Episode88 魔法学校の七不思議Ⅱ
怯えるパトリックくんを仲間に加え、残り6つの七不思議を検証していくことになった。パトリックくんは寮生のようで、帰りの心配はなさそうだ。
まさか七不思議の一つ目が、俺が原因で作られた噂だったなんてな。
しかしそうなると、あとの6つも嫌な予感しかしない。
まぁ元から検証するのが目的だし、さくさくやっていこう!
七不思議を書き記したメモ書きの紙を広げてみる。
残すところ、こんな感じだ。
=【バーウィッチ魔法学校の七不思議】=====
〆《1》第3校舎の男子トイレですすり泣く少年の幽霊
正体はトイレに篭って泣きじゃくるパトリックくん。
俺のせいで魔法学校でやっていけるか自信喪失していただけ。
《2》実習棟地下の開かずの間
開かずの間から夜な夜な聞こえてくる魔物の呻き声。
《3》修練棟に漂う赤い人魂
改修工事中で人気のない修練棟に、人食いの赤い人魂が漂う。
目撃者の魂を食べてしまう。
《4》第1校舎の入口ホールに置かれた、独りでに鳴りるピアノ。
失恋を苦に自殺した女教師が、ピアノで悲愴感漂う演奏を奏でる。
《5》校庭の雑木林で繰り広げられる呪いの儀式
雑木林で呪いの儀式を行う男。
朝には木の幹に儀式の痕跡が残っている。
《6》真夜中の図書館に現れる黒い幽霊
図書館の2階の書庫の奥に厳重な金庫がある。
その金庫を暴こうとすると、黒い幽霊が出てきて殺される。
《7》神隠し
他6つの秘密を知った人間は神隠しに遭う。
=======================
改めて見返しても、心当たりのある事がいくつかある……。
もしかして一番目と同じように……。
いや、あくまで検証。
俺は仕切り直しとばかりに頭を振った
上から順番に検証していきますか。
○
《2》実習棟地下の開かずの間
実習棟がどこにあるかはリナリーもパトリックくんも把握していた。
だが、まだ新入生である彼らはどんな棟なのか知らない。
俺たちはとりあえずその棟に辿りつき、廊下を探索することにした。
地下ってことは、1階だけ探索すればそのうち見つかるだろう。
―――と気楽に考えていた自分自身を反省した。
地下なんてない。
階段は見つかった。
でも2階へ続く階段があるだけで、地下へ向かうのは存在しない。
元々この実習棟の廊下は単調な一本道だ。
棟に入ると、そこから広めな廊下が真っ直ぐ続くだけ。
その両脇に間取りの広い部屋がいくつか並んでいて探索も難しくない。
一番奥に階段があり、それは2階に向けて伸びているだけだ。
俺、リナリー、パトリックくんの3人はその光景を目の当たりにして呆然と立ち尽くした。パトリックくんは安堵の表情を浮かべてるようにも見える。
「うーん……そもそも地下なんて無いのか?」
「そ、そうですよっ! どうせただの噂だったんですっ! さ、次にいきましょう」
そう言って俺たち2人を急かすパトリックくん。
びびってんだろうな。
早く切り上げたい感がひしひしと伝わってきているぞ。
「釈然としない」
「えぇぇえ……」
俺が固執してるのを察知して、彼はうな垂れた。
「そもそも地下がないのに、地下室があるなんて前提で噂が立つか?」
「ど、どうせ寝も葉もない噂ですよっ!」
「……ふーむ」
何か引っかかる。階段と言えば廊下、というイメージだったが、もしかして立ち並ぶ実習室のうちの一つに上り下りする階段が存在するとか?
「各部屋も回ってみよう!」
「まわってみようー!」
「えぇぇぇええ………」
俺とリナリーはもう怖れることなど何もなかった。
最初の一番目の七不思議で拍子抜かれたからな。
だがパトリックくんは怯えていた。
…
各部屋を回ってみた。
実習棟の各部屋には、魔法を実践するための貴重な試薬なんかもたくさん保管されている。だから部屋には鍵がかけられているかと思ったが、物騒なことに解放されていた。
部屋は用途によっていろんな構造のものがあった。
広々とした部屋に必要最低限のテーブルと書物、試薬瓶が置かれただけの簡素な部屋。
その逆に、試薬瓶や瓶漬けの生物が棚一面に置かれて、テーブルも犇めき合う密度の高い部屋。
毛糸車みたいなものがいくつも置かれた部屋。
魔法陣が中心に描かれただけの部屋。
柱だらけで、その柱にいくつも魔法陣が描かれている部屋。
何に使うのかさっぱりだったが、多分この棟では屋内で使うような魔法の実験・実習をするのだろう。修練棟と比べると非戦闘系の魔法用、と言った感じだ。
それはさておき、やっぱり地下行きの階段なんてものは存在しなかった。
床下に隠し通路でもあるのかと思って、隈なく床まで調べたが、見つけることはできなかった。
「やっぱりないのかな?」
周囲を見渡すと随分、日が落ちて暗くなってきていた。
「そうですよ~。リナリーちゃんも帰り遠いんだから早く帰った方がいいと思いますっ」
「確かに一理ある」
「でしょう!」
よくよく考えればこれだけ探索して発見できなかった、というのが逆に検証になったかもしれない。結論は、そんなものはないんだ、という事実である。
「じゃ、そうしよう」
「……ほっ………」
俺が2人に呼びかけて、柱だらけの実習室から退散の指示を出したときの事だった。
―――ギィィィ……ガタン……と、錆びた鉄扉が勢いよく閉じる音。
「びぇぇっ!!」
びぇぇって……。
パトリックくん怯えすぎだよ。
悲鳴のレパートリーも豊富すぎる。
「お兄ちゃんっ! 外の方からだよっ」
「でかしたっ、リナリー!」
俺とリナリーは浮き浮きして部屋を出た。
「ま、まっでぐだざいよっ!! 置いでがないで!」
扉が開いて閉じる音は、ちょうど柱の実習室の窓辺の外から聴こえてきた。俺とリナリーは暗がりであることも怖れず、実習室から廊下、廊下から外へ回っていった。
パトリックくんは置いてけぼりになっている。
俺が一足先に廊下から外へと飛び出て、実習棟の外をぐるりと回ったときの事だ。
「わっ!」
「うぐっ!」
誰かと出会い頭に衝突してしまった。鈍い衝突音とともに、俺とぶつかった相手は尻餅ついてしまったようである。
「あぁー……すみません」
俺がその相手を見定めると、まさかの知り合いだった。
そこにはドウェインが倒れていた。
「あれ?! ドウェイン」
「いてて……なんだ、ジャックくんか……。それにしてもすごい衝撃だねぇ。まるで大砲でも打ち込まれたかと思った……廊下を走ってるわけじゃないけど、キミには外でもなるべく歩いて欲しいものだよ」
俺は皮肉を垂れるドウェインに手を貸して、引っ張り上げた。
「ドウェインこそ何してんだよ、こんなところで」
「僕は試薬の調達だ。闇魔法はいちいち代償が必要になるから魔力消費が激しくてね。触媒を使った方が効率がいいんだ」
「試薬調達? この実習棟に?」
「そうだよ」
起こしてあげると、顔中に絆創膏が張られていることに気づいた。
よくよく見ると、はだけた胸元にも湿布のようなものが張られている。
「それ、何かあったの?」
「………あぁ~、いや、大したことないよ」
どうせまた実験に失敗して怪我でもしたのかな。
ドウェインは治癒魔法も使えるから本当に大したことないんだろう。
――そうだ、ドウェインに実習棟の地下の事を教えてもらえばいいのか。ここの教師だし、地下があるのかどうか聞いて、無いって言われたら一発じゃないか。
「ドウェイン、聞きたいことがあるんだけど、この実習棟に地下ってあるのか?」
「んん~? ……なんでそんなことを」
「いいからいいから」
俺の質問に対してドウェインは困ったように顎に手を当てて悩んでいる様子だった。
「あんまり教えたくないけど、あるよ」
「え、あるの?!」
「あぁ、僕の部屋がね」
「……ドウェインの部屋? 他にはなにかないのか。俗にいう、開かずの間みたいなやつとかさ」
「僕の部屋以外はないね。開かずの間……それって僕の部屋のことかな」
「え……?」
…
俺たち3人はドウェインに案内され、実習棟の外壁の端に連れられた。
そこには鉄製の扉が地面から飛び出るように、斜めに備え付けられていた。鍵がしっかりと施錠されていて、それをドウェインは鍵を使って解錠した。
開けるとき、さっき聞いた錆びた金属音が鳴り響いた。
どうやらこの外壁の向こうは、さっきの柱が乱立する部屋のようだ。
その斜め扉を上方に引くと、地下へと続く階段があった。
「ちかへのかいだんっ」
リナリーが目を輝かせている。
「そう。この階段の下が僕の部屋だよ」
ここ以外に地下室ってものは存在しないらしい。
よくよく思い出した事だけど、旧リベルタアジトにも地下室があって、ドウェインは夜な夜な"地下実験"なるものを繰り広げていた。そのときにも、何やら正体不明の呻き声が2階で寝泊りする他のリベルタメンバーの耳に届いていたものだ。
懐かしいな。
「もしかしてドウェインさ……この部屋で"地下実験"とかやってるのか?」
「もちろん。僕は実験なしでは生きていけない体だからね」
「呻き声が聞こえてくるそうだけど……」
「何をやってるかは秘密さ」
つまり魔法学校の七不思議《2》の開かずの間の正体は、ドウェインの地下実験のことだったと。
開かずの間ってのはこの鉄扉のことかよっ!
魔物の呻き声ってのは本物……なのか……?
ドウェインが秘密にしてる以上、この噂に関しては確かめようがない。
「昔から、"地下実験"って一体なにしてんの?」
「それだけは教えられない」
「あ、そう」
この通り。
〆《2》実習棟地下の開かずの間
開かずの間から夜な夜な聞こえてくる魔物の呻き声。
その正体はドウェインが日夜繰り広げる地下実験によるものだった。
……嫌な予感しかしないけど次いこう、次。
○
《3》修練棟に漂う赤い人魂
リナリーが准神級魔法"ふぁいあぼーる"(通名)でぶっ壊して以来、修練等は改修工事中。
生徒は立ち入り禁止になっていた。
入口も封鎖されて、ロープと進入禁止の札が垂れ下がっていた。
ここには赤い人魂が彷徨い、目撃者をその人魂が食べてしまうらしい。
立ち入り禁止になっているだけに、本当に人気が一切なかった。
夕闇で静まり返るこの広い施設は、確かにちょっと不気味ではある。
まぁ、それは何より赤い人魂ってもしかしてさ。
「なぁ、リナリー……」
「なぁに? お兄ちゃんっ」
リナリーはご機嫌な様子だった。
七不思議が徐々に解明されていく様子が面白いらしい。
ここの七不思議も今すぐ解決されようとしているんだけどな。
「もしかして最近もよくここにきてるのか?」
俺は思っていることを口にしてみた。
リナリーは俺の予想通りの反応を示してみせた。
「うんっ!」
ほらやっぱり。
「ここでふぁいあぼーるを練習してるとか……」
「えっ……なんでわかったの?」
ふっふっふ、なんでわかったかって?
それはな、お前の魔法が七不思議のひとつになってるからだ!
「お前はこの字が読めないのか! 修練棟はまだ入っちゃいけないの」
「えーっ」
まぁ読めてないんだろうな。
5歳児だし。
この子の行動原理は自分が楽しいかどうかだ。修練棟なら盛大に魔法で遊んでいいと気づいて、その欲求を抑えられないんだろう。
「とにかく、もうここに来るのは禁止」
「えー……だってここでしかおもいっきり遊べないんだもんっ」
「だっても何も、学校の決まりは守らないとダメだ!」
「むぅー」
膨れっ面なリナリーを横目に、俺は修練棟を後にした。
何とくだらない噂だ。
「お兄ちゃん、けんしょうはっ?」
「もう終わった!」
「えぇーー!」
「さ、さすがリナリーちゃんのお兄さんですねっ! ささ、早く次にいきましょう」
パトリックくんもとにかく早く帰りたいのか、どういう事なのかの真相すら聞こうともしない。
それにしても赤い人魂が目撃者の魂を喰う、か……もしかしてリナリーの奴、ここでなんか乱暴をしでかしたんじゃないだろうな。
〆《3》修練棟に漂う赤い人魂
正体はリナリーが放つ準神級魔法ふぁいあぼーる。
勝手に立ち入り禁止の修練棟に入って遊んでいたのが原因、と……。
○
《4》第1校舎の1階入口のホールに置かれた独りでに鳴り響くグランドピアノ。
失恋を苦に自殺した女教師が、ピアノで悲愴感漂う演奏を奏でる。
修練棟から校舎を迂回して、俺たちは正面入り口に到着した。ここはいつもリナリーの担任の先生が立って、朝の挨拶をしているところだ。
その正面入り口から入ると大きめのホールとなっている。
天井も高い。
その隅に、インテリアのような形でグランドピアノが置かれていた。
夕闇のピアノとはまた異様な威圧感を感じるものだ。
やっぱり夕方から夜にかけては何でも怖く見えてしまうんだろう。
新入生が新鮮な環境で変な噂を立ててしまうのも無理はないと感じる。
年代ものなのか、黒いピアノは全体的にくすんでいた。
確かに今にも勝手に鳴りだしそうな雰囲気を漂わせている。
「ひぃ………」
パトリックくんは何も起こってないというのに悲鳴をあげている。
今まで以上に怖がってる?
それにしてもパトリックくん、怖がりだ。
くせのある毛に少しぷっくりした体つき。
甘やかされて育ったのかな。
体の鍛え方が足りなすぎる。
いかにも魔法一筋でやっていきますと言わんばかりだ。
「じゃあさっそくこれも調べてしまうか」
「えぇっ、お兄さん、怖くないんですかっ?」
「こんな楽器風情の何が怖いんだ! むしろ俺が弾き熟してやろう」
「ひぃいぃ……」
俺はピアノに近づいて鍵盤の蓋を豪快に開けた。
白と黒の鍵が並んでいる。
意気揚々と鍵盤に向き合ってみたものの、鍵盤楽器は弾けそうにないな。メドナさんからチェンバロ程度は教わっておけば良かった。
試しにその鍵盤を押してみた。
―――ポーン……。寂しそうに昇降口のホールに1つの音が鳴り響いた。
「うーん……」
これが勝手に音を立てる?
まさか誤動作で勝手に鳴り始めてしまうとか?
あるいは動物でも忍び込んで?
俺はピアノを隈なく調べた。
裏面や屋根の部分から弦を調べてみた。
だが別段、変なところはない。
ましてやこれが勝手に鳴りだすとも考えにくい。
「お兄さん、やめましょうよ……ここは本当にまずいんですよぉ……」
「さっき以上にびびってんな、パトリックくん」
俺の煽りに対して、固唾を飲みこむパトリックくん。
「ぼ、ぼく……聞いちゃったんです……本当にここから音楽が鳴り響くのを……」
「まさか噂を広めたのはパトリックくんか? 今までのも?」
「い、いえっ! ただ、4番目と5番目は僕が体験したことです」
「ふーん」
あれ、5番目ってなんだったかな。
まぁいいか。
「それで、どんな音楽だったんだ? ただの物音の聞き違いじゃないのか?」
「違うんですっ! 本当に楽器で弾いたような曲でしたっ!」
「こんな感じのか?」
俺はピアノの鍵盤を適当に指で押して、ポンポンと音を奏でてみせた。
「も、もっと低い音です……そんな高い音じゃなくて」
「低い音? じゃあこの辺か? これはどうだ?」
「もっと不愉快な音です! そんな綺麗な音色じゃないですっ」
それからパトリックくんはメロディを口ずさんだりしてどんな曲かも必死に伝えてきた。そして俺は一つの答えを得る。そのメロディとは、俺もよくよく聞いたことがあるものだ。いや、聞いたことがあるというレベルじゃない。
自分で弾けるやつだ。
パトリックくんが口ずさんだ曲は―――「ハイランダーの業火」だ。
俺が放課後、リナリーを待つ傍ら練習し続けた曲だ。俺は背中に背負っていたマンドリンケースを床に置いて楽器を取り出し、それを徐に構えた。
「パトリックくん………まさか、ここで聞いた曲ってのはこれか」
俺は前奏から弾きはじめた。
「うぎゃぁあああ!! それです!! それですよぉぉお!!」
「こうか? こうなのか?」
弦を弾く手首に力が入る。
「わぁあああああ!! その不協和音!! 間違いないですっ!!」
「ほらほらほらほら!」
「あぎゃぁ゛あ゛あ゛! わぁ゛あ゛あ゛!! あ゛ぁ゛あ゛あ゛!」
弦を抑える指が滑る。
弾く手首がしなやかにうねる。
「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「これのことなのかーー?!」
「は、はぃぃいい!! うぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「不協和音とは失礼なっ!」
俺は第一楽章を弾き終わった時点で、パトリックくんの後頭部を殴った。
パトリックくんが聴いた音の正体は、またしても俺だったようである。
…
気絶したパトリックくんを置いて、俺とリナリーは正面入り口を出た。
その外周をぐるりと回る。
すぐ隣はちょうど校庭になっている。そして俺が放課後、リナリーとの待ち合わせに使っている例の雑木林がそこにあった。
さっきのピアノが置かれたホールの壁面には通気用の窓があって、そこが開け放たれていた。おそらく、俺がマンドリンで弾いた「ハイランダーの業火」がこの窓を通じて音漏れし、まるでピアノから曲が流れているように聞こえるんだろう。
つまり、この4番目の七不思議も、俺のせいだったということだ。
〆《4》第1校舎の1階入口のホールに置かれた、独りでに鳴り響くグランドピアノ。
グランドピアノじゃなくて、俺が奏でるマンドリンの音色だった。
なんとなく、予想はしていたけど……。
そしてそのついでに《5》校庭の雑木林で繰り広げられる呪いの儀式も確認してきた。
言うまでもなく、俺の仕業だった。
雑木林で行っていたソードジャグリングと称するお遊びによって、木の幹の多くがまるで釘を打った後のように傷ついていた。この痕跡と、そして目撃者の証言が相俟って、ここで呪いの儀式が行われているという噂が立ってしまったらしい。
なんてくだらない……。
○
ここでもう一度、七不思議メモを見返してみよう。
=【バーウィッチ魔法学校の七不思議】=====
〆《1》第3校舎の男子トイレですすり泣く少年の幽霊
正体はトイレに篭って泣きじゃくるパトリックくん。
俺のせいで魔法学校でやっていけるか自信喪失していただけ。
〆《2》実習棟地下の開かずの間
開かずの間から夜な夜な聞こえてくる魔物の呻き声。
その正体はドウェインが日夜繰り広げる地下実験によるものだった。
〆《3》修練棟に漂う赤い人魂
正体はリナリーが放つ準神級魔法ふぁいあぼーる。
勝手に立ち入り禁止の修練棟に入って遊んでいたのが原因。
〆《4》第1校舎の入口ホールに置かれた、独りでに鳴るピアノ。
ピアノじゃなくて、俺が雑木林から奏でるマンドリンの音色。
〆《5》校庭の雑木林で繰り広げられる呪いの儀式
呪いの儀式じゃなくて俺の剣術の修練。
《6》真夜中の図書館に現れる黒い幽霊
図書館の2階の書庫の奥に厳重な金庫がある。
その金庫を暴こうとすると、黒い幽霊が出てきて殺される。
《7》神隠し
他6つの秘密を知った人間は神隠しに遭う。
=======================
「ほとんど俺とリナリーの仕業じゃねえかっ!」
「む~?」
幽霊の正体見たり、なんとやら。
もう残りの検証をするのもアホらしくなってきた。リナリー自身もすっかり目的を忘れてしまっているようで、呆けた表情をしている。こないだまで魔法学校の七不思議に怯えていたのが信じられない。
「……もう帰るかぁ……」
「かえる?」
俺は呆れてやる気を失ってしまっていた。
陽も完全に沈んでしまったみたいだし、周囲はもう真っ暗。校舎からの漏れ光と校庭の脇に備え付けられた外灯だけが俺たちを照らしていた。
そろそろ帰りも怪しくなってくる。
夜間は危ないから、日が完全に暮れると馬車も出してくれない事もある。
「……どうする、リナリー? ちょっとだけ図書館も見ていくか」
「みていくかっ!」
リナリーもすっかり元通り。
もう幽霊のことは忘れてしまったのか、以前の明るさだ。
この分なら帰りは眠ってくれそうだし、楽だろうな。
とりあえずパトリックくんも起こしにいこう。
せっかくだし、彼には最後の検証まで付き合ってもらおうか。
どうせ最後も大した噂じゃないだろう。




