Episode124 王都エリンドロワ
黎明の森を抜けた先。
そこは広大な平原だった。
平原の中を一本の街道が続き、その先に巨大都市が待ち構えていた。
遠くから見ても、どれほど巨大かはよく分かる。
まず中央に聳え立つのが、荘厳とした白亜の王城。
一際大きく、最上部は塔がいくつも突き出している。
かつては城塞としての機能が大きかったのだろうか。城の周囲にも城壁らしきものもあり、そこからも城壁塔が突き出している。さらにその周辺を貴族の邸、街の建造物が所狭しと並んでいた。
広大だった。
迷宮都市アザリグラードのように背の低い家々が犇めき合うのとはまた違う。王都に関して言えば、縦にも横にも所有面積を拡大している。
王城以外にも、高くそびえ立つ塔のような建物はいくつもあった。
パウラさん曰く、丘の上に建つ、銀色に光り輝く神殿がメルペック教会の本部。その周囲は木々が生え、脇には生活水源としての川が流れているのが見えた。自然と調和した神殿だ。
王城を挟んでその反対に位置する黒い塔と四角い建物が、魔術ギルド本部なのだと云う。
メルペック教会本部、魔術ギルド本部は離れるように作られていた。
仲が悪いらしい。
それ以外にも王都を彩る街並みは山ほどある。
正門から王城へと真っ直ぐ続く、敷き瓦の中央通り。
そこから分岐するように伸びる華やかな劇場通りや冒険者ギルド王都支部とその周囲の宿場通り。
さすがは言わずと知れた世界最大の王国。その中心地。
貿易街バーウィッチも都会だと思っていたが、その比ではなかった。
これからここでしばらく過ごすことになるのだろうか。
…
実は、俺は王都に来るのは初めてだ。
魔法大学の学園都市はここからさらに南へ馬車で半日ほど進んだところにあるのだが、前世でもついぞ王都の方へ寄りつかなかった。
出不精だったのもあるし、友達もそれほど多くなかったし、魔法の研究で忙しかった。
そんなわけで王都をこの目で拝むのは初である。
しかし、俺の感動とは裏腹に、他四人は特に感想を漏らすことなくスタスタと歩いていく。
王都の巨大な外壁の門まで歩き、俺がその壁の高さに圧巻されて「おお」とか声を上げているのにも何の反応もない。寂しい。もしパーティーメンバーが違えば、この感動を分かち合えたのだろうか。
―――"もっと良い女になって、ジャックに認めてもらう女になるから"
ふとアイリーンの言葉が頭に過った。
あの子とならこういう感動も素直に分かち合えたのかな。
はっ、いかんいかん……。
なぜアイリーンのことが頭に浮かぶんだろう。
あの別れ際の言葉は、俺に残した呪詛の言葉。
事あるごとに思い出してしまいそうになる。
浮ついた心は消すんだ、ロスト。この名前を付けたのも、選んだのも、隣を歩く青い髪のエルフが俺を支えてくれた証だ。それを忘れないために、"ジャック"は捨てたんだ。
門を抜けて、少し検問を受けた。カレン先生が何かの証書のようなものを内ポケットから取り出し、提示しただけであっさり通過。他の冒険者や商人たちも門を行き交っているが、兵士たちに停められて何か確認されている。
そこから先は敷き瓦の真っ直ぐ伸びる中央通りだった。
馬車が何台もすれ違えるようにしてあって、とにかく幅が広い。
「それで、着いたはいいけど、まずはどうしますか?」
俺はリーダー格であるカレン先生に歩きながら尋ねた。
まず体を休めたいと言いたいところだが、荷を下したり、雇われの馭者に暇を告げたりするためには、拠点を決めなければならない。
宿を取るのか、あるいは何処か寝泊りする宛てがあるのかもよく分からなかった。
「ふむ……最初の目的は貴族院の議会に顔を出すことだが、到着した報告をしに行かねばな」
確かに突然訪れても簡単に王や貴族たちと謁見できるわけがない。
「あとはミーネか……」
「ミーネ?」
「失礼、イルケミーネのことだ。それを渡す予定だったな?」
ミーネってのはイルケミーネ氏の愛称らしい。
カレン先生に肩に提げている鞄を指差された。中には無詠唱術者の疑いのある子どもたち四人分の血液サンプルが入っている。
旅の目的を忘れてはいけない。
俺は王都で三つ、やることがある。
一つ目は、王家や王侯貴族の集まる議会に参列する。
王様直々の手紙には『略歴だけでは分からないから才能を直接見せてほしい』みたいな内容が書かれていた。時間魔法を実演して見せればいいんだろうか。
二つ目は、ガウェイン先生から託されたアリア・フリーに関する研究のことだ。
世界標準の魔力測定用魔道具"マナグラム"の改定のため、特殊な魔力を持つ子の血液が必要だと云う。鑑定魔法の専門家イルケミーネ氏にそれらを渡さなければいけない。
三つ目は、原聖典"アーカーシャの系譜"のことだが―――。
パウラさんの方に向くと、何かを察して返事をくれた。
「私はここで一旦失礼させて頂きますわ」
「教会本部へはいかないんですか?」
「……長旅でさすがの私も疲れましたの。また後日にさせて頂きます。それに、しばらく留守にしていた我が家が恋しいのですわ」
パウラさんは胸元まで垂れ下がった黄金色の髪をいじり、痛んだ毛先を眺めはじめた。見た目も派手だが、お洒落にも敏感なようだった。
「それならパウラさんの家にケアも連れてってください」
そうすれば宿泊代が一人分弾む。
ケアごと王都へ連れていくと言いだしたのはパウラさんだし。
隣に一瞥くれる。
そこには、ぼーっと中央通りを眺めるケア。
引っ切り無しに行き交う雑踏が珍しいのだろうか。
パウラさんもそんな無垢なケアの様子を見て渋い顔をしていたが、少し目を伏せて考えた後に、意を決したように俺の方に向き直った。
「仕方ありませんわね……。旅の前は不安でしたけど、無害であることは道中で重々わかりましたし。何日かはこちらで面倒を見ますわ」
「おー」
「ただしっ、教会本部へ連れていくときには貴方も付いてくるんですのよっ、ロスト!」
「えぇ……? まぁ、うん、わかりました」
パウラさんと同じく、俺も旅の途中でケアを眺めていて気づいた事がある。
この子に関しては俺にも責任がある。
女神が残した少女なのだ。この子自身やこの子の持つ聖典の行く末を見届けなければいけない義務がある……と思う。
けじめみたいなものかな。
結局、パウラさんとは一週間後の正午に教会本部へと渡る水道橋の前で待ち合せすることになった。
そうしてケアはパウラさんの自宅へ引き連れられていった。
手を引かれるケアの後ろ姿を見て、身寄りのない少女が少し可哀想になる。俺と同様、エンペドと女神の陰謀によって生まれてしまった厄介者のようにも見える。
それなら力を授けられた側の俺が面倒を見ていかなければいけないのでは―――。
"鬱憤が晴れないようならこの肉体を好きに貪ってくれて構わない"
女神との別れ際に言われた言葉。
あれは、この子の面倒もよろしくって暗に伝えたかったのかも。
○
パウラさんとケアと別れ、荷を下ろして馭者とも別れた。
残りは三人組のパーティーとなるはずだった。
だが、今の俺は一人だ。
迷子になったとかではない。
各々やることがあると言って散り散りになってしまったのだ。
カレン先生は王城への伝達とイルケミーネ氏への連絡を。
シアは二人で泊まる用の宿を探しに行ってしまった。
宿探しなら俺も行くと言ったのだが、シアには頑なに拒まれ、少し観光でも楽しんでいてくださいとあしらわれた。その頑固さには何か違和感を覚えたが、シアも女の子だし、何か一人でやりたい事もあるんだろう。
こんな大都会で一人にさせて大丈夫かとも思ったけど、大きな通りであれば近衛騎士が巡回警備しているから、比較的に治安は良いそうだ。ましてやシアなんて小さい頃から迷宮都市でも一人で生きてきたのだ。
今更そんな過保護になる必要もないだろう。
素直に提案を受けることにした。
日没前に中央通りの同じ場所で、と待ち合せをし、観光することにした。さっきまで大所帯だっただけに突然一人にさせられると物悲しさを感じる……。
…
人が多い。
まず向かったのは、マーケットだ。
冒険者歴の長い俺が必然的に寄りつく場所。
中央通りから分岐している宿場街を抜け、その先にある商業区へ。
新しい街に来ると相場を調べに回ってしまう。
ましてや王都なのだ。
物価が高いのは言うまでもない。
魔力ポーション一本500ゴールド。
バーウィッチ価格と同じだ。
原料の虹色魔石の中サイズは一個120ゴールド。
バーウィッチ価格より20ゴールドも高い。
王都は魔術ギルド本部があって魔術師も多いから、より多く使われる原料の方が値も張るようである。さらに魔石はアザリーグラード産の輸入が多いし、流通の都合でバーウィッチより高くなってしまうのだろう。
他にも魔道具の商店をざっくり見て回ったけれど、見たこともない魔道具が多くて胸のときめきを感じた。
"空飛ぶ座椅子"が一番気になる。
低空飛行して移動もできるらしい。
価格300万ゴールド……先々のことを考えると中々手が出せない金額だ。
いつかじっくり魔道具店も見て回ろう。
意外に"本"は安かった。
迷宮都市では20万ソリド(2万ゴールド)だった史実関連書籍が1万ゴールドくらいだった。魔術指南書も同じくらいの値段。観光ガイドは1000ゴールド程度だ。
しかし武器各種はすごく高い。
バーウィッチ地方ではダガーナイフ一本1000ゴールドくらいだったのが、3000ゴールド程度である。他にも桁一つ違うツーハンドソードなども二倍から三倍くらい高かった。質が違うのもあるんだろうが、武器に拘りのない俺にとっては安価な武器の方が好きだ。
自分の関心事を振り返ってみて改めて思う。
やっぱり魔術や本、物の価値に関心が高いのは"血筋"かもしれない。
―――憎んでいても血は抗えないんだろうな。
俺がいつもの如く魔道具店や本屋巡りをしていると、マーケットの大通りの雑踏が一斉にある方向に向けて歩き始めた。ガヤガヤと喧騒も聞こえる。
なんだなんだ、と店の外へ出て確認する。
「お、いよいよ始まるようだな」
本屋の店主が腕を組みながら呟いた。
振り返って尋ねる。
「何が始まるんです?」
「おお? 坊主は知らんのか。格好から見て挑戦者かと思ったんだがな」
「挑戦者?」
「そこの通りを出て真っ直ぐいった所に闘技場があるんだ。"幹部候補"の選抜戦が今日から始まるんだよ」
「幹部候補ってもしかして王宮騎士団の?」
「そうとも! かーっ……ラトヴィーユ様もまさかあのお歳で隠し子がいるとはなぁ。ま、あのお方の血を引く子どもがたくさんいるってことは良い事だ」
王都へ来るまでの道中で旅人たちから聞いた話を思い出す。
王様―――ラトヴィーユ様? には七人目の隠し子がいて、王宮騎士団の幹部候補を募集しているという。本屋の店主が言うには"選抜戦"というのだから、おそらく腕試しである程度、挑戦者を絞るのだろう。
「選抜戦って何をやるんですか?」
「騎馬戦さ」
「ジョスト?」
「興味あるなら見に行ってみたらどうだい?」
本屋の店主に教えてもらい、俺は闘技場に行ってみることにした。
まだ日も高い時間だ。
見物の余裕もある。
…
闘技場までの道は人に聞かなくても、人混みの流れに沿って歩けば自然と辿り着けた。商業区をはしる一本の大通りを進むと、その正面にドーム状の闘技場があった。
なんとなく迷宮都市での日々を思い出す。
―――"アーバン・フラタニティ"。
ユースティンとアルバさんの二人で挑んだ迷宮都市のお祭りだ。あっちの闘技場の方は粗末な造りだったが、王都のものはしっかりとしていた。
闘技場周辺に、見晴らしの良い席の観戦券を高価格で別売りしてる商人がいたり、賭け事を行う冒険者がいたりするのはここでも同じだったが―――。
俺は闘技場入口前で適当な自由席券を買って、中に入った。
「そこのキミ! 帽子! 帽子はいらんかね!」
「なに?」
「帽子だよ。今日は天気がいいからね! 帽子かぶらないと日差しで目が焼けちゃうよ!」
「いや、いらねぇよ」
「帽子は大事なんだぞ! 帽子を被れ! ほら、帽子だ帽子だ!」
「………」
入口付近で日除け帽子売りの商人に声を掛けられた。
押し売りが強い。とにかく無視だ。確かに日差しは強いけど、先日のシアとのデートで買ったフード付きマントがある。
フードを目深に被って日除けにした。
闘技場はすごい熱気だった。
確かに熱い。人混みの熱気も、上から降り注ぐ太陽の日差しも。
観客席側からその闘技場を見下ろす。
そこには土が敷かれ、一直線の柵が何本も立てられていた。広い闘技場に、五本くらいの長い柵が並行している。既に試合は始まっているようで、それぞれの柵の両端に"選手"がいた。
俺はその試合を横目に、自由席の適当な場所を陣取った。
柵の両端から、空砲を掲げる審判の合図で馬が一斉に駆け出す。
土を蹴る蹄の音。
交差する、甲高い剣戟の音。
選手が手にする得物は槍だったり、メイスだったり、鉄槌だったり、剣だったり。選手は各々の得物を構えて、馬が交差する刹那に叩き合う。後から知ったことだが、あの武器は傷つかないように剣は刃先を鈍らせてメイスは丸みを付けるなどの工夫がされていて、殺傷能力を押さえているらしい。
それぞれの選手は柵を挟んで反対側にいるため、馬同士が衝突することはない。
その対峙し合う瞬間の攻撃で騎手を叩き、落馬させる。
―――というルールなようだ。
あの様子だと、騎乗が出来る人でないと選抜戦に挑戦できない。
俺は馬に乗せてもらったことはあるが、馬の乗り方は知らない。騎乗が王宮騎士団の最低限求められる能力だとしたら俺は応募資格すら無いということだ。
騎士団入りするためには乗馬の練習もしなければいけないな……。
突如、喝采が上がる。
その喝采は「おおおお」ではなく「うひょぉぉお」だった。
男たちが、とある選手の登場に文字通り"興奮"したようだった。なんだと思って、俺も観戦席の男たちの視線の矛先を眺める。
そこには、女戦士がいた。
女戦士の挑戦者はそれほど珍しくはない。他にも女性選手はいたし。
だが、そこに居たのはただの女戦士ではなかった。
女戦士は鎖帷子、一枚だけ着ている。
その中には何も着ていない。
おっぱいの部分だけ薄い晒しを巻き、二つの突起は隠しているものの、隠された面積は非常に狭い。それ以外の特大おっぱいは惜しげもなく鎖帷子越しに曝け出されていた。
他の装備は兜と腰当てと鉄篭手くらい。太ももやくびれ、脇などは褐色の瑞々しい肌を白昼のもとに曝け出しているのだ。鎖帷子越しのおっぱいが、全裸よりもエロさを際立たせている。
ロリカスタイルの女版か。
アレでは露出狂と揶揄されても仕方ない。
何故そんな装備でこの選抜戦に出場しているのか。
その理由は、もしかしたら彼女の人となりを知る一部の人間ならば何となく理解できたのかもしれない。例えば、あの鎖帷子ファッションこそが今王都内で最強の装備だと紹介されて買ってしまったとか。例えば、その最強のフレーズに弱い女戦士が王国内最強と称される王宮騎士団の幹部候補を目指していたとか。
すべての秘密は、この観客席側からは分からない。
反面、疑問に思う輩もいないのだろう。
観客たちからすれば、目の保養になればそれでいいのだ。
「アルバさん、何してんだ……」
俺もそんな彼女の人となりを知る一人だった。
冒険の中で露出も少しは控えられたかと思いきや、パワーアップして再登場。
すごい、すごいぞアルバさん。
しかも驚いたことにアルバさんが乗り込んだのは馬ではなかった。
金属板に棒が突き立てられ、そこからハンドルが伸びているだけの単純な構造の魔道具のようなもの。その魔道具の金属板は宙に浮きあがり、金属板を足場にして、立って乗るようだ。
……馬でなくても移動できれば何でもいいらしい。
審判の合図とともに彼女はハンドルを押し出した。
すると凄いスピードで金属板は宙を滑り、駆けていく。
「なんだあれ!?」
さっきの"空飛ぶ座椅子"も驚きだが、立ち乗りするあの魔道具も宙に浮かんでいる。しかも移動速度が速い。都会の魔道具は神秘でいっぱいだった。
アルバさんは片手だけハンドルから離し、腰のバスタードソードを取った。
向かい合う選手と、いざ交戦といった感じだ。
その表情は真剣そのもの。
迷宮都市から旅立ってからどれほどの実力になったのか、俺も興味がある。そして今まさに相手と剣戟を交わそうという刹那―――。
―――カキンと両者の剣が弾け合う。
その直後、アルバさんが乗り込んだ金属板は剣の衝撃によってバランスを崩し、機体をぐるぐると回転させて暴走した。
「な、なにぃぃいい!!」
アルバさんの悲鳴が上がる。
金属板が回転するのに合わせて、アルバさん自身もぐるぐると回っている。
「どんな衝撃にも耐えうる最強の機動兵器じゃないのかぁぁぁっ! ―――うっ」
そのまま壁に激突し、彼女は意識を失った。
観客席からも「おぉう……」という痛ましい悲鳴の声。
すると選手入場口の方から、またしても見覚えのある男が駆けだしてきた。
「おいおい! だからやめとけって言ったんだ、まったく……」
短い散切り頭で額には十字傷、マント姿の男――タウラスだった。アルバさんに駆けより、目を回す彼女を引き摺りながら下がっていく。
タウラスも相変わらず元気そうだった。
露出狂の天然彼女をもって苦労してそうだ。
「……タウラス、可哀想に」
迷宮都市を駆け回った懐かしき友が嘆かわしくなって、思わず溜息が出る。差し詰め、最強にこだわるアルバさんに付き合わされて、タウラス共々王都に来た、という所かな。二人とも王都に来てるってことは何処かで顔を見せる機会もあるだろうか。
よもやこんなところで再会するとは……。
「お兄さん、あの人たちと知り合いなの?」
「ん……あぁ、まぁ……」
「ははは。悪いけど、馬鹿みたいで笑えちゃった」
隣の観客に突然、声を掛けられた。
声の高さ的にまだ子どもだろうか。
あまりに突然だったので反射的に返事してしまった。俺は入場口へと下がっていく旧友の二人が気になって視線を闘技場の方へ向けたままだ。
まぁあの二人は夫婦漫才みたいなものだから笑われて当然だろう。
「王の隠し子ってのも勝手に騎士を決められて可哀想だよね。ボクだったらあんな間抜けな騎士は嫌だなぁ……」
「確かにな」
俺は二人が見えなくなったのを確認してから、饒舌に喋るその子の方に一瞥くれた。
ちらりと目を向けると、その視界に映ったのは鎖帷子頭巾服の少年だった。鎖帷子によって顔も覆われ、青く澄んだ目元と真っ白な前髪しか見えない。しかも頭巾だけじゃない。さっき入口付近にいた押し売り商人が売ってたつば広帽子を二つも重ねて被っていた。
「ってお前も鎖帷子!? 帽子の被り方もおかしくない!?」
間抜けだと言ってのけた少年自身も間抜けそのものだった。鎖帷子ってやっぱり流行ってるのか……?
でもアルバさんとこの少年以外に着ている人間は見たことない。
一体、どの層の流行を掴んでいるのだろうか。




