Episode87 魔法学校の七不思議Ⅰ
リナリーとは楽器を通して仲良くなれた。
初期投資として購入したリュートはリナリーに譲ることにした。
今では登下校の馬車の中で、学校生活の話や演奏の話で盛り上がっていい関係作りが出来ていると思う。俺も前よりも送り迎えが苦痛ではなくなった。
学校が終わった後も夕飯の時間まで2人で演奏の練習をしている。
まさかここまで打ち解けあえるとは俺も思ってなかった。アルフレッドもリンジーも、そんな俺たちの様子を遠巻きから見守ってくれている。きっと2人とも、俺たちの仲の良さに安心しているんだろう。
良かった良かった。
―――と思いきや、本日の帰りの馬車ではリナリーの元気がなかった。
「今日はなんかあったのか?」
「うー……お兄ちゃん……」
何か怯えているようなそんな様子だった。
まさか、いじめか?
一番恐れていたことだ。
5歳の問題児。
異常な魔力。
ソルテール出身という田舎者っぷり。
クラスメイトから邪見に扱われる要因はいくつも思いつく。
魔法学校で魔法の実習が始まったら、おそらくクラスの雰囲気が変わってリナリーの扱いにも変化があるということは予想している。それは俺だけじゃなくて、アルフレッドもリンジーもドウェインも気にしていた事だ。
アルフレッドも魔法学校時代は問題児として孤立していたようだし、同じ轍を踏むような事態は何としても避けたいと考えている。
だからドウェインや担任の先生からは逐次、魔法の実習がいつから始まるのか確認してきた。
まだ座学中心の学科が続くと聞いたが、まさか他の要因で……。
「リナリー、まさか学校で嫌なことがあったのか?」
「う、うん……」
なんだと。
やっぱりイジメか。
絶対に許さない。
お兄ちゃんの正義の鉄槌をくらわせてやろう。
「そうか、どいつだ」
「どいつー?」
「どこのどいつがやったんだ?」
「えーと……」
言いづらそうにしている。
そうだよな。
不当な扱いを受ける側の気持ちはよく分かってる。
相談をした後にその人間に注意にいったとき、報復が怖いのだ。
だから言い出しにくい。
分かる。
気持ちは分かる。
お兄ちゃんだって実家では苦しめられたんだからな。
「大丈夫だ、お兄ちゃんが守ってやる。絶対にな」
「ほんとに?」
ふふ、抹殺すれば何の問題もない。
消してしまえば報復されることもないだろう。
さぁ、そいつの名前を言ってみろ。
俺はリナリーだけの味方になる。
妹のためなら人殺しだって何だって――――。
ダークサイドに堕ちかけている俺の気持ちなぞ理解はしていないだろう。だがこの俺の真剣な眼差しを確認して、リナリーは意を決してその犯人の名を口にした。
溜息も少し混じっている。
「おばけ……なの……」
予想外の名前に、開いた口が塞がらない。
「おばけ?」
「学校に幽霊がでるの……」
あぁ、既にお亡くなりの方ですか。
それは困った。
…
その日の晩、冷静になった俺はリナリーから詳しく話を聞いてみた。バーウィッチ魔法学校では今、新入生クラスの間で話題になっている噂がある。
それは「魔法学校の七不思議」と呼ばれるものだ。
何が不思議なのかよく分からないけど7つもあるらしい。
幽霊や超常現象の類だというけれど。
そもそも魔物としての幽霊は実在する。
魔物は、魔力が色濃く発生している所であれば何処でも湧いてくる。
ゴースト系の魔物が発生しやすいのは歴史的に大量に人が死んだ戦場だったり、墓地だったり、死者にまつわる所で魔力濃度が濃い場所だ。
だから、そんなに珍しいものではない。
それでも話の筋が通らないような現象ってものは噂レベルで存在するそうだが……。
とにかくリナリーはその噂話を学校で聞かされてから、学校に行くのが怖くなってしまったらしい。きっと他のクラスメイトよりも、幼いリナリーはこういう話を何でも信じてしまうから、からかわれて話を刷り込まれたんだろう。イジメとまではいかないけど可哀想だ。
俺はリナリーの恐怖心を払ってやることにした。
「魔法によるものじゃないかな?」
「違うもんっ……」
リナリーは目に涙を浮かべてきっぱり否定していた。
思い出しただけでも恐ろしいようだ。
「学校にお化けがいて、わたしのことを食べちゃうんだもんっ」
ダイアウルフを食い荒らす魔法を放つ奴が何言ってんだ。
呆れて言葉も出ない。
「にしても、お化けねぇ……」
俺はダイニングテーブルの椅子の背もたれに大きく寄り掛かって天井を見上げた。色々と考えを巡らせてみる。
どうもその幽霊に対する恐怖心というのは理解できない。だいたい幽霊が怖いなら魔物はどうなんだ、魔法はどうなんだ、という話になるし。人が使う魔法の方が何百倍も怖い。それは魔法にトラウマを抱えている俺だからこその意見かもしれないけど。
俺が大きく伸びをしていると、シアが椅子の背後から俺の顔を覗いてきた。
「うわっ!」
「リナリーさんの言うことは信じてあげましょう」
「……なんだよ、いきなり」
そして俺の耳元に顔を近づけて耳打ちしてきた。
シアから耳打ちされるのは久しぶりである。
「……魔法学校の新入生には、ありがちな噂話」
初めて魔法という世界に触れあう時期。7,8歳の子どもがそんな勉強をしていると自然発生的にそんな超常現象の作り話が噂になるそうだ。それに尾ひれはひれ、さらには背びれまでついて噂されていくうちにそれっぽい話が完成してしまう。
つまり、よくある事のようだ。
「なんだよ、シアも信じてないんじゃん」
「でも否定ばかりするとまた……」
「あぁ、そうか」
シアに忠告されて思い出す。
リナリーはけっこうプライドが高い。
俺は姿勢を戻してダイニングテーブルに両腕を預けた。
「まぁ七不思議なんてあっても、リナリーは大丈夫だよ」
「なんでそう思うのっ」
「ここ3週間学校に通ってて幽霊が出た事あったか?」
「ない」
「じゃあずっとないよ」
「そんなの分からないもんっ!」
俺の短絡的なアドバイスに納得できないみたいだ。リナリーはダイニングテーブルから飛び降りて、暖炉近くのソファへ飛び込んだ。
ソファに置いてあるクッションを抱えて蹲る。
もうこの子にとって怖いのは学校だけじゃない。
何処にいてもおばけが出る事が怖くて怖くて堪らないんだろう。
「ロストさん、ここは一肌脱ぐところかも」
「一肌? 俺に何しろと……」
「七不思議の検証をしましょう」
「検証だぁ?」
シアが言うには、七不思議を一つ一つ調べて出鱈目であることを証明してしまえ、という事らしい。
それくらいだったら別に吝かじゃない。
それに面白そうだ。
「よし、わかった。行ってくるか」
「なさいませ」
「シアも一緒に行こうぜ」
「無理です」
「なぜ?」
「コンラン亭のお仕事があるので」
「休みの日にいけばいいだろ」
「無理です」
「なぜ?」
「………」
シアは俺の質問を無視して階段を駆け上がり、自室へと戻ってしまった。
もしかして、あいつも幽霊が怖いのか。
○
というわけで俺が魔法学校の七不思議を検証することになった。
何もないんだぞ、という事を証明するためにリナリーも一緒に。
俺が一緒だから安心しているのか、怖がりながらもついてきてくれた。
まず、魔法学校の七不思議とは、この7つがあるそうだ。
《1》第3校舎の男子トイレですすり泣く少年の幽霊
この学校には魔法がうまく扱えずに、トイレで自殺した男の子がいるらしい。その怨念がずっと残っていて、放課後の日暮れ時になると泣き声が響き渡るとか。
《2》実習棟地下の開かずの間
順調に進級していくと、実習棟で魔法の実習が始まるらしい。
そこには、普段誰も通らないような廊下の奥に地下への階段がある。
その階下に開かずの間があるそうだ。
開かずの間からは、この世の物とは思えない魔物の呻き声が夜な夜な聞こえてくるとか。
《3》修練棟に漂う赤い人魂
リナリーが入学時に半壊させてしまった修練棟。
ここは改修工事が終わるまで生徒は立ち入り禁止になっている。
しかし、人気がない修練棟には現在、赤い人魂が漂い、それを見た者は人魂に食べられて魂を奪われる。
《4》第1校舎の1階入口のホールに置かれた、独りでに鳴り響くグランドピアノ。
第一校舎の正面口。
そこはホール状になっていて、インテリアの一環で高価なグランドピアノが置かれている。
その昔、生徒たちが下校した放課後、音楽好きの先生が夕方にかけて演奏の練習をしていたそうだ。
だが、その先生が失恋を苦に自殺してしまった。
その先生がまだピアノに執着しているらしく、夕方頃にその演奏が鳴り響くらしい。
《5》校庭の雑木林で繰り広げられる呪いの儀式
校庭の片隅には雑木林がある。
俺がよくリナリーとの待ち合わせ場所に使ってる場所だ。
そこの雑木林では呪いの儀式をしている生徒がいるそうだ。
呪いの儀式というのは、木の幹に呪いたい相手の名前を書いた藁人形を打ち付けるもの。
朝その雑木林を見に行くと、藁人形を打ち付けた傷跡が残っているとか。
その呪いの儀式を見たものは、打ち付ける釘を投げつけられて串刺しにされて殺されるらしい。
《6》真夜中の図書館に現れる黒い幽霊
この魔法学校には大図書館と呼ばれる大きな図書館がある。
俺も戦士事情のことを調べるために立ち寄ったところだ。
そこの2階書庫の奥には厳重な金庫があり、その金庫を無理やりこじ開けようとすると、黒い幽霊が出てきて殺されるというものだ。
《7》神隠し
他6つの秘密を知った人間は神隠しに遭う。
うーん、この……なんというか……。
嘘くさい。
「お兄ちゃん、ありがとっ」
でもこうして隣を歩く義妹の満面の笑顔を見てしまうと弱い。可愛すぎて、頬が思わず赤くなる。
頭を振って意識を保つ。
俺にはちゃんとシアという意中の子がいる。
リナリーは妹。
リナリーは厭くまで妹だ。
○
《1》第3校舎の男子トイレですすり泣く少年の幽霊
なぜか七不思議の噂の現場は夕方が多かった。
だから、俺たちはいつも通り放課後に待ち合わせして、そこから検証を行うことにした。
ちゃんとガウェイン校長とドウェイン先生の許可も取ってある。何時までかかるか分からないが、アルフレッドとリンジーから軍資金として帰りの貸し馬車代も貰ってるから帰りもそこまで夜遅くならなければ問題ない。
では早速、一つ目から検証していきますか。
俺は七不思議をメモした紙に目を通した。
まずは一つ目、《1》第3校舎の男子トイレの幽霊か。
一発目からけっこうそれっぽいやつだ。
それにしてもなぜ男子トイレ。
勝手なイメージだけど、幽霊とか怨念ってのは女の子が多い気がする。
「第3校舎ってのはどこだろう。リナリー、分かるか?」
「んぅー……あっ! わたしたちの教室のあるとこだ」
「なに、そんな近いところに幽霊が?!」
「うんっ……」
そんな身近なトイレで幽霊の噂なんてあったら使いづらくて堪ったもんじゃないな。さっそくその校舎へと連れてってもらうことにした。
…
リナリーの言う通りだった。
俺が前に授業参観させてもらったときの建物だった。
放課後で授業から解放された子どもたちで賑わってると思いきや、しんと静まり返っている。傾いた夕日の薄暗いオレンジ色の光だけが、廊下に伸びている。昼間の子どもたちの賑わいを知ってる身としては、あまりにも対象的で異様さが浮き彫り立つ。
普段人がいて当然の場所に誰一人いないというのは、確かに怖さを演出していると思う。
「………」
リナリーもあまりの不気味さに固唾を飲みこんだ。
「大丈夫か?」
「………やっぱり怖ーい……」
「お兄ちゃんがついてる。大丈夫だ……」
俺が一歩前に出ると、リナリーは服の裾にしがみついて体を寄せてきた。
なんて可愛いんだ……!
俺はゆっくりとその静かな廊下を進んだ。
ぎしぎしと木製の床が、一歩進む度に軋む。
何も存在していないはずなのに、まるでこちらの存在が知られてしまうようで、自然と忍び足になった。
「………」
「………」
緊張感が漂う。
これが幽霊的な怖さってやつなのか。
何故だかこの場では得体のしれないものに対する恐怖心が高まってきた。
「なんでこんなに人がいないんだろうな?」
「みんな、おばけが怖いの……」
あ、なるほど。
噂があるから怖がってすぐ帰るわけか。
俺とリナリーは警戒しながらその噂のトイレへと辿り着いた。
男子トイレ、女子トイレが並んでいる。
確か噂では男子トイレに啜り泣く少年の幽霊が出るんだったか。
しばらく無言でそのトイレの入り口の前に佇んでみた。
「………」
「………うぅ……」
リナリーは今にも恐怖で逃げ出しそうだ。
俺は神経を研ぎ澄ます。
だが何も聞こえてこない。
「―――何も聞こえないな。やっぱりいないみたいだ」
「なーんだっ! よかった!」
リナリーも安堵の息を漏らしてから、普段の元気を取り戻したように声を上げた。
「念のために中まで入って調べてみるか?」
「わたしは男子トイレに入っちゃいけないんだよー」
「リナリー、実はそのルール、放課後ならセーフだ!」
「えーっ」
出鱈目な事を吹き込む。
まぁどうせ誰も入ってなければ問題なかろう。リナリーも、入ったことがない男子トイレという世界に興味津々なのか、入る気満々のようである。
「よーし、俺も学校のトイレなんて初潜入だが、勢いで行ってしまおう」
「いってしまおうー!」
本来の目的も忘れて俺たち2人は男子トイレに潜入してみた。
だが、そんな安心しきった俺たちに、恐怖が襲い掛かる。
「………う……うぅ……うひぃ……」
「ひゃうっ!?」
突如として聞こえた呻き声に、掠れた悲鳴を上げるリナリー。
「お、お兄ちゃん、いまっ……!」
「あぁ、俺にも聞こえた」
男子トイレに入ってみたが、集団で用が足せるようにいくつも便器があった。個室が二つと、3つくらい小型の小便器。
今の呻き声は一番奥の部屋からだ。
「……お、おばけだよ」
「落ち着け、リナリー。ゴーストならお兄ちゃんが斃す」
もし本物の幽霊でも反魔力弾で存在ごと消してしまえる。
今更、魔物に怖がる必要なんてない。
「ま、待ってっ! わたしからはなれないでっ」
リナリーは多少の距離が空くことですら心細いのか、俺の背中にしがみついてきた。俺はしがみつくリナリーとともに、息を殺してその奥の個室に辿り着く。
「………ひ、ひぃ……ぅぐっ……うぅぅ……」
確かに、いる。
男の子の幽霊だ。
「……お、おにいちゃん……」
リナリーは今にも泣きそうである。
俺は意を決して、その扉を蹴りでぶち開けることにした。
目で合図して、蹴りの構えをする。
そして指で3、2、1と合図した。
1まで数え終わったとき、勢いよくその扉を蹴破った。
―――バァンっと物凄い音とともに豪快に開く。
「わひっ!! あ゛あ゛あ゛!!わひゃぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
その途端、トイレの中の幽霊はとんでもない奇声を発した。
「うおっ」
「きゃぁぁぁぁああああああ!!」
その気迫に俺も一瞬仰け反り、リナリーも悲鳴をあげた。
「わ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ!! あ゛ぁ゛ぁ゛ーーーー!!」
「きゃああああ!! いやぁぁあああ!!」
両者、パニック状態。
「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
しかし、冷静になってその少年を見てみる。
そこにいた少年は幽霊でもなんでもなかった。
俺も見知った少年だ。
彼は、パトリックくんだ。
俺がいまだに悲鳴しか聞いたことがないという件の少年だ。
「パトリックくん、なぜここに……」
「わぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!」
「いや、落ち着けって」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!! お゛あ゛あ゛あ゛!!」
「うるせぇよ」
「はぶっ……!」
衝動的に殴った。
さすがに叫びすぎだ。
殴ると同時に意識を失うパトリックくん。
今のは正当防衛です。
…
意識を失ったパトリックくんを廊下へ運び出して寝かせた。
少し時間が経つと、パトリックくんは意識を取り戻し、会話ができる状態に戻った。
「どうしてあんなところで泣いてたんだ?」
「……ひぅっ……うぅ……」
また泣きそうになる。
ダメだ、どうにも子どもってのは分からん。
ここは、シア流子ども接待術でいこう。
まずは相手を尊重して、わざとらしいくらい甘い声で心配する。
そうすればすぐ心を開いてくれるんだとか
「パトリックくん、なにか辛いことがあったのかい?」
「ひぐっ……う、う……うぅ………うん……」
すぐに反応を見せるパトリックくん。
さすがシア・ランドール……子ども扱いも熟知してる。
「なにか悩み事なら相談に乗ってあげようか?」
「……う、ぅぐっ……ぼ、ボク………入学早々、クラスで気絶しちゃうし……ひぐっ……」
「うんうん」
それは俺のせいだ。本当に申し訳ない。
「それに、校庭で……怪しい男の人を見たんだ………うぅ……その人に襲われて……」
「うんうん」
それも俺だ。本当に申し訳ない。
「だからボク……もうこの学校で勉強していけるかどうか……心配で……それで……う、うぁぁぁ………うぁああああん……!!」
色々と思い出したのか、パトリックくんは再び泣き出した。
なるほど、それでトイレに籠って泣いていたと。
つまり全部、俺のせいか。
俺がパトリックくんを教室で気絶させたことは誰にもバレていない。
彼自身も緊張か何かで気を失ったと思っているようだ。
見た感じ、緊張しやすそうな男の子だし。
それで不安になった。さらには放課後の雑木林で、俺のソード・ジャグリングを目撃してしまった。俺はパトリックくんを狙ったわけではないが、たまたま彼の真横の木に複製剣を叩き込んでしまった。
それでこの学校という空間が怖くなってしまったんだろう。
俺にも責任がある。
なんとか自信を取り戻させないといけない。
「泣くなっ、パトリックくん!」
「は、はひっ……」
俺の張り上げた声に、彼ははっとなった。
「ましてやクラスメイトの女子が見てる目の前で、情けなく泣くんじゃない!」
「あ………リナリーちゃん……」
リナリーはパトリックくんを冷静に眺めていた。
なんか興覚めしているような顔だ。
「俺たちは今、この学校の七不思議を調べているんだ。パトリックくんも一緒に検証して、この学校には何も怖いものなんてないということを証明してみせようじゃないか!」
「……えっ………でも七不思議は最後、調べた人が神隠しに遭うんだよ」
「そんなものすら存在しないんだと証明してみせるっ!」
「え、えぇぇぇええ!!」
パトリックくんは怯えきっている。
だけど、臆病者は笑われる世の中だ。
何もできなくても強制連行して連れ回そう。
そうすれば七不思議の真相解明したのが彼じゃなくても、クラスで大きい顔できるだろう。俺の責任でもあるし、それくらいの名誉は譲ってやる。
ここで男を見せろ、パトリックくん。
ガーゴイル退治だって、七不思議解明だってなんだっていい。
男には勲章が必要なんだ。
……というか、七不思議の《1》って彼自身の事だったんだよな?
もしかして、残りの七不思議も。
俺の頭の中に一抹の不安が過った。
もう一度、そのメモを見返してみる。
……まさかな。




