずに育ってきたのだ。突然「貴方は王女です。王家の人間として生きなさい」と束縛されても困惑するのは当然だろう。
「……でも一気に変わっちゃった」
実家に捨てられた俺と同じだ。
一気に状況は様変わりし、思い描いていた将来像は突然に叶えられなくなる。そんな中で絶望し、悲観的になって、卑屈になって……。
そうして抗おうとして色んな人を巻き込んでしまった。
誰かを死なせてしまった事もあるし、誰かを悪者にしてしまったこともある。
それで振り返ってみれば悲しい事だらけだ。
泣きたくなる気持ちも分かる。
その戸惑いは共感できる。
抱えているものの重さも違うかもしれないが、それでも――。
「エススが将来なりたいものってなにかな?」
イルケミーネ先生が言葉を受け止めて聞き返す。
これはカレン先生からの助言だ。「初対面の私よりもミーネやロストの方が話していて気が晴れることもあるだろう。カウンセリングの基本は相手を受け止めること。気安く理解したと伝えたり、否定するような事は決して言ってはいけない」とのこと。
「ボクは……」
考えて、エススは固まった。
おそらく、これに答えはない。
言葉に詰まり、広い部屋にしばらく静寂が奔った。
カレン先生が支援するようにそこに口添えした。バーウィッチ魔法学校で医務室の治療師もやっているから、年頃の子どもの相手には慣れているんだろう。
「ゆっくりでいい。何になりたいか分からなくてもいいんだ」
カレン先生の声を聞いて、はっとなってエススは俺たちの方へと振り向いた。
その目はやはり泣き腫らしたように赤くなっていた。顔も腫れぼったくなっているが、顔にかかる真っ白な髪が人形のようで、どんな表情でもエススには愛くるしさがあった。
王様が溺愛するのも無理はないな……。
「いきなり王女殿下にさせられて、その衝撃は私には理解できないし、さぞ心も辛かったと思う……。だが、少し教えてほしいんだが―――エスス王女殿下は、それ以上に何か大きな役割を押し付けられたのではないか?」
カレン先生は確信を突くようなことを尋ねた。
実はここに来る前に話した中で一番疑問だった事がある。それはエススが必要以上に"王女殿下という立場"を重く受け止めすぎではないか、という事である。
"女王"になったわけでもあるまいし。
そう……エススは十五歳の少女であり、王族の娘。
国のトップになったわけではない。
王位を継承するのは七人の子どものうち一人だけである。ということは他に六人も候補がおり、白の魔導書による『ゲーボの導き』に示されない限り、王位継承者になる可能性も定かではない。
だと言うのに、エススの反応はまるで―――。
「………」
エススは目を逸らして黙ってしまった。
「これは私の推測でしかないが、王女殿下、もしかして王の選定はもう―――」
「……うん」
エススが掠れた声で呟いた。
王の選定はもう、に対して、うんと頷いた。
それが意味する答えは、つまり王の選定は既に行なわれ、そして王位継承者は決まっている、という事だ。
「そうか……。やはりエスス王女殿下、貴方が」
再び部屋の中は静寂が包みこんだ。
重たい空気の中、皆一様に考え込んでいる。
エススは"女王陛下"になる運命だったのだ。
"―――頼む。エススの騎士となり、あの子を守ってあげてほしい"
思えば、ラトヴィーユ陛下の"専属騎士"に対する固執は凄いものだった。エススだけ格別に溺愛していた理由。己が認める最強の騎士が現われるまで隠し子にしていた理由。俺を何としてでも専属騎士にしたい理由。
それらの理由がここにあった。
そういう事であればエススの精神的な動揺も納得だ。
そして今回の騒動は王様の配慮の足りなさが招いた者だという事がはっきり分かった。
「そ、そっか……それで魔導書もこういう形で……」
「ミーネ、何か言ったか?」
「う、ううん!? なんでもないわ」
イルケミーネ先生も焦ったような表情をしている。
その狼狽っぷりは明らかに何かに気づいた様子だが、今は置いておこう。
「お父さんはね、もう騎士が決まったら正式に戴冠式の日取りも決めたいって言ったんだ」
「それは……」
それはあまりにも急すぎる。
エススの心情もお構いなしだ。
「国王陛下ももう良いお年だ。もしかしたら焦っておられるのかもしれない」
「……でも、ボクには荷が重すぎるよ。いつかは―――いつかは決心も着くかもしれないけど、ボクはまだ何も知らない。やりたい事だっていっぱいあるのに」
鎖帷子頭巾服に日除け帽子二枚も重ねて被って歩く女王陛下なんて確かに嫌だな……。
まぁそれはともかく、確かにエススの言う通りだ。
留学して他国の情勢を勉強中の王子王女もいるらしい。
それは来る日に備えてのものだ。
エススにはまだそんな経験はない。
『白の魔導書』のお導きか何か知らないが、そんなもので一国一城の主を決めてしまったら確かに国も崩壊してしまわないか。
ましてやエススは十五歳の世間知らずだし。
これからやりたいこともできて、精一杯遊んで……そうやって一人の少女としての人生を経験してからでも良いのではないだろうか。
「これは国王陛下に直談判だな」
「お父さんには伝えたよ。でも、駄目だって言われた。長い歴史の中で王の選定に間違いはなかったって……! もう、お父さんにも会いたくないよ……!」
そう言い放ってエススはソファに置いてあったクッションに顔を埋めてしまった。グズグズとすすり泣く声も聞こえる。
これは重症だ。
「ロスト、さぁ後は男前の出番だ」
「え……」
「この状況は実家に捨てられて育ったキミとは対極的なものだが―――でもキミなら"親に立ち向かう"心得を熟知しているんじゃないか?」
いきなりカレン先生に話を振られた。
親に立ち向かう心得って……。
俺がエンペドを返り討ちにした場面を思い出す。
時間を止めて殴り、時間を止めて殴り、時間を止めて殴り―――。
暴力で解決しかしてねぇよ……。
―――いや、でも、気持ちは分かる。
「エスス……」
「………」
「色々事情は分かったよ」
「ロスト……ごめんね。いっぱい迷惑かけたよね」
「いや、そんなのは別に」
頭を掻く。
この場合、なんて声をかければいいんだろう。
"――俺も斯く斯く云々ってことがあってさ"
内輪話なんて聞きたくもないか。
"――ガツンとぶん殴ってしまえ"
国家反逆罪か。
"――男も女も関係ない。決めたら最後……"
「エスス、朝に宿屋で王宮騎士団に囲まれたとき俺が言ったこと覚えてるか?」
「……うん」
「あのときは何が何だか分からずだけど、でもやっぱりそうだと思うんだ」
「情けない声出すなって?」
「いや、泣きたいときは泣いていい。でも立ち向かわないと意味がないんだ」
「ボクはロストみたいに強くないよ……」
エススはクッションから顔を覗かせた。
瞳を潤ませたエススも、なかなか良い画になる。
……今はそれどころじゃないか。
「俺だって心はそんなに強くない。いつも悩んでばっかりだし」
「それは嘘だね」
「いいや、本当だ――俺は昔から戦士になりたいって思ってた。それこそ力だって今よりずっと弱かったときから」
「ロストはもう十分強いじゃん。立派な戦士だよ」
「……でも戦士って何なのか未だによく分からない。争いが争いを生むんだって、楽器を教えてくれた人に怒られたこともある」
「楽器弾けるんだ」
「少しだけな」
俺の話題に逸れつつあるけど、結果的にエススも心が落ち着いてきたようだ。
「実は王様にエススの専属騎士になってくれって頼まれたよ」
「……やっぱり」
「エススには最強の騎士を仕えさせたいって」
「そう……ロストなら良いと思うよ」
「でも俺は自分で目指していた理想が"黒帯"なのか分からないんだ。だから、はっきりやりますって言えなかった」
「………」
「ほら、悩んでばっかりだろ? 俺もまだ自分の道を決められない半端者なんだ。だからエススがそうやって思い悩む気持ちも少し分かるよ」
「……ありがとう。なんかロストがそう言うと安心する」
極力、会話が長続きするように頑張ってみた。エススも言葉通り、だいぶ安心してくれたようで顔も上げて俺の方を見てくれた。口調も泣き散らした時とは違って、穏やかだ。
あとは王様と話が出来るようにゆっくり誘導してやればいい。
「俺もまだ黒帯になるか悩んでるし、エススも女王になるか悩んでるし……。だから、一緒に王様にお願いして気持ちを整理する時間を貰いにいこうぜ?」
俺の言葉を聞いて、エススも目を丸く広げた。
その後、笑顔で返してくれた。
「一緒に……うん、そうだね。まだちょっと怖いけど……ボクも立ち向かってみるよ」
なんとか王女様の説得に成功した。
カレン先生には後ろから頭をくしゃくしゃに撫でられて「さすが色男だな」とよく分からない言葉で褒められた。イルケミーネ先生も小さな拍手で俺とエススのことを応援してくれた。
ランスロットは何か気が動転しすぎていて心ここに非ずといった感じ。
―――あ、彼が目指していたものを奪ってしまったからか。
ちょっと配慮が足りなかったか。
いやでも今は王女様の心のケアが最優先……。
あとで彼の心理療法もお願いしとくべきか。




