Episode111 空中戦Ⅱ
上空では風が吹きつけた。
今日はとくに天気が悪い。
私の場合、気流を操作することで身体を持ち上げて空を飛ぶのですが、気象が荒いとうまくそれが操作できなくなってしまいます。そんな不調も今は気にも留めず、苛々が募って仕方がないです。
空を翔け、より高みへと舞い上がる。
屋敷の庭園がどんどん小さくなり、バーウィッチの街の全域が見渡せるほどまで高く飛んだ。
「お待ちなさいなっ! 今更逃げようとしても無駄ですわよ」
後ろでは聖堂騎士団のパウラさんが翼を羽ばたかせて追いかけてくる。
私の不安定な飛行とは雲泥の差だ。生来の能力として飛翔できる人と、最近手に入れた能力で飛翔する私とでは決定的に慣れに差がある。
空中戦では分が悪いかもしれません……。
背後に一瞥くれると、パウラさんは鋭い眼光でこちらを見定めている。
黄金の髪の房が風圧で翼以上にばたついていた。
そして胴囲に纏う《魔陣武装》―――魔法陣を自身に纏い、無詠唱にて上位の魔法を放つ先進的な魔術らしい。パウラさんは彩り鮮やかな虹色の魔法陣を使っている。すなわち、あれは様々な属性の魔法を網羅している証だ。
「逃げる敵影にはこれですわ――――出でよ、インテンス・レイっ!」
空を高速で翔けながら、魔陣武装が一際輝きだす。
それと同時に魔法陣から無数の光球が射出された。数えるに六つの白い魔力弾が乱雑に迫ってきている。一つ一つの球が意思を持って私に襲おうとしているかのようだ。
―――光属性上級魔法"インテンス・レイ"。
頭痛が襲う。
とあるお祭りのバトルトーナメント。
あの球に襲われたその"彼"は舞うように回避してみせた。
避けても避けても軌道を変えて襲い来る無数の魔法を物ともせず。
その素早い動きから観客を魅了して、付いた二つ名が―――。
付いた二つ名が―――。
だめです、思い出せません。
でも確かに記憶には残っている。
その記憶が私に勇気を与えてくれるような気がした。
"彼"は射ち落した。あの無数の魔力弾の数々でさえ。
私はインテンス・レイを迎え撃つため、一旦空中で動きを止めた。
ロングボウを構える。
弓矢の装填は三本同時に。
「散弾銃……!」
発射した。
風を切り裂いて鏑矢のような音が鳴る。
そのうちの二射が、六つの弾のうち二つを射落とした。
私はその撃ち放った反動で、下降へと落ちていきました。
ちょうどいいので少し高度を下げることにします。少し高く飛び過ぎました。上空は風も強くて不安定ですから。それに、自由落下した方がインテンス・レイから逃げやすいでしょう。
上昇から急転直下へ。
下から追いかけていたパウラさんの、さらに下空へと逃げ込んだ。
身体を重力に委ねながら、空を仰ぎ見て狙いを定める。
四つの光の魔力弾は真っ直ぐ私めがけて襲いかかってきます。
それを一つ一つ、冷静に撃ち落としました。
「あら、なかなか弓術には長けてますわね。でもそんな旧時代の攻撃……何の意味もなくてよ!」
威勢を張るパウラさん。
黒い翼を大きく広げている。
あの翼さえ矢で貫けば、おそらくもう飛べはしまい。
狙うはあの翼ですか。
パウラさんは胴囲に纏った魔法陣を拡張させ、さらに大きな円環を描いた。角度を変え、正円形がこちらに顔を向ける。円環がパウラさんの前面へ。彼女は手の平でその円環を押すような動作を取った。
そしてその表面に赤い膜が張り巡らされた。赤い膜は濃度が徐々に濃くなり、魔力が凝集しているのを感じました。何かあの環の中から放射されようとしています。
―――それは、空に浮かぶ赤い月に見えた。
「焼き尽くしなさい、ヒート・アンビエントっ!」
「………!」
赤い膜が強く輝く。
そこから赤い熱光線が円柱状に放たれました。轟音が鳴り響き、空気が振動する。私は咄嗟に自由落下をやめて、空を翔け回って回避を取りました。
突然の方向転換で風圧に堪えかねる。
あれは炎というより、熱波の塊のようなものでしょうか。
確かに、私のような逃げ回る標的には、あの手の範囲攻撃で一斉に焼き払ってしまった方が効率が良い。そう判断しての魔法だったのだろう。
ヒート・アンビエントは破壊力を見る限り、火属性の上級魔法の一種と思われる。それにしても、あの人は何回魔法を放てば魔力切れになるのでしょうか。魔法陣を使っているとはいえ、発動させる度に魔力を消耗してるはずです。
既に中級魔法二回に、上級魔法も二回。
常人であればとっくに魔力切れを起こし、意識を失っていても不思議ではない。
"聖堂騎士団第二位階"というのは伊達ではないようだ。
むしろ空を飛ぶだけで魔力を消費するこちらの方が先に魔力を枯らしてしまいそうだ。
「甘い甘い甘い甘いっ―――ですわっ! 私の高位魔法にひれ伏しなさい!」
しかし当の本人は魔力枯渇の気配すらなく、さらに私を斃そうと派手な魔法を披露し続ける。熱波を放ち続けるうちに自分自身もヒートアップしてしまってるようだ。パウラさんは魔法陣の角度を変えて、下空で飛び回る私を追い回している。
……"聖騎士"とは名ばかりの魔法使いの方でしたか。
それなら戦い方も変えましょう。
遠距離型の派手な魔法を使ってるうちは手元が見えなくなりがちですし。ぎりぎりまで近づいてショットフリンテをお見舞いして翼を刈る、というのはどうでしょう。
灯台下暗しというやつです。
騙し討ちのようで気が引けますが、風を纏わせて姿を晦ますこととしましょう。
赤い熱光線が送り続けられる。
その隙を突き、私はひっそりと《空圧制御》を使い、体に風を纏った。それは先祖が残した古代エルフの"不可視化"の能力。これでおそらく私の姿は視界から消えているはずです。今のうちに背後に回り、後ろから不可視の矢を射ちに行きます。
気配を察知されないよう、なるべく遠くまで離れて上空へと飛翔する。
パウラさんと同じ高度まで辿り着いてから、ゆっくり彼女のもとへと近づきます。パウラさんは魔法を放つことに夢中になっていて私が後ろから近づいていることに気づいていない様子。
ゆっくり、ゆっくり……。
気流の乱れで私の気配を感じさせてしまわないように。
十分に近づいたところで、息を殺して弓矢を構える。
私は今、《空圧制御》をフル稼働させていち魔力消費が大きい。
早いところ片付けて皆さんと合流しなければ、魔力も枯渇してしまう――――。
「ふふふふふふふっ!! 焼けなさいっ! エルフは熱射に弱いそうですわねっ! 後でこんがり焼けた長耳でも食べて差し上げましょう! おーっほっほっほっ!」
どうやら私が真後ろにいることには気づいていないようです。
悪趣味なことを言う人ですね。
では、射落とした翼で羽毛布団でも作ってあげましょうか。
弓矢を接射態勢で構える。
矢筋を通して、黒い片翼の付け根に狙いを定める。
矢筈と弓弦を同時に離そうとしたその刹那―――。
「お馬鹿さんですわね」
「……!?」
パウラさんが少しだけ振り向き、私を見た。
不可視の状態を維持しているはずなのに。
「スパーク・ランスっ!」
さらに魔陣武装から続けて放たれたのは一筋の雷撃だった。鋭利な雷魔法が私の胸元に伸びる。それを咄嗟に腕で防いだものの、雷撃は私の手の甲を串刺しにした。
「きゃあっ!」
左手の甲が貫かれ、腕も弾き飛ばされる。
――引っ張られるように、体も後ろへ弾き飛ばされた。
びりびりと左腕が痺れ、その拍子に弓も落としてしまう。
手から血が垂れ落ち、じわりと鈍痛が伝わってきます。これでは背中のショートボウに持ち替えたところで、弓もまともに握れません。痛みのあまりに集中力が切れて、空を飛ぶことも難しいです。
踏ん張らなければ、という意識とは裏腹に私は墜ちていった。
「………っ」
「そこですわっ!」
墜ちていく私に無慈悲にも魔法陣が向けられた。
その円環には赤い膜が張っている。
炎属性の上級魔法ヒート・アンビエント。
熱光線が赤く閃き、放射された。
「魔力探知さえ出来ればそんなまやかし、丸見えでございますっ!」
そうですか、魔力探知ですか。
そんな能力を持ってる人もいるそうですね。なんでも、魔法の発生源を辿る力だとか。目で見えなくてもその魔力が探知できれば、私が近づいていることも分かっていたのでしょう。なかなか策士ですね。
私は敢えて風の力を上方向に放出し、落下速度を加速させました。アレを避けるにはそれしか方法が思いつきません。
……しかし、それも無駄な足掻きに終わった。熱波はすぐに接近して、最後には私に直射する。露出した肌がじわりと焼け爛れるのを感じます。
熱いっ……!
「ぐ―――っ!」
壮絶な熱を浴び、吹き飛ばされる身体。
上下左右が反転する。
地面に向けて真っ逆さまに墜落した。
思っていた以上にダメージは大きいようです。指先に力が入らないし、弓も射れなければ、集中して空を飛ぶこともできない。墜ちゆく風圧に堪えかねて意識を失いかける。
でもここで意識を失ってしまったら……。
もしかしたら次に目を覚ました時、私は完全に"彼"のことを忘れてしまっているかもしれない。
それだけはあってはならない。
私には……私にはもう"彼"しかいないのだから。
豪華なお洋服も、広いお家もありません。
胸も……正直に言うと、ないです。
でもそんな何もない私でも……。
"―――シアのことが好きだからこうしてる"
抱き締めてくれたあの人は、私の中でいつまでも英雄だ。悲しいとき、押しつぶされそうになったとき、何度も支えてもらった人です。
今度は私が助ける番だ。
だからこうしてここまで来た。
「………っ!」
力を振り絞って気流を操作する。
差し迫る地面。どうやらバーウィッチの町外れの草原に落下している。滑空している間にオルドリッジの屋敷から少し離れてしまったようだ。
地面に緩衝材を作りだすイメージ。
そこにお尻から転がるように着陸した。足裏が無事に地面に着いて、地滑りしながら地上に戻ってこれた。
これまで着地の練習をしておいて良かったです。
「……はぁ……はぁ……」
危うく転落死するところでした。
左手からは血が滴り落ちている。止血しようと押さえつけた。もうあまり魔力も残っていないので治癒魔法も使えません。
よく見ると腕も足も、火傷で酷い有様だ。
これは跡が残ってしまうかも。
「おーっほっほっほっ! いかがでございましょう? 私を侮辱した罪、直にその身を以て感じて頂けてますか?」
空高くから甲高い声。耳に障る声だ。くだらない自尊心に付き合っている暇はもうない。
私は本当に"最後の切り札"に頼るしかないと考えた。それは彼が遺した贈り物だ。背中にまだちゃんと括りつけられていることを確認して、その日傘を引き抜いた。
多機能傘ヒガサ・ボルガ―――迷宮都市の日々で、照りつける日光を心配した彼からの贈り物。出陣前にグノーメ様に改造してもらい、今は《ヒガサ・ボルガ弐式》としてここにある。
「さぁさぁ、今この場で命乞いをしたら許して差し上げましてよ?」
パウラさんは優雅に翼を広げて舞い降りてきた。
それにしてもよく喋る鳥だ―――私の有態の姿を見て、勝利を確信しているようにも見えます。私のことを脅すように、魔陣武装の砲口もこちらへと向けていた。
私はその質問に無言で応えた。
「………」
「あら、何も喋らないのですわね。最後まで虚勢を張るつもりかしら。それとも恐ろしさのあまりに声も出ないのかしら。……いずれにせよ、謝罪がない限りは私も容赦するつもりはございませんので」
ヒガサ・ボルガ弐式の取っ手を掴み、それを剣士さながら前に構えた。
「血迷っておられますわねぇ。そんなボロ傘一つで私に対抗できるとでも思いまして? 憐れな生娘でございますわ。貧相すぎて見るに耐え兼ねます。私が今、楽にして差し上げます。ご安心くださいませ。苦しませるような真似は致しませんので」
眩む意識で、何を言っているか聞き取れない。
早口な口調が頭に響いて鬱陶しい。
「………」
「静かに散るのもまた優雅ですわ。では、ごめんあそばせ―――ヒート・アンビエントっ!」
パウラさんは止めの一撃を放った。
ここは地上だ。
砲口から熱光線が放たれた場合、先ほどのように下へ逃げることは出来ない。まともに喰らえば、私の身体は焼灼されて灰と化すことでしょう。
魔陣武装に赤い魔力が輝き始める。
私はよろめきながらヒガサ・ボルガ弐式を持ち上げた。
あれは太陽のようなもの。
その赤い太陽が、私に容赦なく牙を向ける―――。
『――――シア、これは日傘だ』
グノーメ様が施してくれたヒガサ・ボルガの改造は一つだけだった。
出陣前に説明された内容を思い出す。
『既に日傘ではないと思います』
『いいや、あたしが傘に戻した。これは武器にはなりきれねぇ』
『どういうことですか?』
『傘ってのは所詮は防具だ。風雨や日光を遮断する、人類が開発した対自然用の防具。だからこれも、そういう改造が一番適してると思ってな』
傘とは持ち手を守る防具。
いくらレールガン、ブースターといった殺傷能力を付加させた所で結局は傘の構造をしている。それは剣が剣であるように、弓が弓であるように。傘も傘らしく使うのが一番優れているという事だ。
―――赤い熱光線が放出された。
と同時に、私はヒガサ・ボルガ弐式を上に向けて開く。
ただ単純に日傘を差し、そして自分の身体を守るだけ。
キィィィィイン、という閃きの音が鳴り響く。
ヒガサ・ボルガ弐式の表面に張られた"退魔の力"が、火属性の魔法を打ち消した。
グノーメ様が作り出す魔道具のうち《退魔シールド》という盾が存在します。それは鉄の盾に迷宮都市産の魔石を大量に塗り、すべての属性の魔法を付加させることで完成される魔法無効化の盾でした。
同じ原理でヒガサ・ボルガにも同様の効果が付与された。
それがヒガサ・ボルガ弐式。
贈り物の日傘が、"太陽光"から私を守ってくれる。
「な、なななっ、なんでございますか、それっ!」
「………日傘です、多分」
パウラさんは、止めの一撃として放った魔法が意図も容易く防がれて狼狽している。
私はその隙を突いて、レールガン発射のスイッチを押した。
狙うは顔面。轟音とともに稲妻が駆け巡り、先端から電磁加速された弾丸を射出する。稲妻が尾を引いて砲撃の軌道を描く。
この兵器は反動が大きい。
左手の甲の傷に少し響いた。
「ひぃ――――!」
しかし、どうやら外してしまったようです。
パウラさんの頬を掠めて稲妻が掻き消えた。
その頬に一筋の血が垂れる。
「……ま、またおかしなもので私を侮辱するのですね……っ! あぁぁあっ、もう訳が分からないだけに、とっても苛々いたしますわぁ!!」
それがこの人の逆鱗に触れてしまったみたいです。
パウラさんは困惑と憤りの中、虹の魔力を体外へ放出し始めた。その魔力がパウラさんの周囲に帯状に広がり、魔陣武装がいくつも重ねられる。
出来上がったのは三つの魔法陣。
「よろしいですわっ! そんな魔道具ごときで防げるものなら防いでみなさいな。私も持てる魔力を最大放出して、破壊してあげましょう!」
「くっ………」
胸囲、胴囲、腰囲にそれぞれ纏った三つの魔陣武装が、その円環を拡げて左右の肩にそれぞれ一つずつ、そして頭の上に一つ展開した。
なるほど、確かに武装の名に相応しい。
虹色の魔法陣三つが、黒い翼を持つ人の周囲に浮かび上がる様子は幻想的にも映りました。
見惚れている場合ではないですね。
「魔の紋章を宿し教典へ、魔力を捧げます………一斉射撃、参りますわっ!」
彼女の号令とともに、三つの魔法陣から出現する数多の魔力弾。
それが一斉にこちらへ放たれた。喚び出された魔法には火、氷、雷、光や闇といった五属性が存在していた。目で一つ一つ確認している暇はないですが、その中には中級や上級に位置づけられる魔法も山ほどあるようです。
私はヒガサ・ボルガを盾にして、その攻撃に耐え続ける。
降りしきるは魔力を宿した無数の雨霰。
傘であるこの魔法兵器で防ぐには適している……はず……。
しかし、魔力弾が被弾する度にヒガサ・ボルガは悲鳴をあげるように不穏な音を奏でていた。このままではせっかくの贈り物も駄目にしてしまいます。
「……んっ……!」
「ふんっ、猪口才ですわねぇ! そこまでして戦う理由など何処にあるというのですかっ」
「戦う理由………」
そんなものは一つしかありません。
大切な人を助けに来ました。ただそれだけで十分です。
思い出すのはその背中だ。
いつだって"彼"は一歩前に立っていた。理想を追い求める"彼"は皆に背中しか見せてこなかった。地下の大迷宮でだって、この土地でだって。
今もこうして"彼"が残した贈り物が、私を守ってくれている。
「私は………ただ、あの人の背中を………!」
ただ、真っ直ぐに追いかけた。今にも消えそうなその実像が虚像になってしまわないように。
オルドリッジの屋敷に来た全員がそう思っている。
みんな早く戻ってきて欲しいのだ。
返してください……"彼"を………。
私たちの英雄を―――。
「―――返して……! 私たちの英雄を!!」
最後の力を振り絞り、私は《空圧制御》を使って体を浮かせることにした。振り注ぐ魔力弾の数々に圧し負けないように、空へと徐ろに飛び上がる。
くだらない自尊心に私の想いが負けるわけがない。
さらに高く、さらに前へと押し進む。
被弾の音が不協和音となって耳に劈いた。
「ど、どこにそんな力が残っておりますのっ」
対峙する彼女も魔陣武装から放つ魔法の数を増やす。
でも、ここまで来たら後は押し込むだけ。私はヒガサ・ボルガ弐式のブースターのスイッチを押して、さらに勢いをつけた。
ある一線を越えた時、抵抗がなくなって勢いよく飛翔した。
そのまま、彼女の懐に飛び込む。
「ひっ……!」
急接近して魔陣武装の死角に入ったのを確認し、私はレールガンを撃ち込んだ。
静かになった空に、一つの轟音が鳴り響く。魔力弾と盾の競り合いが終わり、音がしなくなったようです。
――無音の中空に、黒い片翼が舞い落ちる。
「……ぐっ……う………」
パウラさんの右の翼がもぎ取られた。
事切れたように、そのまま地上へと墜ちていく。
どさっという音とともに墜落したようだ
どうやら終わったようです。
魔力の大半を使い果たしてしまった。
私は日傘の力を借りて地上へと降り立った。
日傘を杖にして体を支え、片翼の女性に近づく。
万能ですね、ヒガサ・ボルガ。
「はぁ……はぁ……」
近くで顔を覗き込み、呼吸や鼓動を確認した。
良かった。
殺してはいない。
草原で仰向けに倒れ、気を失っているだけでした。
―――しかし今はこの人を恨んでいる余裕なんてない。
事後処理は後回しにして、早くオルドリッジの屋敷に戻らなければ……。
空中戦で随分と郊外まで来てしまったようです。
震える体に鞭打って、私はふらふらと空を飛び上がった。リベルタの方々に合流さえできれば、この傷だらけの体も回復してもらえるでしょう。
治療師のカレン先生もいらっしゃることですし。
それにしても、この腕や足についた傷痕は残るんでしょうか。
嫁入り前だと言うのにまた不安要素が出来てしまったような気がします。
やっぱり許しません、パウラさん……。
聖騎士キラー/シア・ランドール
今のところ聖堂騎士団の連中はだいたい彼女が倒してます。
※ちなみに今回のシアの台詞と、「Episode109」のリナリーの台詞は「Intermission1 ハイランダー」にて主人公の意志を改めさせる言葉として登場しています。
次回更新は来週の土日(2015/12/5~6)です。
ようやく主人公復活します。




