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魔力の系譜 ~名も無き英雄~  作者: 胡麻かるび
第4幕 第1場 ―王宮騎士団―
162/322

Episode126 犬耳男と赤肌女

※前々話の続き。視点が主人公に戻ります。(以降、なるべく視点変わらないように頑張ります)


 驚きのあまりに悲鳴をあげてしまった。

 目の前には鎖帷子頭巾服(ロリカスタイル)の少年。

 さらに帽子を二つも重ねて被っている。それによってこの少年の素顔のうち、確認できるのは目元だけだ。少年は足が細く、存外にもスカートとタイツは似合っていた。

 顔のほとんども鎖帷子で覆われてる。

 むせ返るような熱気の中でよくそんな格好で観戦なんかしてられるな……。


「どうしたの、お兄さん?」


 少年が小首を傾げた。

 そうか……もしかしてこの少年は流行オタクなのかもしれない。服屋の店員に唆されて、これが流行りなんですって言われ、すぐ親に頼んで買ってもらったといったところか。

 そうだ、親だ。

 親を探そう。

 俺は周囲を見渡したが、周りの観戦客は皆、今行われてる馬上試合に夢中になっていて、少年の親らしき人物はいない。


「ボクの顔になんかついてる?」

「ついてるどころじゃねーよ!」


 そもそも顔も見えないくらいに装備つけてるだろう!

 声を張り上げてしまったが、少年は動じることなく目もきょとんとさせたままだ。

 ……もしかして、この子は真性の天然か。

 数多の天然を見てきたこの俺が感じるんだから間違いない。

 これまで天然と関わってきて良いことはなかった。

 今回もなるべく関わらない方が良いだろう。


 ―――そう思って目を逸らし、闘技場の方へ向き直った時。

 周辺の観客がざわつき始めた。

 騒然として一斉に斜め後ろの方に視線を集め始める。

 なんだろうと思って俺も同じ方向を見てみた。

 観客席の入場口から、ぞろぞろと出てきたのはなんと黒や白のローブのようなものを着た聖職者のような人の数々だった。

 ローブ……なのか?

 かつて師匠が修行のときだけ着ていた"胴着"と似てる。

 魔術ギルドの制服――というのとはまた違った。

 先頭を歩く犬耳の男と赤い肌の魔族の女二人だけ黒い胴着を着て、その後ろをついて回る男たちが白い胴着を着て明確に色分けされていた。

 その集団がこっちの方を険しい目つきで見ながら真っ直ぐ歩いてきている。

 なんか怖い。


「あ……まずい」

「ん?」


 さっき話しかけてきた少年が俺の背中に身を隠している。

 首だけ後ろに向けて、その少年の様子を見た。

 ……俺の服の袖を握りしめる手は白く小さい。そんな怯え様がとてもか弱く見えた。


「あいつらはなんだ?」


 俺はなるべく怖がらせないように小声で後ろに語りかけた。

 あの連中の目つきと脇目も振らずに歩いてくる様子、そしてこの子の怯え方を見て、きな臭い雰囲気を感じたからだ。

 俺の問いかけに対して、少年は澄みきった青い瞳をこちらに向けた。

 その目はおどけたように丸くしている。


「お兄さん、知らないの?」

「何を? あの修道士みたいな集団のことか?」

「………」


 少年は何やら考え込んでいる。そうこうしている間にも修道士集団はどんどん近づいてきていて、周囲の観客たちも騒然として何やら喋っている。

 なにこれ、どういう状況?

 やっぱり俺が世間知らず過ぎる?

 俺たちの近くまで辿り着いた連中が、観客席の間の通路で立ち止まった。

 そして黒い胴着を着崩して胸元を曝け出した犬耳の男が口を開いた。


「さーて、俺から逃げられると思ったら大間違いだぞっと」


 手を軽く掲げて、犬耳が鋭い爪を覗かせた。

 極悪そうな笑みを浮かべているが、顔立ちは美形だ。線の細い顔立ちがなんとなく母さん(ミーシャ)と似てる気がした。

 この男、モテるんだろうなぁ。

 現に観客席の女性陣は黄色い声を上げて犬耳に熱い視線を投げかけていた。


「おい、そこの人間。そいつを差し出せ。ほら、エス―――」

「お兄さん、助けて!! ボク、そいつらに追われてるのっ!」

「なっ……」


 後ろの少年が俺の背中を押して、懇願してきた。前に押し出された俺は犬耳と対峙することに。事情はさっぱり分からないが、この極悪そうな犬耳がどうにも悪い奴に思えてきた。

 なにより、後ろの少年が助けてと言っている。

 俺の力でなんとか出来るなら―――。


「わかった。俺がなんとかするから、早く逃げろ」

「うん、ありがとう!」


 淡泊に返事をされ、颯爽と少年は後ろへと逃げていってしまった。

 その場しのぎの盾に使われた――という印象だ。利用されている感を半端なく感じるけど、仕方ない。人助けってのはそういうものだ。深々と感謝されるためにやるものでもないし……。


「あっ、おい待てよ」


 犬耳が俺の脇を通り過ぎようとした。

 俺はその前に立ちはだかる。


「―――っと。おいおい、素人が俺に楯突こうってか?」


 犬耳は爪を見せびらかして威圧してきた。

 素人とは聞き捨てならない。


「知るか。助けてって子どもに言われたら助けるんだよ!」

「俺たちを知らねぇのか、馬鹿がっ……今はアレが最優先事項だ。邪魔するなら一般市民でも仕方ねぇ」



 刹那―――。

 犬耳が姿勢を低くし、下方から腕を振り上げていた。

 言い終わる前に既に攻撃の一手を繰り広げていたのだ。予備動作もなく突然攻撃をしかける当たり、かなり戦いに精通してる獣人族らしい。攻撃自体が速いのは言うまでもない。

 獣人族とは元よりそういう種族だ。

 犬系統なら尚の事。

 敏捷性が人間よりも優れているのが種族の特性なのだ。

 だけど、それだけだ。


「………!?」


 手刀で弾き返した。

 牽制だけのつもりだったようだ。爪を出さずに拳一つで俺の顎を軽く殴ろうって心づもりだったらしい。そんな手の抜いた攻撃、弾き返すことなんて造作もない。


「まぐれか?」


 犬耳の男も俺が殴られる未来(ヴィジョン)でも見ていたのだろうか、どうやら困惑していた。でもそんな雑魚というわけでもないようだ。困惑するだけで終わらず、もう次の一手に出ている。

 腰を低く落としたまま、足払いをかけようと身体をくねらせていた。

 なかなか出来そうな男だし、ちょっと蹴り上げても問題なさそうかな……。

 足元に迫る相手の太ももを俺は容赦なく蹴り上げた。


「グァァアッ!」


 俺の蹴りを喰らって、男は物凄い勢いで後方へと吹っ飛ばされていった。

 観客席の通路に体を滑らせ、背後にいる白い胴着姿の男どもの群れへと突っ込む。集団も合わせて悲鳴をあげ、周辺の観客席から見守る輩も混乱しているようだった。

 野次馬も無数にいる。

 俺と犬耳男の闘いを見て、唖然として静まり返っていた。


 しまった……。

 勢い余って力を込めすぎた。

 これじゃあ騒ぎを起こしたようなものだ。

 王都に来たばかりだというのにトラブルを起こしてしまったらまずい。

 シアとカレン先生に怒られる。


「くっ、お前……俺に恥をかかせたな」


 白い胴着の群れから黒い胴着の男が顔を出す。

 良かった。怪我もなく普通に元気なようだった。元気どころか目が血走っている。グルルと喉を鳴らし、俺を凄い形相で睨んでいた。


「容赦しねぇ……!」


 ついに男は"剣"を構えていた。

 短刀のようなものを指と指の間に挟み、片手に三本も……。

 一見して、男の鋭い爪が伸びたかのように見えるが、ちゃんと目で追ってみると三本の剣であることが分かる。それを両手に構えて合計六本だ。

 観客席の間の通路を、そんな凶器構えて低姿勢で迫って来る。

 まるで狂犬のようだ。


 男が、四つん這いのような姿勢で迫り、その六本の剣を()()した。

 速攻の投擲。

 それが六本も。

 放たれた魔弾の矢のように、それが風を切って俺の胴体を穿とうと差し迫ってくる。でも、速さ勝負ならもう慣れたものだ。

 俺も《魔力剣》を生成する。

 女神譲りの赤黒い魔力で造られる純粋な魔力の塊。

 魔力生成から剣の構築、柄の掌握、構え、振りきる。

 まだ時間魔法に頼らずとも間に合った。アレは魔力の消費が大きいようで、すぐ魔力が枯渇してしまうデメリットがある。

 剣を一本、二本、三本……。

 上段からの振り下し、下段から振り払い、そして中段から振り上げる。

 影真流の剣技の基本動作の流れで叩き落とした。

 《秘剣 ソニックアイ》の必要性も感じない。


 ―――そこで俺は思い出した。

 こないだ師匠に教えてもらった剣技《大禍斬り ドップラーアイ》を使ってみよう、と。

 ドップラーアイは錯覚を利用した技だ。正面から迫り、剣を振りきったように見せた直後、さらに加速をつけて背後へ回り、斬る。ちょうど相手も血眼で真正面から俺に迫って来る最中だ。

 胴着の袖からさらに短刀を六本取り出して、迫ってくる。

 試し斬りにして悪いけど。


「いくぞ……!」


 大地を蹴る。

 影真流は大地を駆ける平面的な剣技だ。

 跳ねたりするような無駄な動きはしない。

 その結果に手に入れた最速の剣。


 犬耳の男も相当速い。

 でも血走っていては錯覚にも陥りやすいだろう。

 お互いが目と鼻の先。

 俺は目の前で剣を振るように見せ、その直後に男の脇を通り過ぎた。

 そして足を突っぱねて急停止をかけ、背後から剣を振り――。


「……?」


 ―――キン、と魔製の剣戟が弾かれた。

 失敗だ。

 犬耳男も剣筋を見切れるほどには目が良いらしい。

 だが、男の片手から得物を削ぎ落すことには成功した。犬耳男が指に挟む三本の剣は、剣先から砕かれて、そのまま手元から落ちていく。

 犬耳男は呆気にとられていた。


「お前のその魔力は……」


 男が何かを感じ取り、スンスンと鼻を嗅いでいる。冷静さを取り戻したのか、男は肩の力を落としていた。端正な顔立ちのその眉を顰めて、怪訝そうな顔で俺を見ている。

 その直後のことだ。


「嫌だ! 離して!!」


 先ほど逃がした少年の声が遠くから届いた。声のする方を見ると、犬耳男と同じ黒い胴着をきた赤い肌の女に、少年の腕が拘束されている。


「悪いけど、戻らないといけないのよ。決まりは守らないとね」

「やめてー!」


 女と、女が従える修道士連中が少年を取り囲んでいた。

 連れ去られようとしている。犬耳男との戦ってる間にもう一人が追いかけていたようだ。逃がすことよりも新手の敵との戦いに、ついつい夢中になりすぎていた。

 迂闊……。

 犬耳男はそれよりも俺のことに関心があるようで、構わず質問を続けてきていた。でもそんな事よりもあの少年のことだ。何とかするって言ったのに、これじゃあ面目が立たない。

 もう時間魔法を使うしかない。

 時間を止めて、あの子に触れて、一緒に逃げ出す。

 それで行こう。


 ―――止まれ!



「その魔力の臭い(・・)は神――――」


 犬耳男が何か言いかけていたが、ちょうど時間が止まった。すべてが赤黒い魔力に満たされて、男も女も修道士っぽい群れも、観客たちも全部止まっている。

 俺はその合間に走って近寄り、少年を引っ張って女から引きはがした。


「―――離してっ! ……って、あれ?」

「大丈夫か?」

「なにこれ、どうなってるの?!」

「いいから早く逃げよう」

「ボクたち以外、みんな固まってる!?」


 少年もかなり混乱している様子だ。

 時間を止めていても、魔力の消費量が大きいからあまり俺自身の体感時間はない。急いで闘技場から脱出して、どこか身を隠せるところへ避難だ。

 俺はその小柄な体を抱きかかえて、走りだした。


「きゃっ!」

「きゃあ?」

「……あ、ううん」

「男がそんな情けない声を出すんじゃない!」

「ご、ごめんなさい」


 歳は十数歳くらいだろうか。

 少年と呼んでるけど、もしかしたら俺と同年代かもしれない。外にも出ず、体も鍛えずだったらこれくらいの非力な体にはなるだろう。抱きかかえた感じも体がふにゃふにゃで柔らかい。軟弱すぎる。五歳児のリナリーの方がまだ戦えそうだ。

 どういう事情で追われてるか分からないけど、とりあえず後で聞こう。

 俺は瞬足で闘技場から駆け抜けた。



     …



 徐々に体の熱が奪われていくような感覚が襲う。

 これは魔力が消耗されている合図だ。

 ひどいときは寒気すら感じる。

 ……駄目だ、そろそろ限界だ。

 闘技場の出口付近まで来て、一度、時間魔法を解除した。

 周辺の人間も突然俺たちが現われると驚くだろうから、影に隠れてひっそりと解除だ。

 俺って虚数魔力の特性はあっても、そもそも魔力量自体は少ないんだろうか。魔力量は桁違いと言われてるオルドリッジ家の子としては何だか悲しい。マナグラムで虚数魔力が測定できるようになっても、その数値を測るのにはちょっと勇気が要りそうだ。


「はぁ……」


 周囲の人が突然歩き出したり、動作を再開したりする様子を見て、少年も目を瞬かせていた。

 少し魔力の回復を待とう。

 魔力も、体力と同じように少し休めば回復するはずだ。闘技場の入場口付近は物陰が多い。身を隠せるように腰を下ろし、行き交う人々を眺めながら休憩した。


「お兄さん、どうなってるの!?」

「あ……? あぁ、これはちょっと成り行きで」

「もしかして、《時間を操る魔法》?」


 あっさり見抜かれた。

 一般市民の子どもが時間を動かしたり止めたりっていう概念を理解できるのか疑わしい。もしかしたらある程度の教養のある子なんだろうか。親にこんなダサい流行服をぽんぽん買って貰えるんだから多少は裕福な家庭なのかもしれないな。


「そういえばお前、名前は? なんで呼べばいい?」

「あ、ボクはエ………えーっと、エス! エスって呼んでよ」

「エス?」


 なかなかシンプルで覚えやすい。

 良い名前だ。


「お兄さんの名前は?」

「俺の名前はロスト」

「………!」


 エスは驚いている。


「なんだ? 聞き覚えがあるのか?」

「あ、ううんっ、全然……全然ないよ!」


 落ち着きがないな。

 子どもだからか。

 逃走劇ってのは俺も十歳のときに経験してる。あのときはケアと一緒だった。ケアは何事にも動じないお惚け女だったから気づかなかったけど、普通だったら襲われて逃げたらこれくらい興奮状態になるんだろうな。

 目を瞑って考える。

 ……さて、これからどうしよう。

 まだシアとの待ち合わせまで時間はありそうだ。

 エスを無事に避難させてあげるだけの余裕はまだあるはず。

 避難させるためにも事情を聴きださないと。


「なんでさっきの集団に追われてるんだ?」

「えーっと、うーん……ボクにも分からない」

「何?」

「例えばね、人を傷つけたり、何か物を盗んだりしたら追われて当然だと思うんだ。でも、ボクは何もそんなことしてない。悪いこともしてないのに追われるなんて変でしょ?」


 その口ぶりには何か意味を孕んでそうな印象を受けた。

 無垢な子どもにはよくある疑問だ。

 親から善悪を教えられ、悪いことが何かを知る。

 でも現実には不条理が山ほどある。外に出て、初めて世の中の善悪がとち狂ってることに気づくんだ。俺もそんな不条理を早くから知りすぎてしまった。

 家から捨てられた。

 仲間から引き離された。

 大切な人も……殺してしまった。

 迷宮都市で孤独だった。

 友達の親も死に、自分の母親だって……。

 その過程が、すべて誰かの目的を遂げるための陰謀だったとしたら――。


「ちょっとそこの坊やたち、暑い日に美味しい氷菓子はいかがかねぇ?」


 突然声をかけられる。

 目の前には皺だらけのローブ姿の老婆が冷気漂う荷車を押していた。熱気漂う闘技場ではこういう商売人もいるんだろう。にこにことした老婆が愛想よさそうに顔を覗きこんでくる。


「お婆さん、悪いけど今はそんなもの食ってる状況じゃないんだ」

「ほぉ、そうかいそうかい……何か急ぎの用事かい?」

「あぁ……。もう少し休んだらすぐ出て行くから」

「ほぉほぉ、鬼ごっこでもしてるのかい?」

「まぁ、そんなもんかな」

「ふぇっふぇ……じゃあ坊やたちの負けだねぇ……」

「はぁ?」


 婆さんがエスの腕に触れて、"タッチ"する動作をしてみせた。

 呆けてんのか、この婆さん。


「―――ほら、捕まえた」



 ばちばち、と老婆の腕先から稲妻が奔る。

 魔力が飛散するときの現象だ。皺がれた老婆の手先が徐々に赤い肌に。顔も赤く染まっていく。老婆の笑みは、赤い女の不敵な笑みへと変わっていく。


「変装の……魔法!?」


 俺は咄嗟に座った状態から足を蹴り上げる。目標はエスの着る鎖帷子を掴む女の腕だ。だがその足はもう一方の手で掴まれて防御された。

 《魔力剣》を造りだす。

 腕を斬りつけようとすると、赤い肌の女はエスを掴んだまま後ろへ跳躍した。


「変装と一緒にしないでくれるかしら。これは立派な"変化"よ。坊や」

「……」

「あなた、さっき何をどうやったの? どうしてその場から消えたの? 転移魔法の応用かしら?」

「……」

「私の見立てだと、貴方はあの一瞬、確かに二人存在した(・・・・・・)。つまり、転移と掛けあわせた"分裂"の類いだと考えているのだけど……魔物の中にはそういう種もいるらしいじゃない? 貴方の親は魔物との不貞行為でも及ん―――」


 ごちゃごちゃうるさい。

 時間魔法発動!



 エンペド戦で時間魔法を使った回数は七回。

 たったの七回で魔力は枯渇した。止めている時間にもよるのか分からないが、あまり乱発していい魔法じゃないのは念頭に置いておかなければ。

 エスを引きはがして腕を握りしめる。


「また!?」

「そうだ、時間を操る魔法だ。ほら、早くいくぞ!」

「う、うん……!」


 止まった時間の中でエスと二人、闘技場を後にする。

 よく見ると、影に犬耳男も控えて、俺たちの方を注意深く観察していた。《直感》での話だけど、おそらくあの犬耳男は匂いとかに敏感なようだ。さっきも魔力の匂いがどうとか言っていたし。身を隠していてもこうやってバレてしまうんだろう。



 人混みをかき分けて進んでいく。

 何人かと衝突を繰り返しては、衝突した一瞬だけ、この"静止した時間"を共有していた。その度「きゃ」とか「わ」とかいう悲鳴が一瞬だけ聞こえては、また停まった人間に戻ってしまう。

 手を繋いだエスとだけは常に静止した時間を共有している。


「すごい……なんでこんなことが出来るの?」

「それは話せば長くなる」


 時間を止めているけど、時間はない。

 人混みをかき分けてなるべく遠くへ逃げるしかない。

 途中で馬とか鎧を着た男とかにもぶつかった。

 ぶつかった彼らからしたら一瞬の出来事で訳も分からないだろう。とりあえず軽く謝るだけ謝って俺とエスは大通りを抜け、路地裏方面へと走っていった。



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【魔力の系譜~第1幕登場人物~】
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