◆ 暗殺者Ⅴ
生まれついた境遇を不幸だと嘆き、諦める者がいる。
あるいは、その道しか知らず、ただ淡々と生きる者も。
農民は農民。貴族は貴族。暗殺者は暗殺者。
しかし、人生はそれがすべてではない。
抗い、道を逸らし、己を変える術はいくらでもある。
逆境を乗り越えることは誰にでも可能なのだ。
"初めての友"がそれを教え、"二番目の友"がそう導いてくれた。
俺自身も、こんな人格破綻した己を変えられるはずだ。
決意を固めたとき、ちょうどその日は訪れた。
帰郷の日に、俺は冒険者になることを長に伝えようと考えていた。
もちろんトーマも連れていく。
だが、その話をする前についに指令が下りたのだ。ルイス=エヴァンス家の嫡男ランスロット、そして当主ヴァンデロイ共々暗殺しろという命令だ。なんというタイミングだと思った。己を変えようと決心したときにそんな命令が下される。
……今更どうやってあの親子を殺せるのか。
これもまた俺に課せられた最後の試練として受け入れるしかないのだろうか。
長の家にて、指令を聞いたそのとき、俺は交換条件を提示することにした。
「老師、俺はこの仕事に三年もの時間を費やしました」
「だからどうしたのだ」
「……特別報奨を請いてもよろしいですか」
「なに、追加の報奨だと……?」
「はい。この集落をトーマとともに出ることをお許し戴きたい」
「……」
最後の試練を乗り越え、俺は集落を出る。
一つのけじめと捉えれば、乗り越える勇気も湧くというもの。長はしばらく黙ったままだったが、深く考え込んだ後に「いいだろう」と頷いてくれた。だが代わりにしっかり仕事を熟せと念を押してきた。
ルイス=エヴァンス家に向かう前、集落の長屋から顔を出したのはトーマだった。
「兄ちゃーんっ! 俺も次の仕事には連れてってくれよ」
もうトーマもすっかり大きくなってしまった。俺がルイス=エヴァンス家の養子となってからもう三年経った。弟も気づけば九歳となり、立派に暗殺業の仕事を多少は熟せるほど戦い方も学んだようだった。
「次に戻ってきたときは連れ出してやろう。自由な世界にな」
俺はそう言って弟の頭を撫でた。
このときばかりはアルフレッドの言葉を借りることにした。
このやりとりが最後になるとは思いもよらなかったが……。
○
あと一歩だ。後少しで俺はこの葛藤から解放される。役割を終え、マルクが目指した冒険者の世界をこの目で見よう。その中でトーマとの絆も深め、"家族"の形も理解できるに違いない。
ルイス=エヴァンス家には既に十分と言っていいほど取り入っている。
暗殺など雑作もない事だ。
「あっ、お兄ちゃんお帰り~」
ルイス=エヴァンス家の屋敷の玄関を通り過ぎたとき、たまたま通路を横切るランスロットに出迎えられた。彼もしばらく目を離した隙に随分大きくなった。子どもの成長とは早い。少し前まで自分がその年齢だったのかと思えぬほど幼く見えるのも不思議なものだ。
今、玄関周辺には誰もいない。俺がここで腿の仕込みナイフを取り、隙を見てランスロットを刺してしまえばそれにて暗殺対象の一件は無事に排除完了だ。
腕を腰に回し、ナイフを握る。
「そういえば僕もね、今度から魔法学校に―――」
一瞬で駆け、彼に肉迫する。
頸部を一斬りしてしまえばいい。ただそれだけの動作だ。これまでも何人もの人間を斬り殺してきた。簡単なことだ。暗殺とは死を美しく捧げる行為。ランスロットにも同じことをすればいいだけ。
――――……。
「わ………なに、どうしたの?」
出来ない。
俺はランスロットの脇を電光石火のごとく駆け抜けただけで終わってしまった。
「……虫が飛んでいてな」
「虫なら普通に捕まえてよ。怖いな~」
鈍っている。
否、今のは子どもだったから出来なかった。日頃魔法学校で同世代の人間と接するうちに鈍ってしまっただけだ。さらに出発前の弟と交わした会話がその影と重なった。ランスロットから抹消することは難しい。
父親ヴァンデロイの方ならば確実に仕留めてみせよう。
そうすれば勘も取戻し、ランスロットのことも殺せるはずだ。
…
ヴァンデロイのことは寝込みを襲うことにした。
日中や夜間ではまだ使用人も大勢起きていて、不審な動きを取りづらい。家人が寝静まった深夜に狙えば、容易に暗殺することができるだろう。そして父親を殺した手で、そのまま息子の方も―――。
俺はヴァンデロイの寝室に辿り着いた。
音もなく忍び込み、月明かりが影を照らした。
窓際のカーテンが揺れている。
俺は片手にダガーナイフを握りしめ、ベッドサイドまで近寄った。
ヴァンデロイは完全に眠っている。あとはこのナイフを喉元に突き刺し、口元を押さえつけてやれば悲鳴をあげることもできずに絶命するだろう。
簡単な仕事だ。
ひと息のうちに振り下ろすのみ。
―――――………。
思い出すのは三年の日々だ。
ヴァンデロイは感情の薄い俺を見て屈託なく笑った。もっと素直でいていいと諭した。ランスロットの教育を頼まれたときも、養子縁組の話を持ちかけたときも、最大限俺に親しみを込めて接してくれた。
この男には、恩義がある……。
だめだ。
今まで当然のように振り翳してきた刃が、今では少しも動かすことはできない。
これは何かの呪いだろうか。
「……トリスタンかい?」
「……っ!」
見られた。
見られてしまった。
絶対に犯してはいけない致命的なミスだ。
ヴァンデロイは寝ぼけ眼だったが、俺が刃を振り上げているのを視界に納めるや否や、目を丸くさせて小さく悲鳴をあげた。
俺はどうしてもこの男を殺すことができない。
後方へと跳ねるように逃げ、部屋から一目散に逃げ出してしまった。
「待ってくれっ、トリスタン!」
静止の呼びかけにも応じず、俺は駆け出し、その足で屋敷からも飛び出した。
もう俺にはこの家にいる資格などない。
大失敗だ。
これまで三年間積み重ねてきたものは一体なんだったのか。
否、積み重ねてきたものがあったからこそ、失敗してしまったようだ。
皮肉だ。当初、こんな間の抜けた貴族ならば着実に仕留められるだろうと予見していた。だが、俺はルイス=エヴァンス気のまっすぐな温情に触れ、いつしかこれを壊したくなくなっていた。心の底から守りたいと思うようになっていたのだ。
歪みきった暗殺業の世界とは、この一家は無縁であるべきだ。
俺のような狂った男に壊される道理はない。
この一家は壊したくない。むしろ、守りたい。
―――そう考えたとき、俺は胸に取っかかる何かの正体に気づいた。
そうか、これが家族か。
理屈など必要がない。
守るべきものがそこにあり、かけがえのないと思える存在。トーマもそうだった。理に適うものなどないが、マルクが遺したあの子を、俺は守っていきたいと決意した。
狂っている世界はあちらの方だった。
トーマも、ルイス=エヴァンス家も、あれらはもう俺の家族だ。
俺を人足らしめる、かけがえのない存在に成り代わっていた。
どちらもマルクが遺した大切なもの。
それを殺すことなどできようものか。
○
どちらも守りたいというのなら捨てるべきは故郷だった。
暗殺者集落を裏切り、トーマとともに逃げ果せる。
ルイス=エヴァンス家には事の顛末について手紙でも送り、俺の正体やメルペック教会の狙いもすべて伝えよう。あの間抜けな家族でもさすがに警戒して最善を尽くしてくれるだろう。
―――となれば、早くトーマを連れ出さなければ。
俺はルイス=エヴァンス家から飛び出したその足で町まで下り、貸し馬業者から馬を借りた。そして馬でかけ、山間奥地の集落へと急いで戻ることにした。
山林を駆け、かろうじて馬車一台通れる程度の獣道を通り過ぎる。
針葉樹の数々を通り過ぎている最中、何かの異変に気がついた。
「……?」
何人かが張っている。
集落に辿り着くためのこの獣道には見張りを立てるのだが、顔見知りが通っても、特に気配を漂わせることはない。隠密の姿勢で気配を消しているからだ。
だが、感じたのは二、三人の気配。
俺に向けられた明確な殺意だった。
直後、飛来したのは吹き矢の数々。
その吹き矢を馬から飛び降りながら切り捨てた。両腿に各一本ずつ仕込みナイフを忍ばせていたため、その二本を両手で掴み、前宙返りしながら叩き落す。
特に馬にも被弾することなく、音に驚いて馬は逃げ出した。
姿勢を低く保ち、心眼に敵の姿を写し取る。
木々に隠れて黒い影が三つ。
俺は木の上に待機する一体にナイフを投擲して討ち落とした。
落下した敵影に走り寄り、何者かと確認する。
投げたナイフが額に的中して突き刺さり、既に絶命していた。
……予想はしていたが、同胞だった。おそらく他二体の敵も。
死んだ同胞から、腰の長刀を引き抜いて拝借した。
それと同時に背後から殺気。
心眼持ちに殺気を振りまくとは、未熟者にもほどがある。
振り返り様に長刀を一閃してその攻撃に応戦した。相手の長刀と俺の長刀がぶつかり、一瞬動きが止まる。やはり同胞だ。集落の刺客が俺を襲っている。
拮抗し合う刀を手放した。
力任せに刀を押していた敵はよろめき、前のめりの姿勢となったところ、頚にダガーナイフを突き刺した。引き抜くと同時に鮮血が吹き出る。俺は素早くたった今殺した同胞の装備から刀剣や投擲刀など奪い取り、最後の一体の攻撃に備えた。
だが既に気配はない。
同胞二人がやられたのを見て、集落に知らせに行ったのだろう。
つまり、そういうことか。
俺は処分されるようだ……。
最後の暗殺さえも未遂に終わったのだからそれは察しがつく。しかし、なぜ俺の失敗が既に伝わっている。あまりに早すぎないだろうか。
そう思って周囲を見渡したとき、黒い鳥が突然頭上から落下してきて地面に落ちると同時に霧散した。黒い魔力の結晶で作られた鳥……?
これで監視されていたということか。
最近の集落のやり方は徹底している。
その徹底ぶりに嫌な予感が奔った。
早くトーマを連れ出そう。
俺より先に集落が俺を見限ったのなら都合がいい。
さっさと縁を切り、ここから逃げなければ。
◆
長屋に辿り着いたとき、世界は一変した。
俺はこのとき十三歳だった。
簡単に心が壊れるほど未熟な歳だったのだと自覚した。
そして壊れるほどの心が俺にも醸成されていたんだということも……。
もし仕事道具として生きていれば、その光景を見ても、あぁそうかと思うだけだったはずだ。そうすれば鮮明にこの時のことを語り明かせたのかもしれない。
しかし申し訳ないが、あまり覚えていない。
結果だけ言おう。
この日、トーマは死んだ。
そして暗殺者集落も壊滅した。
覚えているのは、グレイスの呼び止める声と俺が抱きかかえた長の生首だけだ。
服も長刀もすべて血に染まって、夜道が寒かった。
◆
錯乱する頭のまま、長の生首はルイス=エヴァンス家の門の鉄柵に突き刺し、その下に手紙を括り付けた。手紙には「若君を襲いし怪士、ここに潰えり。育てし騎士も刺し違えたり」と。
あとは、この身とともに"呪い"を消し去ろう。
暗殺業などと云う狂った世界がこんな狂人を作り出した。
かけがえのない兄弟も守れず、同胞もすべて消し散らした。
俺はついに何者にも成れなかったのだ。
《暗殺の心得》も軽んじて、殺戮に転じて狂気を撒き散らす始末。
育ての養父にも刃を向け、騎士にも成り得ず……。
元々、そういう"道具"だった。
付きまとう死の呪いは俺で終わりにせねばならない。
―――さぁ、誰か俺を祓ってくれ。
○
どれだけ時間が経ったことか。
それよりも俺はまだ生きていたのか。
誰かが近づき、俺自身も蹲っていたのだと気づいた。
「しばらく見ねぇと思ったら、こんなところにいやがったか」
「………」
「うっわ、臭ぇな。体洗ってねーのかよ」
「………」
「どうした? お前にはこれから俺の右腕として―――」
「………」
「おい、トリスタン!!」
「…………?」
無理やり体を引っぺがされ、背を壁に打ちつけた。
俺はバーウィッチにまで流れついていたようだ。レンガ造りの貨物倉庫の影に身を埋めていたところをどうやらこの男―――アルフレッドが発見してくれた。
髪も服も、心眼に写し取る魔力の色も、すべてが赤い男。
「なんだよ、その赤い汚れは……!」
赤いのは俺も同じなようだ。
呪われた血だ。
「……というか、"家族"から捜索願いが出てるみてーだぜ?」
「……か……ぞく……」
どこの誰かと考えてみて、ルイス=エヴァンス家なのだと思い出した。
どうやらアルフレッド曰く、俺が集落を壊滅させた日から一ヶ月ほど経過しているらしい。ルイス=エヴァンス家もどうやらあの手紙を読んでくれたということだ。俺がやったとバレているのだろう。
家族か。
俺にはそんな資格はない。ましてやこんな呪いの塊からはあの一家は遠ざけなければならない。守ろうとした者が次から次へと消えていくこんな存在なのだから。
「……フレッド……俺は………ただの殺人鬼だ」
「はぁ?」
「だからな……探し当てた代償に、お前も殺すかもしれん」
「……へぇー」
「怖ろしいのなら放っておけ。……俺はもうこのまま消え去りたい」
「………」
アルフレッドはつまらなさそうな顔で俺を見やると、ため息を一つついてから、乱暴に俺の胸倉を掴んで持ち上げた。そして怒声を浴びせてくる。
「黙れ、このクズ野郎が!!」
「なっ………」
「俺が、お前に勝ったんだ! 自由の騎士を目指すこの俺が、殺人鬼を名乗るお前にな! お前は強えけど、クズみてえに弱え! そんなクズに命令される筋合いなんかねぇ! いいから俺と進め! 最強の道をな!」
「………」
俺はアルフレッドという男を見くびっていた。
この男は本当の強さが何たるかをこの時には識っていたようだ。
友や弟の死を乗り越える強さを、俺も手に入れたい。
◆
トリスタン・ルイス=エヴァンスは死んだ。
貴族の間では一時的にその名は話題になったが、少し経てば存在すら忘れ去られていた。俺はもうルイス・エヴァンス家とは関わらない。アルフレッドの協力のもと、死んだことにしてもらった。そして魔法学校は途中棄権し、冒険者の道を歩み始めた。ラウダ大陸では活動しにくいため、一足先にリバーダ大陸へと移り、アザリーグラードにて冒険者稼業に就いた。
三年が経ってようやく他四人と合流し、新しい自分と出会ったのが十六の時。
十六歳。
『シュヴァリエ・ド・リベルタ』が結成した。
アルフレッド率いる冒険者パーティーだ。
"お前"と初めて会ったのは、それから五年が経った頃だったか。
色々とリベルタの冒険譚については聞いているだろうが、アザリーグラードでは十分名を馳せた。本国へと戻り、拠点となる家を買おうという時のことだ。
その直後にお前と出会った。
俺はリンジーが連れてきた新メンバーが十歳と知ったときには反対しようかと思っていたんだ。子どもの面倒を見る事自体、トラウマがあったからな。
俺は試しに、心眼の能力でお前を写し取った。
―――お前からは、何の一つも感じ取れなかった。
見かけでは子どもらしく振舞おうとしていたようだが、俺の心眼の前ではそんなものはお見通しだ。お前は何も無い空っぽの少年だった。
俺と同じだと気がついたんだ。
マルクやトーマのような無垢な子どもとは違う。何かを背負い、何かを機に捨てられた"道具"なのだと……。
もしかしたら、この空っぽの少年を守りきることが俺の贖罪になるのではとそのとき悟った。どんな境遇にあっても、抗おうと思えば道を変えられると教えてやりたかったんだ。
……その実、教えられたのは俺の方だったようだがな。
俺はアルフレッドの言う通り、弱い男だ。
心が未熟であるが故に、絶望の淵に立たされれば、正気を失ってしまう。
同胞のグレイスも同じだ。『光の雫演奏楽団』 『楽園シアンズ』とは彼女が求めた最後の依り代だったのだろう。それはお前の眼から見れば狂気に映ったかもしれないが、俺には追及する資格はない。彼女を狂わせたきっかけは、語り明かした通り、この俺にあったのだから。
それに何より、俺は彼女には感謝している……。
楽園シアンズで捕らえられた俺は、往年築き上げた心を彼女に呆気なく蝕まれた。ポイズン・キャプティブという調教の闇魔法だ。
それはある種の"癒し"だった。何も考えず、ただひたすら使役され続ける生活はかつて過ごした暗殺者集落での在り方とまったく同じ。心を持たず、操り人形として生きていくのは唯々、楽なんだ。
俺はそんな快楽に浸り、このまま堕ちてしまえばいいと思った。
かつての暗殺者に戻ってしまえと、大切な友の娘にまで手を下そうとした。
恥ずかしながら、それも返り討ちに終わってしまったが……。
あの子――リナリーが一心不乱に斬りかかってきたとき、俺自身の弱さを思い知らされたものだ。
それに比べ、絶望の中でも立ち直れる"お前"という男は―――。
「ジャック……」
「………ん?」
過去の告白を終え、その名を呼んだ。屋根の上で二人並んで座り、庭園で整えられるパーティーの準備を俯瞰する。
「すまない……もう名前を変えるんだったか」
「まぁいくつも名前があっても分かりにくいしね。でもジャックでいいよ」
次回からは新しい名前で呼ぶように気をつけよう。
「……俺はこんなザマだが、お前は挫けはしなかった。女神や先祖の妄執を最後には打ち砕いたんだ。成功も知り、失敗も知り……そんな中でも不屈の精神を貫ける者こそ英雄と呼ばれるに相応しい。俺もお前を英雄と認めよう」
「またまた……やめてくれよ。俺は俺。トリスタンはトリスタンだ」
あっさり追い抜かれてしまった愛弟子だ。
あっけらかんとして言う言葉にも、どこか深みがあった。
実際にその通りだ。
俺はもう何者でもいい。マルクがくれた心とともに、アルフレッドがくれた仲間とともに、そしてグレイスがくれた最後の任務とともに、自分自身を生きていけばいい。
「おーい、主役がそんなとこでコソコソしてんじゃねぇよ! もう準備も終わるぞ!」
直下の庭園から呼びかけるのは丸くなったアルフレッドの声だ。
あいつもなかなか良い父親になったものだ。
「わかったー! ……トリスタンは、これからどうするの?」
「俺はこの屋敷の警衛としてお前の家族を守っていく。アリサのこともあるからな」
「それは頼もしい! じゃあ、トリスタンもうちの家族だ。早く下に降りようよ」
立ち上がった彼に手を差し出される。
俺はその手を握り返してあらためて思い至った。
やはりこの弟子を破門にして正解だった。
こうして対等な立場で、こんな俺を受け入れてくれるのだから。
もう己を見失いはしまい。
俺は俺のまま、この家族を守り続けよう。
(「◆ 暗殺者」終)




